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王宮動乱編
アラタの、新たな事業? その1
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『……というわけで、今からそっちに行くから待っててくれ』
通話機から着信音が鳴って、見てみたらシオンからの発信。
出てみたら、こんな用件。
戴冠式終わって昨日の今日、こっちに来るとか。
お前、王の自覚あるのか?
しかも、着信音が鳴った通話機は、俺のじゃないというね。
シアンいわく。
『私からの贈り物を受け取ってもらえたかどうかの確認も兼ねてな』
だそうだ。
戴冠式の式場を後にする際に、俺とヨウミ以外の全員に贈り物があるってんで、みんなに受け取らせた。
中身は通話機一つのみ。
って、でかい紙袋が思わせぶりなんだよ!
箱に入れて包み紙で包みゃいいだろうがっ。
まぁいいけどよ。
みんなが連れ去られたときに、全員通話機取り上げられて、それから行方不明。
多分処分されたんじゃないか、という話。
ちなみにシオンも取り上げられたとか。
それだけはまぁ……慰めの言葉の三つや四つくらいかけてあげにゃなぁ。
それはともかく。
「今からこっちに来るだぁ?」
『あぁ。並んでる客がそろそろいなくなる時間帯だろう?』
そこまで計算してやがる。
「面倒事をもちこまれる予感がする。来るな」
『よく分かったな。面倒事じゃなく、最近問題に挙げられてる一つだ。何大したことじゃない。来るな、と言うなら、それは間違いなく行っても問題ない状況だな。ではまた後で』
……そうか。
冷静に「来るな」と言ったから駄目だったんだ。
感情的に、相手に危険が及ぶかもしれないという心配をしているように見せかけなきゃならなかったか。
……演技力、身に付けなきゃな。
※※※※※ ※※※※※
「というわけで来てみた。ヨウミも、みんなもこないだは来てくれてありがとう」
「あ、こんにちは。親衛隊のみんなも……って、全員じゃないわね」
いや、のんびり挨拶するところじゃねぇぞ? ヨウミ。
「早ぇよ!」
あまりに早すぎる。
こっちは戴冠式に、出発から到着までどんだけかかったと思ってんだ。
「今から行く、と言ったろ?」
通話機の会話が終わって約十分後。
親衛隊の数人と一緒にやってきた。
どういう手段を使ったのか。
「みんな、いらっしゃいませ。遠路はるばる……」
「コンニチハー」
「こんにちは、クリマー、ライム。それとみんなも」
「久しぶりだなお前ら。戴冠式んときは流石に顔も合わせられなかったからな」
お前らは反応遅いなおい。
「瞬間移動の発着地点があってな」
あ、そんな話、前に聞いたような。
「残念ながら、その位置は教えられない。悪用されたらかなわないからな」
そらそうか。
で、何の用で来たのやら。
「君のこともあるし、我々の間柄のこともある。型通りの挨拶は抜きにしても構わんだろう? ということで早速本題だ。国の抱える問題の一つを解決すべく、アラタにお願いしたいと思ってな」
「お願い?」
なんじゃそら。
「うむ。ちょっと遠回りな説明になるが……」
大臣の謀反の事件を収めてからは、王政の体制をいろいろと変えたんだと。
そのどでかい改革の一つが……。
「旗手のみんなを、それぞれの世界に戻ってもらった」
「え?」
「嘘……」
「それってえ……」
「じゃあ……この後……」
「別の誰かを召喚するってことですか?」
「ダイジョウブナノ?」
てことは……。
「……芦名はどうなった?」
「ん? あ、あぁ、彼とは浅からぬ因縁があったんだったな。彼にも帰っていただいたよ」
「え……」
いともあっさり……。
これまでの事を考えたら、あいつには吹かせるのなら一泡だけじゃ全く足りない。
だが、もうどの世界からも誰もここに来ないと言うなら……思い出すたびに辛い思いをする過去を振り切る絶好の機会、だよな……。
けれど、魔物の泉現象、雪崩現象は普通に起きている。
その対抗手段である旗手の存在をなくしたってことは……。
「この世界の、我が国の問題は、この世界、我が国の者達で解決すべき、ということでな」
「でき……るかどうかはともかく……昔はそうしてきたんだよな」
シアンの告白のときに、旗手イコール勇者の存在の話も聞いた。
その手段を復活させるってことか。
「けど、誰を旗手の代わりにするんだ?」
元旗手だからっつーことで、俺がその矢面に立つのは勘弁……。
いや、待てよ?
