勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
138 / 493
紅丸編

飛び交う噂 その5

しおりを挟む
 どうも最近、生活環境の変化が激しい。
 おにぎりの店に来る今までの客は、初々しく、そして素直な初級冒険者ばかりだった。
 もちろん引率のベテランもいたが。
 それが、ここに来る者達の目的がまちまちになっている。
 その変化が激しさは、俺達の中にも起きた。

 ※※※※※ ※※※※※

「ただいまー。さ、晩飯はお前らの番だぞ。とっとと行ってきな」
「お帰りなさい。じゃあ行ってきますね」
「はーい」
「あ、そうだ。ヨウミ、受映機って知ってるか?」
「受映機? 知ってるよ。って、そういえばここにはないもんね。……お祖父ちゃんの宿には置いてたけど。確かアラタも見たことあったよね」

 あったか?
 つか、何だそりゃ。

「覚えてねぇな。飯食ってる途中でドーセンから、ここには受映機はないのかって聞かれてな」
「お祖父ちゃんとこにはどの部屋にも置いてあったんだけどな。なんて説明すればいいかな。ニュースとかスポーツとか中継するやつ。機械の箱で……」

 ひょっとしてテレビのことか。
 そう言えば見たことがあったな。
 機械の名前もしっかり覚えてなかったな。
 すぐこの世界から離れるつもりでいたしな。

「つか、スポーツなんてあったか? 魔物に襲われる地域もあるかもしれないからそんなことをしてる場合じゃないとか何とかって話聞いたような気がする」
「目的は魔物討伐とかのためだからね。陸上競技と格闘技とかなら人気があるよ?」

 へぇ。
 この世界、この国の文化や娯楽には相当疎いな。

「その受映機とやら、買った方がいいかなぁ」
「んー……それに気を取られて仕事にならなきゃまずいよね……。とりあえずご飯行ってくるね。……あ、モーナーも帰ってきた」
「ただいまあ。お出かけ……じゃなくて、晩ご飯かあ? 俺もお腹ペコペコだぞお」
「じゃあ一緒に行かない? アラタ達が帰ってきたとこだから、クリマーと一緒にドーセンさんとこにいくとこなんだ」
「んじゃあ手と顔洗ってからにするからあ、ちょっと待っててえ」
「ん。待ってるから、綺麗にしてきなよ」
「おーう」

 テレビか……。
 バラエティ番組なんてあるのかな。
 泉現象出現情報なんてあったら、ちょっとは有り難いかな?
 ……いや。
 行商はやらなくなったし、旗手の役目は放棄したし。
 もうあの現象に拘る必要もない、か……。

「アラタ、ジュエイキって、なんだ?」
「え?」

 マッキーも知らないのか。
 って、そりゃ人の文明の利器に触れる機会がなかったから、そりゃ分らんか。

「ジュモクカラ、デル、エキタイ」

 それ、樹液だから。
 つか、ライムはおにぎり食ってていいから、な?

 ※

「まぁそういうことで、受映機を購入についてどう思うかを……。まぁミアーノとンーゴはなくても平気っぽそうなんだが」
「なくても生活できたかんなあ」
「ミンナニ、マカセル」

 それもそうだよなあ。

「ってことは……クリマーは」
「何度も見たことはありますが……」
「俺もお、あるけどお……」

 今までなくても生活は成立してた。
 なきゃいけない理由もない。

「ヨウミは当然知ってた、よな」
「もちろん」
「マッキーは知らないっつってたよな」
「うん」
「テンちゃんもライムも当然……」
「知らないよ?」
「ジュエキ」

 違う。
 俺の背中を上り下りして遊んでいるサミーも当然知るはずがない。

「けど、魔物討伐をきっかけにしてて、目的にもしてる格闘技関係にはちょっと興味あるんだよな。店の防衛にも役立てられそうだし」
「それだけじゃあねえだろうがよ」
「え?」
「どんなもんかは知らねぇがよ、今ので何となくは分かった気がすんだな」

 今の……って、何の話だよ?

「アラタのあんちゃんが知らねぇことを教えてくれるってことなんじゃねえのけ? ってこたあ、サミーの事とか分かんじゃねぇの? レア種の子供の育て方―、みてぇなよ。どうよ? だったら買うべきなんじゃねぇの? 色々覚えにゃならん事、いっぺぇあるんじゃねーのか?」

 まさか、ミアーノから賛成意見が出るとは思わなかった。
 だが言われてみればその通り。
 とは言っても……。
 あの皇太子ですら知らないことを、テレビ番組から発信されれる情報で穴埋めできるのか?

「でもさ、買ってもいいんじゃない? 買って失敗したと思ったら使わなきゃいいだけだもん。違う?」
「そうですね。予算がぎりぎりとか、生活費を切り詰めないと買えないような物だったら反対しますけど」

 それもそうだ。

「でも受映機一つ買うだけなのに、みんなに相談するって……。子供じゃあるまいし」

 人を小馬鹿にしたようなヨウミの笑い顔がムカつく。

「それに夢中になって仕事が疎かになったら困るんだよ。かといって、世間知らずのままってのもどんなもんかってドーセンからも言われたしな」

 それに首をひねったこともあった。
 ダンジョンで収拾できるアイテムの価値が高くなった、というドーセンからの話だ。
 じゃあ他の場所で取れるアイテムはどうなんだ?
 鉱物としか言われてなかったが、その種類はどれくらいあるんだ?
 ここでの話はこの国のどの範囲に広まってるんだ?
 俺は世のなかどころか、自分の足元のこともよく知らない。
 しかしここにやって来る者達は、ここのことを意外と知っている。 
 商売をしていても、意外と俺はまだ世間知らずなのかもしれない。
 そう思うと、情報収集も必要な作業かもしれん。
 情報誌だと、数多くなれば処分に困る。
 電源が必要ないテレビなら、ただそこらに置くだけでいい。
 最悪俺の部屋に置けば済むことだ。
 いずれ、俺の世界にはなかった仕事の中で、おにぎりよりも手間がかからず儲けがでかい仕事もあるかも分からん。
 そんな情報もそれから得ることができるかもしれん。

「んじゃそういうことにして……。じゃあ今夜のミーティングもここら辺で区切るか。じゃあミアーノ、ンーゴ、今日もサミーの相手ありがとな」
「なぁんもだー」
「アシタモ、マッテル」

 未だにあの双子は毎日来ている。
 サミーもまだ会いたくないらしい。
 託せる先があって助かった。

「ほれ、二人には愛想良くすることくらい……」

 サミーは背中に張り付きっぱなしになっていた。

「ネテルナ」
「無理して起こすなや。分かってっからよお」
「あ、あぁ。じゃあおやすみ……え?」

 不意に背中が軽くなった。
 そして後ろの足元からポトリと何かが落ちる音。

「え?」
「サミー?」
「どうし……え?」

 振り返って下を見た。
 サミーが仰向けになって転がっている。
 身動き一つしていない。


「おい……サミー?」
「ま、まさか……」
「嘘……」
「オナカ、ウゴイテナイ」

 お腹が動かない……ってことは……。
 呼吸、してない?

 何が……起きた?
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...