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店の日常編
千里を走るのは、悪事だけじゃない その7
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とんでもないニュースが飛び込んでくる、という体験は、俺の世界でもあったしこの世界でもあった。
けどこの世界だと、我が身に降りかかるニュースの場合、それが飛び込んでくる前に、その前兆を感じることは多いんだな。
「……なんか……とんでもないことが起きそうな気がする」
「作業の手を休むと、あたしの鉄拳が飛んでくるという?」
「ヨウミの拳骨で村が全滅するってんなら、そりゃ怖いけど防ぎようはあるなわ」
「……何よ、それ」
背中一面に悪寒が走る。
嫌な予感がしても、どうせ当たりゃしねぇし誰も信じねぇよな、ってなことを思ってた。
結局その悪い予感が当たる。
言ってもどうせ誰も信じっこなかったろうしな、って仕方なくその現実を受け止めていた社会人時代。
だが今はそうじゃない。
口にすると嘘っぽく聞こえる俺の話を聞いてくれる仲間がいる。
「こないだの夜盗騒ぎなんか比較になんねぇ。なんせあの連中とは、会話すりゃ成り立つはずだからな」
「会話が成立って……どういうことです?」
「話が通じない相手ってことでしょ? この店に閉店を迫った連中……」
違うな、コーティ。
それだって、ある程度の会話が成立できたからやってることだ。
「会話すらできねぇ相手が迫ってくるんじゃねぇかってことだよ」
「まさか……魔物が来る?」
「久々の泉現象ってこと?」
外れだ。
「何だ? 何かやってくるのか? 泉現象が起きるって?」
耳ざとい奴がいたもんだ。
「違ぇよ。ノーマルの魔物。ただ……そいつを仕留めて食用にするには、そこらの小川がしばらく水じゃなくてそいつの血になるんじゃねぇかな?」
「おい」
はい?
「……そんな大物がやってくるってのか?!」
「多分……三体。群れを成して生活してる魔物じゃねぇな」
「でも食用にできる……っていったら」
「しかもそれだけでかい奴つったら……」
客がざわめき出した。
「おい、アラタ! そいつぁ本当だろうな!」
「アラタはそんなことで嘘は言わねぇよ」
他のことは嘘ばっか言ってるって聞こえんぞ?
失礼な事言う奴だな。
「……アラタ。持って回った物言いはやめてよ。何が来るの?」
「来ると決まったわけじゃねぇ。けど、自由に行き来できるようになったとでも言おうか。気配がこっちまで流れ込んでくる。……サミーの卵を戻しに行った時、巣のそばで感じた気配と似てる」
「ギョリュウ族が来るの?」
「いや、ギョリュウじゃない。ただの竜だと思うが」
店の周りの連中の感情が入り乱れる。
そいつを仕留めて名を挙げようとする者。
すぐに逃げようと相談する者。
村人の避難を考える者。
そして。
「あ……あたし達、どうする?」
ヨウミは身内の心配をする。
まぁ当然か。
どうする、と言われてもな。
「まずは、逃げるか残るかのどちらかだ」
「逃げて何とかなるんですか? ドーセンさんには? サーマルさんは?」
ふむ。
そうなんだよなー。
「落ち着きなさいよ、あんたら。ヘタレだし詰まんないことばかり言う奴だししょーもない奴だけど、おにぎりを作る腕と、訳の分からない意地っぱりなところは誰にも引けは取らないの、知ってるでしょ?」
コーティ……。
お前もかよ……。
だから、褒めるのと貶すのを一緒にすんな!
つか、どさくさに紛れて何俺をいじってんのっ。
「で、どうするの?」
その言葉の後に続けてこの質問。
お前が一番馬鹿にしてんだろ。
「まず言っとく。大物の魔物の気配が流れ込んできたのを察知したのであって、そいつがこっちに向かって襲ってくるって話じゃねぇ。けどいつでもこっちにやってくる状態になってるっぽい。現状得られた情報は、その魔物は三体。いつでも来れるがすぐには来ない。村人全員が隣村に避難できる時間は余裕にある」
「逃げるしか手はない、てことじゃないのね?」
「あぁ。けど打って出るには難しかろ? 地形の問題があるからな」
でかい奴ならそんなに深くない森林なら踏みつぶして来れる。
けどこっちはどんなにでかくても、その地形を無視して直進することはできない。
おまけに、急所に一撃食らわしてケリをつけるのも無理と思われる。
「拠点を作りつつ接近すれば」
「待て、みんな落ち着け。……アラタ。それはどこから感じるんだ?」
あれ?
言ってなかったっけか?
「村の入り口から真っすぐ進んで、こっち側に曲がってまっすぐ進んだ森……山? この崖の方」
「ややこしい言い方しないでよ。この崖の並びってことでしょ?」
「まぁ、そうだな」
何か微妙な空気が流れてる。
俺の説明でおかしいところないよな?
ない。
ないはずだが。
「……それってさ、もう一つのおにぎりの店の辺りじゃねぇの? 噂でしか聞いたことがねぇけど」
……さあ?
「知らねぇよ。行ったことねぇもん。でも客からの情報と照らし合わせりゃ、まぁそうなるのかな」
「アラタ、落ち着いてる場合? 真っ先に被害が出るのは」
「そのおにぎりの店、だろ?」
「バカ言わないでよ! 村人の民家があるとこじゃないのよ! 真っ先に人的被害が出るわよ?! ここは一番近いとこでもドーセンさんの宿だけど、あとは村人所有の田畑だもん。でも向こうは家があちこちにあるのよ?!」
あ……。
うん、まぁ、そう……らしいな。
にしても、マッキーはよく冷静でいられるな。
「どうすんの! 対策は一刻も早く立てないと!」
前言撤回。
こいつも結構興奮してるな。
「避難させても、竜が暴れまくり始めたら、被害はどこまで広がるか分からんぞ?」
冒険者達の言うことも一理ある。
けどさぁ。
「……依頼は竜……ドラゴン討伐。でも報酬は誰が出すことになるんだ?」
「ドラゴン相手なら、死体……体の一部とか食用とかアイテムに転用できるだろうからそれだけで十分だと思うぞ?」
「アラタってば、報酬でしか悩みがないのかね」
いや、報酬は大事だろ。
そっちは命がけの仕事なんだ。
俺にはそこまで責任持てねぇよ。
「アラタ。あたし達はどうする?」
どうするってお前……。
「お前はどうしたいんだ? ヨウミ」
「そりゃ、たくさんの群れだったら逃げるしかないけど……三体だけ、なんでしょ?」
「卵っぽいのがあったら分からんけどな。でもあったとしても、一日やそこらで誕生するようなことはないな。生まれそうならその気配だって感じ取れるし」
「……でもアラタとあたしじゃ……」
その通り。
手に負えない相手だ。
逃げの一手しかない。
「アラタさぁ……。……なんて言うか、呆れて物、言えないわ」
何だよ、コーティ。
言いたいことがあるならはっきり言えよ。
「仲間仲間って言っといて、困ったときには頼ろうともしないのね。何なの? あんたの言う仲間の定義は」
「俺が嫌がることはお前らも嫌がる。そんな間柄?」
「何で疑問文なのよ」
そもそも、困っちゃいない。
逃げる一手も立派な手段だろ?
「コーティさん。そういう言い方はあまり良くないですよ? ……アラタさん。私達は、あなたの希望することをお手伝いするためには、何の苦痛も物ともしません」
嫌な仕事、やりたくないことを押し付けられる辛さは知ってる。
そんな事言われてもな、同じ思いをさせたい奴なんざ、人間じゃねぇわ。
「お前らの仲がどうかは知らんが、獲物がいる、しかも目標物も限定されてるなら、ある意味おいしい仕事なんだわ。俺はやらせてもらおう。手柄もドラゴンの肉も独り占めだぜ」
「ざけんな! 獲物は俺達のもんだ」
冒険者達の威勢が急に上がってきたな。
まぁ話に聞けば、滅多に仕留めるどころか、遭遇することもない魔物らしいし。
「みんな、アラタを説得するの、ダメダメだなぁ」
「テンちゃん、いたのかよ」
「ひどっ! 今日はバイト休みって言ってたでしょー?」
聞いてねぇよ。
「ねぇ、アラタぁ」
「何だよ、気持ち悪い声出して」
滅多に出すことのない甘えるような声が気味悪い。
「アラタぁ、あたしぃ、ドラゴンの肉、食べてみたいなー」
「お前、主に草食っつってたじゃねぇか」
「食ぁべたいなぁ~」
すり寄ってくんなっ。気味悪い。
「食ぁべたいなぁ~」
「マッキーも何真似してんだよ!」
「食ぁべたいなぁ~」
「コーティっ! うざっ!」
何なんだこいつらぁ!
「アラタ」
「何だよ! ヨウミまで食いてぇのかよ!」
「みんな、ドラゴンの肉とやらが食べたいんだって」
……ったく……。
「……冒険者達の足、引っ張んじゃねぇぞ!」
「理由があったら、許してくれるもんねー」
テンちゃんのドヤ顔、うぜぇっ!
