勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
84 / 493
三波新、放浪編

ここも日本大王国(仮) その11

しおりを挟む
 この皇太子の告白は、マッキーが加入する前から始まった。

「母がアラタに会いに行ったのは覚えているか?」

 唐突だな、おい。
 流石にそれは覚えている。

「母って……王妃様のことか?! アラタ! お前一体何者なんだよ!」
「異世界から来たって話は聞いてはいるが……」
「アラタさんって、異世界から来た人なの?!」

 いろいろとな、感情ぶちまけられるとな……。

「お前ら、うっとおしいわ! とりあえず話を聞いてやれよ! ……しなくてもいいけど」
「アラタぁ……そーゆーのやめてよ。めんどくさいから」

 ヨウミから突っ込まれてしまった。
 大人しくしなきゃならんのは俺もらしい。

「その後、旗手の数名と会わなかったか?」

 えーと……確か芦名とこの世界で初めて会った時のことだな。
 確か……まだテンちゃんとライムが同行してた時。
 いや、待て。
 あの時は確か……。

「数名? 旗手全員と遭遇したが? 雨が続いて洞窟で休んでた時だった気がする」
「となると、アラタ殿とは会わなかったのか。町の外で荷車の番をしていた灰色の天馬とスライムの二体と会ったと言っていた」

 え?
 ということはその前。
 俺がヨウミと一緒にどこかの町で買い物したことがあったな。
 確かその前は三日くらい寝込んで、目が覚めてから王妃との面会だった。
 そして買い物に付き合って町の中を……。
 思い出した!
 あの時、一瞬変な気配を感じた。
 芦名とニアミスしてたのか!
 てことは……。

「あいつらはあの時、芦名と接触してていた?」
「そう。そして、詳しい会話は聞かせてもらえなかったが、その魔物を唆すようなことを話したそうだ」

 唆す……。
 それで、戻ってきた時のあいつらの様子が、ずっとどこかおかしかったのか。

「アシナ殿は伝達の旗手。言葉の通じない相手との意思疎通ができ、優位な立場だと何の縁もない魔物相手にも命ずることができる」

 マジか。
 何か言われて、その影響で俺達と別れたがった様子が見えたのか。
 めんどくせぇな。
 なら、マッキーとか……ヨウミにだって影響を及ぼしかねない。

「そんな……。あ、あたしは絶対そんなことにはならないからねっ!」
「アラタには、ある意味命を救ってもらった。それを越える恩人などいやしない。あたしだって……!」

 待て。
 ということは……。

「じゃあ芦名がここに来た時に一緒に来た魔物は……」
「察しの通り。アラタ殿と行動を共にしてきた者達だ」
「あ、テンちゃんとライム……」

 洞窟の入り口に影が見えた。
 ヨウミがそれに真っ先に反応した。
 唆されたとはいえ、どういうつもりなのか。
 いや、どういう状態なのかさっぱりわからん。
 あいつ、ここに来てからは一言も発していなかったんだよな。
 なんか怒ってるし。

「う……」
「う?」

 しかも、なんか唸ってるし。
 と思ったら……。

「うわっ」
「ちょっ!」

 推測体重四百キロを超える体が、俺に向かって突進してきた。
 モーナーはあばらと腕の骨折で済んだが、俺は命を持ってかれる!
 しかも避ける暇もないっ。
 誰もあいつを止めてくれない。
 と思ったら。

「うおぉぉ……お?」

 俺のところに駆け寄って、鼻面を俺の体にこすりつけに来ただけだった。
 背中から上に跳ねて俺の頭の上に乗っかるスライム。
 なんなんだよこいつら。

「う……うわーーーん!」
「うるせえぇぇぇ!」

 今度は号泣し始めた。
 何なんだよ、これ。

「……いろいろと事情が複雑に絡み合ったようで、その天馬はどうやら強烈な嫉妬を感じているようだよ」

 すました顔で解説してんじゃねえよ、皇太子!
 鼻水擦り付けられてるよ!
 引き離せよ!

「だってっ……、だってあたし達のこと、一回も仲間だって言ってくんなかったもん!」
「あ?」

 何なんだよ、この天馬!
 どうでもいいだろ、そんなこと!
 いいから離れろよ!

「そのおっきな人には仲間って言ってた! あたし達にはそんなこと一回も言ってくんなかった!」
「テンちゃん……」

 こいつの言うことにしんみりするより、こいつを引き離せよ、ヨウミ!

「ええい、バッチいだろ、鼻水があ! こんの錯乱天馬があ!」
「テンちゃんだっ! あたしの名前は、テンちゃんだっ!」

 お、押されてるんだが。
 押されて岩壁に押し付けられそうなんだが。
 つか、見える景色が虹色になって、どこに誰がいるんだか分からないんだが?!

