163 / 493
紅丸編
トラブル連打 その8
しおりを挟む
「シアン、言っとくが今のお前の立場は」
「分かってる。アラタの仲間だろう?」
「配下だ」
「ちょっと、アラタ……」
こいつの軽口はおいといて。
「さて……国からの栄誉をとるか、己のプライド、金、会社だけをとるか。二者択一。もちろん後者を選んだときは、俺が黙っちゃいない。本船のでかさがどれほどの物かは分からんが……こいつで壊滅することは間違いないだろうな」
尻ボケットから財布を引っ張り出し、その中から魔球を取り出す。
「それはアラタ、君の身を守るために使ってほしいのだがな」
「……詳しい事情を説明する時間も惜しいが……。テンちゃん、サミー、モーナー、マッキー、クリマーの身を守るために使うんだ。そのための犠牲なら、まるまる商会壊滅することになろうとも臆さない」
「なっ……俺の、国中から頼りにされとる品物の数々を生み出し、販売している企業をそんなものと」
「そんなもの? 俺から言わせりゃ、俺にとっちゃお前の会社なんぞあいつらに比べりゃそれこそ二束三文だ!」
「……企業だけやない。従業員たちだっておるわ! みんなの命を」
「俺の頭も心の中も、あいつら……俺の仲……」
仲間?
……仲間なんかじゃねぇ。
通話機のメッセで、俺のことを心配してくる奴らだぞ?
家族同然……。
いや、違う。
そんなんじゃない……。
あいつらは、俺の……。
「俺の……家族を守ることでいっぱいなんだよ! 体張って、命張って、家族を守ることの何が悪い!」
「アラタ……」
「アラタ、オチツケ。ライムモ、ミンナハカゾク」
「私も入れてもらいたいものだが」
欲しかった、安心できる人間関係。
人間じゃない方が多いが。
けど、あいつらがいなかったら俺は今頃……。
給料とか、給料代わりのおにぎりとかを渡して続いてる縁。
けれど、それで喜ぶあいつらの顔を見ると安心するし、俺のことを心配してくれてる奴らだ。
それを家族と言わずに何と呼ぶ?!
だがシアン!
どうしてお前は最後にオチをつけようとする?
「お前はいいから黙っとけ! ……あいつらが、自分の意思に反して、あるいは無関係に売り飛ばされるのを、黙って見てられるはずがねぇだろうが! 俺の正義の鉄拳を食らわしたい感情堪えて、国からの名誉っていう譲歩までつけてもらっても、それでもまだ人身売買してぇかよ!」
「紅丸! お前」
「うるせぇぞシアン! お前に来てもらったのは、この魔球の信頼度を高めるためだけだ! あいつらを守るためなら、こいつをぶちかますことだってためらわねぇ! 出しゃばんな!」
「バカ言うな! それは母上と私とでありったけの魔力を一つ一つに込めたものだ! 確かにお詫びとしてお前に捧げたが、誰かを傷つける目的で譲渡したのではない!」
「お前と、ミツアルカンヌ王妃、と、だと?」
「そうだ。父上が旗手の一人にあまりに非礼な行動を起こしたので罰として私達が幽閉した話は聞いてるだろう。その被害者が彼だ。どんなに詫びても赦してもらえぬほどの無礼を働いた。あ、いや、今はその話じゃないな。旗手を辞退した後も、彼の元に集まってきた人達と魔物達で、魔物の現象の被害を食い止めてくれた。こちらが詫びを入れた後でもなお、だ」
余計なことを言ってんじゃねぇっ。
少し黙ってろ!
「……紅丸。お前の家族観は知らん。シアンだって知ったこっちゃない。だがもう一度言う。現状に変わりがなきゃお前はすべてを失い、それを二度と手に入れることはない。お前の復讐とか、国や世界から追われたって気にしない。二度も経験済みだからな。しかもみんなが無事ってんならなおさらだ。けど俺が今言った奴らを解放するなら、お前はこの上ない栄誉を手にした上、手離した金づる以上の価値の高い金品を手にする知恵も浮かぶだろうよ。おま」
「もういい! 黙らんか! おい、こいつの言うアレを降ろせ! 大至急や!」
「は、はいっ! お前ら、作業にかかれ!」
……現状、俺に対する紅丸の罪は……。
時間を無駄に使わせて、泉現象への対応を遅らせたことだ。
思い通りに時間を遣わせてくれないことの方が相当腹が立つ!