こいつ、俺にお願いしに来たっつったな?
「おい、シアン。俺は……」
「あぁ、アラタにお願いするのはその件じゃない。それはこっちですでに計画を進行してるしな」
おっと、フライングだったか。
「ただ、旗手、そして勇者と呼ばれた時代から、この問題はあったんだ。さほど深刻じゃなかったがな」
「回りくどいな。だが現象の話が出てきたってことは、それに絡んだ問題か?」
「うむ。その被害は少なからず存在していた。魔物によって失われた命の数なんか、とても数えられるもんじゃない」
「俺に弔いの仕事はできねぇぞ?」
その仕事は国教に任せりゃいいだろうが。
どんなに体制を変えようとも、あの連中には近づきたくない。
前国王と一緒に俺をいいように扱おうとした団体だからな。
「亡くなった人への対応じゃなくて、その遺族への対応を頼みたいんだよ」
「死亡保険制度があるたぁ思わなかったな」
「死亡保険? なんだい、それは」
保険制度、ないのか。
……面倒事は避けたい俺が、藪蛇しちまったか?
「まぁその話は改めて後で聞こう。遺族の問題だ」
「遺族?」
ますます保険の話めいてきたような気がする。
そうなると、投資の考え方とかも必要になってくるが……。
「一家の大黒柱は、大概家族を守ろうとする。だが自分が助かる、自分も助かるという例はほとんど見ない」
自らを犠牲にして家族を助ける。
生き残った家族は、助かってよかったね、と喜んでばかりもいられない。
「大黒柱を失ったから、今後どうやって生きていくか不安になるってことよね」
「うむ。ヨウミの言う通り……って、ヨウミも?」
「ん……詳しい話は聞かなかったけど……」
そう言えばヨウミも、祖父さんと二人で宿を経営してたもんな。
理由は何であれ、働き手を失った家族がその後も生活していくには……ハードル高ぇよな。
「あたしのとこはまだいいよ。近所とか村中が、困ってる人達を助けながら、支えながら生活できてたし、今でもそんな感じだと思う。王都に近いから、人口が減るってことはほとんどないと思う」
物流がいいだろうからな。
ベッドタウンにも向いている、と思う。
まぁそんな社会事情はおいといて。
「で、その話の続きは?」
「あ? あぁ。ここで生活する術を身に付けることも兼ねて、バイトを雇ってくれるだろうか、と思ってな」
寝耳に水。
できるわきゃねぇだろ。
そんな指導力あるわきゃねぇし、バイトってことはバイト料も出さにゃならんってことだろ?
つか、もし本腰入れてその話を引き受けるとしても、何を任せていいか分からねぇじゃねぇか。
大体どんな奴が来るかも分からねぇ。
「無理だろ、それ」
「うむ。そういうとは思ってた。だが、こっちの勝手な皮算用何だがちょっと話を聞いてくれないか?」
まぁ……聞くだけならタダだ。
「アラタの仕事は、おにぎりの製造と販売だな? そしてアラタ抜きではこの店は成立しない」
「当然よね。あたしにどんなにコケにされても、アラタなしじゃこの店は成り立たないもん」
シアンもコーティも分かってんじゃねぇか。
つか、分かってんならもう少し俺への対応改めろ!
