168 / 493
紅丸編
トラブル連打 その13
しおりを挟む
いつもなら気配を感じるとその発生元の正体や位置、タイミングなどの情報はすぐに把握できる。
だが今はそれができない。
当然だ。
自然に発生する魔物よりも格段に強い、真っ黒な姿の魔物が俺の目の前で次々と湧いて出る。
その魔物を自由に活動させるわけにはいかない。
王妃のミツアルカンヌと皇太子のシアンが二人で作り俺に差し出してきた数ある魔球の二つを使って、暴風による結界を作った。
残念ながらこの結界は、俺やライム、無理やり巻き込んだピクシー種のコーティにもダメージを与える。
だから後ずさるわけにもいかず、次第に増加していく魔物達と一戦交えるわけにもいかない。
そんな状況で、普通じゃない気配を察知してしまった。
まず先に、俺達の身の安全を考えなきゃならない。
しかし、この気配は無視するわけにはいかない。
とにかくでかい。
しかも接近しつつある。
辺りの樹木、目の前に現れる一番でかい魔物の物とは比べ物にならないくらい。
しかし、正体が分からなければ、いつ、どこから来るのか分からない。
「行くも地獄、退くも地獄。けど暴風の結界は間違った手段じゃないとは言い切れるが」
「魔物達を凍り付かせるしか手はないって、あんたどんだけ自分の首絞めるの好きなのよ!」
うるせぇな。
だがこれだけ魔物が多くなると、落水も発破ももう無理だ。
こっちに魔物を飛ばせないようにする工夫ができない。
「アンゼンチタイ、ツクッタラ?」
「どうやってだよ。どこかに集合させるって? こっちの号令に従ってくれる魔物なんかいやしねぇよ!」
「あ、すっかり忘れてた。暴風の中に放り込めばいいやとしか思ってなかったから。ちょいとかましてみっか! おい、お前! 地面に伏せてろ! 巻き沿い食らったら助けようがねぇからなぁ!」
コーティが三種類目の魔法をかまそうとしてる。
何をするかは分からんが、ここは素直に言うことを聞くしかない。
それが終わったら、いくらか時間を稼げるかもしれん。
短時間でこの怪しい気配の正体を突き止めるしかない。
「この空間の中心に……集まれーっ!」
何かの音が鳴る。
何かが軋むような……得体のしれないことが次々起こる。
だが、魔物のほとんどがうめき声をあげた。
「な……何が起こってる?!」
「この空間のど真ん中に、ここにいる全員を引き寄せる魔法だ。だからこの風の壁際はいくらか安全になるぞ。でもこの後どうするか考えてねぇ」
それもそうだ。
落水、発破、どちらもこっちに魔物が押し寄せてくるんだから。
いや、それよりこの気配の正体を突き止めなきゃならん。
いくらか時間は稼ぐことはできた。
暴風が消えてもこの魔法が続く限り、魔物どもは好き勝手に暴れることはできない。
しかしこの気配は何なんだ?
何となく、さらに危険が迫ってる感じもする。
こんな感覚は初めてだが……。
いや。
今までそんなことがあっただろ。
それは……。
「コーティの声だ!」
「あ?! あたしがどうしたよ!」
「そうだ。それに……そうか。紅丸の船に絡んだ時と似たような」
「デモイマ、ベニマルノフネ、ウエニイル」
それだ!
暴風の壁際で伏せながら、何とか上を見てみれば……。
「ま、まさか! マジかよ!」
「あぁ?! どうしたんだよ!」
「ナニカアッタカ?」
白い雲が浮かんでいる青い空が見える。
だが、気配はその遥か上から発している!
その青い空の中に見える黒い点。
それは目の錯覚ではない。
「コーティ! 俺の腹の下に入れ! ここで動かないでいるよりほかない! ライム! 完全に防御姿勢とれ!」
「何よ! 何が起きるのよ!」
「イツデモデキテル! デモ、ドウシタ、アラタ」
遥か上の空から落ちてくる。
ライムに守ってもらっても、大怪我から免れることは絶対にない。
防御の魔球は……なかったはずだ。
つくづく……。
……上からこの上ないプレッシャーが押し寄せてくる。
だがそれくらいじゃないと、ここにいる魔物を潰せないってことか。
やるんだら、一言俺らに伝えろや、あのグラサン野郎!
「船だ! 施設とかあったろ?! あの船を……現象目掛けて落としやがった!」
「え?! あのでかいのが!」
「コ、コラエル! ゼッタイマモルッ!」
次第に大きくなる空気を切る轟音。
どこまで落ちてるか分からない。
だがその位置を確認する余裕も勇気もない。
ライムに包んでもらってるとは言え、自分でも防御の姿勢を完璧にしなきゃまずい。
頭と首。
それと……背骨よりは内臓の方が大事か。
あと手と足と……。
「カゲ、ミエル! デカクナッテル!」
「ひっ……!」
船の全長、三百メートルくらいはあったか?
この空間の直径は二百メートル超えるかどうか。
真下にいるならどんな魔物でも潰してくれるだろう。
側面にいたら分からんが。
けど待てよ?
暴風が消えないままなら……プロペラのように回転するんじゃねぇか?!
けどもう何も対策は考えられない!
