勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
259 / 493
店の日常編

仲間達の新たな活動 1

しおりを挟む
 ドラゴン討伐完了してしばらくしてから、店に来る客の顔触れがかなり変わった。
 再来した客の来店数の頻度がかなり高くなってる。
 余り来ることがなかった冒険者達の顔はめっきり減った。
 新規の客は増えた。
 ただし、常連に連れられてくる者ばかり。
 何かあったんかな?

「そりゃアラタ、あのならず者に切った啖呵のせいだろうよ。……いや、おかげっつった方が正しいよな」
「啖呵のおかげ?」

 なんじゃそりゃ。
 つか、また思ったこと口から洩れてたか?

「まぁ……そりゃ俺らは、ドラゴンをぶっ倒した後の……素材とかアイテムとかな? ありゃ一攫千金ものだわな。どれもこれも非常に価値がある。価値が高い」
「それで?」
「それ目当てに参加……それを手に入れる以外考えられずに参加した連中はかなりいた。けど、そうでないみんなへもそんな奴らへも、感謝の言葉が入ってた」

 おいやめろ。
 首がむず痒くなるような回想やめてくれ。

「アラタの事をよく知らねぇ奴らは、情け容赦なくためらいもなく奴らの股間を蹴り上げたアレが強烈に印象に残ったようでな」

 残念ながら、あの時の足の感触も残ってない。

「ドン引きした奴らは、あいつにヘタに触れちゃなんねぇ、って敬遠してな。触らぬ神に祟りなしってやつだ」
「ふむ。俺が神様か。敬え」
「お前な……」

 冗談のつもりだったが。

「……けどお前のことをよく知る奴らは、やっぱり当てになる、俺達のことをそこまで思ってくれてる、っつってよ」
「それでしょっちゅうこんな辺鄙な村に来るようになったってことか」
「……辺鄙っつーか……国の主要都市からかなり離れたとこだがな。それにダンジョンじゃいろんなアイテムを手に入れられるメリットもあるし、何より滅多にない初級冒険者にもベテランにもその活動に適したダンジョンだからな」

 そりゃモーナーの功績だ。
 俺じゃねぇ。
 ま、いいけどさ。
 でも、そういうことか。

「それで、初顔の連中をベテランが連れてくるってわけか」
「そういうこと」

 奇妙なことはたくさん起こる。
 けど、原因や理由があってそんな現象が引き起こされる。
 まさか自分にその理由があるたぁ思わなかった。
 が、更に原因を突き詰めれば、ファンクラブだのおにぎりの店を紹介しただのの記事を掲載した雑誌だろう。
 取材記者から贈呈されたあの雑誌は、あれ以来一度も目を通してない。
 読んでも特にうれしいとか思わないしな。

「ところでアラタ」
「ん?」

 いきなり口調が変わったその冒険者は、ちょっと思いつめたような表情は口を開いた。
 大概、悩みごとか何かなんだろうが、俺に相談されてもな。
 そんな気配は感じ取れるが、悩みごとに助言をするアドバイザーやカウンセラーじゃねぇんだ。

「物は相談なんだが」

 ほらきた。

「アラタの仲間ってさ、魔物がほとんどだろ?」
「人間なのは俺とヨウミだけだからな」
「俺もさ、初級冒険者達の面倒見てんだよ。そいつらをここに連れて来てさ」

 連れてくるなら引率者の勝手だろうよ。
 責任者もそっち。
 俺は知らん。

「一緒にフィールドやらダンジョンやらに行きたいと思ってんだが」
「だから、俺はそこの管理者じゃねぇよ。来るも去るも来た者の自由だっての」
「いや、その、集団戦を体験させたい、と思ってな」
「集団戦?」

 アイテム拾いじゃねぇのか?

「金の不安なら、アラタがずーっと言い続けてきたように、勝手にダンジョンに潜って、金目になりそうな物を持ってって、まぁ人並みに生活できてるようなんだが、より濃い経験を積みたいっつってな。冒険者同士の集団戦の練習なら積めるんだが、魔物相手となるとなかなか条件が揃った相手がいない」
「条件て……」
「魔物だから、人間外れな行動をとれる者。ある程度に手加減してくれる者。そんな魔物がいつも集まってるとこ。そんな訓練を積める場所。そんな環境がほとんどなくてな」

 確かに……人間外れな行動をとることができる連中だし、話を理解できるからこっちの狙いを分かってもらえて手加減できる連中だし、いつも集まってるし、フィールドも広いしダンジョンも階層によっては広いとこあるっつってたし……。

「俺の独断で即答は無理だな。みんなに話は通さにゃ」
「いつなら話を通してくれる?」

 俺が仲介役すんのか?
 誰がするかよ、そんな面倒くさいこと。

「晩飯時ならみんな揃って飯食うから、あんたもそいつらを連れて一緒に飯を食うってのはどうよ」

 ……何そのハトが散弾銃食らったような顔は。
 そんな場面も、そんな表情も見たことねぇけど。

「い……いいのか?」
「話だけならタダだしな。あ、飯代は個々で払えよ?」
「い、いや、聞いてもらえるだけでも有り難い……。お礼にそっちの飯代も……」
「食う量ハンパねぇぞ? 払ってくれるんか?」

 それなら問答無用でこいつのリクエストに応えてやるが。

「……すまん、やっぱ個々で」

 おい。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...