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紅丸編
トラブル連打 後日談その2
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シアンから、俺が気を失ってから今までの事を聞いた。
まずは紅丸の件だ。
まるまる商会の収容所の件はおおむね俺の推測通りだったんだそうだ。
店のそばのダンジョンの中のアイテムも、そして俺の経歴にも関心はほとんどなく、複数のレアモンスターを使役する行商人がいて、今ではどこかに店舗を構えている、という噂を耳にしたのがきっかけ。
だが、その気になったらこの世界のほとんどの物を手に入れることができるほどの巨財を手にしても、どんな召喚魔法の使い手に依頼しても、レアモンスターを我が物とすることはできなかったんだと。
「その目的は……」
「本船の維持のため、なんだと。私利私欲ではなさそうだ。今回のことで、初めて彼の本船に足を踏み入れることができた。あれを形容するに、空に浮かぶ陸地ってところか。要塞、なんてまだ可愛い言い方だ」
魔物商に売れば、確かに普通の魔物よりは売値は高い。
だがコレクターや欲しがるマニアに売りつければ、ゼロが二つも上乗せされる、とか。
「……ここにいるみんなは、確かにレアとは聞いてる。だが他にも野生とかでも存在するんだろ? そういう奴はいくらで売られるんだ?」
「安くでも千万単位だろうな。もっとも簡単には見つからん。見つけても逃げられる。逃げられる方がむしろ幸せかもしれん」
「どういうことだ?」
「レアだろうが魔物は魔物だよ? 人を襲う種族もいるってことさ」
「まさかあたし達を売るとか言うんじゃないでしょうね!」
勘ぐりすぎだ。
こっちは物品の相場なんて全然知らねぇんだよ。
ましてやペットショップなんて行ったことねぇし、動物園で飼育してる動物の値段すら知らねぇ。
目安は知る必要はあるだろうが。
それに、本気でこいつらを売るとしたら、まずコミュニケーションが取れることと襲われる心配が全くない特徴がある。
口が悪かったり聞きたくない話を聞かされるマイナスを考慮したとしても……億単位の金を積まれてようやく釣り合いが取れるかってとこじゃねぇか?
「……けどその企みを実行できたとして、船の維持費は日々かさむだろ? 一時しのぎにしかならんよう思えるが」
「元々その発想は、彼の部下から出てきたことらしい。保安部の依頼の話はしたよな?」
刑罰が強制労働一択って話だったよな。
「その労働力提供を申し込む依頼者から、料金……まぁ犯罪者の収容所での生活費ってことなんだが、それにやや上乗せした金額を支払ってもらうことで船の維持費に回すということをしていたらしいが、野生の魔物のレア種を捕獲することで、さらに維持費に回せる額が増えるんじゃないかと提案されたらしい。本腰を入れて探すんじゃなく、何かの仕事ついでに見かけたら、という片手間めいた気軽な感じでな」
大掛かりな計画ってわけではなかったらしいな。
「だが、保安部の役目を先回りを始めるようになった」
「先回り?」
「うむ。冤罪を確実に防ぐため、保安部の容疑者確保や拘束には慎重になった。その分行動は遅くなる。冤罪事件の割合は格段に低くなった」
ゼロじゃないんだ……。
「だがまるまる商会の警備部が同じことをし始めた」
越権行為じゃねぇの?
いいのかよ、それ。
「事件捜査の方針の柔軟性は高い。捜査協力の報酬なども用意するから、住民たちからの保安部への協力が相対的に鈍くなる」
なんだかなー。
出し抜かれてんじゃねぇか。
「保安部よりも先に犯罪者を捕まえ、被害者たちに賠償となるような金品など補填する事業も始めた」
「えーと……火災保険とか生命保険を、犯罪の被害にも当てはめるってことか?」
「そんな感じだ。容疑者確保が保安部によるよりも、彼らが確保できた時の保証額が高いってのも、我々とすればやや頭が痛い案件だ」
保証額を被害者に提供?
じゃあその分の額はどうやって穴埋めするんだ?