「も、もういいでしょ? テンちゃん。落ち着いて、ね?」

 ヨウミに宥められてようやく天馬とスライムは落ち着いた。
 だが。

「ま、まさかその天馬が、アラタと仲間だったなんて……思わなかったぞお」

 一番呆然としてるのはモーナーだ。
 そりゃそうだろう。
 体当たりを食らって大怪我させられたんだからな。

「しかもプリズムスライムまで……。アラタはレアモンコレクターか?」

 珍しいダークエルフのマッキーがそれを言うか。
 ひょっとしてそれはギャグで言ってるのか?

「テンちゃん、誰が悪いってことはないのよ。ただ、間が悪かっただけなのね。だってモーナーも、このダークエルフのマッキーも仲間にしたのは、この村に来てからだったもんね。この村に辿り着くまで一緒に行動してたら、離れ離れになることはなかったのよ」

 天馬は一瞬目をぱちくりさせ、それから再び号泣。
 何でそんなに泣きたいのやら。

「あだしだってぇ! 仲間になりたかったのにいいぃ!」
「おいこら、足を地面に叩きつけるな! 地面が割れたらここに住めなくなっちまうだろ!」

 まったくこの馬鹿天馬は!
 ……馬鹿天馬って、馬から始まって馬で終わるんだな。
 どうでもいいけど。

「だあいじょうぶだあ。ここら面の地面もお、かなり硬い岩盤だからあ」

 いや、そーゆー問題じゃねぇよ、モーナー。

「別れてたのか。一体何が……って、あぁ、旗手の一人に唆されてっつってたな」
「人の話聞いてなさいよ、ゲンオウ」
「そうは言うがな、メーナム。関連性がどこにもねぇじゃねぇか。手配書出回ったり、撤回されたりって、一方的に王家とかに絡まれててさ、アラタは王家に絡んだことってねぇだろ? 異世界から来たことくらいでさ」

 あ……。
 あー……そう言えば、言ってなかったっけか?

「何を言っている? 彼は元々この世界には、旗手として呼び出された一人なのだぞ?」
「はぁ?!」

 全員が目を丸くしている。
 つか、それ、今必要な情報じゃねぇだろ。
 つか、……質問攻めに遭いそうな気配。

「お、落ち着け、みんな。俺は、そんなもんじゃねぇって言われてな」
「で、でも旗手様なんでしょ?!」

 新人冒険者ども!
 食い入るような目で見るんじゃねぇ!

「そ……そんなこと一言も言ってねぇじゃねぇか!」

 ドーセンまで食らいつくな!

「何だ? 何も伝えてなかったのか?」

 皇太子サマは皇太子サマで、何を暢気な……。

「そうだよ。知らなかったの?」

 何で天馬がドヤ顔してんだ!
 つか、お前ら、落ち着けー!

 ※

 一通り説明して、一通り事情の説明を受けて、そしてようやく洞窟内の空気が落ち着き……。

「何だよ」
「……旗手様っ」
「うるせえ!」

 エージがミーハーっぽい目つきですり寄ってくる。
 まったく子供ときたら……。
 子供と言えば……。

「あたしには?」

 天馬がまたすり寄ってきた。

「何だよ」
「……あたしには仲間って言ってくれないの?!」
「痛っ」

 弁慶の泣き所を狙ってどついてくるスライム。
 何なんだよ。
 察してくれとか言われたって分かんねぇよ!

「アラタ。あなた、まだこの二人に、お帰りとも言ってないし仲間とも言ってないし、名前も言ってないわよね」

 そりゃそうだ。
 テンちゃんとライムと同一存在とは断定できなかったからな。

「……あまり意地悪するのは、よくないと思うぞ?」
「俺もそう思うぞお」

 意地悪っつーか、何と言うか。

「あたしはっ! アラタのそばにいたいのっ!」

 それに合わせてスライムもピョンびょこ跳ねている。

「スライムに性別はないし、モーナーは男だがそれ以外は……。モテ期か? アラタ」

 ドーセンまで余計な事言うな!

「改めてお詫び申し上げる。そして、できれば以前のような間柄に戻ってもらえないだろうか?」

 王妃にもだったが、皇太子からも頭下げられた。
 しかも、ある意味公衆の面前だ。
 頭を下げる義理はないだろうし、下げるべき奴は別にいるし。

「アシナとやらとの縁があるだろうから、腹に何か抱えてるかもしれんが……そいつのことはともかく、その二体の魔物については、もういいんじゃねえか? 今まで行商の看板みたいな存在だったしよ」

 確かにゲンオウの言う通りだが……。
 旗手達と一緒に行動を続けられない理由ってのは何なんだ?
 いや、その前に……かなり時間が経って昼飯時じゃねぇか?

「……ドーセン。昼飯のことなんだが……」
「ん? あぁ……。……酒はなしだが、祝勝会でもするか! 俺の宿屋んとこでよ! これくらいの人数なら余裕で入るぜ? 魔物達も入れてな!」

 歓声が上がった。
 ちゃっかりしてやがる。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...