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店の日常編

村の防衛もこいつらにかかりゃ、戦争ごっこかなぁ その8

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 さて、と、だ。

「……これで、一旦フィールドに集合だな」

 ヨウミに通話機で連絡をとったら、すぐに出た。
 それだけでも、こっちを心配してたのはよく分かる。
 サミーと思われる黒い体をした奴は、俺の背中に張り付いたまま。
 まぁ……サミーでいいと思うんだが……。

 ※※※※※ ※※※※※

「あ、来た。アラタぁ、動かないでって言ったでしょ?」

 俺がフィールドに着いた時には全員揃ってた。

「予想外のことが起きたんだからしょうがねぇだろう。それとこいつ……」
「え? この黒いの、何ですか?」
「ツルツルしてるわね。真っ黒」

 みんなは離れて見てるだけだが、コーティは触ったらしい。

「おい。煤で汚れるぞ」
「煤? どこにあるの?」
「え?」
「ていうか、こいつ、サミーじゃないの? サミーなんでしょ? アンタ」
「ミッ」

 痛っ!
 背中に張り付いてるそれの腕が肩まで届くらしい。
 両腕で俺の肩を叩きやがる。

「気配はどうなんだあ? サミーなのかあ? 違うのかあ?」
「サミー……と同じなんだが……。痛い痛い。叩くな!」
「でも……あの可愛らしい毛が全部取れちゃったの?」
「実はな……」

 最初から説明した。
 一々質問に答えるのも面倒だしな。
 一通り話を聞いたみんなは、一様に渋い顔。
 こっちの予想外の展開への対応は仕方がないとはいえ、一つ間違ったら大惨事になりかねなかった。
 少しでも、その打ち合わせに首突っ込んでおくべきだったかね。

「それでシアンと親衛隊の人達が来たのね……」
「でもアラタの話だけだと、サミーが燃えたって感じしないんだけど」
「あ? どういうことだ?」

 マッキーの言うことが、ちょっとよく分からん。

「その黒いのがサミーじゃないとしたら、サミーの亡骸は……そんな小さい火じゃ、燃え尽きることはないと思うんだけど」
「そう言われればそうね。すぐに燃え尽きる物しか燃えなかったって言うか……」

 ヨウミも首をかしげている。
 俺も、見たまんまを伝えたわけだが、なんかこう、事実をうまく解釈できない。

「ひょっとして、脱皮したんじゃないかしら? 今まで何度か脱皮してたでしょ?」
「ソレダネ、タブン」
「どゆこと? クリマー」

 テンちゃんには分からなかったか。
 俺には分かった。
 つまりだ。

「燃えたのは脱皮した抜け殻だったってことか。で、本体はこいつ……。でも今までと違う姿だよな」
「あぁ。そゆことかい。アラタのあんちゃんよぉ。おそらく脱皮はそれが最後なんじゃねぇのか?」
「ナルホドナ。サミー、ギョリュウダモンナ」
「あ」

 忘れてた。
 サミーの親は、エイに似た姿をしてた。
 そしてこいつは……。
 イメージ的には、ひし形のカブトガニって感じだな。
 尻尾は短いまんまだが。
 つまり、本来の姿はこれで、今までのもふもふは幼体だったってことか。
 ……待てよ?
 こいつの腹、ひょっとして……節足か?
 ……見たくない。
 見たくない見たくない見たくないっ!
 ……うん、考えないことにしよう。
 それにしても……成……成獣、とでもいうのか?
 これで大人になった……ってことでいいのか?

「まぁ……卵は他のと違う色だったけど……親と似たフォルムっつーか」
「そうなんですか?」
「一緒に行ってないから見てないもんね、あたし達」
「あたしに至っては、ついこないだ入ったばかりだしな」

 留守番組は見てないもんな。
 新参組……っつっても、サミーのあとに入ったのはコーティだけか?
 まぁいずれにせよ、珍しい種族って話は何度も聞いた。

「でも、もうもふもふできなくなったねぇ」
「ちょっと残念かな」

 うん、まぁ、それは確かに痛いな。
 だが、成長を見守る者としては、それは致し方がないことだ。

「ヨウミ、マッキー、あたしがモフモフさせたげるよっ!」

 テンちゃんが急に生き生きし始めた。
 現金な奴だ。
 ま、店と村の危機がなくなって、和やかになったのはいいんだけどさ。

「んじゃ、この辺でお開きにするか。明日の仕事に差し障りが出るからなー」
「はーい。んじゃ……ここじゃなくて洞窟の方で寝よっか」
「えー? ここであたしのお腹で寝ないのー?」
「無理無理。ちょっと寒くなってきたからねー」
「たしかにテンちゃんは暖かいんですけど、外の空気が……」
「えー?」

 ついさっきまで夜盗との攻防戦をしてたってのに、何と言うか……。
 タフだな、こいつら。
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