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店の日常編
千里を走るのは、悪事だけじゃない その6
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それから一週間。
しんどい。
仕事がしんどい。
しんどい理由が分かった。
やってる仕事が、おにぎりの配給だけだから。
米の収穫とかの他の仕事は一切してない。
そんな暇がないから。なくなったから。
米の収穫から炊飯までの作業が、いい気分転換になってたんだなぁ。
失ってから気付く有り難さ。
「ほらほらアラタ! キリキリ働けーっ!」
なんか、だんだん尻に敷かれてるキャラに変わってきてるような気がする。
うん、気のせいだ。
気のせいにしとく。
「アラタさん。まだまだ在庫あるんですよね? タラコ切れかかってますよ?」
き、気のせいだ。
「塩おにぎりが結構出てるぞ。とっとと持ってけ」
お、おう……。
「……」
いつも毒舌のコーティが、何にも言わなくなった。
「あきれてものが言えねぇだけだよ」
ひでぇ。
「せめてみんなに相談してから決めたらよかったのにねぇ」
バイトが休みのテンちゃんからも……。
何でこんなに風当たりが強ぇんだよ……。
「にしたってよお……」
「けどアラタよぉ、お前さんにちょっかい出してきた奴ってどんな奴だよ?」
「え? あー……少なくとも冒険者って感じじゃねぇな。勤め人って感じでもなかったし……遊び人風かなぁ」
「遊び人、ねぇ」
レジの前で首をかしげる痩身な冒険者も、名前は知らんけど常連客だ。
何か考え込んでるようだが、そこから出た結論は、俺を今の状況から救ってくれるわけでなし。
「ところでジェニックさん、もう一つのおにぎりの店とやらには行ったことあります?」
この冒険者、ジェニックって言うのか。
って、何でヨウミが知ってて俺は知らんのだ?
「いや……この村じゃドーセンとここにしか用事ないからな。あ、もちろんダンジョンに潜るためな」
「俺もそうだな」
「私達も、よね」
他の冒険者達も概ね同じような行動のようだ。
「おりゃあ一回行ったことあるけどよ、無法者っつーかならず者っつーか……礼儀知らず、だな」
「へぇ? あんた行ったことあんのか。どこよ」
「アラタの店、崖の洞穴だろ? その崖沿いって感じだな。村の奥の方のな」
「へぇ。で、どうだった?」
「どうだったも何も、何もねぇよ。そこにあるダンジョンとかフィールドもねぇし。しいて言うなら崖の途切れた林の奥ぐれぇだな。行かねぇ方がいい。魔物はほとんど出て来ねぇし、さらに奥に行きゃあ……何つーか……危険な魔物がうじゃうじゃいそうな雰囲気だ」
冒険者達が感じるそんな雰囲気ってのは馬鹿にできない。
経験を積み重ねてきた上で得た知恵の一つだからな。
奥には途轍もない何かがいる、ような気がする。
気配は感じないが、その余波っつーか、そんなもん。
だからて前の林の中でアイテム採集くらいなら問題なさそうだが、はぐれて出てきた魔物にちょっかいを出そうものなら、さらに奥から何を引っ張り出すか分からない。
そんな危険なところに行ける奴らってば、やはりベテランばかりの冒険者チームか国の兵達くらいか。
けど、そんなヤバそうな魔物がこっちに来ない理由は、おそらくは距離と地形だろうな。
