勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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紅丸編

トラブル連打 その8

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「シアン、言っとくが今のお前の立場は」
「分かってる。アラタの仲間だろう?」
「配下だ」
「ちょっと、アラタ……」

 こいつの軽口はおいといて。

「さて……国からの栄誉をとるか、己のプライド、金、会社だけをとるか。二者択一。もちろん後者を選んだときは、俺が黙っちゃいない。本船のでかさがどれほどの物かは分からんが……こいつで壊滅することは間違いないだろうな」

 尻ボケットから財布を引っ張り出し、その中から魔球を取り出す。

「それはアラタ、君の身を守るために使ってほしいのだがな」
「……詳しい事情を説明する時間も惜しいが……。テンちゃん、サミー、モーナー、マッキー、クリマーの身を守るために使うんだ。そのための犠牲なら、まるまる商会壊滅することになろうとも臆さない」
「なっ……俺の、国中から頼りにされとる品物の数々を生み出し、販売している企業をそんなものと」
「そんなもの? 俺から言わせりゃ、俺にとっちゃお前の会社なんぞあいつらに比べりゃそれこそ二束三文だ!」
「……企業だけやない。従業員たちだっておるわ! みんなの命を」
「俺の頭も心の中も、あいつら……俺の仲……」

 仲間?
 ……仲間なんかじゃねぇ。
 通話機のメッセで、俺のことを心配してくる奴らだぞ?
 家族同然……。
 いや、違う。
 そんなんじゃない……。
 あいつらは、俺の……。

「俺の……家族を守ることでいっぱいなんだよ! 体張って、命張って、家族を守ることの何が悪い!」
「アラタ……」
「アラタ、オチツケ。ライムモ、ミンナハカゾク」
「私も入れてもらいたいものだが」

 欲しかった、安心できる人間関係。
 人間じゃない方が多いが。
 けど、あいつらがいなかったら俺は今頃……。
 給料とか、給料代わりのおにぎりとかを渡して続いてる縁。
 けれど、それで喜ぶあいつらの顔を見ると安心するし、俺のことを心配してくれてる奴らだ。
 それを家族と言わずに何と呼ぶ?!
 だがシアン!
 どうしてお前は最後にオチをつけようとする?

「お前はいいから黙っとけ! ……あいつらが、自分の意思に反して、あるいは無関係に売り飛ばされるのを、黙って見てられるはずがねぇだろうが! 俺の正義の鉄拳を食らわしたい感情堪えて、国からの名誉っていう譲歩までつけてもらっても、それでもまだ人身売買してぇかよ!」
「紅丸! お前」
「うるせぇぞシアン! お前に来てもらったのは、この魔球の信頼度を高めるためだけだ! あいつらを守るためなら、こいつをぶちかますことだってためらわねぇ! 出しゃばんな!」
「バカ言うな! それは母上と私とでありったけの魔力を一つ一つに込めたものだ! 確かにお詫びとしてお前に捧げたが、誰かを傷つける目的で譲渡したのではない!」
「お前と、ミツアルカンヌ王妃、と、だと?」
「そうだ。父上が旗手の一人にあまりに非礼な行動を起こしたので罰として私達が幽閉した話は聞いてるだろう。その被害者が彼だ。どんなに詫びても赦してもらえぬほどの無礼を働いた。あ、いや、今はその話じゃないな。旗手を辞退した後も、彼の元に集まってきた人達と魔物達で、魔物の現象の被害を食い止めてくれた。こちらが詫びを入れた後でもなお、だ」

 余計なことを言ってんじゃねぇっ。
 少し黙ってろ!

「……紅丸。お前の家族観は知らん。シアンだって知ったこっちゃない。だがもう一度言う。現状に変わりがなきゃお前はすべてを失い、それを二度と手に入れることはない。お前の復讐とか、国や世界から追われたって気にしない。二度も経験済みだからな。しかもみんなが無事ってんならなおさらだ。けど俺が今言った奴らを解放するなら、お前はこの上ない栄誉を手にした上、手離した金づる以上の価値の高い金品を手にする知恵も浮かぶだろうよ。おま」
「もういい! 黙らんか! おい、こいつの言うアレを降ろせ! 大至急や!」
「は、はいっ! お前ら、作業にかかれ!」

 ……現状、俺に対する紅丸の罪は……。
 時間を無駄に使わせて、泉現象への対応を遅らせたことだ。
 思い通りに時間を遣わせてくれないことの方が相当腹が立つ!