「じゃあアラタがいなくなったらなぜ成立しない? それは、おにぎりの食材である米の選別ができるから、だな?」
「だよね。で、選別して洗米した大量の米を、ライムとテンちゃんを中心に運搬を手伝ってる。あたしもそれなりに力はあるけど、テンちゃんの体格は大きいし、ライムは体を変化させられるから、大量の米を一度で運べるから」
「ですよね。マッキーの言う通り。私もそれなりに運べますけど、ライムさんほど体を大きく変化させることはできませんし……」
「俺もお、時々手伝うけどお……」
「モーナーハ、ダンジョンノクッサクノシゴト、アルモンネ」
「そこだ」
「どこだよ」
ライムの後、間髪入れずにシアンが入り込んだが、何のことか分かんねぇよ。
「アラタじゃなくてもできる仕事がある、ということだ」
「それをそんな人達に任せてほしいって言うの?」
「ヨウミの言う通り。アラタには新たにしかできない仕事に集中してもらえたら、と思う」
「バイト料、出す余裕はねぇぞ? 集団戦で得た利益は桁外れにでかいが、新人どもの資金不足にあてがうからな。集団戦の利益を店の収益に回す気はねぇよ。こいつらへの手当ても必須だしな」
「いや、バイト料まで面倒を見てもらうつもりはない」
はい?
バイト雇ってバイト料出さねぇって、何か解決になるんか?
「米を洗うだの炊くだの、おにぎりを作るだの、そんな知識すら持ってない子供達にその仕事をさせることで、清潔を維持する心掛けも生まれるだろうし、他の職場に『こんなこともできるようになった』というアピールになる。バイト料よりも三度の飯の方がいいって言う子もいるだろうしな」
「飯代どうすんだよ」
「もちろんそう言うことも想像した。販売か所を増やすというのはどうだ?」
チェーン店かよ。
米がなきゃおにぎりは増えない。
おにぎり増えなきゃ、全店で品切れになっちまう。
「俺に馬車馬のように働けってか?」
「おにぎりのストックはないのか? それに、在庫ある時が開店日ってことにすればいいじゃないか」
ストックは確かに増えて来てはいる。
けどな。
「店はあっても、閉まってたり開いてたりっつー不定期営業じゃ、誰も買おうとしねぇだろ。つか、当てにされなくなっちまう」
「アラタ、どうしてここでしかあの店はやってないんだ? という声が多いのを知ってるか?」
なにそれ。
聞いたこたぁねぇぞ?
「新人冒険者の数は増えている。増加率はともかくな。だから、金銭のやりくりに困ってる者も多くなってる。ここに来ることすら難しい、遠くにいるそんな新人達もいる。切ない願いを持つ者達は決して少なくない。その店があるだけで有り難いと思う者もいるってことだ」
お前から言われてもな。
あの店がここにもあったらな、と思う奴は確かにいるだろうよ。
けど、店ができても利用してくれるたぁ限らねぇんだよな。
「でもなあ。この店出してもお、新人冒険者達があ、活動できるとこお、そこにあるのかなあ?」
……モーナー、相変わらず頭の切れがいいな。
思いつかなかった。
「そういえばそうね。薬代わりの気休めのおにぎりがいくつかあれば、彼らは活動できると喜んでても、実際に仕事が見つかるかどうか。仕事になるかどうか、よね。これで無敵! とか思い込んで、逆に被害が増えそうな気も」
「マッキーの妄想は暴走気味だが……確かにおにぎりを買えて安心した顔をする奴らも、いないこともない」
「そんな新人さん達は、必ず師匠とか先輩とかの立場の人、いるもんねぇ」
「指導的立場、くらいの言葉出てこんか? テンちゃん」
テンちゃんは、もう少し言葉覚えろ。
言わんとしてることは分かるが。
「薬代にも手が出せない。このままじゃ何の仕事もできない。そんな不安は減らせると思うし、心強さも生まれると思わないか?」
「おい、ちょっと待て」
「どうした? アラタ」
おかしくねぇか? この話。
確か、大黒柱がいなくなった家族に、何かしてやれないかって話じゃなかったか?
「話、ずれまくってねぇか?」
「ツナガッテハイルケドネ」
そりゃそうだろうが……。
「もちろんこっちも、思い付きで対策を考えてたわけじゃない。アラタにも見返りがなければ、根本的な解決に繋がらない。もちろん他業種にも声はかけている。いくらこの店の人気が高いといっても、この店一つで国の課題を解決できるわけがないことくらい、私にも分かる」
つまり……俺が引き受けても引き受けなくても、いろいろと対応に取り組んでるってことか。
「引き受けていいんじゃない?」
ヨウミ! いきなり何言い出しやがる!