「彼らが、保安部に知られることがない案件の容疑者を確保し、被害者が納得できる保証を受け入れた時、という条件はなかなか揃うことはないんだが……そんな犯罪者を確保した時、まるまる商会はニーズに応じて人身売買を行っていたようだ」
保証額を軽く上回る、ってことか。
まぁ……一般人を誘拐して奴隷商に売っぱらうっつー胸糞悪い話じゃなくて、ちょっとは安心したが……。
「だが今回は……まず、紅丸は、テンちゃん達を何とかこっちに引っ張り込みたいという目論見はあった。取り調べによれば、お近づきになりたい、というレベルらしいな」
「それにしては用意周到だったと思うぜ? こいつらが話題の中心になることはなかった。俺の意識をその方面に向けさせない小細工としか思えんが」
「けど、紅丸とは、今回誰とも会ってないんです」
「は?」
「モーナーもあたしもクリマーも。テンちゃんもサミーも、紅丸とは会ってないのよ。だから彼が直接手を下したってわけじゃないのね」
どういうことだ?
考えられる可能性は……。
「紅丸の部下の人達から、少し休んでいかれたら? って、飲み物もらって……飲んでたら眠くなって……」
知らない人について行っちゃいけませんレベルか、女性一人でバーか何かで飲んで見知らぬ男から誘われて、知らないうちに睡眠薬仕込まれたレベルの話じゃねぇか。
「だから、紅丸から指示を受けてって思ってたんだけど、違ったみたい」
「店の船がいろんな所に泊まってるけど、その場にとどまるまでの期間が短くなって、動くなら今、ってことで、部下達は独断で動いたってことらしいのね」
「紅丸はあ、俺達とお、もっと仲良くなってからあ、バイトの話を持ち掛けるつもりだったんだってえ」
部下に責任を押し付けてるか、部下が自ら汚れ役をひっかぶってるようにしか見えないが……。
「別個の聞き取り調査で、話のどの部分にも食い違いはなかった。前々からそう証言するように打ち合わせしていた可能性はあるが、その割には紅丸、部下達それぞれの証言の中で、ところどころ穴がある。その穴となってる部分を改めて確認したところ、矛盾は見つからなくてな」
信じるしかないってことか。
「ところが、彼らには厄介なことが起きた」
「厄介?」
「双子の子供を巻き込んでしまった」
あぁ……。
そう言えばサミーは双子の接触には拒否する様子はなかったな。
「テンちゃんが眠り込んだあと、収監しようとしたところ、サミーに抵抗されたんだそうだ」
「サミー……頑張ったな……。って、サミーは?」
「あの日以来双子ともすっかり仲良くなってね。遊び相手してくれてるわ」
何とまぁ。
瓢箪から駒。
「俺らの役目が一つ減って、退屈する時間が増えたよなぁ、ンーゴ」
「マッタクダ」
こいつらとのわだかまりもなくなったってことだ。
でも待て。
何でいきなりそうなる?
「そのサミーの鳴き声聞いて真っ先に駆け付けたらしいわよ。その時はすでに両親が好きに遊ばせてたみたいだったから、両親は迷子になっただけとしか思ってないみたいなのよね」
「その部下の手に噛みついたりサミーとテンちゃんに覆いかぶさったりしたんだそうだ。その場では、実質まるまる商会の犯罪は、未成年者監禁と誘拐未遂に留まる」
その場では、だな。
「アラタ。私も途中からあの場に居合わせた形になるが、結局君の説得に応じた、というふうに解釈してるんだが……」
シアンはなるべく事を荒立てずに収束させたいか?