「上から降りてきたよ? でも、随分長い鎖もあったもんだねぇ」
考えてみりゃヨウミから言われるまで気が付かなかった。
途中で魔物に襲われないもんか?
まぁ何にせよ、無事なら文句はないさ。
だが一つだけ?
他は……まだ地上の船に置かれてたのか。
えっと、テンちゃんとサミー、そして休暇の三人の五つか。
けど……上から降りてきた箱は小さい。
サミーが入ってちょうど良さそうな大きさ。
船からは、そんな小さい箱は運び出されてない。
どういうことだ?
「……おい、開けろ」
白い布に覆われたまま、一つずつその箱の側面が開いていってるようだ。
最初に空いた大きな箱からは……。
「出てこい、お前ら」
紅丸が声をかけると、その白い布にシルエットが浮かんできた。
「え、えっと……」
「え? 外?」
「え? お前ら……」
思わず驚いちまった。
ずっと迷子の場内アナウンスされてたはずのあの双子だった。
片方が大事そうに抱えているのは……。
「サミー?! 一体……」
「あ、おじちゃん! なんでここに?」
「ここに? じゃねぇよ! どういうことよ、これ!」
「サミーがどっかの人につれてかれそうになったから……」
「二人でなんとかたすけてあげようと思って……」
あれだけ二人と会うことさえ嫌がったサミーが、大人しく抱っこされている。
普通に動いてるようだから、元気でいるはずなんだが……。
「おい? サミーぶわっ! ってえっ!」
いきなり顔に飛び込んできた。
ハサミが鼻穴に入って血が出た。
「お、おじちゃん、大丈夫?」
「さ、サミー、いきなり飛び込んじゃだめだよ……」
双子とサミーばかりに気をとられてる場合じゃない。
テンちゃんも、そして休暇を取っていた三人も、それぞれの箱から出てきた。
「えっと……ここは……」
だが問題は、その小さい箱だ。
この箱には仕掛けがあったようで、相当近づかないと箱の中の気配が分からなかった。
しかし同じようなそんな仕掛けがあると思われる箱の中から、助けを求める感情を体中で感じる。
ただものじゃない。
そしてそこから出てきた者は……。
「やあぁっと出られたー! って、ここ、どこよ! あんた達、何者よ!」
トンボの羽っぽいのを背中につけて飛び回る女の子……。
女の子でいいのか?
サミーよりも小さい。
最初に会った時のライムくらいか?
地べたに寝転んでたら、気付かなかったら踏みつぶしそうなくらいの体長。
甲高い声。
そして何より……。
「何だ……? この……迫力……。いや……精神力、じゃないか?」
「珍しい。ピクシー種だ。だが普段は透明、もしくは半透明なんだが……。アラタが感じるそれは、おそらく魔力だ」
言われてみればそうだ。
魔球から発する気配に似たものだ。
しかも、魔球二個分は軽く超えてる。
助けを求めたから助けてやったが、もしこいつが犯罪者なら……。
いや、いろいろとちょっと待て。
あ、いや。
こいつの素性よりもだ。
「お、おい、お前」
「お前ぇ~? あたしをお前呼ばわりするお前こそ何もんだよっ!」
小さい体なのにどでかい態度!
これまた面倒くさそうな奴だが……。
「誰か助けて、と……切望しなかったか? 声に出さずとも」
間違いない。
この船で宿泊した時に聞こえた声と同じ。
あの時の声は空耳じゃなかった。
距離感がつかめなかったのは、この箱のせいだったのか。
「し、知らねぇよっ!」
面倒くせぇ。
ツンデレのデレ抜きかよ!