「来るぞ! こらえあああああっっ!」
「キャアアアアア!!」
「グウウゥゥ!」
地響き。
振動。
落下地点にあった土、石、岩、樹木が高速で飛んでくる。
風圧、空圧、音圧。
全ての物が俺の身にも情け容赦なく襲い掛かる。
だがまだましだ。
暴風の壁に押し付けられれば一巻の終わりなんだから。
だが今はそれができない。
当然だ。
自然に発生する魔物よりも格段に強い、真っ黒な姿の魔物が俺の目の前で次々と湧いて出る。
その魔物を自由に活動させるわけにはいかない。
王妃のミツアルカンヌと皇太子のシアンが二人で作り俺に差し出してきた数ある魔球の二つを使って、暴風による結界を作った。
残念ながらこの結界は、俺やライム、無理やり巻き込んだピクシー種のコーティにもダメージを与える。
だから後ずさるわけにもいかず、次第に増加していく魔物達と一戦交えるわけにもいかない。
そんな状況で、普通じゃない気配を察知してしまった。
まず先に、俺達の身の安全を考えなきゃならない。
しかし、この気配は無視するわけにはいかない。
とにかくでかい。
しかも接近しつつある。
辺りの樹木、目の前に現れる一番でかい魔物の物とは比べ物にならないくらい。
しかし、正体が分からなければ、いつ、どこから来るのか分からない。
「行くも地獄、退くも地獄。けど暴風の結界は間違った手段じゃないとは言い切れるが」
「魔物達を凍り付かせるしか手はないって、あんたどんだけ自分の首絞めるの好きなのよ!」
うるせぇな。
だがこれだけ魔物が多くなると、落水も発破ももう無理だ。
こっちに魔物を飛ばせないようにする工夫ができない。
「アンゼンチタイ、ツクッタラ?」
「どうやってだよ。どこかに集合させるって? こっちの号令に従ってくれる魔物なんかいやしねぇよ!」
「あ、すっかり忘れてた。暴風の中に放り込めばいいやとしか思ってなかったから。ちょいとかましてみっか! おい、お前! 地面に伏せてろ! 巻き沿い食らったら助けようがねぇからなぁ!」
コーティが三種類目の魔法をかまそうとしてる。
何をするかは分からんが、ここは素直に言うことを聞くしかない。
それが終わったら、いくらか時間を稼げるかもしれん。
短時間でこの怪しい気配の正体を突き止めるしかない。
「この空間の中心に……集まれーっ!」
何かの音が鳴る。
何かが軋むような……得体のしれないことが次々起こる。
だが、魔物のほとんどがうめき声をあげた。
「な……何が起こってる?!」
「この空間のど真ん中に、ここにいる全員を引き寄せる魔法だ。だからこの風の壁際はいくらか安全になるぞ。でもこの後どうするか考えてねぇ」
それもそうだ。
落水、発破、どちらもこっちに魔物が押し寄せてくるんだから。
いや、それよりこの気配の正体を突き止めなきゃならん。
いくらか時間は稼ぐことはできた。
暴風が消えてもこの魔法が続く限り、魔物どもは好き勝手に暴れることはできない。
しかしこの気配は何なんだ?
何となく、さらに危険が迫ってる感じもする。
こんな感覚は初めてだが……。
いや。
今までそんなことがあっただろ。
それは……。
「コーティの声だ!」
「あ?! あたしがどうしたよ!」
「そうだ。それに……そうか。紅丸の船に絡んだ時と似たような」
「デモイマ、ベニマルノフネ、ウエニイル」
それだ!
暴風の壁際で伏せながら、何とか上を見てみれば……。
「ま、まさか! マジかよ!」
「あぁ?! どうしたんだよ!」
「ナニカアッタカ?」
白い雲が浮かんでいる青い空が見える。
だが、気配はその遥か上から発している!
その青い空の中に見える黒い点。
それは目の錯覚ではない。
「コーティ! 俺の腹の下に入れ! ここで動かないでいるよりほかない! ライム! 完全に防御姿勢とれ!」
「何よ! 何が起きるのよ!」
「イツデモデキテル! デモ、ドウシタ、アラタ」
遥か上の空から落ちてくる。
ライムに守ってもらっても、大怪我から免れることは絶対にない。
防御の魔球は……なかったはずだ。
つくづく……。
……上からこの上ないプレッシャーが押し寄せてくる。
だがそれくらいじゃないと、ここにいる魔物を潰せないってことか。
やるんだら、一言俺らに伝えろや、あのグラサン野郎!
「船だ! 施設とかあったろ?! あの船を……現象目掛けて落としやがった!」
「え?! あのでかいのが!」
「コ、コラエル! ゼッタイマモルッ!」
次第に大きくなる空気を切る轟音。
どこまで落ちてるか分からない。
だがその位置を確認する余裕も勇気もない。
ライムに包んでもらってるとは言え、自分でも防御の姿勢を完璧にしなきゃまずい。
頭と首。
それと……背骨よりは内臓の方が大事か。
あと手と足と……。
「カゲ、ミエル! デカクナッテル!」
「ひっ……!」
船の全長、三百メートルくらいはあったか?
この空間の直径は二百メートル超えるかどうか。
真下にいるならどんな魔物でも潰してくれるだろう。
側面にいたら分からんが。
けど待てよ?
暴風が消えないままなら……プロペラのように回転するんじゃねぇか?!
けどもう何も対策は考えられない!
「来るぞ! こらえあああああっっ!」
「キャアアアアア!!」
「グウウゥゥ!」
地響き。
振動。
落下地点にあった土、石、岩、樹木が高速で飛んでくる。
風圧、空圧、音圧。
全ての物が俺の身にも情け容赦なく襲い掛かる。
だがまだましだ。
暴風の壁に押し付けられれば一巻の終わりなんだから。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】
きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ!
約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。
夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。
もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。
純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく!
最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる