勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
219 / 493
店の日常編

冒険者についての勉強会 その3

しおりを挟む
「コホン。で、魔族と呼ばれる者にはもう一つ、特徴があってね。……創造し生産できて、意思疎通もできるってことは、ほかの生産者を相手に取引ができる」
「……なんか社会の勉強してるみてぇだな」
「え?」

 ん?
 何だよ、え? って。

「えーと……先回りされちまったな。結局そう言うことなんだ。物の種類が増える。生活が楽になる。その者を中心として、意思疎通しやすい同属の者達が周りに集まってくる」

 今回の仇討ちの話、どこいった?
 まぁ黙って話を聞くしかないが。

「集団で生活する人数が増えると、村や町ってもんができる」
「それで?」
「つまり、物作りができたとしても、取引相手もおらず集団で生活してない者は、魔族には当てはまらないんだな」
「となると、魔物以外に呼びようがない?」
「その通り」

 と言うことは……。
 ンーゴとミアーノは、地中から土を柔らかくして底なし沼にして、そこにトラップを作ってた。
 これこそ創造と生産だ。
 だが、確かにこれは物々交換の取引の対象にはならねぇな。

「人間が魔族と取引する関係を持ったら、いろいろと規則や決まりごとが必要になる。取引と無関係な事でもだ」
「あぁ、それで保安官がどうのって言うことになるのね?」
「うん。危害が加えたら、加えられたらってこともあるからな。だが取引しない相手には、規則自体生まれるわけがない」
「取り決めの話し合いもできないどころか、その相手がどこにいるのか分からないから、よね」

 いない相手との条約なんか作れるわけがない。
 まぁそれも分かるが……。

「つまり、人間から見た魔族は、自分らと同格ってことだ。だがそんな魔族の定義から外れた魔物は……」
「ひょっとして、格下?」

 フィリクは声を出すのは憚れたのか、マッキーからの質問に黙って頷いた。
 こいつがマッキーに「気を悪くする話」と言ったのはこのことだったのか。
 魔族の定義から外れた魔物……。
 マッキーどころか、おにぎりの店にいる魔物みんながみんな、定義から外れてんじゃねぇか。
 だって……端から同属がいなかったり、追い出されちまったもんだからよ……。

「……その集団から外れちまった魔物、元々集団を成さない魔物同様、我が身と生活を何よりも優先しがちになる。周りとの妥協や調和を考えることはほとんどないからな」
「それと格下扱いとどう関係がある!」

 ……なんか、みんなから見つめられてる。
 そりゃ、ちょっと言葉に力入っちまったけど、そんなに見られるようなことか?

「……アラタ。気を悪くするな。あくまで一般論だ。……関わると利益どころか被害を受ける……っつーより、災害だよな。場合によっては災厄となる。その経験者は……アラタ達は既に対面済みだろ?」

 俺の気が悪くなった?
 いや、今はそれはどうでもいい。
 魔物の一部は災厄をもたらず存在になり、その経験者……被害者ってことだよな。
 あ……。
 あの変な女のことか。

「普通の野生の動物なら、駆除しなきゃならない対象だ。犯罪者を捕まえるんじゃなく、災害をもたらす物を駆除する作業ってことだ。この表現だけでも、ある意味格下っていう認識になるよな?」

 そりゃ確かにそうだが……。

「じゃあそんな魔物との間にそんな災害が存在せず、互いに利益をもたらす関係はどう表現する?」
「友達……じゃないよね」
「トモダチ、ハタイトウナカンケイダカラネ」

 うん。ヨウミとライムノ言う通り。
 友達と呼べる間柄だが……。

「アラタの場合は、本当に稀なケースだ。議論や喧嘩できる対等な立場だからな。時として、逆にアラタがやり込められることも多いが、俺達から見たらそのほとんどは微笑ましい光景……」
「おい。どこが微笑ましいんだ」

 ここは絶対訂正を求めたい。
 特に、相手がコーティだった場合だ。

「話の腰、折らないのっ」

 ヨウミからもやり込められること、多かったな……。
 でも同じ人間だから、うん……。

「……格下と見なす魔物が自分に利益をもたらすことが分かれば、あとは自分に歯向かうことなく従わせることで……」
「……奴隷、ってことになるのかしら」
「一般的に分かりやすく言えばな。だが法律とか規則とかには、その言葉は用いられない。定義が地域や国ごとによって微妙に変わるからな」

 奴隷か。
 商人ギルドから手配書出されたときに、そんな言葉も噂の中に入ってたような気がする。
 こいつらは俺にとっちゃ、今では仲間だ。
 だからこいつらそれぞれ、行動を共にしてきた時から、奴隷なんて言葉とは無縁と思ってたが。

「でも法律とかに奴隷って言葉が存在しないなら、そんな立場の魔物達は何と表現されてるんですか?」
「……所有物だ。所有物扱いにされるんだ」
「……おい」

 分かっちゃいる。
 頭では、フィリクの話は一般論だと分かっちゃいる。
 分かっちゃいるんだが。
 ぶっ!

 いきなり顔面に黒い物が飛び掛かってきたっ!
 なんだこれっ!

「こらっ。サミー! 今、みんな、勉強中なんだから邪魔しないのっ!」
「ミイィ……」

 サミーかよ。
 何をいきなり。

「ソンナニオコルナ、ダッテサ」

 ……怒るな?
 怒ってたのか?
 俺が?

「ったく……腕っぷしはひ弱なくせに、妙に喧嘩っ早くなってない? アラタのくせに……」
「コーティも、そんな憎まれ口叩かないのっ。ほら、サミー、ちょっと大人しくしてて。……アラタもね」

 ちっ。
 ……ここは、珍しく場を繕ってくれるヨウミの顔を立てるか。
 仕方がねぇ。

「つまり今回は、その女は仇討ちと言う正当な理由がある。だが仇じゃない。ここに問題点がある。アラタの所有物の価値を台無しにする、という行為だ」

 言い方に釈然としない思いはあるが、とりあえず俺の気持ちは置いといてだ。
 だがフィリクの言わんとすべきところは納得できる。
 俺の仲間を勝手にどうこうと決めつけるなってことだ。

「アラタ達からの話によれば、その種族は人を襲うだのどうこう言ってたとか」
「あぁ、そうだ」
「それってば、動機のすり替え、だよな。アラタの立場では、自分の物を奪おうとする行為だ。彼女の持つ理由に正当性はある。が、行為に理由がついてこない。そして……俺達も要注意しなきゃならない問題点がそこに潜んでる」

 なんか言い方が大げさじゃねぇか?
 話がでかくなりそうな。

「その種族は人を食うから、という理由だったそうだが、人間の命を守るため、という言い訳にすれば、ある意味公共性が生まれ、正当性も生まれる」
「まぁ、そうだな。納得できんが」
「この時点でのアラタの納得いかない気持ちは些細な問題だ。もしこの公共性が別の理由になった時……例えばその魔物の体には、難病をたちどころに治す、とか、死者蘇生の効果がある、なんて理由があったら?」

 え?

「……何であたし達を見るの? アラタ」
「そんなのあり得ないでしょうに。まさか、あたし達を」

 ……馬鹿言うな。
 だが、あり得ないその話を信じる者がいたら……。
 信じる者達同士で高値で取引されるってことも……。
 まさか……。
 紅丸も……?

「……アラタ? 何、青ざめてんの?」
「ちょっと、アラ」
「おい……フェリク」

 体が震えてるのは分かる。
 寒いんだか熱いんだか分らん。
 フェリクは、忌々しく思えるほど平然としてる。
 一体、この仮定の話はどこまで現実の中に存在してるんだ?
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...