「そこに、サングラスかけてる男な、犯罪者を収容する場所の責任者で、お前を」
「しっつれいなこと言うんじゃねぇよ! 誰が犯罪者だ!」
「……お前の解放を頼んだのは俺だ。そして、俺はお前が何でここに入ってたのか知らねぇ」
「何、あんた、恩着せがましい事言いたいわけか?」
可愛げねぇな。
「まるでピクシー版アラタって感じよね」
うるせぇ。
「時間がねぇ。おい、お前らにも言っとく。こっから向こうの方向二キロ……三キロだったか? 二日後、泉現象が発生する。まるまる商会と組んでの住民の避難の手伝い。それとできる限り被害を少なくしながらの迎撃。旗手の連中が来るまで凌げ。以上だ!」
「アラタ、私は旗手達に連絡をつける。今別のところで討伐中だから、終わり次第現場に派遣する」
ふん。
好きにしろ。
「で、そのチビ」
「あぁ?! あたしのことかぁ?!」
「助けてやった。その恩は、この手伝い一回きりじゃ済まされねぇぞ? お前の助けを呼ぶ声が耳に入った。もし文句を言うんなら、またあの箱に逆戻りだ。犯罪者だったら、その刑罰の一つとしてうじゃうじゃ出てくる魔物退治に力を使え!」
「うぐっ……。わーったよ! それとあたしの名前はコーティだ! お前なんて言うんじゃねぇ! 今度からそんな事言ったら、最大魔法ぶちかますぞ!」
「釣り合いとれねぇだろ。まぁ漫才やってる暇もねぇ。おい、紅丸!」
「ふん」
なんでこう、どいつもこいつも不機嫌なんだ!
汚名返上の上、名誉の上乗せのチャンスだろうが!
「客達とえーと、何とか村」
「ラーマス村、よ」
何でもいいよ、もう。
「の村民と、反対側の村人達の避難」
「村じゃないよ。ターシア市」
はい?
市?
「五万人以上の市。そっちの避難も……」
五万……。
どうやって……。
どうやって避難させる?
説得なんざ……馬鹿王子に任せりゃ人的被害はゼロにできるかもしれねぇが、建物とか物品の被害がシャレにならねぇ。
おまけに屋外。
野戦って奴か?
それが非力な人間併せて……十一人?
どうすんだよ……。
前回はダンジョンの中だから、魔物の通り道の先は読めた。
だがルートの絞りようがない野戦は……。
森林だが木々をへし折られて移動されちまったら……。
「何が起きるか知らねぇけどよ、そいつらを一気に蹴散らしゃいいんだろ?」
今出てきたばかりの、物を知らなそうな妖精が何をほざくか。
「散らすんじゃねぇよ! 被害が増える! なるべく人里に近づけさせないようにしなきゃならねぇんだよ!」
「何か面倒くせぇことすんだなぁ」
お前の相手するよりは楽だよ!
けど……名案が出てこない……。
「……わぁしはとりあえず、全部の船を地上から引き払うわ。娯楽設備を解放しながら魔物の警戒晒したって、誰が信頼するっちゅーんや。その後でこっちゃこっちで行動させてもらうで?」
「空のことはこっちは素人だ。そっちは任せる」
「ふん」
紅丸に対しては、俺から何か動くことがない限り、ちょっかいかけられることはないはずだ。
協力しようがしまいがどうでもいい。
「えっと……」
「僕達は……」
双子のことを忘れてた。
えっととこいつらは……。
「あ、そうだ。父ちゃんと母ちゃんが探してたっぽいぞ。アナウンス聞いて、指示に従え。余計なことは言わなくていいからな? サミーの事とか泉の事とか。分かったな?」
「う、うん。分かった」
「うん。サミーも気を付けてねっ」
「ミャアア」
双子も見送った。
しかし、サミーの身に何が起こったのやら。
あとは……。
日数の猶予はあるとは言え、何ができる?