わざわざここまで出張る必要がない生活環境がそこにあるか。
まぁそんなとこだろう。
「何か、具体的な話は初めて聞いた気がする。つか、ホントにあったんだね」
「でもそんな所に店を構えて、客は入ったりするのかな」
「レアなアイテムがそこら辺にあったら、それ目当ての冒険者なら行くでしょうけど……」
「だったらそいつらがそのレアアイテムを採集して売っ払ったらいいような気がするんだがな」
「「「「アラタはくっちゃぺってないで、品出ししなさいっ!」
ふえぇ……。
※※※※※ ※※※※※
「お金の心配はしてないのよ? 蓄えはあるし。食生活だって、ドーセンさん頼みから卒業して自給自足の生活も……三日目?」
「四日目だぞお、ヨウミい」
「モーナー、よく覚えてんなぁ。大事な事でもねぇと思ってっから、おりゃあすっかり忘れてるし」
じゃあ何で怒ってんだよ。
「アラタが始めた行商から、今のお店に変わったわけだし、みんなアラタを頼ってるからアラタの決断には従うけどさ、やっぱ相談はしてほしいのよ」
「……へい」
「まぁ反省してるみたいだから、あんまりクドクド言わないけどね」
「……へい」
もう頷く以外何もできんわ。
それにヨウミに至っては、食材があればおにぎり以外はほぼ何でも料理できるしな。
「マァ、オセッキョウモソコラヘンニシテ、ゴハンタベヨ?」
食材はマッキー、テンちゃん、それにミアーノとンーゴで栄養的にも十分調達できる。
みんな俺を頼りにするって言うが、俺もみんながいなきゃ、それなりにいい暮らしはできそうにねぇな。
ま、いなきゃいないで、サバイバル生活は何とかなりそうだけどな。
「そうだ、ミアーノ、ンーゴ」
「ん?」
「ドウシタ?」
「店がある崖は、この森……林? ぐるっと半周囲ってるみてぇだが」
「んまぁそうだな。それが?」
「つまり向こう側には、とてつもない魔物がうようよしてるんだよな?」
「ソウダナ。デモ、アラタモイッタコトアルダロ?」
忘れるわけがねぇよ。
サミーの出身地だもんな。
「あぁ。けど、そこの魔物が村の方に来ない理由はあるのかとな」
「行く必要がねぇからじゃねぇの? まず食いもん飲みもんが十分なら、こっちに来なくたってよかろ?」
それは俺も同意だ。
遊びに行きたい買い物したいっつー俺らとは違うだろ。
「スゴシヤスイカドウカ、メンドウナシュゾクガイルカドウカモ、ダナ」
それも俺の予想通り。
けどなぁ。
「だが、移動しちゃならないって理由はねぇよな。種族が繁栄すりゃ、その場所が狭くなる。その種族の長から独立したいって奴もいるんじゃねぇか?」
蜂の習性なんかもそうだったんじゃなかったか?
あと蟻とかも。
「……俺もなんだがよお、行きたくねぇ場所ってのもあるんだよなぁ」
「行きたくない場所?」
そこに足を踏み入れてはならない、みたいなしきたりか何かか?
「例えばさぁ……毒性が強ぇ水があるとかな?」
「毒?!」
「あたし、そんなの全然考えたことなかった」
「私も……」
そりゃそうだろ。
人間の村があるんだし。
それに、少しでも毒性があったら、俺の能力で探知できたはずだしな。
「オチツケ。オレタチニヘイキナモノガ、オマエタチノドクニナルコトモアル」
「俺らにゃ独でも、おめぇらにゃ平気ってもんもな」
なるほど。
犬に玉ねぎ食わせるなってやつだな。
あれ?
猫にだっけか?
