勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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三波新、放浪編

ここも日本大王国(仮) 改めて、おにぎりの店、準備万端!

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 昼食で祝勝会。
 場所はサキワ村の唯一の宿屋。
 ドーセン一人で経営している。
 ちなみに泉現象の魔物討伐の案内役を買って出た。
 それにしても、だ。

「まさか王子様が相伴してくれるたぁ思わなかったぜ!」
「逆でしょ? 私達がご相伴に預かってるんじゃなくて?」
「王宮に招かれたかったなぁ。そっちでも祝勝会やってんじゃないの?」

 最後、図々しい奴だな。
 それはともかく、俺らばかりじゃなく、天馬とスライムまで混ざってるんだが……。
 この二体、ある意味混乱している。
 祝勝会参加のことじゃなくて、これまでの経緯のことを思い返して、らしい。

「だって、だってみんなさぁ……うぅ……」

 天馬はまだ泣き止まない。
 なんか、感情が複雑だ。
 怒りも入ってるし、不満もある。
 随分ネガティブだな。

「だって、だって……みんな仲間にしてあげるとか言っててさ……我慢しろとか言うこと聞けとか、そんな命令しか言わないんだもんっ。こっちの言うこと聞いてくれなかったし……」
「おーい、誰だー? この馬鹿天馬に酒飲ませた奴はー」
「真面目に聞いてよアラタっ!」

 噛みつかんばかりに大口を開けてこっちを向かれると、流石に迫力がある。

「テンちゃん、向こうで何があったの?」
「うえぇぇぇん! 自分のとこにくれば成長できるよって言われてぇ」
「誰に?」
「アラタに突っかかって来てた人ぉ」

 芦名か。
 まぁ伝達の旗手などと言う名称なら、コミュニケーション能力高そうだもんな。

「誰か一人に縛られるより、いろんな人といろんな体験すると、今よりもっと能力が高くなるよって」
「それで?」

 ヨウミがいい具合で相手してくれてる。
 おれは新しく仲間に入ったマッキーとモーナーとのコミュニケーションに行くかなー。

「で、アラタ達と別れた後、あの人達と合流してぇ」
「そうだったの。それで?」
「みんなから、あのときはごめんって」
「あのとき……アラタが助けに行った時のことだね。謝ってもらったんだ」
「あんなの口先だけだよぉ! だって……だって……うえぇぇん」

 泣いてばかりでなかなか話が進まない。
 ヨウミが辛抱強く話を聞いて、それを要約すると……。
 泉現象の討伐にも同行したらしい。
 で、いろいろ提案すると片っ端から却下された。
 却下されたどころか邪魔者扱いまでされたらしい。
 仲間になるって言っておいて、この扱いはどういうことかと反論したら、言葉を封じられたとのこと。
 それ以来目の前が真っ暗な、何に対しても希望が持てない毎日だったようで、そのうち命じられたとおりにしか動けなくなったそうだ。
 で、そんな中でモーナーに突進した出来事もあった、ということらしい。
 そのモーナーに、俺が仲間呼ばわりしたもんだから、その時には我に返って怒り狂った、と。

「うえぇぇぇん! おっきな人ぉ、ごめんなさああい! うええぇぇぇん!」

 子供かこいつは。
 子供らしい素直さは評価してもいいけどよ。

「んー……。結局みんな無事だしい、俺は平気だよお。まだ痛いけどお。そんなに泣かなくていいよお」
「でも……テンちゃんって言うの? まさかアラタの仲間だったとはねー。あ、あたしはマッキー。よろしくね」
「俺はモーナーだあ。よろしくなあ」

 おいおい。
 勝手によろしくしてんじゃねえよ。
 つか、仲間にならなくてもそれくらいの挨拶はするか。

「ヒック……ヒック……。みんなにも、ごめんなさい……」

 冒険者全員にも謝罪している。
 どこぞの王にこの態度を見せてやりたいもんだが。

「済んだことは仕方ねぇし、何よりみんな無事なんだ。結果オーライということでな」
「それに魔物退治の時には大活躍だったしよ。俺達も助かったぜ」
「その割には旗手の人達はそんなでもなかったな」
「仕方ねぇよ。三人くらいしかいなかったろ?」
「王子サマの気苦労も……大変だったろ? ほれ、飲め……って、酒は出ねぇんだっけか」