こっちは、見逃せばどこかに連れ去られてしまうか分からなかった。
「……どういうつもりで意見を求めたがってるかが問題だが」
「でも……揉み合いになったわけじゃないし、シアンも目撃者だし……単純に考えて、せいぜい怒鳴り合い、くらいかな?」
「ナグリアイトカ、ナカッタシ」
ヨウミとライムは、特に感情を逆なでしながら思い出す事態ではないってことだな。
その怒鳴り合いの中身はどうかってのは別として。
「……まあ、そういうことだな」
「うん。とりあえず説得に応じた、という認識で一致。あとは……彼の決断と行為をどう受け止めるか、なんだな」
「行為?」
にしても……寝込んでる間にいろいろあったんだな。
つか、まだ説明が終わらないとは。
まずは紅丸の件だ。
まるまる商会の収容所の件はおおむね俺の推測通りだったんだそうだ。
店のそばのダンジョンの中のアイテムも、そして俺の経歴にも関心はほとんどなく、複数のレアモンスターを使役する行商人がいて、今ではどこかに店舗を構えている、という噂を耳にしたのがきっかけ。
だが、その気になったらこの世界のほとんどの物を手に入れることができるほどの巨財を手にしても、どんな召喚魔法の使い手に依頼しても、レアモンスターを我が物とすることはできなかったんだと。
「その目的は……」
「本船の維持のため、なんだと。私利私欲ではなさそうだ。今回のことで、初めて彼の本船に足を踏み入れることができた。あれを形容するに、空に浮かぶ陸地ってところか。要塞、なんてまだ可愛い言い方だ」
魔物商に売れば、確かに普通の魔物よりは売値は高い。
だがコレクターや欲しがるマニアに売りつければ、ゼロが二つも上乗せされる、とか。
「……ここにいるみんなは、確かにレアとは聞いてる。だが他にも野生とかでも存在するんだろ? そういう奴はいくらで売られるんだ?」
「安くでも千万単位だろうな。もっとも簡単には見つからん。見つけても逃げられる。逃げられる方がむしろ幸せかもしれん」
「どういうことだ?」
「レアだろうが魔物は魔物だよ? 人を襲う種族もいるってことさ」
「まさかあたし達を売るとか言うんじゃないでしょうね!」
勘ぐりすぎだ。
こっちは物品の相場なんて全然知らねぇんだよ。
ましてやペットショップなんて行ったことねぇし、動物園で飼育してる動物の値段すら知らねぇ。
目安は知る必要はあるだろうが。
それに、本気でこいつらを売るとしたら、まずコミュニケーションが取れることと襲われる心配が全くない特徴がある。
口が悪かったり聞きたくない話を聞かされるマイナスを考慮したとしても……億単位の金を積まれてようやく釣り合いが取れるかってとこじゃねぇか?
「……けどその企みを実行できたとして、船の維持費は日々かさむだろ? 一時しのぎにしかならんよう思えるが」
「元々その発想は、彼の部下から出てきたことらしい。保安部の依頼の話はしたよな?」
刑罰が強制労働一択って話だったよな。
「その労働力提供を申し込む依頼者から、料金……まぁ犯罪者の収容所での生活費ってことなんだが、それにやや上乗せした金額を支払ってもらうことで船の維持費に回すということをしていたらしいが、野生の魔物のレア種を捕獲することで、さらに維持費に回せる額が増えるんじゃないかと提案されたらしい。本腰を入れて探すんじゃなく、何かの仕事ついでに見かけたら、という片手間めいた気軽な感じでな」
大掛かりな計画ってわけではなかったらしいな。
「だが、保安部の役目を先回りを始めるようになった」
「先回り?」
「うむ。冤罪を確実に防ぐため、保安部の容疑者確保や拘束には慎重になった。その分行動は遅くなる。冤罪事件の割合は格段に低くなった」
ゼロじゃないんだ……。
「だがまるまる商会の警備部が同じことをし始めた」
越権行為じゃねぇの?
いいのかよ、それ。
「事件捜査の方針の柔軟性は高い。捜査協力の報酬なども用意するから、住民たちからの保安部への協力が相対的に鈍くなる」
なんだかなー。
出し抜かれてんじゃねぇか。
「保安部よりも先に犯罪者を捕まえ、被害者たちに賠償となるような金品など補填する事業も始めた」
「えーと……火災保険とか生命保険を、犯罪の被害にも当てはめるってことか?」
「そんな感じだ。容疑者確保が保安部によるよりも、彼らが確保できた時の保証額が高いってのも、我々とすればやや頭が痛い案件だ」
保証額を被害者に提供?
じゃあその分の額はどうやって穴埋めするんだ?
「彼らが、保安部に知られることがない案件の容疑者を確保し、被害者が納得できる保証を受け入れた時、という条件はなかなか揃うことはないんだが……そんな犯罪者を確保した時、まるまる商会はニーズに応じて人身売買を行っていたようだ」
保証額を軽く上回る、ってことか。
まぁ……一般人を誘拐して奴隷商に売っぱらうっつー胸糞悪い話じゃなくて、ちょっとは安心したが……。
「だが今回は……まず、紅丸は、テンちゃん達を何とかこっちに引っ張り込みたいという目論見はあった。取り調べによれば、お近づきになりたい、というレベルらしいな」
「それにしては用意周到だったと思うぜ? こいつらが話題の中心になることはなかった。俺の意識をその方面に向けさせない小細工としか思えんが」
「けど、紅丸とは、今回誰とも会ってないんです」
「は?」
「モーナーもあたしもクリマーも。テンちゃんもサミーも、紅丸とは会ってないのよ。だから彼が直接手を下したってわけじゃないのね」
どういうことだ?
考えられる可能性は……。
「紅丸の部下の人達から、少し休んでいかれたら? って、飲み物もらって……飲んでたら眠くなって……」
知らない人について行っちゃいけませんレベルか、女性一人でバーか何かで飲んで見知らぬ男から誘われて、知らないうちに睡眠薬仕込まれたレベルの話じゃねぇか。
「だから、紅丸から指示を受けてって思ってたんだけど、違ったみたい」
「店の船がいろんな所に泊まってるけど、その場にとどまるまでの期間が短くなって、動くなら今、ってことで、部下達は独断で動いたってことらしいのね」
「紅丸はあ、俺達とお、もっと仲良くなってからあ、バイトの話を持ち掛けるつもりだったんだってえ」
部下に責任を押し付けてるか、部下が自ら汚れ役をひっかぶってるようにしか見えないが……。
「別個の聞き取り調査で、話のどの部分にも食い違いはなかった。前々からそう証言するように打ち合わせしていた可能性はあるが、その割には紅丸、部下達それぞれの証言の中で、ところどころ穴がある。その穴となってる部分を改めて確認したところ、矛盾は見つからなくてな」
信じるしかないってことか。
「ところが、彼らには厄介なことが起きた」
「厄介?」
「双子の子供を巻き込んでしまった」
あぁ……。
そう言えばサミーは双子の接触には拒否する様子はなかったな。
「テンちゃんが眠り込んだあと、収監しようとしたところ、サミーに抵抗されたんだそうだ」
「サミー……頑張ったな……。って、サミーは?」
「あの日以来双子ともすっかり仲良くなってね。遊び相手してくれてるわ」
何とまぁ。
瓢箪から駒。
「俺らの役目が一つ減って、退屈する時間が増えたよなぁ、ンーゴ」
「マッタクダ」
こいつらとのわだかまりもなくなったってことだ。
でも待て。
何でいきなりそうなる?
「そのサミーの鳴き声聞いて真っ先に駆け付けたらしいわよ。その時はすでに両親が好きに遊ばせてたみたいだったから、両親は迷子になっただけとしか思ってないみたいなのよね」
「その部下の手に噛みついたりサミーとテンちゃんに覆いかぶさったりしたんだそうだ。その場では、実質まるまる商会の犯罪は、未成年者監禁と誘拐未遂に留まる」
その場では、だな。
「アラタ。私も途中からあの場に居合わせた形になるが、結局君の説得に応じた、というふうに解釈してるんだが……」
シアンはなるべく事を荒立てずに収束させたいか?
こっちは、見逃せばどこかに連れ去られてしまうか分からなかった。
「……どういうつもりで意見を求めたがってるかが問題だが」
「でも……揉み合いになったわけじゃないし、シアンも目撃者だし……単純に考えて、せいぜい怒鳴り合い、くらいかな?」
「ナグリアイトカ、ナカッタシ」
ヨウミとライムは、特に感情を逆なでしながら思い出す事態ではないってことだな。
その怒鳴り合いの中身はどうかってのは別として。
「……まあ、そういうことだな」
「うん。とりあえず説得に応じた、という認識で一致。あとは……彼の決断と行為をどう受け止めるか、なんだな」
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