けどこの世界だと、我が身に降りかかるニュースの場合、それが飛び込んでくる前に、その前兆を感じることは多いんだな。
「……なんか……とんでもないことが起きそうな気がする」
「作業の手を休むと、あたしの鉄拳が飛んでくるという?」
「ヨウミの拳骨で村が全滅するってんなら、そりゃ怖いけど防ぎようはあるなわ」
「……何よ、それ」
背中一面に悪寒が走る。
嫌な予感がしても、どうせ当たりゃしねぇし誰も信じねぇよな、ってなことを思ってた。
結局その悪い予感が当たる。
言ってもどうせ誰も信じっこなかったろうしな、って仕方なくその現実を受け止めていた社会人時代。
だが今はそうじゃない。
口にすると嘘っぽく聞こえる俺の話を聞いてくれる仲間がいる。
「こないだの夜盗騒ぎなんか比較になんねぇ。なんせあの連中とは、会話すりゃ成り立つはずだからな」
「会話が成立って……どういうことです?」
「話が通じない相手ってことでしょ? この店に閉店を迫った連中……」
違うな、コーティ。
それだって、ある程度の会話が成立できたからやってることだ。
「会話すらできねぇ相手が迫ってくるんじゃねぇかってことだよ」
「まさか……魔物が来る?」
「久々の泉現象ってこと?」
外れだ。
「何だ? 何かやってくるのか? 泉現象が起きるって?」
耳ざとい奴がいたもんだ。
「違ぇよ。ノーマルの魔物。ただ……そいつを仕留めて食用にするには、そこらの小川がしばらく水じゃなくてそいつの血になるんじゃねぇかな?」
「おい」
はい?
「……そんな大物がやってくるってのか?!」
「多分……三体。群れを成して生活してる魔物じゃねぇな」
「でも食用にできる……っていったら」
「しかもそれだけでかい奴つったら……」
客がざわめき出した。
「おい、アラタ! そいつぁ本当だろうな!」
「アラタはそんなことで嘘は言わねぇよ」
他のことは嘘ばっか言ってるって聞こえんぞ?
失礼な事言う奴だな。
「……アラタ。持って回った物言いはやめてよ。何が来るの?」
「来ると決まったわけじゃねぇ。けど、自由に行き来できるようになったとでも言おうか。気配がこっちまで流れ込んでくる。……サミーの卵を戻しに行った時、巣のそばで感じた気配と似てる」
「ギョリュウ族が来るの?」
「いや、ギョリュウじゃない。ただの竜だと思うが」
店の周りの連中の感情が入り乱れる。
そいつを仕留めて名を挙げようとする者。
すぐに逃げようと相談する者。
村人の避難を考える者。
そして。
「あ……あたし達、どうする?」
ヨウミは身内の心配をする。
まぁ当然か。
どうする、と言われてもな。
「まずは、逃げるか残るかのどちらかだ」
「逃げて何とかなるんですか? ドーセンさんには? サーマルさんは?」
ふむ。
そうなんだよなー。
「落ち着きなさいよ、あんたら。ヘタレだし詰まんないことばかり言う奴だししょーもない奴だけど、おにぎりを作る腕と、訳の分からない意地っぱりなところは誰にも引けは取らないの、知ってるでしょ?」
コーティ……。
お前もかよ……。
だから、褒めるのと貶すのを一緒にすんな!
つか、どさくさに紛れて何俺をいじってんのっ。
「で、どうするの?」
その言葉の後に続けてこの質問。
お前が一番馬鹿にしてんだろ。
「まず言っとく。大物の魔物の気配が流れ込んできたのを察知したのであって、そいつがこっちに向かって襲ってくるって話じゃねぇ。けどいつでもこっちにやってくる状態になってるっぽい。現状得られた情報は、その魔物は三体。いつでも来れるがすぐには来ない。村人全員が隣村に避難できる時間は余裕にある」
「逃げるしか手はない、てことじゃないのね?」
「あぁ。けど打って出るには難しかろ? 地形の問題があるからな」
でかい奴ならそんなに深くない森林なら踏みつぶして来れる。
けどこっちはどんなにでかくても、その地形を無視して直進することはできない。
おまけに、急所に一撃食らわしてケリをつけるのも無理と思われる。
「拠点を作りつつ接近すれば」
「待て、みんな落ち着け。……アラタ。それはどこから感じるんだ?」
あれ?
言ってなかったっけか?
