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三波新、放浪編
ここも日本大王国(仮) その1
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「……で、飯はうちで食うわけか。まぁあのダークエルフがいないだけましだがな」
「あ、あぁ……、なんだかよく分かんないんだけどな。それに荷車の番は必要だし」
マッキーはここにはいない。
完成したばかりの洞窟の中に一人きり。
俺達は晩飯はドーセンの宿屋でとることにしたんだが、あいつは俺が作ったおにぎりの方がよほど美味い、ということで、ドーセンに伝えた通り荷車の番を兼ねて晩飯を食っている。
パーティみたいなことをしたい、という要望をヨウミが出したのだが、周囲に告知をしたわけでもなし、店を開くことを目的に生活してきたわけでもなし。
いつもと変わらない毎日の中の一日、としか考えてなかったが、一つの節目、切り替えのようなことも必要だろう。
そんなことも考えて、サキワ村の唯一の宿屋で夕食会と称して晩飯を食っているんだが……。
「僕たちも混ざっちゃってよかったんですか?」
「何か、申し訳ない気がする……」
「お店の手伝いをするつもりはないんだけど……」
「ただ、その場に居合わせただけ、だからねぇ」
と、少年少女冒険者も巻き込んだ。
しかし、だ。
「気にすんなあ。みんなも洞穴作り手伝ったろお?」
モーナーがそれを言うか。
言うなら俺達だろ!
しかも、作業の一部しか見てなかったが、モーナーの三面六臂の働きぶりに比べると、手伝ったというよりも、そこにいて何かをいじってたという表現がぴったりのような気がする。
いや、モーナーの作業が異常過ぎるほど進めていたからな。
そのモーナーだって、おにぎりの店の手伝いは、自分の手の空き次第という程度。
彼には彼の仕事があるしな。
まぁ俺からの、それに対する謝礼のかたちとして、夕食会に招いたわけではあるが。
「いいじゃない。大勢で食べるご飯はおいしいよ?」
「料金払ってくれたんだから、大勢の客は大歓迎なんだが……。ここ数日とほとんど顔ぶれ変わんねぇんだよな」
ヨウミがはしゃぐ割にはドーセンはクールだ。
格好は相変わらず、クールとはかけ離れているが、まぁおっしゃる通り。
「でもよぉ、どうしてこの村にしたんだ?」
「ん?」
ドーセンから唐突に質問されたが、要領が分からなかった。
「だからよ、日本広しだ。そしてお前さんらはひと塊。だからどこかで店を開くとなりゃ、その場所は一か所だけだ。こんな田舎で店を始めて、何か得することがあるのかと思ってな」
「得?」
「あぁ。俺もノロマの奴も、ここで生まれ育った。俺は、他に住める場所を知らねぇ。だからここに住んでる。お前らはそうじゃねぇんだろ?」
ヨウミはともかく、俺は定住した経験はないな。
ドーセンが言うように、ここよりももっと住みやすい場所があるかもしれない。
そもそも生まれ故郷じゃないから、そんな場所を見つけても、さらに住みよい場所があれば移住できる。
ここに住んでほしい、と望んでくれる人がいれば、終の棲家をそこに作ってもいいんだろうが。
だが。
「……まぁ……ここじゃなきゃならない理由は確かにないな」
「だろ?」
「けど……」
そう。
その理由はこの場所にはない。
場所じゃなく……。
「……けど、ある。探しても、ここと同じ、あるいはここ以上にいいと思える場所は多分ない」
「……へぇ? そうかい。まぁここはあんたらがその店を続けようが明日にも辞めようが、ずっと続く事にゃ変わりないがな」
「……続く限り、ここにも世話になる。よろしく」
周りからどう思われようが、これからはここで生活することを決めた。
ヨウミ達が和気あいあいと食事の時間を楽しんでいる。
が、俺もそこに混ざるわけにはいかない。
差し当って、生活用品の用立てをドーセンに頼ることにした。
「布団は確かに必要だろうな。その他生活用品もな。こっちで使わなくなった布団とかまわすわけにはいかんしなぁ」
「宿で使わない物で譲ってくれるなら有り難いが」
「新しく生活を始めようって奴に、廃棄寸前の布団を押し付けるわけにはいくめぇよ。米とか買い付けに来る行商人に声かけとこうか。欲しいもんのリストでも作っといてくれ」
そのリストアップの作業も、ヨウミ達には談笑のネタになる。
こっちはロクに飯を食わずに必需品を書き上げているというのに、なんとまあ気楽なことか。
でもまぁ気分は悪くない。
こんな気持ちはいつ以来だったかな。
※
必要な品物が届くまでは、荷車の中にある物で間に合わせることにする。
最低限おにぎりを作ることができるなら何の問題もない。
翌朝の飯も宿屋の世話になる。
四人の冒険者が顔を出してきた。
「僕達、一旦ここを離れようと思います」
まぁこいつらはここ専属の冒険者じゃないから、どこに行こうが本人達次第。
別にこっちに顔を出すまでもないんだろうが。
「他の仕事を請けてみて、まだ難易度が高いと思ったらまた来ます」
ステップアップのための、モーナーが作ったダンジョン、といったところか。
にしても、あのダンジョンはたしか、この村の人達から岩盤を壊すように頼まれてたんじゃないのか?
