勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
231 / 493
店の日常編

その人への思い込みを俺に押し付けるな その3

しおりを挟む
「アラタにモテ期到来ねー」
「マッキーさん、あんまり冷やかすのは良くないですよ」

 周りが騒がしい。
 この女三人組にも、周りにも付き合ってられるか。
 こっちはこれから、米一粒一粒を選別する作業があるんだ。

「ライム、米採りに行くぞ。残りはいつも通り留守番なー」
「ハーイ」
「え? あ……うん。行ってらっしゃい」

 すぐに反応したライムは問題ないが、ヨウミは気の抜けた返事だな。ま、いいけどさ。

「え? わ、私も行きます!」
「わ、私もっ」
「お供しますっ」

 あの三人が何か言ってるが、どうでもいいわ。
 まず間違いなく手伝いをしてくれねぇだろうしな。
 ということは、今日の米運びの力になってくれるはライムだけ。
 だから米袋三つで精いっぱい。
 荷物をあんまり重くすると、ライムがへたばりそうだしな。

 ※※※※※ ※※※※※

 しかしあの三人、俺のファンクラブ会員になったとか言いながら、十分も付き合えなかったんじゃねぇか?
 そう考えると、よくもまぁ紅丸の奴はずっと付き合えたもんだ。
 ま、目当てが俺じゃねぇみたいだから当然か。
 米の選別作業にも、まるで関心を示さなかったし。

「ただいまっと。ライム、もうちょっと頑張ってくれるか?」
「アラタノヘヤノマエマデダネ? ヘイキヘイキ」

 ヨウミ、クリマー、マッキー、コーティからのお帰りの言葉は普通に聞けた。
 だがその後だ。

「あの綺麗な三人、また明日来るそうですよ?」
「アラタのファンクラブに入ってるのに、最後まで付き合わなかったんだね」

 不思議そうに俺を見ても、何のネタも出てこんぞ?

「ファンクラブなんて、別にあってもなくてもどうでもいい。まぁ作業の邪魔をしなかっただけ偉いかな」
「偉いんだ……。なんてネガティブ」
「アラタの普段通りじゃない。ま、よその人が見ても理解できない仕事は、見てるだけでも退屈するもんよ。いくらその人と一緒にいたいと言っても、会話の話題すらあげられなきゃね」

 コーティにちょっと安心した。
 毒舌は俺にだけ向けられてるもんじゃないらしい。

「選別なら俺にしかできねぇことだけどさ。洗米なら誰でもできるから、善意があるなら手伝ってもらっても構わねぇんだけどな。ま、その気はない連中ってことだわな」

 あの三人の話は、声に出すことすら面倒くせぇ。
 嫌いって訳じゃねぇが、喋らず、動かずにいたら美術品以上には価値はある、とは思う。

「アラタは、まともに相手できないことを改めて知ったんじゃない? ファンクラブ抜けるかもねー」
「でも明日も来るって言ってましたよ? アラタさんを、ただ見たいってだけなんじゃ……」
「クリマー、それ、割とアラタにひどいこと言ってくない?」
「え? ヨウミさん、どこがですか?」

 なんか、また俺をネタにグダグダな会話してるな。

「ほれ、お前ら。そろそろ昼飯だろ? 注文まとめとけ。その間、米びつに入れてくるからよ」

 ※※※※※ ※※※※※

 ダンジョンに入る前に店に寄り、買い物をする冒険者は多い。
 だがその際、わざわざ俺らに、ダンジョンに行ってきます、と挨拶をする奴らもいる。
 大概それで終わるんだが、わざわざただいまを言いに来る奴らもいる。
 もちろんごく一部。
 しかも共通点がしっかりとある。
 その共通点は、俺ら以外には見当もつかないってのが、これまた厄介だ。
 何が厄介ってなぁ……。

「ただいま戻りました」
「いい運動になったぜ」
「いい場所を紹介してもらったわね、グリプス」
「あぁ、みんなにも教えてやろうぜ、レーカ」

 シアンの親衛隊の面々だ。
 おそらくこの国で、絶大な権力を持ってる者の護衛担当。
 シアン自身にもだが、密接な関係にある連中も厄介だよな。

「おかえりなさーい」
「はい、ただいま戻りました。えーと、クリマー殿、でしたね」
「殿……って言われるのも、なんか新鮮ですねぇ」

 ただいまと言われりゃ、ついそう答えちまうか。
 まさか帰ってくるな、なんて言えるわけもねぇしな。

「おぅ、お帰り……って、教えるはいいが一々こっちに来て生還の報告しなくていいんだっての。監視員でも何でもねぇんだからよ。……みんなに、って、そっちは全員で何人っつったっけ?」
「十人で結成されている。殿下の警護は、常時七人以上だ」

 つまり、非番は最大三人。
 非番の全員がここにいるってわけか。
 って言うか……。

「聞いた俺がこんな事言うのもどうかと思うが、それって割と重要事項なんじゃねぇの?」
「あれ? まぁ重要ってば重要かしら?」

 頼りねぇなぁ、おい。

「ま、殿下の身の安全さえしっかりできりゃ、何の問題もないな」

 おいお前。
 初めてここに来たお前。
 いきなりんな単語口にすんじゃねぇよ。

「殿下、なんて言葉、この国じゃ王族、王家関連しか該当しねぇんじゃねぇか?」
「ん? あぁ、まぁ、そうかもな」
「……そこら辺、ちょっと表現控えるか慎んでもらえねぇか? 今んとこ俺らしか人はいねぇけど、ほかの客の前でんな事言われたら、客全員どん引くぜ?」
「聞かれたらまずい事?」
「まずいってお前……。王家関連の者が立ち寄る場所、なんて知れたら、テロの標的になりかねねぇ」

 テロの標的ってばちと大げさか?
 けど、シアンは何度も足を運んでるし、これからも立ち寄ったりすることもあるだろうし。

「俺も口が軽かったが、極秘事項にしとかねぇとあんたらも立場上ヤバいことになっちまうんじゃねぇか?」
「まぁ……それもそうですね。気をつけましょう」

 護衛の戦力がこんなんで大丈夫かね。
 大丈夫だとしても、あいつの苦悩を打ち明けられる対象にはならんわな。

「ところで、明日も地下に潜ろうと思うんだが」

 グリプスっつったっけか。
 鍛錬に余念がないって姿勢は、見てて頼もしいんだが。

「同じ面子でか?」
「いや、私は明日は護衛の当番です。この二人と……夜盗確保のときに来た仲間の一人の三人になりますね」

 あん時は暗かったし、どんな顔かとかどんな格好かまでは覚えてねぇな。
 今もこの三人はばらばらの装備だしな。
 いや……よく見ると、同じマークが付けられてる。
 メーカーのロゴか何かか?
 そう言えば、鎧とかのメーカー名も知らねぇなぁ。
 テレビ……じゃなかった。受映機だっけか。
 あれで見るコマーシャルも、しっかり見たりすることねぇし、そもそもアレに夢中になって見る機会自体少ねぇし、見たとしても短い時間だし。
 覚えといて損はないんだろうが……。

「じゃあまた明日、世話になるぜ、アラタ殿」
「失礼しますね、みなさん」
「あー、はいはい。お休み」

 お休みと言うには、晩ご飯の注文する時間にもまだ早いんだから、かなり時間は早すぎるが、まぁいっか。
 しかし……あの三人の体の表面をよく見ると、生傷がどこにもないな。
 まぁ見送る後ろ姿に限ってだが。
 鍛錬になった、とも言ってた。
 魔物と戦闘した上で無傷……。
 ほんとに強ぇんだなぁ……。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...