丈夫な武器や防具を揃えても、攻撃力の伸びしろにだって限度はある。
散らさないようにすることが精一杯か。
なら……手はないこともない。
「状況把握しきってないだろうが……魔物の襲撃を抑える。手伝ってくれ」
「お……おう……」
「う、うん、分かった」
「えっと、詳しい説明は後でしてもらうことして、何したらいいですか?」
……いろいろゴタゴタがあったが、まずは全員の安否確認で一安心か。
そして次。
俺達に更に戦力……にならんかもしれんが、魔物一体、ピクシーのコーティを加えての泉現象への対処だ。
「分かってる。アラタの仲間だろう?」
「配下だ」
「ちょっと、アラタ……」
こいつの軽口はおいといて。
「さて……国からの栄誉をとるか、己のプライド、金、会社だけをとるか。二者択一。もちろん後者を選んだときは、俺が黙っちゃいない。本船のでかさがどれほどの物かは分からんが……こいつで壊滅することは間違いないだろうな」
尻ボケットから財布を引っ張り出し、その中から魔球を取り出す。
「それはアラタ、君の身を守るために使ってほしいのだがな」
「……詳しい事情を説明する時間も惜しいが……。テンちゃん、サミー、モーナー、マッキー、クリマーの身を守るために使うんだ。そのための犠牲なら、まるまる商会壊滅することになろうとも臆さない」
「なっ……俺の、国中から頼りにされとる品物の数々を生み出し、販売している企業をそんなものと」
「そんなもの? 俺から言わせりゃ、俺にとっちゃお前の会社なんぞあいつらに比べりゃそれこそ二束三文だ!」
「……企業だけやない。従業員たちだっておるわ! みんなの命を」
「俺の頭も心の中も、あいつら……俺の仲……」
仲間?
……仲間なんかじゃねぇ。
通話機のメッセで、俺のことを心配してくる奴らだぞ?
家族同然……。
いや、違う。
そんなんじゃない……。
あいつらは、俺の……。
「俺の……家族を守ることでいっぱいなんだよ! 体張って、命張って、家族を守ることの何が悪い!」
「アラタ……」
「アラタ、オチツケ。ライムモ、ミンナハカゾク」
「私も入れてもらいたいものだが」
欲しかった、安心できる人間関係。
人間じゃない方が多いが。
けど、あいつらがいなかったら俺は今頃……。
給料とか、給料代わりのおにぎりとかを渡して続いてる縁。
けれど、それで喜ぶあいつらの顔を見ると安心するし、俺のことを心配してくれてる奴らだ。
それを家族と言わずに何と呼ぶ?!
だがシアン!
どうしてお前は最後にオチをつけようとする?
「お前はいいから黙っとけ! ……あいつらが、自分の意思に反して、あるいは無関係に売り飛ばされるのを、黙って見てられるはずがねぇだろうが! 俺の正義の鉄拳を食らわしたい感情堪えて、国からの名誉っていう譲歩までつけてもらっても、それでもまだ人身売買してぇかよ!」
「紅丸! お前」
「うるせぇぞシアン! お前に来てもらったのは、この魔球の信頼度を高めるためだけだ! あいつらを守るためなら、こいつをぶちかますことだってためらわねぇ! 出しゃばんな!」
「バカ言うな! それは母上と私とでありったけの魔力を一つ一つに込めたものだ! 確かにお詫びとしてお前に捧げたが、誰かを傷つける目的で譲渡したのではない!」
「お前と、ミツアルカンヌ王妃、と、だと?」
「そうだ。父上が旗手の一人にあまりに非礼な行動を起こしたので罰として私達が幽閉した話は聞いてるだろう。その被害者が彼だ。どんなに詫びても赦してもらえぬほどの無礼を働いた。あ、いや、今はその話じゃないな。旗手を辞退した後も、彼の元に集まってきた人達と魔物達で、魔物の現象の被害を食い止めてくれた。こちらが詫びを入れた後でもなお、だ」
余計なことを言ってんじゃねぇっ。
少し黙ってろ!
「……紅丸。お前の家族観は知らん。シアンだって知ったこっちゃない。だがもう一度言う。現状に変わりがなきゃお前はすべてを失い、それを二度と手に入れることはない。お前の復讐とか、国や世界から追われたって気にしない。二度も経験済みだからな。しかもみんなが無事ってんならなおさらだ。けど俺が今言った奴らを解放するなら、お前はこの上ない栄誉を手にした上、手離した金づる以上の価値の高い金品を手にする知恵も浮かぶだろうよ。おま」
「もういい! 黙らんか! おい、こいつの言うアレを降ろせ! 大至急や!」
「は、はいっ! お前ら、作業にかかれ!」
……現状、俺に対する紅丸の罪は……。
時間を無駄に使わせて、泉現象への対応を遅らせたことだ。
思い通りに時間を遣わせてくれないことの方が相当腹が立つ!