「村の入り口から真っすぐ進んで、こっち側に曲がってまっすぐ進んだ森……山? この崖の方」
「ややこしい言い方しないでよ。この崖の並びってことでしょ?」
「まぁ、そうだな」
何か微妙な空気が流れてる。
俺の説明でおかしいところないよな?
ない。
ないはずだが。
「……それってさ、もう一つのおにぎりの店の辺りじゃねぇの? 噂でしか聞いたことがねぇけど」
……さあ?
「知らねぇよ。行ったことねぇもん。でも客からの情報と照らし合わせりゃ、まぁそうなるのかな」
「アラタ、落ち着いてる場合? 真っ先に被害が出るのは」
「そのおにぎりの店、だろ?」
「バカ言わないでよ! 村人の民家があるとこじゃないのよ! 真っ先に人的被害が出るわよ?! ここは一番近いとこでもドーセンさんの宿だけど、あとは村人所有の田畑だもん。でも向こうは家があちこちにあるのよ?!」
あ……。
うん、まぁ、そう……らしいな。
にしても、マッキーはよく冷静でいられるな。
「どうすんの! 対策は一刻も早く立てないと!」
前言撤回。
こいつも結構興奮してるな。
「避難させても、竜が暴れまくり始めたら、被害はどこまで広がるか分からんぞ?」
冒険者達の言うことも一理ある。
けどさぁ。
「……依頼は竜……ドラゴン討伐。でも報酬は誰が出すことになるんだ?」
「ドラゴン相手なら、死体……体の一部とか食用とかアイテムに転用できるだろうからそれだけで十分だと思うぞ?」
「アラタってば、報酬でしか悩みがないのかね」
いや、報酬は大事だろ。
そっちは命がけの仕事なんだ。
俺にはそこまで責任持てねぇよ。
「アラタ。あたし達はどうする?」
どうするってお前……。
「お前はどうしたいんだ? ヨウミ」
「そりゃ、たくさんの群れだったら逃げるしかないけど……三体だけ、なんでしょ?」
「卵っぽいのがあったら分からんけどな。でもあったとしても、一日やそこらで誕生するようなことはないな。生まれそうならその気配だって感じ取れるし」
「……でもアラタとあたしじゃ……」
その通り。
手に負えない相手だ。
逃げの一手しかない。
「アラタさぁ……。……なんて言うか、呆れて物、言えないわ」
何だよ、コーティ。
言いたいことがあるならはっきり言えよ。
「仲間仲間って言っといて、困ったときには頼ろうともしないのね。何なの? あんたの言う仲間の定義は」
「俺が嫌がることはお前らも嫌がる。そんな間柄?」
「何で疑問文なのよ」
そもそも、困っちゃいない。
逃げる一手も立派な手段だろ?
「コーティさん。そういう言い方はあまり良くないですよ? ……アラタさん。私達は、あなたの希望することをお手伝いするためには、何の苦痛も物ともしません」
嫌な仕事、やりたくないことを押し付けられる辛さは知ってる。
そんな事言われてもな、同じ思いをさせたい奴なんざ、人間じゃねぇわ。
「お前らの仲がどうかは知らんが、獲物がいる、しかも目標物も限定されてるなら、ある意味おいしい仕事なんだわ。俺はやらせてもらおう。手柄もドラゴンの肉も独り占めだぜ」
「ざけんな! 獲物は俺達のもんだ」
冒険者達の威勢が急に上がってきたな。
まぁ話に聞けば、滅多に仕留めるどころか、遭遇することもない魔物らしいし。
「みんな、アラタを説得するの、ダメダメだなぁ」
「テンちゃん、いたのかよ」
「ひどっ! 今日はバイト休みって言ってたでしょー?」
聞いてねぇよ。
「ねぇ、アラタぁ」
「何だよ、気持ち悪い声出して」
滅多に出すことのない甘えるような声が気味悪い。
「アラタぁ、あたしぃ、ドラゴンの肉、食べてみたいなー」
「お前、主に草食っつってたじゃねぇか」
「食ぁべたいなぁ~」
すり寄ってくんなっ。気味悪い。
「食ぁべたいなぁ~」
「マッキーも何真似してんだよ!」
「食ぁべたいなぁ~」
「コーティっ! うざっ!」
何なんだこいつらぁ!
「アラタ」
「何だよ! ヨウミまで食いてぇのかよ!」
「みんな、ドラゴンの肉とやらが食べたいんだって」
……ったく……。
「……冒険者達の足、引っ張んじゃねぇぞ!」
「理由があったら、許してくれるもんねー」
テンちゃんのドヤ顔、うぜぇっ!
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○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
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この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
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