勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
230 / 493
店の日常編

その人への思い込みを俺に押し付けるな その2

しおりを挟む
 朝一番から四組連続で冒険者が顔見知り、ってこたぁなかった。
 が、驚きは止まらなかった。

「はい、次の客、ご注文はー?」
「あ、はい。えっと、あ、塩でいいです。あとお茶も」
「塩?」

 ゲンオウとメーナムを見送りながら口から出た言葉はほぼ機械的なもんだ。
 だから客の方を見ずに言うことが多い。
 営業時間が始まってすぐは、明太子、筋子なんかの人気が高い具のおにぎりがすぐに売り切れになる。
 なのに、売れ残る……っていうか、大量に作っている塩おにぎりを欲しがる客は珍しい。

「塩おにぎり……?」

 顔を向けると、そこにいたのは女性三人組。
 三人とも冒険者らしい防具を身に付けてはいるんだが、傷一つない、そして血曇りや泥土が全くついてない白銀の鎧に目を奪われちまった。

「あはっ。私の体に興味あるんですかぁ?」
「え?」

 何言ってんだ?
 ただ鎧を見てただけだろうが。

「……あー……とりあえず、塩おにぎり、でいいんだな?」

 反応が予想外の客には、注文聞いて品出して会計済ませて追っ払うのみ。
 なんだが……。
 思いがけないと思うほどの端正な顔立ちの女性。
 しかも、今の言葉は皮肉でも何でもなく、思ったまま口に出た言葉であることに間違いがない、と言わんばかりの笑顔。
 他の二人もそんな感じだ。
 だが明らかに違和感がある。

「えぇ。ですが、私達本当は、アラタさんにお会いしたかったんです」
「はい?」

 声がひっくり返っちまった。

「『ザ・コレクター』とか『ダンジョンウォーカー』とかにここのこと載ってまして」
「是非ともお会いしたいと思ってたんですよー」
「思った通り、素敵な方ですね。ね、マーナ、リィン?」

 えーと。
 なんだそりゃ。

「アラタ。どっちも冒険者情報誌の雑誌名よ。ほかにもいろいろあるみたいなんだけど」

 ヨウミはよく知ってるな。
 俺、そんなの見たこともねぇぞ?
 つか、初耳だし。

「……俺らの事、載ってるって?」
「えぇ。読者のコーナーに」

 その女性客三人に聞いてみた。
 まぁ読者の投稿コーナーなら、どんな雑誌にもあるんだろうが……。
 けど、取材とか受けたことねぇんだが。
 いや、それよりも今はそれどころじゃねぇ!

「とりあえず、順番待ちもいるからよ。とっとと会計してくんねぇか?」
「会計してくださるのはそちらではないかと……」

 それもそうだ。
 そっちは代金出す方だもんな。

「アラタさん、テンパってるの初めて見たような気が……」

 クリマーも冷やかし止めてくれ。

 ※※※※※ ※※※※※

 この女性冒険者三人組の会計も済ませて、その後に並ぶ列の客の相手をする。
 名前は知らないが、何度も顔を見た客もかなりいる。
 適当に会話をしながらすべての客を捌き終わった。

「ふぅ……。さて、米集めの仕事かな」
「あの、少しお話、いいですか?」

 ……あの三人組だ。
 ベンチに座ってずっと待ってたっぽい。
 好き好きだから気にしねぇけど、何なんだ?

「あの、改めまして。私、フォーム=インナームと言います」
「マーナ=フリーラスです」
「リィナ=セサールです」
「……それはご丁寧に。ミナミアラタです。で?」

 そいえば、同じ日本でありながら、俺のいた方はほとんど黒髪に黒系統の黒目。
 だがこっちの日本は、髪の毛目の色肌の色、みなまちまちって感じだ。
 もちろん黒髪に黒目はいるけれど。
 あぁ、スキンヘッドもいるな。
 一人目は金髪。
 二人目は銀髪。
 三人目は漆黒。
 装備の鎧が同じ白銀なだけに、その違いは目立つな。
 それに、違和感の正体が分かった。
 肌にも傷跡がどこにもない。
 冒険者の真似事をしてるだけなのかもしれん。
 高貴な御何とか、みたいな感じか。
 まぁ誰がどんな格好しても、こっちは何の文句もないけどさ。

「で、何のご用で? 商売だけが仕事じゃないもんで、できれば手短に」

 雑談をするほどの仲良しどころか、初対面だ。
 行商時代なら旅の恥は掻き捨てっぽくぶっきらぼうな言葉を遠慮なくぶっ放してたが、今はそうはいかねぇよなぁ。

「あ、あの、アラタさんのファンクラブの会員になりまして」

 はい?

「随分なモノ好きもいたものねぇ」

 声色で誰の言葉かすぐ分かったが、こんなことを言う奴はコーティくらいだ。
 毒舌は止めたと思ったんだが。

「アラタのファンの人が来たのって、初めてなんじゃない? しかも一度に三人もっ。おめでとーっ」

 おめでたいのは、その事でおめでとうって言えるマッキーの頭くらいだろうよ。
 バイトのテンちゃんとダンジョン掘削の仕事のモーナー以外のみんなから何だかんだと騒がれたが……。
 こいつら、ホント何を浮かれてるんだか。

「はいはい。で、あんた達は……俺に会って何をしたいんだ? 昼の注文までは米研ぎしなきゃならんし、昼休みが終わりゃ午後の仕事もあるし」
「あ、はい。ゆっくりお話してみたいなって」

 お話……。
 して、何の意味があるのか?

「共通の話題がないと、話してもすぐ話題がなくなるだけよ? まぁ何度も店に足を運んで、お仕事も続けていけば、店の常連になれて話も盛り上がるんじゃないかな?」

 確かにヨウミの言う通り、ゲンオウやシュルツをはじめとする名前を知った常連たちは、そんな感じで距離感が縮まった気がする。
 ま、どんな立場の相手にせよ、初対面の相手といきなり話が盛り上がるってのは、相当事前調査とかしてたりするからだろ?
 それに、違和感がすべて解消されたわけじゃないしな。
 確かに見た目麗しい三人だが、親しくなりたい気持ちは全くないのはそこんとこが問題だ。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...