あと、何かにコーヒー飲ますと酔っぱらうとか何とかって話も聞いたことがあるが……。
「ってことは……この村、俺達全部の種族が過ごすことができる場所ってことか」
「ソウイウコトダ」
「互いに追い出そうとする種族もねぇしよ。ある意味楽園かねぇ」
楽園たぁ大げさかもしれんが……。
考えてみりゃ、みんなゆっくり生活してた時代って少ねぇんだよな。
強ち間違っちゃいないってことか。
「おめぇら、アラタの店を閉じるとか言って騒いでたけどよぉ。ここで暮らすことにゃ変わりねぇんだろ? しかもこの晩飯、ただで拵えたんなら、金とやらの心配もそんなにしなくていいんじゃねぇのかよ?」
「まぁ……それも……そうだけどね」
「でも、何か起きたら……相談してくださいねっ! アラタさん!」
「……へい」
もう、へい、としか答えようがねぇわ、うん。
しんどい。
仕事がしんどい。
しんどい理由が分かった。
やってる仕事が、おにぎりの配給だけだから。
米の収穫とかの他の仕事は一切してない。
そんな暇がないから。なくなったから。
米の収穫から炊飯までの作業が、いい気分転換になってたんだなぁ。
失ってから気付く有り難さ。
「ほらほらアラタ! キリキリ働けーっ!」
なんか、だんだん尻に敷かれてるキャラに変わってきてるような気がする。
うん、気のせいだ。
気のせいにしとく。
「アラタさん。まだまだ在庫あるんですよね? タラコ切れかかってますよ?」
き、気のせいだ。
「塩おにぎりが結構出てるぞ。とっとと持ってけ」
お、おう……。
「……」
いつも毒舌のコーティが、何にも言わなくなった。
「あきれてものが言えねぇだけだよ」
ひでぇ。
「せめてみんなに相談してから決めたらよかったのにねぇ」
バイトが休みのテンちゃんからも……。
何でこんなに風当たりが強ぇんだよ……。
「にしたってよお……」
「けどアラタよぉ、お前さんにちょっかい出してきた奴ってどんな奴だよ?」
「え? あー……少なくとも冒険者って感じじゃねぇな。勤め人って感じでもなかったし……遊び人風かなぁ」
「遊び人、ねぇ」
レジの前で首をかしげる痩身な冒険者も、名前は知らんけど常連客だ。
何か考え込んでるようだが、そこから出た結論は、俺を今の状況から救ってくれるわけでなし。
「ところでジェニックさん、もう一つのおにぎりの店とやらには行ったことあります?」
この冒険者、ジェニックって言うのか。
って、何でヨウミが知ってて俺は知らんのだ?
「いや……この村じゃドーセンとここにしか用事ないからな。あ、もちろんダンジョンに潜るためな」
「俺もそうだな」
「私達も、よね」
他の冒険者達も概ね同じような行動のようだ。
「おりゃあ一回行ったことあるけどよ、無法者っつーかならず者っつーか……礼儀知らず、だな」
「へぇ? あんた行ったことあんのか。どこよ」
「アラタの店、崖の洞穴だろ? その崖沿いって感じだな。村の奥の方のな」
「へぇ。で、どうだった?」
「どうだったも何も、何もねぇよ。そこにあるダンジョンとかフィールドもねぇし。しいて言うなら崖の途切れた林の奥ぐれぇだな。行かねぇ方がいい。魔物はほとんど出て来ねぇし、さらに奥に行きゃあ……何つーか……危険な魔物がうじゃうじゃいそうな雰囲気だ」
冒険者達が感じるそんな雰囲気ってのは馬鹿にできない。
経験を積み重ねてきた上で得た知恵の一つだからな。
奥には途轍もない何かがいる、ような気がする。
気配は感じないが、その余波っつーか、そんなもん。
だからて前の林の中でアイテム採集くらいなら問題なさそうだが、はぐれて出てきた魔物にちょっかいを出そうものなら、さらに奥から何を引っ張り出すか分からない。
そんな危険なところに行ける奴らってば、やはりベテランばかりの冒険者チームか国の兵達くらいか。
けど、そんなヤバそうな魔物がこっちに来ない理由は、おそらくは距離と地形だろうな。
わざわざここまで出張る必要がない生活環境がそこにあるか。
まぁそんなとこだろう。
「何か、具体的な話は初めて聞いた気がする。つか、ホントにあったんだね」
「でもそんな所に店を構えて、客は入ったりするのかな」