「おい」
「まずね、おにぎりの店には全責任負うでしょ?」
「そりゃ……」
「集団戦のこともあるでしょ」
「まぁ……」
「みんなそれで手が一杯になったら、店の手伝いできる子ほとんどいないのよ。都合のいいときって言ってたけど、ドーセンさんのお米のこともあるでしょ。それと、みんなの休養日のことも」
うあ。
考えるだけで頭がいっぱいになる。
よくそんなことを日常でやりくりできてたな、今まで。
「アラタもほとんど休みなく働いてるし、休みを少しくらい増やしてもいいと思うんだ。どんな人でもお米運びなら少量ずつなら失敗することなく手伝えるだろうし、食費なら、貯金する額低くしたら賄えると思うし、間違いなくアラタは選別作業に集中できるよ? 他にお店を作るって話は先を見過ぎだけど、そういうお手伝いの件は、期限決めて試してみてもいいんじゃない? シアンも、いきなり本腰入れてやろうってつもりじゃないんでしょ?」
「もちろんだ。うまくいかなきゃ、それで引き起こされる問題はこっちで引き受けるさ」
余計な仕事が減るってのは……楽できるってことだから……。
やってみてもいいかな。
何でもかんでも面倒事の解決を引き受けてた感じだからなぁ。
そうだよな。
俺に甘えてくるのはいいが、甘ったれるのは許さん。
自分でできることを誰かに任せるってのは、任せられた奴が貧乏くじひかされっぱなしってことだからな。
……貧乏くじ、引きたくねぇってのが本音だが。
って……なんか、フィールドの方から慌てふためいてやってくる奴がいる。
フィールドで仕事してた冒険者か?
今日も集団戦は休みで、ここにはミアーノとンーゴ以外全員揃ってる。
……ってこの気配、そのミアーノじゃねぇか?
意外といつも冷静、つか、自分が巻き込まれた時でも割と客観的に物事を見るタイプなんだが……。
何やら叫ぶ声が聞こえる。
もちろんミアーノだ。
一人でこっちに近づいてきてる。
ンーゴはどうしたんだ?
「アラターっ! すまんーっ! やらかしちまったーっ!」
やらかした?
何があった?
通話機から着信音が鳴って、見てみたらシオンからの発信。
出てみたら、こんな用件。
戴冠式終わって昨日の今日、こっちに来るとか。
お前、王の自覚あるのか?
しかも、着信音が鳴った通話機は、俺のじゃないというね。
シアンいわく。
『私からの贈り物を受け取ってもらえたかどうかの確認も兼ねてな』
だそうだ。
戴冠式の式場を後にする際に、俺とヨウミ以外の全員に贈り物があるってんで、みんなに受け取らせた。
中身は通話機一つのみ。
って、でかい紙袋が思わせぶりなんだよ!
