勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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紅丸編

トラブル連打 その13

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 いつもなら気配を感じるとその発生元の正体や位置、タイミングなどの情報はすぐに把握できる。
 だが今はそれができない。
 当然だ。
 自然に発生する魔物よりも格段に強い、真っ黒な姿の魔物が俺の目の前で次々と湧いて出る。
 その魔物を自由に活動させるわけにはいかない。
 王妃のミツアルカンヌと皇太子のシアンが二人で作り俺に差し出してきた数ある魔球の二つを使って、暴風による結界を作った。
 残念ながらこの結界は、俺やライム、無理やり巻き込んだピクシー種のコーティにもダメージを与える。
 だから後ずさるわけにもいかず、次第に増加していく魔物達と一戦交えるわけにもいかない。
 そんな状況で、普通じゃない気配を察知してしまった。
 まず先に、俺達の身の安全を考えなきゃならない。
 しかし、この気配は無視するわけにはいかない。
 とにかくでかい。
 しかも接近しつつある。
 辺りの樹木、目の前に現れる一番でかい魔物の物とは比べ物にならないくらい。
 しかし、正体が分からなければ、いつ、どこから来るのか分からない。

「行くも地獄、退くも地獄。けど暴風の結界は間違った手段じゃないとは言い切れるが」
「魔物達を凍り付かせるしか手はないって、あんたどんだけ自分の首絞めるの好きなのよ!」

 うるせぇな。
 だがこれだけ魔物が多くなると、落水も発破ももう無理だ。
 こっちに魔物を飛ばせないようにする工夫ができない。

「アンゼンチタイ、ツクッタラ?」
「どうやってだよ。どこかに集合させるって? こっちの号令に従ってくれる魔物なんかいやしねぇよ!」
「あ、すっかり忘れてた。暴風の中に放り込めばいいやとしか思ってなかったから。ちょいとかましてみっか! おい、お前! 地面に伏せてろ! 巻き沿い食らったら助けようがねぇからなぁ!」

 コーティが三種類目の魔法をかまそうとしてる。
 何をするかは分からんが、ここは素直に言うことを聞くしかない。
 それが終わったら、いくらか時間を稼げるかもしれん。
 短時間でこの怪しい気配の正体を突き止めるしかない。

「この空間の中心に……集まれーっ!」

 何かの音が鳴る。
 何かが軋むような……得体のしれないことが次々起こる。
 だが、魔物のほとんどがうめき声をあげた。

「な……何が起こってる?!」
「この空間のど真ん中に、ここにいる全員を引き寄せる魔法だ。だからこの風の壁際はいくらか安全になるぞ。でもこの後どうするか考えてねぇ」

 それもそうだ。
 落水、発破、どちらもこっちに魔物が押し寄せてくるんだから。
 いや、それよりこの気配の正体を突き止めなきゃならん。
 いくらか時間は稼ぐことはできた。
 暴風が消えてもこの魔法が続く限り、魔物どもは好き勝手に暴れることはできない。
 しかしこの気配は何なんだ?
 何となく、さらに危険が迫ってる感じもする。
 こんな感覚は初めてだが……。
 いや。
 今までそんなことがあっただろ。
 それは……。

「コーティの声だ!」
「あ?! あたしがどうしたよ!」
「そうだ。それに……そうか。紅丸の船に絡んだ時と似たような」
「デモイマ、ベニマルノフネ、ウエニイル」

 それだ!
 暴風の壁際で伏せながら、何とか上を見てみれば……。

「ま、まさか! マジかよ!」
「あぁ?! どうしたんだよ!」
「ナニカアッタカ?」

 白い雲が浮かんでいる青い空が見える。
 だが、気配はその遥か上から発している!
 その青い空の中に見える黒い点。
 それは目の錯覚ではない。

「コーティ! 俺の腹の下に入れ! ここで動かないでいるよりほかない! ライム! 完全に防御姿勢とれ!」
「何よ! 何が起きるのよ!」
「イツデモデキテル! デモ、ドウシタ、アラタ」

 遥か上の空から落ちてくる。
 ライムに守ってもらっても、大怪我から免れることは絶対にない。
 防御の魔球は……なかったはずだ。
 つくづく……。
 ……上からこの上ないプレッシャーが押し寄せてくる。
 だがそれくらいじゃないと、ここにいる魔物を潰せないってことか。
 やるんだら、一言俺らに伝えろや、あのグラサン野郎!

「船だ! 施設とかあったろ?! あの船を……現象目掛けて落としやがった!」
「え?! あのでかいのが!」
「コ、コラエル! ゼッタイマモルッ!」

 次第に大きくなる空気を切る轟音。
 どこまで落ちてるか分からない。
 だがその位置を確認する余裕も勇気もない。
 ライムに包んでもらってるとは言え、自分でも防御の姿勢を完璧にしなきゃまずい。
 頭と首。
 それと……背骨よりは内臓の方が大事か。
 あと手と足と……。

「カゲ、ミエル! デカクナッテル!」
「ひっ……!」

 船の全長、三百メートルくらいはあったか?
 この空間の直径は二百メートル超えるかどうか。
 真下にいるならどんな魔物でも潰してくれるだろう。
 側面にいたら分からんが。
 けど待てよ?
 暴風が消えないままなら……プロペラのように回転するんじゃねぇか?!
 けどもう何も対策は考えられない!

「来るぞ! こらえあああああっっ!」
「キャアアアアア!!」
「グウウゥゥ!」

 地響き。
 振動。
 落下地点にあった土、石、岩、樹木が高速で飛んでくる。
 風圧、空圧、音圧。
 全ての物が俺の身にも情け容赦なく襲い掛かる。
 だがまだましだ。
 暴風の壁に押し付けられれば一巻の終わりなんだから。
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