「上から降りてきたよ? でも、随分長い鎖もあったもんだねぇ」

 考えてみりゃヨウミから言われるまで気が付かなかった。
 途中で魔物に襲われないもんか?
 まぁ何にせよ、無事なら文句はないさ。
 だが一つだけ?
 他は……まだ地上の船に置かれてたのか。
 えっと、テンちゃんとサミー、そして休暇の三人の五つか。
 けど……上から降りてきた箱は小さい。
 サミーが入ってちょうど良さそうな大きさ。
 船からは、そんな小さい箱は運び出されてない。
 どういうことだ?

「……おい、開けろ」

 白い布に覆われたまま、一つずつその箱の側面が開いていってるようだ。
 最初に空いた大きな箱からは……。

「出てこい、お前ら」

 紅丸が声をかけると、その白い布にシルエットが浮かんできた。

「え、えっと……」
「え? 外?」
「え? お前ら……」

 思わず驚いちまった。
 ずっと迷子の場内アナウンスされてたはずのあの双子だった。
 片方が大事そうに抱えているのは……。

「サミー?! 一体……」
「あ、おじちゃん! なんでここに?」
「ここに? じゃねぇよ! どういうことよ、これ!」
「サミーがどっかの人につれてかれそうになったから……」
「二人でなんとかたすけてあげようと思って……」

 あれだけ二人と会うことさえ嫌がったサミーが、大人しく抱っこされている。
 普通に動いてるようだから、元気でいるはずなんだが……。

「おい? サミーぶわっ! ってえっ!」

 いきなり顔に飛び込んできた。
 ハサミが鼻穴に入って血が出た。

「お、おじちゃん、大丈夫?」
「さ、サミー、いきなり飛び込んじゃだめだよ……」

 双子とサミーばかりに気をとられてる場合じゃない。
 テンちゃんも、そして休暇を取っていた三人も、それぞれの箱から出てきた。

「えっと……ここは……」

 だが問題は、その小さい箱だ。
 この箱には仕掛けがあったようで、相当近づかないと箱の中の気配が分からなかった。
 しかし同じようなそんな仕掛けがあると思われる箱の中から、助けを求める感情を体中で感じる。
 ただものじゃない。
 そしてそこから出てきた者は……。

「やあぁっと出られたー! って、ここ、どこよ! あんた達、何者よ!」

 トンボの羽っぽいのを背中につけて飛び回る女の子……。
 女の子でいいのか?
 サミーよりも小さい。
 最初に会った時のライムくらいか?
 地べたに寝転んでたら、気付かなかったら踏みつぶしそうなくらいの体長。
 甲高い声。
 そして何より……。

「何だ……? この……迫力……。いや……精神力、じゃないか?」
「珍しい。ピクシー種だ。だが普段は透明、もしくは半透明なんだが……。アラタが感じるそれは、おそらく魔力だ」

 言われてみればそうだ。
 魔球から発する気配に似たものだ。
 しかも、魔球二個分は軽く超えてる。
 助けを求めたから助けてやったが、もしこいつが犯罪者なら……。
 いや、いろいろとちょっと待て。
 あ、いや。
 こいつの素性よりもだ。

「お、おい、お前」
「お前ぇ~? あたしをお前呼ばわりするお前こそ何もんだよっ!」

 小さい体なのにどでかい態度!
 これまた面倒くさそうな奴だが……。

「誰か助けて、と……切望しなかったか? 声に出さずとも」

 間違いない。
 この船で宿泊した時に聞こえた声と同じ。
 あの時の声は空耳じゃなかった。
 距離感がつかめなかったのは、この箱のせいだったのか。

「し、知らねぇよっ!」

 面倒くせぇ。
 ツンデレのデレ抜きかよ!

「そこに、サングラスかけてる男な、犯罪者を収容する場所の責任者で、お前を」
「しっつれいなこと言うんじゃねぇよ! 誰が犯罪者だ!」
「……お前の解放を頼んだのは俺だ。そして、俺はお前が何でここに入ってたのか知らねぇ」
「何、あんた、恩着せがましい事言いたいわけか?」

 可愛げねぇな。

「まるでピクシー版アラタって感じよね」

 うるせぇ。

「時間がねぇ。おい、お前らにも言っとく。こっから向こうの方向二キロ……三キロだったか? 二日後、泉現象が発生する。まるまる商会と組んでの住民の避難の手伝い。それとできる限り被害を少なくしながらの迎撃。旗手の連中が来るまで凌げ。以上だ!」
「アラタ、私は旗手達に連絡をつける。今別のところで討伐中だから、終わり次第現場に派遣する」

 ふん。
 好きにしろ。

「で、そのチビ」
「あぁ?! あたしのことかぁ?!」
「助けてやった。その恩は、この手伝い一回きりじゃ済まされねぇぞ? お前の助けを呼ぶ声が耳に入った。もし文句を言うんなら、またあの箱に逆戻りだ。犯罪者だったら、その刑罰の一つとしてうじゃうじゃ出てくる魔物退治に力を使え!」
「うぐっ……。わーったよ! それとあたしの名前はコーティだ! お前なんて言うんじゃねぇ! 今度からそんな事言ったら、最大魔法ぶちかますぞ!」
「釣り合いとれねぇだろ。まぁ漫才やってる暇もねぇ。おい、紅丸!」
「ふん」

 なんでこう、どいつもこいつも不機嫌なんだ!
 汚名返上の上、名誉の上乗せのチャンスだろうが!

「客達とえーと、何とか村」
「ラーマス村、よ」

 何でもいいよ、もう。

「の村民と、反対側の村人達の避難」
「村じゃないよ。ターシア市」

 はい?
 市?

「五万人以上の市。そっちの避難も……」

 五万……。
 どうやって……。
 どうやって避難させる?
 説得なんざ……馬鹿王子に任せりゃ人的被害はゼロにできるかもしれねぇが、建物とか物品の被害がシャレにならねぇ。
 おまけに屋外。
 野戦って奴か?
 それが非力な人間併せて……十一人?
 どうすんだよ……。
 前回はダンジョンの中だから、魔物の通り道の先は読めた。
 だがルートの絞りようがない野戦は……。
 森林だが木々をへし折られて移動されちまったら……。

「何が起きるか知らねぇけどよ、そいつらを一気に蹴散らしゃいいんだろ?」

 今出てきたばかりの、物を知らなそうな妖精が何をほざくか。

「散らすんじゃねぇよ! 被害が増える! なるべく人里に近づけさせないようにしなきゃならねぇんだよ!」
「何か面倒くせぇことすんだなぁ」

 お前の相手するよりは楽だよ!
 けど……名案が出てこない……。

「……わぁしはとりあえず、全部の船を地上から引き払うわ。娯楽設備を解放しながら魔物の警戒晒したって、誰が信頼するっちゅーんや。その後でこっちゃこっちで行動させてもらうで?」
「空のことはこっちは素人だ。そっちは任せる」
「ふん」

 紅丸に対しては、俺から何か動くことがない限り、ちょっかいかけられることはないはずだ。
 協力しようがしまいがどうでもいい。

「えっと……」
「僕達は……」

 双子のことを忘れてた。
 えっととこいつらは……。

「あ、そうだ。父ちゃんと母ちゃんが探してたっぽいぞ。アナウンス聞いて、指示に従え。余計なことは言わなくていいからな? サミーの事とか泉の事とか。分かったな?」
「う、うん。分かった」
「うん。サミーも気を付けてねっ」
「ミャアア」

 双子も見送った。
 しかし、サミーの身に何が起こったのやら。
 あとは……。
 日数の猶予はあるとは言え、何ができる?
 丈夫な武器や防具を揃えても、攻撃力の伸びしろにだって限度はある。
 散らさないようにすることが精一杯か。
 なら……手はないこともない。

「状況把握しきってないだろうが……魔物の襲撃を抑える。手伝ってくれ」
「お……おう……」
「う、うん、分かった」
「えっと、詳しい説明は後でしてもらうことして、何したらいいですか?」

 ……いろいろゴタゴタがあったが、まずは全員の安否確認で一安心か。
 そして次。
 俺達に更に戦力……にならんかもしれんが、魔物一体、ピクシーのコーティを加えての泉現象への対処だ。
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