「上から降りてきたよ? でも、随分長い鎖もあったもんだねぇ」
考えてみりゃヨウミから言われるまで気が付かなかった。
途中で魔物に襲われないもんか?
まぁ何にせよ、無事なら文句はないさ。
だが一つだけ?
他は……まだ地上の船に置かれてたのか。
えっと、テンちゃんとサミー、そして休暇の三人の五つか。
けど……上から降りてきた箱は小さい。
サミーが入ってちょうど良さそうな大きさ。
船からは、そんな小さい箱は運び出されてない。
どういうことだ?
「……おい、開けろ」
白い布に覆われたまま、一つずつその箱の側面が開いていってるようだ。
最初に空いた大きな箱からは……。
「出てこい、お前ら」
紅丸が声をかけると、その白い布にシルエットが浮かんできた。
「え、えっと……」
「え? 外?」
「え? お前ら……」
思わず驚いちまった。
ずっと迷子の場内アナウンスされてたはずのあの双子だった。
片方が大事そうに抱えているのは……。
「サミー?! 一体……」
「あ、おじちゃん! なんでここに?」
「ここに? じゃねぇよ! どういうことよ、これ!」
「サミーがどっかの人につれてかれそうになったから……」
「二人でなんとかたすけてあげようと思って……」
あれだけ二人と会うことさえ嫌がったサミーが、大人しく抱っこされている。
普通に動いてるようだから、元気でいるはずなんだが……。
「おい? サミーぶわっ! ってえっ!」
いきなり顔に飛び込んできた。
ハサミが鼻穴に入って血が出た。
「お、おじちゃん、大丈夫?」
「さ、サミー、いきなり飛び込んじゃだめだよ……」
双子とサミーばかりに気をとられてる場合じゃない。
テンちゃんも、そして休暇を取っていた三人も、それぞれの箱から出てきた。
「えっと……ここは……」
だが問題は、その小さい箱だ。
この箱には仕掛けがあったようで、相当近づかないと箱の中の気配が分からなかった。
しかし同じようなそんな仕掛けがあると思われる箱の中から、助けを求める感情を体中で感じる。
ただものじゃない。
そしてそこから出てきた者は……。
「やあぁっと出られたー! って、ここ、どこよ! あんた達、何者よ!」
トンボの羽っぽいのを背中につけて飛び回る女の子……。
女の子でいいのか?
サミーよりも小さい。
最初に会った時のライムくらいか?
地べたに寝転んでたら、気付かなかったら踏みつぶしそうなくらいの体長。
甲高い声。
そして何より……。
「何だ……? この……迫力……。いや……精神力、じゃないか?」
「珍しい。ピクシー種だ。だが普段は透明、もしくは半透明なんだが……。アラタが感じるそれは、おそらく魔力だ」
言われてみればそうだ。
魔球から発する気配に似たものだ。
しかも、魔球二個分は軽く超えてる。
助けを求めたから助けてやったが、もしこいつが犯罪者なら……。
いや、いろいろとちょっと待て。
あ、いや。
こいつの素性よりもだ。
「お、おい、お前」
「お前ぇ~? あたしをお前呼ばわりするお前こそ何もんだよっ!」
小さい体なのにどでかい態度!
これまた面倒くさそうな奴だが……。
「誰か助けて、と……切望しなかったか? 声に出さずとも」
間違いない。
この船で宿泊した時に聞こえた声と同じ。
あの時の声は空耳じゃなかった。
距離感がつかめなかったのは、この箱のせいだったのか。
「し、知らねぇよっ!」
面倒くせぇ。
ツンデレのデレ抜きかよ!