その岩盤の下を掘っていってどうすんだ。
「その時には、またお世話になりますねっ」
「いや、成長してとっとと他に行くべきだと思うんだが?」
冒険者として大成するという初心をいきなり忘れてどうすんだ。
飯を食いながらその四人の後姿を見送った。
でもこいつらがいなくなったら、ここでの俺の仕事の意味がないんではなかろうか。
「あ、おはよお、アラタぁ、ヨウミぃ、マッキぃ」
「……何だよ、ノロマ。もう呼び捨てする間柄か?」
「ノロマじゃないってばあ。おはよお、ドーセンんー」
「あいよ」
マッキーも一緒に朝飯を食べている。
共に飯を食う時間ってのも大切だと思うんだ。
それに、おにぎりばかりじゃ口もお腹も飽きてくるんじゃなかろうかってことで、荷車の番がいないのは不安だが、わざわざ荷車を盗みに来る奴もいないだろう。
そもそもそこに荷車があるということを知ってる者がほとんどいない。
「エージ達、もう出発したかあ? 昨日そんなこと言ってたからあ」
「あぁ。丁寧にこっちに顔出して挨拶してったよ」
「あいつら、俺に挨拶してすぐ出ていくと思ったら、アラタ達にも挨拶したいってんで部屋で待ってたらしいな」
几帳面な性格だ。
それはともかく……。
「こっちに来る連中って、この村に来ることを目的とした奴がほとんどだよな?」
「んー? まぁ、そうだな。散歩でここまで来るには遠すぎらぁな」
ということは、何者がが近づく気配を感じたら、そういう連中だと思っていいな。
あの四人のような、初級冒険者達か行商人のどちらか。
いずれ、俺達はそのどちらか待ちだ。
「あ、あぁ……、なんだかよく分かんないんだけどな。それに荷車の番は必要だし」
マッキーはここにはいない。
完成したばかりの洞窟の中に一人きり。
俺達は晩飯はドーセンの宿屋でとることにしたんだが、あいつは俺が作ったおにぎりの方がよほど美味い、ということで、ドーセンに伝えた通り荷車の番を兼ねて晩飯を食っている。
パーティみたいなことをしたい、という要望をヨウミが出したのだが、周囲に告知をしたわけでもなし、店を開くことを目的に生活してきたわけでもなし。
いつもと変わらない毎日の中の一日、としか考えてなかったが、一つの節目、切り替えのようなことも必要だろう。
そんなことも考えて、サキワ村の唯一の宿屋で夕食会と称して晩飯を食っているんだが……。
「僕たちも混ざっちゃってよかったんですか?」
「何か、申し訳ない気がする……」
「お店の手伝いをするつもりはないんだけど……」
「ただ、その場に居合わせただけ、だからねぇ」
と、少年少女冒険者も巻き込んだ。
しかし、だ。
「気にすんなあ。みんなも洞穴作り手伝ったろお?」
モーナーがそれを言うか。
言うなら俺達だろ!
しかも、作業の一部しか見てなかったが、モーナーの三面六臂の働きぶりに比べると、手伝ったというよりも、そこにいて何かをいじってたという表現がぴったりのような気がする。
いや、モーナーの作業が異常過ぎるほど進めていたからな。
そのモーナーだって、おにぎりの店の手伝いは、自分の手の空き次第という程度。
彼には彼の仕事があるしな。
まぁ俺からの、それに対する謝礼のかたちとして、夕食会に招いたわけではあるが。
「いいじゃない。大勢で食べるご飯はおいしいよ?」
「料金払ってくれたんだから、大勢の客は大歓迎なんだが……。ここ数日とほとんど顔ぶれ変わんねぇんだよな」
ヨウミがはしゃぐ割にはドーセンはクールだ。
格好は相変わらず、クールとはかけ離れているが、まぁおっしゃる通り。
「でもよぉ、どうしてこの村にしたんだ?」
「ん?」
ドーセンから唐突に質問されたが、要領が分からなかった。
「だからよ、日本広しだ。そしてお前さんらはひと塊。だからどこかで店を開くとなりゃ、その場所は一か所だけだ。こんな田舎で店を始めて、何か得することがあるのかと思ってな」
「得?」
「あぁ。俺もノロマの奴も、ここで生まれ育った。俺は、他に住める場所を知らねぇ。だからここに住んでる。お前らはそうじゃねぇんだろ?」
ヨウミはともかく、俺は定住した経験はないな。
ドーセンが言うように、ここよりももっと住みやすい場所があるかもしれない。
そもそも生まれ故郷じゃないから、そんな場所を見つけても、さらに住みよい場所があれば移住できる。
ここに住んでほしい、と望んでくれる人がいれば、終の棲家をそこに作ってもいいんだろうが。
だが。
「……まぁ……ここじゃなきゃならない理由は確かにないな」
「だろ?」
「けど……」
そう。
その理由はこの場所にはない。
場所じゃなく……。
「……けど、ある。探しても、ここと同じ、あるいはここ以上にいいと思える場所は多分ない」
「……へぇ? そうかい。まぁここはあんたらがその店を続けようが明日にも辞めようが、ずっと続く事にゃ変わりないがな」
「……続く限り、ここにも世話になる。よろしく」
周りからどう思われようが、これからはここで生活することを決めた。
ヨウミ達が和気あいあいと食事の時間を楽しんでいる。
が、俺もそこに混ざるわけにはいかない。
差し当って、生活用品の用立てをドーセンに頼ることにした。
「布団は確かに必要だろうな。その他生活用品もな。こっちで使わなくなった布団とかまわすわけにはいかんしなぁ」
「宿で使わない物で譲ってくれるなら有り難いが」
「新しく生活を始めようって奴に、廃棄寸前の布団を押し付けるわけにはいくめぇよ。米とか買い付けに来る行商人に声かけとこうか。欲しいもんのリストでも作っといてくれ」
そのリストアップの作業も、ヨウミ達には談笑のネタになる。
こっちはロクに飯を食わずに必需品を書き上げているというのに、なんとまあ気楽なことか。
でもまぁ気分は悪くない。
こんな気持ちはいつ以来だったかな。
※
必要な品物が届くまでは、荷車の中にある物で間に合わせることにする。
最低限おにぎりを作ることができるなら何の問題もない。
翌朝の飯も宿屋の世話になる。
四人の冒険者が顔を出してきた。
「僕達、一旦ここを離れようと思います」
まぁこいつらはここ専属の冒険者じゃないから、どこに行こうが本人達次第。
別にこっちに顔を出すまでもないんだろうが。
「他の仕事を請けてみて、まだ難易度が高いと思ったらまた来ます」
ステップアップのための、モーナーが作ったダンジョン、といったところか。
にしても、あのダンジョンはたしか、この村の人達から岩盤を壊すように頼まれてたんじゃないのか?
その岩盤の下を掘っていってどうすんだ。
「その時には、またお世話になりますねっ」
「いや、成長してとっとと他に行くべきだと思うんだが?」
冒険者として大成するという初心をいきなり忘れてどうすんだ。
飯を食いながらその四人の後姿を見送った。
でもこいつらがいなくなったら、ここでの俺の仕事の意味がないんではなかろうか。
「あ、おはよお、アラタぁ、ヨウミぃ、マッキぃ」
「……何だよ、ノロマ。もう呼び捨てする間柄か?」
「ノロマじゃないってばあ。おはよお、ドーセンんー」
「あいよ」
マッキーも一緒に朝飯を食べている。
共に飯を食う時間ってのも大切だと思うんだ。
それに、おにぎりばかりじゃ口もお腹も飽きてくるんじゃなかろうかってことで、荷車の番がいないのは不安だが、わざわざ荷車を盗みに来る奴もいないだろう。
そもそもそこに荷車があるということを知ってる者がほとんどいない。
「エージ達、もう出発したかあ? 昨日そんなこと言ってたからあ」
「あぁ。丁寧にこっちに顔出して挨拶してったよ」
「あいつら、俺に挨拶してすぐ出ていくと思ったら、アラタ達にも挨拶したいってんで部屋で待ってたらしいな」
几帳面な性格だ。
それはともかく……。
「こっちに来る連中って、この村に来ることを目的とした奴がほとんどだよな?」
「んー? まぁ、そうだな。散歩でここまで来るには遠すぎらぁな」
ということは、何者がが近づく気配を感じたら、そういう連中だと思っていいな。
あの四人のような、初級冒険者達か行商人のどちらか。
いずれ、俺達はそのどちらか待ちだ。
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