「レアなアイテムがそこら辺にあったら、それ目当ての冒険者なら行くでしょうけど……」
「だったらそいつらがそのレアアイテムを採集して売っ払ったらいいような気がするんだがな」
「「「「アラタはくっちゃぺってないで、品出ししなさいっ!」
ふえぇ……。
※※※※※ ※※※※※
「お金の心配はしてないのよ? 蓄えはあるし。食生活だって、ドーセンさん頼みから卒業して自給自足の生活も……三日目?」
「四日目だぞお、ヨウミい」
「モーナー、よく覚えてんなぁ。大事な事でもねぇと思ってっから、おりゃあすっかり忘れてるし」
じゃあ何で怒ってんだよ。
「アラタが始めた行商から、今のお店に変わったわけだし、みんなアラタを頼ってるからアラタの決断には従うけどさ、やっぱ相談はしてほしいのよ」
「……へい」
「まぁ反省してるみたいだから、あんまりクドクド言わないけどね」
「……へい」
もう頷く以外何もできんわ。
それにヨウミに至っては、食材があればおにぎり以外はほぼ何でも料理できるしな。
「マァ、オセッキョウモソコラヘンニシテ、ゴハンタベヨ?」
食材はマッキー、テンちゃん、それにミアーノとンーゴで栄養的にも十分調達できる。
みんな俺を頼りにするって言うが、俺もみんながいなきゃ、それなりにいい暮らしはできそうにねぇな。
ま、いなきゃいないで、サバイバル生活は何とかなりそうだけどな。
「そうだ、ミアーノ、ンーゴ」
「ん?」
「ドウシタ?」
「店がある崖は、この森……林? ぐるっと半周囲ってるみてぇだが」
「んまぁそうだな。それが?」
「つまり向こう側には、とてつもない魔物がうようよしてるんだよな?」
「ソウダナ。デモ、アラタモイッタコトアルダロ?」
忘れるわけがねぇよ。
サミーの出身地だもんな。
「あぁ。けど、そこの魔物が村の方に来ない理由はあるのかとな」
「行く必要がねぇからじゃねぇの? まず食いもん飲みもんが十分なら、こっちに来なくたってよかろ?」
それは俺も同意だ。
遊びに行きたい買い物したいっつー俺らとは違うだろ。
「スゴシヤスイカドウカ、メンドウナシュゾクガイルカドウカモ、ダナ」
それも俺の予想通り。
けどなぁ。
「だが、移動しちゃならないって理由はねぇよな。種族が繁栄すりゃ、その場所が狭くなる。その種族の長から独立したいって奴もいるんじゃねぇか?」
蜂の習性なんかもそうだったんじゃなかったか?
あと蟻とかも。
「……俺もなんだがよお、行きたくねぇ場所ってのもあるんだよなぁ」
「行きたくない場所?」
そこに足を踏み入れてはならない、みたいなしきたりか何かか?
「例えばさぁ……毒性が強ぇ水があるとかな?」
「毒?!」
「あたし、そんなの全然考えたことなかった」
「私も……」
そりゃそうだろ。
人間の村があるんだし。
それに、少しでも毒性があったら、俺の能力で探知できたはずだしな。
「オチツケ。オレタチニヘイキナモノガ、オマエタチノドクニナルコトモアル」
「俺らにゃ独でも、おめぇらにゃ平気ってもんもな」
なるほど。
犬に玉ねぎ食わせるなってやつだな。
あれ?
猫にだっけか?
あと、何かにコーヒー飲ますと酔っぱらうとか何とかって話も聞いたことがあるが……。
「ってことは……この村、俺達全部の種族が過ごすことができる場所ってことか」
「ソウイウコトダ」
「互いに追い出そうとする種族もねぇしよ。ある意味楽園かねぇ」
楽園たぁ大げさかもしれんが……。
考えてみりゃ、みんなゆっくり生活してた時代って少ねぇんだよな。
強ち間違っちゃいないってことか。
「おめぇら、アラタの店を閉じるとか言って騒いでたけどよぉ。ここで暮らすことにゃ変わりねぇんだろ? しかもこの晩飯、ただで拵えたんなら、金とやらの心配もそんなにしなくていいんじゃねぇのかよ?」
「まぁ……それも……そうだけどね」
「でも、何か起きたら……相談してくださいねっ! アラタさん!」
「……へい」
もう、へい、としか答えようがねぇわ、うん。
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