 酒は出ないはずなのに、泣き上戸の天馬がおる。

「アラタぁ、あたし達も戻りたいー」
「……どこかの異世界から来たって話は聞いてないぞ?」
「こら、アラタ。茶化さないのっ」

 相変わらずヨウミのツッコミには面白みがない。
 もうちょっと面白みをだな……。

「でもあたし達よりも前から一緒にいたんでしょ? ならいいじゃない。あたし達なら問題ないわよ? ねぇ、モーナー」
「あぁ。俺も別に気にしないぞお。アラタぁ、仲間が増えて、俺はうれしいぞお」

 なんかもうなし崩しにされてるな。

「まぁ……真っ先にモーナーに謝ったことだし……いいか」

 俺の一言で食堂の中が一斉に湧いた。
 何で盛り上がるんだよ、お前ら。
 公衆の面前でプロポーズして、それに応じた時のようなリアクションじゃねぇか。

「それにしてもさ。王子サマもこの後大変だよな」
「少なくとも俺達の心象はよくねぇよな、旗手の連中」
「俺達に直接的な被害はなかったけどさ、アラタがこうも被害受けたんじゃなぁ」
「何人かは恩義あるんだろ?」

 そういうのが嫌なんだってば。

「そういうのはなしにしてくれ。あいつと俺の関係は、俺の世界でのことなんだからさ。それを持ち込んだあいつが悪かろうが、俺とあいつの関係をこの世界の人間に被害が」
「あったろ? アラタ。それでその魔物二体が被害を受けた」

 そこを突かれると痛いんだが……。

「俺とあいつの間に、事情を知らない他人を巻き込む気はねぇよ。気にかけてもらって有り難くは思うが、それよりおにぎりを買ってもらった方がよほどうれしいんだがな」
「前々から噂で聞いていた。噂に違わぬ効果、実に夢のような食べ物だったな」

 いきなりの皇太子からの高評価。
 ま、個人的な意見だろうからご用達とまではいかないだろうがな。

「だからと言って、調子に乗って値上げとかしちゃだめだからね!」
「しねぇよ! まったく」

 ヨウミに言われるまでもない。
 それに俺の店もスタッフが一気に増えたわけだし、あとは俺の頑張り次第か。

「えー?! いつの間に名前決めたのー?! あたしも混ざりたかったのにぃー!」

 テンちゃんが地団太を踏んでいる。
 しょうがないだろ。
 あんなことが合った間に決まったんだから。

「仲間になれただけでも御の字だろ。ここで俺と会わなかったら、今頃何してたか……」
「うぅ……」

 恨めしい目つきになっても、現実は変わらんよ。
 現状で良しとすべきだろうに。

「ナカマ! ナカマ!」
「え? ライム、喋れるの?!」
「ナカマ! ナカマ! ライム、ウレシイ!」

 なんかこう、この一件でいろいろショックなことが多すぎた。
 テンちゃんとライムの裏事情。
 この二人の再合流。
 ライムの発声。
 二日三日、ちょっと気持ちを落ち着けて休みたい気分だ。

「できれば私も仲間に加わりたいが、王家としての務めは全うせねばならない。が、仲間に加えてもらえないだろうか」

 何をいきなり言い出すんだこの馬鹿王子は。
 そんな大物、手元にキープなんてできるわきゃねぇだろうが!

「まったく皇太子様は冗談がきついですよぉ」

 あぁ、冗談だったか。
 寿命縮むぜ。

「いや、ヨウミ殿、七割以上は本気のつもりだが?」

 ヨウミが顔を真っ赤にしている。
 名前と顔を覚えられたってこともあるんだろうけどな。

「……今はいろいろありすぎた。これ以上俺達を混乱させんなよ、馬鹿王子」
「こ、こらっ! 皇太子様になんてことを!」

 ええい!
 空気読めない奴はみんな馬鹿呼ばわりに決定だ!
 王族だろうが何だろうが知ったことかーっ!
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