「そこに、サングラスかけてる男な、犯罪者を収容する場所の責任者で、お前を」
「しっつれいなこと言うんじゃねぇよ! 誰が犯罪者だ!」
「……お前の解放を頼んだのは俺だ。そして、俺はお前が何でここに入ってたのか知らねぇ」
「何、あんた、恩着せがましい事言いたいわけか?」
可愛げねぇな。
「まるでピクシー版アラタって感じよね」
うるせぇ。
「時間がねぇ。おい、お前らにも言っとく。こっから向こうの方向二キロ……三キロだったか? 二日後、泉現象が発生する。まるまる商会と組んでの住民の避難の手伝い。それとできる限り被害を少なくしながらの迎撃。旗手の連中が来るまで凌げ。以上だ!」
「アラタ、私は旗手達に連絡をつける。今別のところで討伐中だから、終わり次第現場に派遣する」
ふん。
好きにしろ。
「で、そのチビ」
「あぁ?! あたしのことかぁ?!」
「助けてやった。その恩は、この手伝い一回きりじゃ済まされねぇぞ? お前の助けを呼ぶ声が耳に入った。もし文句を言うんなら、またあの箱に逆戻りだ。犯罪者だったら、その刑罰の一つとしてうじゃうじゃ出てくる魔物退治に力を使え!」
「うぐっ……。わーったよ! それとあたしの名前はコーティだ! お前なんて言うんじゃねぇ! 今度からそんな事言ったら、最大魔法ぶちかますぞ!」
「釣り合いとれねぇだろ。まぁ漫才やってる暇もねぇ。おい、紅丸!」
「ふん」
なんでこう、どいつもこいつも不機嫌なんだ!
汚名返上の上、名誉の上乗せのチャンスだろうが!
「客達とえーと、何とか村」
「ラーマス村、よ」
何でもいいよ、もう。
「の村民と、反対側の村人達の避難」
「村じゃないよ。ターシア市」
はい?
市?
「五万人以上の市。そっちの避難も……」
五万……。
どうやって……。
どうやって避難させる?
説得なんざ……馬鹿王子に任せりゃ人的被害はゼロにできるかもしれねぇが、建物とか物品の被害がシャレにならねぇ。
おまけに屋外。
野戦って奴か?
それが非力な人間併せて……十一人?
どうすんだよ……。
前回はダンジョンの中だから、魔物の通り道の先は読めた。
だがルートの絞りようがない野戦は……。
森林だが木々をへし折られて移動されちまったら……。
「何が起きるか知らねぇけどよ、そいつらを一気に蹴散らしゃいいんだろ?」
今出てきたばかりの、物を知らなそうな妖精が何をほざくか。
「散らすんじゃねぇよ! 被害が増える! なるべく人里に近づけさせないようにしなきゃならねぇんだよ!」
「何か面倒くせぇことすんだなぁ」
お前の相手するよりは楽だよ!
けど……名案が出てこない……。
「……わぁしはとりあえず、全部の船を地上から引き払うわ。娯楽設備を解放しながら魔物の警戒晒したって、誰が信頼するっちゅーんや。その後でこっちゃこっちで行動させてもらうで?」
「空のことはこっちは素人だ。そっちは任せる」
「ふん」
紅丸に対しては、俺から何か動くことがない限り、ちょっかいかけられることはないはずだ。
協力しようがしまいがどうでもいい。
「えっと……」
「僕達は……」
双子のことを忘れてた。
えっととこいつらは……。
「あ、そうだ。父ちゃんと母ちゃんが探してたっぽいぞ。アナウンス聞いて、指示に従え。余計なことは言わなくていいからな? サミーの事とか泉の事とか。分かったな?」
「う、うん。分かった」
「うん。サミーも気を付けてねっ」
「ミャアア」
双子も見送った。
しかし、サミーの身に何が起こったのやら。
あとは……。
日数の猶予はあるとは言え、何ができる?
丈夫な武器や防具を揃えても、攻撃力の伸びしろにだって限度はある。
散らさないようにすることが精一杯か。
なら……手はないこともない。
「状況把握しきってないだろうが……魔物の襲撃を抑える。手伝ってくれ」
「お……おう……」
「う、うん、分かった」
「えっと、詳しい説明は後でしてもらうことして、何したらいいですか?」
……いろいろゴタゴタがあったが、まずは全員の安否確認で一安心か。
そして次。
俺達に更に戦力……にならんかもしれんが、魔物一体、ピクシーのコーティを加えての泉現象への対処だ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】
きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ!
約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。
夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。
もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。
純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく!
最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる