勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
198 / 493
店の日常編

村の防衛もこいつらにかかりゃ、戦争ごっこかなぁ その3

しおりを挟む
 保安部からの報告や通知がないうちに異変を感じ取った。
 時間は、寝ずの番以外の村人みんなが寝静まった夜中。
 感じ取った場所は言わずと知れたおにぎりの店。
 感じ取れた位置は、隣村とこの店との中間よりも隣村寄りの位置。

「サミー、起きれるか?」

 サミーとは、いつも一緒に寝ている。
 が、ほかの仲間はフィールドで寝ることにしていた。
 村に何の被害もなければ、何の問題もない。
 けれども害意を持ってる奴らがいて、何かをやらかすつもりでいるのなら、とっ捕まえた方が村人たちは枕を高くして眠れるというものだ。
 だからわざと隙を見せるために、洞窟の方には俺とサミーのみ。
 残りはフィールドで睡眠をとる、というわけだ。
 もっともテンちゃんの、お腹をみんなの枕にしたいというリクエストもあったりするのだが。

「……ミュゥ?」

 非常事態が発生した今でも、眠い目を開ける仕草は可愛いもんだ。
 この世界には写真機はないのだろうか?

「みんなに報せてくれ。気配は……9。いずれも人間。魔族はなし。多分やらかす気はあると思う。ここからほぼ真っ直ぐに二キロくらい先にいる。伝えることはそれくらいか」

 やる気……すなわちサキワ村への襲撃ってやつだ。
 いくつか感じた覚えがある気配がある。
 日中、店に偵察に来たんだな。
 侵入先は、村の入り口からがいいか、村の外れからいいかってな。

「どんなに急いでもお前が見つかることは絶対にありえない距離だが、なるべく静かに移動しろよ? 報せたらヨウミと一緒に急いで戻れ。モーナーは……ついて来れれば一緒に来るように」
「ミュッ!」

 サミーの鳴き声は、今までで一番気合が入ってるようだ。
 だが……パチクリするちっさい真っ黒な目を見ると、緊張感が抜けそうな愛しさが……。

「コホン。なかなか目を覚ましてくれない奴には、耳に水を垂らすといい。寝耳に水っつってな、多分効果はあると思う」

 あると思う。
 接近するのはまだ先だが、とにかく先手は取っておく必要がある。
 そのためには、不快な思いをさせてでも、素早く目を覚ましてもらわなきゃ困る。
 近くに水があれば、の話だが。

「ミッ! ミーッ!」

 サミーはぴょんぴょんと飛び跳ねながらフィールドに向かって行った。
 一人残った俺は……。

「さて……あとは……やること、ねぇんじゃね?」

 ライムと一緒だったなら、ライムを体に纏って連中をしばき倒しに行くところだったんだが。
 単独行動も独断もほぼ禁止されちまったし。
 まぁ……俺のことを大事と思ってくれてるその気持ちも、分かっちまったからなぁ……。
 サミーとヨウミとモーナーが来るのを待つだけかぁ。
 やることないっつっても、のんびり寝てるわけにもいかねぇんだよな。
 こっちはこっちで、何か仕掛け作っとけばよかったなぁ……。
 でも、火計はいかんな、火計は。

 ※※※※※ ※※※※※

「ミッ! ミーッ!」
「アラタ、まだ大丈夫?!」
「じゃあ俺は、入り口で門番するぞお。どこからくるんだあ?」

 はい、何のフラグも立ちませんでしたね。
 何よりですな。
 とか考えてる場合じゃねぇな。

「真正面から来るわけがねぇよな。左側から来てる。全部で九人。散ることも集合することもできる程度に離れてる。慎重に進んでるみたいだな。一キロと五百メートルにはまだ届いてない」
「ゆっくりきてるんだなあ」
「つか、照明使ってないみたいだからな。夜目が利くんだろう」

 それに松明か何かを使うとしたら、途中で草木に燃え移りかねないだろうしな。
 まぁその位置から火をつけてもここまで広がるとは思うが、自分達の周りに火が回りかねないだろうしな。
 確実に報復を考えるなら、むしろその方がいい。

「迎撃部隊に、どこにいるか伝える方が良くない? より正確な位置を把握したいだろうから」

 迎撃部隊て。
 まぁここで防衛にしくじったら村が火の海になりかねないから、まぁちょっとした戦って感じだよな。
 それに、テンちゃん達が今どこにいるかは、俺には分からん。
 ここから細かく情報を出して、サミーに一々伝言を頼むしかないんだな。

「よし、サミー。細かい情報言うから、しっかり伝えるんだぞ?」
「ミッ!」
「まずは……」

 感じたままをサミーに言うが、今までとは異質な緊張感が湧いてきた。
 情報は感じたままのことを言うだけでいいのだが、それがそのまま伝わるかどうか。
 伝えた情報をしっかりと活用できるかどうか。
 あいつらの考えた作戦に、きっちりハマってくれるかどうか。
 長い夜になりそうだ。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...