勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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紅丸編

トラブル連打 その7

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「そ。こことは違う世界から呼び出された人間ってこと。そして、勝手に呼び出して、しかも追放された。追放したくせに、ひっ捕らえろっていう手配書のオマケつきだぜ? 笑えるだろ? だが旗手としての能力は残ったまま。消えるどころか、鍛えられてるくらいだ」
「ちょっと、アラタ」

 小声でヨウミが囁いてきた。
 紅丸が狼狽えている。
 上司が、組織の一番てっぺんの人間が狼狽してるのを見りゃ、警戒するのも当たり前か?
 なんか周りの作業員たちに遠巻きに囲まれてる。
 ここでも危険人物扱いされるんか。
 そんな周りにヨウミが怯えるのも無理ないな。
 ライムはいつも通りだが。

「俺の能力は、気配を感じ取って、その気配から感情を判断できるってやつだ。だから、嘘かどうかの判断もできる。いつもってわけじゃないがな。嘘でも本当でもないと判断できたら、それは何か隠し事をしてるって推測できる、と」
「あ、アラタさん。あんたそんなことを」
「お前、俺のことを調べたっつったじゃねぇか。その事も知ってると思ってたんだよ。だがそれこそ俺の思い込みだったってオチでな。何ともマヌケなことで」

 最初から、違和感なんぞじゃなく、嘘をついてるとはっきり判断できてりゃここまで話はこじれずに済んだ。
 まぁ……思いもしなかったことだからなぁ。

「で、話を戻す。推測の範囲だが、俺に接近したのはテンちゃん達が狙いだった。だから敢えてレアな種族の話題に触れようとしなかった。そして、テンちゃんとサミーとの連絡が取れなくなった。サミーは、お前は一回見たよな? 背中が膨らんだ、猫かリスっぽい、ハサミを持った奴」
「あ、あぁ」
「ちなみにあれはギョリュウ種の、捨て石にされる予定だった卵から孵った奴だから」
「ま、まさか!」
「疑っても構わねぇよ。他に該当する種族がいるってんならな。そしてモーナー、マッキー、クリマーも……」

 ヨウミ、一応念のため……。

「うん、まだ連絡がつかない」
「おまけに、サミーと因縁がある双子もここで迷子になってる。見つかってないらしいな。それと、……俺に助けを求めるか細い女の子っぽい声も聞こえた」

 紅丸は……まだ観念してないようだな。
 まぁ別にいい。
 話を進めるだけだ。

「ここにいるよな? 解放しろ。解放しなきゃとんでもないことになる」
「か、勝手な妄想で」
「言ったろ? 俺は警察……保安部でも保安官でもないって。ここでの犯罪に詳しいわけでもない。何が悪くて何がいいかなんて断言できんこともあるし、何より国家権力にお近づきになりたくはない。国王からの追い出しでもう懲りたわ」

 まったく、思い出すだけで自虐の笑みが顔に浮かんじまう。

「で、解放を要求した目的があってな。魔物の泉現象も知ってるんだよな?」
「そ、それがどうした」
「それが発生する気配も感じ取ることができる。今お前が立っている真後ろの方向……三キロくらい先か? 発生予定日は二日後だ」

 おやおや。
 全員が固まってる。

「う……嘘や」
「だから気配は誤魔化せないんだってば。旗手達がくるだろうけど、現象は全国各地で頻繁に起こってるらしいからな。複数個所で同時にってことはないようだから必ず駆け付けてくれるだろうが、魔物が暴れてから何日後になるやら」
「た、退避」
「ここら一帯を見殺しに、か。まるまる商会も地に堕ちるぞ?」
「何だと?!」
「俺がここに来た目的は、魔物による被害を少しでも食い止めるためだ。どうせ旗手が来るんだ。無理せず生き延びることを前提にすりゃ何とかなる。ただし……」
「みんなが集まって来てくれたら、よね」

 ヨウミ、ナイスフォロー。
 けど、集まると巨大な魔物が呼び出されて願い事を叶えてくれるとか何とかっていう便利な手段にはならんけどな。

「ついでに、俺に助けを求めた何者か一人、そいつにも手伝ってもらおう。他にも同じ境遇の奴はいるかもしれん。が、善人のように全員を助けたって、自分から助かろうという意志がなきゃ無駄なことだ。それに俺はそこまで善人でもないし……」
「保安官でもない、よね」
「断る」

 あん?
 聞き分けが悪いな、この社長さんはよ。

「その現象が起きるっちゅー出まかせは、わぁしらの風評被害にもなるで?! 好き勝手なことゆーてたら」
「国家権力とお近づきになりたくはないんだが……しょうがない。奥の手だ」

 あいつにだけは通話機を使いたくなかったが。

「……おう、今どこにいるか知らんが、俺が今いる所にすぐに来い。泉現象がここから二キロくらい離れたところで、二日後に発生する予定だ。協力を仰いでる相手がいるんだが、ごねててな。三十……いや、二十秒で来い。でなきゃキレて、お前からもらった魔球一度に全部使いきる! ……さて……」
「……どこに通話したんや」
「お前が旧交を温めたい相手、かな? 改めて依頼しようか。俺の理想では、お前らの船に近くの住民全員を収容して安全圏に避難すること。魔物相手に一戦……ってのができたらいいが、戦闘機能はないんだろ? 人員も戦闘要員なんていないだろうし」

 人員については知らんが、要塞呼ばわりされてちょっと困ってると言ってた。
 それも本当の事。嘘じゃなかった。
 つまりこいつらは、そんな現象の前じゃ一たまりもない。
 ただ、たくさんの人を収容できるだろうから、多くの命を助けることができる。
 しかもおそらく、そんな行動はどこかからか義務付けられてるってことはない。
 ということは、だ。

「多くの人の命を救った立役者っつーレッテルが増える。どの商売だって信頼は大事だろ? その功績は紅丸、まるまる商会が一人占めってわけだ。この国でずっと語り継がれる話にもなるんじゃねえの?」

 流石に最後の一言は余計かもしれんがな。

「この国から、更にその功績で讃えられる。だって泉現象は絶対起きることなんだからよ。お? 来たか?」
「飛竜? けどありゃあ……」

 空を飛ぶ竜が四体ほど降りてきた。
 三体に乗ってる奴らは知らん。
 親衛隊か何かか?
 そしてもう一体の竜に乗ってる奴は……。

「君からの連絡ということで急いでやってきたが……遅刻していないと信じたいが。精一杯急いできたんだよ」
「エ……エイシアンム!」
「……まさか紅丸と一緒とは……懐かしい顔ではあるが……」
「あ、アラタさん、何であんた……エイシ……皇太子と連絡を」
「だから言ったろ? 元旗手。で追い出された。それが縁でな」

 紅丸の心境の変化は実に慌ただしそうだ。
 だが俺の、ムリに平静を装ってる心境の本音だって、負けないくらい荒れてるんだよ。
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