箱に入れて包み紙で包みゃいいだろうがっ。
まぁいいけどよ。
みんなが連れ去られたときに、全員通話機取り上げられて、それから行方不明。
多分処分されたんじゃないか、という話。
ちなみにシオンも取り上げられたとか。
それだけはまぁ……慰めの言葉の三つや四つくらいかけてあげにゃなぁ。
それはともかく。
「今からこっちに来るだぁ?」
『あぁ。並んでる客がそろそろいなくなる時間帯だろう?』
そこまで計算してやがる。
「面倒事をもちこまれる予感がする。来るな」
『よく分かったな。面倒事じゃなく、最近問題に挙げられてる一つだ。何大したことじゃない。来るな、と言うなら、それは間違いなく行っても問題ない状況だな。ではまた後で』
……そうか。
冷静に「来るな」と言ったから駄目だったんだ。
感情的に、相手に危険が及ぶかもしれないという心配をしているように見せかけなきゃならなかったか。
……演技力、身に付けなきゃな。
※※※※※ ※※※※※
「というわけで来てみた。ヨウミも、みんなもこないだは来てくれてありがとう」
「あ、こんにちは。親衛隊のみんなも……って、全員じゃないわね」
いや、のんびり挨拶するところじゃねぇぞ? ヨウミ。
「早ぇよ!」
あまりに早すぎる。
こっちは戴冠式に、出発から到着までどんだけかかったと思ってんだ。
「今から行く、と言ったろ?」
通話機の会話が終わって約十分後。
親衛隊の数人と一緒にやってきた。
どういう手段を使ったのか。
「みんな、いらっしゃいませ。遠路はるばる……」
「コンニチハー」
「こんにちは、クリマー、ライム。それとみんなも」
「久しぶりだなお前ら。戴冠式んときは流石に顔も合わせられなかったからな」
お前らは反応遅いなおい。
「瞬間移動の発着地点があってな」
あ、そんな話、前に聞いたような。
「残念ながら、その位置は教えられない。悪用されたらかなわないからな」
そらそうか。
で、何の用で来たのやら。
「君のこともあるし、我々の間柄のこともある。型通りの挨拶は抜きにしても構わんだろう? ということで早速本題だ。国の抱える問題の一つを解決すべく、アラタにお願いしたいと思ってな」
「お願い?」
なんじゃそら。
「うむ。ちょっと遠回りな説明になるが……」
大臣の謀反の事件を収めてからは、王政の体制をいろいろと変えたんだと。
そのどでかい改革の一つが……。
「旗手のみんなを、それぞれの世界に戻ってもらった」
「え?」
「嘘……」
「それってえ……」
「じゃあ……この後……」
「別の誰かを召喚するってことですか?」
「ダイジョウブナノ?」
てことは……。
「……芦名はどうなった?」
「ん? あ、あぁ、彼とは浅からぬ因縁があったんだったな。彼にも帰っていただいたよ」
「え……」
いともあっさり……。
これまでの事を考えたら、あいつには吹かせるのなら一泡だけじゃ全く足りない。
だが、もうどの世界からも誰もここに来ないと言うなら……思い出すたびに辛い思いをする過去を振り切る絶好の機会、だよな……。
けれど、魔物の泉現象、雪崩現象は普通に起きている。
その対抗手段である旗手の存在をなくしたってことは……。
「この世界の、我が国の問題は、この世界、我が国の者達で解決すべき、ということでな」
「でき……るかどうかはともかく……昔はそうしてきたんだよな」
シアンの告白のときに、旗手イコール勇者の存在の話も聞いた。
その手段を復活させるってことか。
「けど、誰を旗手の代わりにするんだ?」
元旗手だからっつーことで、俺がその矢面に立つのは勘弁……。
いや、待てよ?
こいつ、俺にお願いしに来たっつったな?
「おい、シアン。俺は……」
「あぁ、アラタにお願いするのはその件じゃない。それはこっちですでに計画を進行してるしな」
おっと、フライングだったか。
「ただ、旗手、そして勇者と呼ばれた時代から、この問題はあったんだ。さほど深刻じゃなかったがな」
「回りくどいな。だが現象の話が出てきたってことは、それに絡んだ問題か?」
「うむ。その被害は少なからず存在していた。魔物によって失われた命の数なんか、とても数えられるもんじゃない」
「俺に弔いの仕事はできねぇぞ?」
その仕事は国教に任せりゃいいだろうが。
どんなに体制を変えようとも、あの連中には近づきたくない。
前国王と一緒に俺をいいように扱おうとした団体だからな。
「亡くなった人への対応じゃなくて、その遺族への対応を頼みたいんだよ」
「死亡保険制度があるたぁ思わなかったな」
「死亡保険? なんだい、それは」
保険制度、ないのか。
……面倒事は避けたい俺が、藪蛇しちまったか?
