勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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三波新、定住編

アラタの店の、アラタな問題 その8

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 エライ騒ぎに巻き込まれた。
 とんでもない泣き声が突然聞こえてきて跳び起きた。
 全身筋肉痛で大ダメージ。

「いつまで寝てんのよっ!」

 と叫ぶ涙目のヨウミから一撃がクリティカルヒット。
 病み上がりにひどくね?
 いや、病むと言っても病気じゃないんだが、それでもな、うん。
 で、その泣き声が隣の部屋だったから行ってみると、テンちゃんがモーナーに抱きしめられながら泣いてる。
 それはいいんだが、ここ、人間用なのにテンちゃんが寝そべることができたことに軽くショック。
 呆れて部屋に戻って、改めて思い返すと……。
 モーナーと一緒に戻ってきたことは思い出せる。
 けどそっから先の記憶がない事にもショック。
 その後から今までの事の流れをヨウミから説明してもらった。

「昨日だったかな。あの子達は宿で寝泊まりしてたけど、あの子達が卒業した養成所に連絡して、とりあえずそれぞれ自分の家に戻らせたみたい。家のない子は養成所の寮の空き部屋行きだって」
「そっちからクレームきそうだな」
「今のところないから、養成所からは特に問題視されることはないみたいよ?」

 もしクレームが来たら、その説明を分かりやすくする作業とか、理解されなかった時にはここを立ち退くつもりだったからそれはいいんだが、そのための準備とかの計画を考えるのが面倒なんだよな。
 俺とヨウミだけなら荷車引っ張って行商再開、でその騒ぎは収まるはずだから。

「あいつらの保護者からのクレーム対応が面倒だなぁ……」

 筋肉痛で全身が痛む体を引きずって、何とか自室に戻れた。
 そんな体の状態で、養成所からだろうから家族からだろうが、殺到する抗議に対応することを想像するだけでも面倒だってのになあ。

「ドーセンさんがそこら辺はうまくやってくれたようよ。あの洞窟が、おそらくこの国で一番危険度が低いダンジョンだって言ってるらしいの」
「おやっさんが?」
「そりゃそうよ。あのダンジョンに入る冒険者達の宿泊場所で、記名しなきゃ泊まれないんだから。私達への配慮ってよりも、自分の仕事を守るためってことじゃない? もっともあたしはその現場見てないから何とも言えないけどさ」

 いや、それは理に適っている。
 あのおっさんも、まず自分にできることをやってからってタイプっぽいからな。
 だから泉騒動の時も、冒険者達が集まってから遅れてやって来た。
 でなきゃ率先して動いてたはずだからな。
 とはいっても、俺達おにぎりの店のスタッフの代わりに矢面に立ってくれたって感じもないわけじゃない。
 けどそれだと逆に、俺達はそっち方面では、ある意味無責任な仕事してるかなぁ。
 万が一の時に備えてガイダンス役をやってたモーナーの仕事を引き継いだ形ではあるが。
 もっとも今回のようなことは、モーナーが一人で掘削作業をしていた時には、あったことはあったらしい。
 が、いつだったか思い出せないほど昔の事で、数えるほどしか経験がない、とも言ってた。

「まぁ危険な場所に足を運ぶ仕事だ。改めて命の危険がある仕事ってことを分かってもらえたんじゃないか? ロマンを求めて。高額の報酬を求めて。そんな理想ばかり追い求める子供達にはいい経験になったろ」
「いい経験って……」
「死亡者、怪我人がゼロだったんだろ? 何度でも取り返しがつく状況は、これは喜ぶべきことだと思うがな」
「まぁ部外者の被害はないのは、確かにアラタの言う通りなんだろうけど……。でもテンちゃんも……アラタも……大変だったんだからねっ」

 下手すりゃモーナーもどうなってたか分からない。
 こちらの被害は軽くはなかったにせよ、その度合いは、やはり思ったほど重くはなく、これもまた歓迎すべき結果……だと、俺は思うがな。
 しかし……。
 事態は歓迎どころじゃなく、どうかお引き取り頂きたい状況がやってきてしまった。

 ※※※※※ ※※※※※

 翌朝一番、ヨウミから声をかけられた。

「アラタぁ、今動ける?」

 俺は筋肉痛で、未だにしっかり動けない。
 無理してもいいが、それで満足できる仕事ができなきゃ店の評判も落ちちまう。
 休むことでみんなの心配が減るなら、動きたくても休むべし。

「どう動くのかが問題だがな。どうした?」
「こないだの件で、文句言いに来たお客さんがいるのよ」

 やはり来たか。
 ま、ここをおさらばする覚悟は、ここで目が覚めてからはできてるけどさ。

「あいよ……っこらせっと。店の方か?」
「あ、無理しないで。肩貸すよ?」
「いいよ、そんくらいは無理しなくても動ける。……はいはい、何のご用で?」
「アラタさんですか? 私、クリマーと申します」

 文句を言いに来た客としては、かなり冷静沈着って感じだ。
 いずれ、自分の名前を名乗る人ってのはそれなりに礼儀を弁えてる。
 いかにも、話をしに来たって感じがするが……。
 一見女性……だよな?
 種族は何だこれ?
 俺達人間が着る服と似たような恰好をしている。
 が……黒い。
 肌が黒い。
 真っ黒じゃないけど。
 目も、白目がほとんどないな。
 黒目の輝きはあるけど。
 逆に髪の毛は灰色よりも少し白いか?
 人間じゃないよな。

「クリマーさん、ですか。で、ご用件は?」
「こないだ世話になった弟のゴーアのことでお話を伺いに来ました」

 毅然とした態度。
 買い物のついでにってんじゃないな、と思ったら……。
 にしても、弟?
 人間として見たこの人の見た目……二十歳より上に見えないな。

「アラタ、こないだの救助活動の件だよ。似たような感じの子、いたでしょ?」
「こないだ?」
「いや、それでアラタ、昨日まで寝込んでたんじゃない。まさか、忘れた?」

 えーと……。

「ふわあぁぁ……あれえ? アラタあ、店、今日からだっけぇ?」

 あくびして出てくんな、マッキー!
 みっともねぇ。

「いや、朝から来客がな」
「あら? えーと、あの子のご家族?」

 おい、マッキー。
 口出してくんな。
 っつーか、あの子?

「あ、アラタはそこまで見る余裕はなかったか。あたしがダンジョンの中から連れ出した、最後の一人と同じ種族の人だよ、その人。いらっしゃいませー」

 悪かったよ!
 そこまで細かく見てる余裕はなかったよ!
 でも最後に一人取り残された奴はいたな。

「私の事よりも……」
「アラタぁ、珍しい種族だよ。ドッペルゲンガーだよ」
「はい?」

 ドッペルゲンガーっつったら……。
 いろいろとやばくない?
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