勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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王宮動乱編

集団戦の人気がおにぎりを上回る その4

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 あれからシアンは一日か二日おきに、親衛隊と一緒にやってくる。
 もちろん晩飯の時間帯に。

「考えてみたら、アラタの仲間を自称する割にはみんなの事はよく分からなかった、ということに気付いた」
「ほう? で?」
「とりあえず、お土産を持って来てみた」
「みんなに?」
「いや、それは難しい。好みが違ってたら困るだろ? 困らない物と分かってる物を持って来てみた」
「あっ! 干し草だーっ。あたしに?」
「もちろん」

 テンちゃんは俺らと同じ飯を食うこともあるが、干し草は欠かしたことはない。
 だがもっと欠かしたことのない食べ物はあるわけで……。

「好みかどうかは分からないが、コーティにはこれ」
「何よこれ。……キャンディ?」
「あぁ。コーティが飛んでる姿を見ると、なぜかミツバチを連想してしまってな」

 お菓子屋さんで売ってるような、大きめの袋に入ったキャンディは……。

「蜂蜜のキャンディ?」
「まぁ好きな人がいるなら、コーティ限定って訳じゃないんだが……」
「食べたことはないけど……食後に一個もらっとくわ。もっとも好きか嫌いかは分からないし、気に入ったとしても二番目より上にはならないわね」
「へぇ。一番のお気に入りは何だい?」
「決まってんじゃない。アラタのおにぎりよ」

 ……予想はしていたが。

「オレモ」

 いきなりンーゴが口を挟むとは思わなかった。

「俺もだあ」
「私も好きです」
「ミッ」

 次々と名乗りを上げるというね。
 けどな。

「あー……言っとくが、俺の作るおにぎりに力が宿るって話じゃねぇぞ? 力が入ってそうな、というか、発育が良さそうな米を選別してそれから作るおにぎりだかんな?」

 何度か説明したはずだが。
 物事の説明は、どうしても楽に考える方に傾きたがるもんだ。

「どのみちアラタにしか作れないんじゃない。細かい事気にしない」

 それはそうだが……。

「……コーティ」
「何?」
「最後に余計な一言が加わってないな。いつもなら必ず付くはずだが。お前、ほんとにコーティか?」

 思わず、俺が余計なことを言っちまった。

「……シアンが、あたしにいいことを言ったわよね」
「何て?」
「あたしの事スズメバチみたいだって。刺されたときの衝撃みたいな電撃、食らってみる?」
「おいお前ちょっと待て。何をどう聞いたらミツバチからスズメバチに変わるんだよ!」
「あら知らないの? ミツバチは成長するとスズメバチになるのよ?」

 嘘つくな嘘を!

「おや、アラタは知らなかったのか? ミツバチは幼虫でスズメバチはその成虫だぞ?」

 シアン! テメェ!
 コーティの味方に回ってんじゃねぇっ!
 大体言ってることが本当か嘘かくらいは、能力で分かるっつーの!

「シアンハ、コーティハダネ」
「皇帝派? ライム、この国は日本大王国だから、一番上の人は王様だよ? 皇帝がいる国は帝国ってことになるんじゃない?」

 ヨウミも何冷静になって上手い事言ってんだ!
 コーティが体中でバチバチさせてるときによお!

「ヨウミ、なかなかいいことを言うじゃないか。アラタが上手い返しができないようだぞ」

 お前らぁ!

 ※※※※※ ※※※※※

 えらい目に遭った。
 電撃は炸裂することなく収まったからいいけどよ。
 それにしても、だ。

「お前らも一緒になって笑ってんじゃねぇよ。つか、抑えろよ」
「見てる方が面白いな、とな」
「俺達は殿下の親衛隊であって、アラタの親衛隊じゃないからな、うん」

 ドヤ顔してんじゃねぇよ。
 それはともかく。

「お前ら、主君の前で気を緩みすぎてねぇか? 俺には別に馴れ馴れしくしてきても……まぁウザいと思わない程度なら平気だけどよ」
「気遣いは無用だよ、アラタ」
「いや、別にシアンに言ってるわけじゃねぇんだが」

 主君と従事者だから身分は違うから、もう少しこう……規律に厳しい姿勢とかなんじゃねぇの?

「第三者がいなければ、まぁ気兼ねなくいろいろと言い合える仲って感じかな」
「壁に耳ある障子に目あり、とはよく言ったものだがな」
「部外者が近くにいるかもしれない、と思われる場所ではこんな会話はしないさ」

 ここだって例外じゃねぇかもしれねぇだろうが。

「まぁこんなところまで大臣だのなんだのという主要人物は来ないさ。遠巻きに様子を伺う者はいるかもしれんが、聞き間違いで十分だろうな」

 適当すぎねぇか?
 まぁ本人らが構わねぇってんなら、こっちからは特に言うこっちゃねぇか。
 その親衛隊は、今日も五人。
 隊長のルミーラと、妹のサミーラ。
 顔も姿もそっくりなのは双子だから。
 だが、髪形までそっくりにしてる。
 装備は妹の方がやや軽そうに見える。
 親衛隊で一番小柄なワイプ。
 つっても身長百七十くらいか?
 それでも、たしかにグリプスよりは経験者って感じの顔つきだな。
 親衛隊の中で、一番細身のショーンも女性。
 あくまでも親衛隊の中での話。
 そして、表情豊かだがあまり物を言わなそうなラジーの、女性三人男性二人。
 簡単な自己紹介は初対面の時に済ませた。
 その事は既に、シアンに報告済みなんだそうだ。
 この五人に、おそらく何かの仕事中のアークス、クリット、グリプスに、確か男はもう一人、インカ―だったか。
 女は、あとはレーカだな。

「でもさシアン、男性六人で女性四人の編成でしょ? あなたとの恋愛関係の相手はいないの?」

 ぶっ!
 ヨウミ……。
 そういう話題持ちだすなよ。
 面倒事になりかねねぇぞ?

「あー……さすがにそこまではないな。弟、妹って感じだからな」
「私達も……敬愛の念はあるけど、恋愛までは……」
「殿下の仕事ぶりを見ると……護衛で手一杯ですから」
「えー? 聞きたかったのになー」

 だからその話題はとっとと切り替えろ。

「ヨウミこそ、アラタとはどうなんだ?」
「へ? え、えーと」
「私はアラタさんのことは好きですよ?」
「あたしもっ」
「ライムモッ」
「あたしはアラタのことはどうでもいいけど、おにぎりは欠かせないわね」
「コーティ、顔赤くして何言ってんの」

 またこの話題かよ。
 いい加減にしてくれ。
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