「まぁその話は改めて後で聞こう。遺族の問題だ」
「遺族?」
ますます保険の話めいてきたような気がする。
そうなると、投資の考え方とかも必要になってくるが……。
「一家の大黒柱は、大概家族を守ろうとする。だが自分が助かる、自分も助かるという例はほとんど見ない」
自らを犠牲にして家族を助ける。
生き残った家族は、助かってよかったね、と喜んでばかりもいられない。
「大黒柱を失ったから、今後どうやって生きていくか不安になるってことよね」
「うむ。ヨウミの言う通り……って、ヨウミも?」
「ん……詳しい話は聞かなかったけど……」
そう言えばヨウミも、祖父さんと二人で宿を経営してたもんな。
理由は何であれ、働き手を失った家族がその後も生活していくには……ハードル高ぇよな。
「あたしのとこはまだいいよ。近所とか村中が、困ってる人達を助けながら、支えながら生活できてたし、今でもそんな感じだと思う。王都に近いから、人口が減るってことはほとんどないと思う」
物流がいいだろうからな。
ベッドタウンにも向いている、と思う。
まぁそんな社会事情はおいといて。
「で、その話の続きは?」
「あ? あぁ。ここで生活する術を身に付けることも兼ねて、バイトを雇ってくれるだろうか、と思ってな」
寝耳に水。
できるわきゃねぇだろ。
そんな指導力あるわきゃねぇし、バイトってことはバイト料も出さにゃならんってことだろ?
つか、もし本腰入れてその話を引き受けるとしても、何を任せていいか分からねぇじゃねぇか。
大体どんな奴が来るかも分からねぇ。
「無理だろ、それ」
「うむ。そういうとは思ってた。だが、こっちの勝手な皮算用何だがちょっと話を聞いてくれないか?」
まぁ……聞くだけならタダだ。
「アラタの仕事は、おにぎりの製造と販売だな? そしてアラタ抜きではこの店は成立しない」
「当然よね。あたしにどんなにコケにされても、アラタなしじゃこの店は成り立たないもん」
シアンもコーティも分かってんじゃねぇか。
つか、分かってんならもう少し俺への対応改めろ!
「じゃあアラタがいなくなったらなぜ成立しない? それは、おにぎりの食材である米の選別ができるから、だな?」
「だよね。で、選別して洗米した大量の米を、ライムとテンちゃんを中心に運搬を手伝ってる。あたしもそれなりに力はあるけど、テンちゃんの体格は大きいし、ライムは体を変化させられるから、大量の米を一度で運べるから」
「ですよね。マッキーの言う通り。私もそれなりに運べますけど、ライムさんほど体を大きく変化させることはできませんし……」
「俺もお、時々手伝うけどお……」
「モーナーハ、ダンジョンノクッサクノシゴト、アルモンネ」
「そこだ」
「どこだよ」
ライムの後、間髪入れずにシアンが入り込んだが、何のことか分かんねぇよ。
「アラタじゃなくてもできる仕事がある、ということだ」
「それをそんな人達に任せてほしいって言うの?」
「ヨウミの言う通り。アラタには新たにしかできない仕事に集中してもらえたら、と思う」
「バイト料、出す余裕はねぇぞ? 集団戦で得た利益は桁外れにでかいが、新人どもの資金不足にあてがうからな。集団戦の利益を店の収益に回す気はねぇよ。こいつらへの手当ても必須だしな」
「いや、バイト料まで面倒を見てもらうつもりはない」
はい?
バイト雇ってバイト料出さねぇって、何か解決になるんか?
「米を洗うだの炊くだの、おにぎりを作るだの、そんな知識すら持ってない子供達にその仕事をさせることで、清潔を維持する心掛けも生まれるだろうし、他の職場に『こんなこともできるようになった』というアピールになる。バイト料よりも三度の飯の方がいいって言う子もいるだろうしな」
「飯代どうすんだよ」
「もちろんそう言うことも想像した。販売か所を増やすというのはどうだ?」
チェーン店かよ。
米がなきゃおにぎりは増えない。
おにぎり増えなきゃ、全店で品切れになっちまう。
「俺に馬車馬のように働けってか?」
「おにぎりのストックはないのか? それに、在庫ある時が開店日ってことにすればいいじゃないか」
ストックは確かに増えて来てはいる。
けどな。
「店はあっても、閉まってたり開いてたりっつー不定期営業じゃ、誰も買おうとしねぇだろ。つか、当てにされなくなっちまう」
「アラタ、どうしてここでしかあの店はやってないんだ? という声が多いのを知ってるか?」
なにそれ。
聞いたこたぁねぇぞ?
「新人冒険者の数は増えている。増加率はともかくな。だから、金銭のやりくりに困ってる者も多くなってる。ここに来ることすら難しい、遠くにいるそんな新人達もいる。切ない願いを持つ者達は決して少なくない。その店があるだけで有り難いと思う者もいるってことだ」
お前から言われてもな。
あの店がここにもあったらな、と思う奴は確かにいるだろうよ。
けど、店ができても利用してくれるたぁ限らねぇんだよな。
「でもなあ。この店出してもお、新人冒険者達があ、活動できるとこお、そこにあるのかなあ?」
……モーナー、相変わらず頭の切れがいいな。
思いつかなかった。
「そういえばそうね。薬代わりの気休めのおにぎりがいくつかあれば、彼らは活動できると喜んでても、実際に仕事が見つかるかどうか。仕事になるかどうか、よね。これで無敵! とか思い込んで、逆に被害が増えそうな気も」
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テンちゃんは、もう少し言葉覚えろ。
言わんとしてることは分かるが。
「薬代にも手が出せない。このままじゃ何の仕事もできない。そんな不安は減らせると思うし、心強さも生まれると思わないか?」
「おい、ちょっと待て」
「どうした? アラタ」
おかしくねぇか? この話。
確か、大黒柱がいなくなった家族に、何かしてやれないかって話じゃなかったか?
「話、ずれまくってねぇか?」
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そりゃそうだろうが……。
「もちろんこっちも、思い付きで対策を考えてたわけじゃない。アラタにも見返りがなければ、根本的な解決に繋がらない。もちろん他業種にも声はかけている。いくらこの店の人気が高いといっても、この店一つで国の課題を解決できるわけがないことくらい、私にも分かる」
つまり……俺が引き受けても引き受けなくても、いろいろと対応に取り組んでるってことか。
「引き受けていいんじゃない?」
ヨウミ! いきなり何言い出しやがる!
「おい」
「まずね、おにぎりの店には全責任負うでしょ?」
「そりゃ……」
「集団戦のこともあるでしょ」
「まぁ……」
「みんなそれで手が一杯になったら、店の手伝いできる子ほとんどいないのよ。都合のいいときって言ってたけど、ドーセンさんのお米のこともあるでしょ。それと、みんなの休養日のことも」
うあ。
考えるだけで頭がいっぱいになる。
よくそんなことを日常でやりくりできてたな、今まで。
「アラタもほとんど休みなく働いてるし、休みを少しくらい増やしてもいいと思うんだ。どんな人でもお米運びなら少量ずつなら失敗することなく手伝えるだろうし、食費なら、貯金する額低くしたら賄えると思うし、間違いなくアラタは選別作業に集中できるよ? 他にお店を作るって話は先を見過ぎだけど、そういうお手伝いの件は、期限決めて試してみてもいいんじゃない? シアンも、いきなり本腰入れてやろうってつもりじゃないんでしょ?」
「もちろんだ。うまくいかなきゃ、それで引き起こされる問題はこっちで引き受けるさ」
余計な仕事が減るってのは……楽できるってことだから……。
やってみてもいいかな。
何でもかんでも面倒事の解決を引き受けてた感じだからなぁ。
そうだよな。
俺に甘えてくるのはいいが、甘ったれるのは許さん。
自分でできることを誰かに任せるってのは、任せられた奴が貧乏くじひかされっぱなしってことだからな。
……貧乏くじ、引きたくねぇってのが本音だが。
って……なんか、フィールドの方から慌てふためいてやってくる奴がいる。
フィールドで仕事してた冒険者か?
今日も集団戦は休みで、ここにはミアーノとンーゴ以外全員揃ってる。
……ってこの気配、そのミアーノじゃねぇか?
意外といつも冷静、つか、自分が巻き込まれた時でも割と客観的に物事を見るタイプなんだが……。
何やら叫ぶ声が聞こえる。
もちろんミアーノだ。
一人でこっちに近づいてきてる。
ンーゴはどうしたんだ?
「アラターっ! すまんーっ! やらかしちまったーっ!」
やらかした?
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幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
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これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
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旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
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