勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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王宮動乱編

アラタの、新たな事業? その4

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 夜の十時を回った。
 ゆっくりのんびり休みたい。
 が、シアンをはじめとして、解放してくれない。
 いい加減にせぇよ……。

「温泉宿開いたとして、賑やかになったらどうなると思う?」
「いいことじゃないか。商売繁盛……」
「ドーセンとこの客、減ったらどうする。因果関係がなかったとしても、そのタイミングでドーセンとこの客が減りだしたら、いい顔しねえだろ」
「そんなの簡単だよ」

 テンちゃんの気楽な声が、どうにも不吉なんだが。

「ご飯出さなきゃいいんだよ。お腹が減ったら、ドーセンさんとこに行くといいよって。あそこ、美味しいよって宣伝すんの」

 ……テンちゃんもなかなか考えるじゃねぇか。
 まぁ、悪くはない。だがな……。

「温泉宿にするっつったな? 経理とかどうすんだ? 入浴料に宿泊費を受け取るってこったろ?」
「え? アラタとヨウミがやったら?」
「おい」

 手が回るかよ!
 おにぎり作りに販売、それに集団戦の受け付けだのなんだのと。

「えっとテンちゃん、それは難しいかな」
「どーして? ヨウミ」
「受け付けはいつもいないとまずいでしょ。利用客はおそらく冒険者達が中心になると思う。訓練のキリのいいところで利用するならその時間帯は大体絞れるけど、仕事で来た人達が利用するとしたら、その時間帯って絞れないよね。誰かがずっと店番しないとダメだよね」
「私達は……集団戦の相手をしますから、その役目は無理ですね」
「デバンガナイヒトガヤレバイイトオモウヨ?」
「訓練の相手え、みんながするときの方があ、多いぞお」
「ミセバンガ、カナラズダレカガデキルトハ……イエナイナ」

 確かに、いつでも自由に風呂に入れる施設がありゃ、みんな有り難がるだろう。
 俺だって入ってみたいとも思うさ。
 だが、管理人してくれる奴がいない。
 責任者をやれる奴もいない。

「それはどうかな?」
「どうかな……って……、露天風呂の経営にまで手は回らねぇぞ? 収入が増えるのはうれしいが、目の前のうれしさに飛びついて人手不足に泣いて、泣く泣く閉鎖ってのも下らねぇトラブルだ」
「まず露天風呂だが、入浴料は高額にする必要はあるまい?」
「あ?」

 何でいきなり料金の話になる?
 シアンも気軽に考えすぎで、おまけに考えなしで物を言われても困るんだよ。

「仕事で来る者が入るとするなら、泊りなら自分らでキャンプするだろう。しかし風呂には入れない。が、露天風呂がここにできた。風呂の利用はしてもらえるだろう」
「それで?」
「つまり、宿泊の世話までする必要はないんじゃないか? タオルだのなんだのは、それぞれで用意してもらう。こっちは何も貸し出すことはしない」
「……すると……?」
「宿泊費は取らない。貸し出し料もない。しかしみんながこうして集まって食事をする場所は削られている。その分の負担をお金に置き換えて、それくらいの料金を入浴料にしたらどうだ?」

 どうだ? と言われてもな。
 今現在、こんなに大勢集まったら狭苦しくなっただの、不便になっただの、こっちにとって都合の悪さはあまり感じないが……。

「負担って……そんなに感じはしないが……」
「いや、利用者からは受け取るべきだ。でないと、好き勝手に使われてしまう。最悪、その施設を乗っ取ることまで考える奴が出てくるかもしれんからな」

 まぁ……おにぎりの店を真似して、こっちに閉鎖を押し付けようとした奴までいたからな。
 俺が作った露天風呂ならそれでもいいが、俺以外の力によるものの割合がでかい。
 経営権が存在するなら、俺の気まぐれでそれを放棄することは……。
 元々は洪水を防止するための策の一つだ。
 そんな事情を知らない者が、勝手にこれをいじるようなことがあったら……。
 遅かれ早かれ、村に危機が訪れる。

「……だが人手がない問題は相変わらず存在してるぞ」
「解決できるんじゃないか?」
「はい?」

 こいつ、ほんとにいきなり唐突に妙な事を言い出すな。
 どこにあるんだよ。

「言っただろう? 魔物襲撃などによる被害を受けて、働き手を失った家族に仕事を与えられないか、あるいは仕事を得るためのきっかけはないか、とな」
「……そんな人達に経営させる?」
「例えば料金が一人につき百円くらいにすれば」
「そんなんで生活できるかよ。百人利用して一万円の収入だ」
「維持費……例えば掃除道具の消費物購入とかを考えれば、さらに減るだろう。けど収入額が低いから、そんな人達にも代理で管理人の仕事を任せられないか? アラタ、お前はさっき、収入はいらない、みたいなことを言ったな?」

 あぁ。元々ついでにできたものだからな。
 これで左うちわの生活企んだら、罰が当たるだろうよ。

「ならこの施設で得た収入は、その仕事をした人達の給与にすればいい。別の仕事を探してますって宣伝もしながらな。そうすれば、管理人の仕事をする者を次々と回せるはずだ。この仕事をしっかり頑張っているという実績が得られるんだから、更に割のいい仕事を誰かが持ってきてくれる可能性は高い。経理の仕事だって、収入を持ち逃げされても、痛くもかゆくもないんじゃないか? アラタが本当にそう思っているならな」

 こいつ、ペテン師の素質でもあるんじゃね?
 なんか見落としがあるような気がしてならねぇんだが。

「けどよお、シアンさんよお、おりゃあ、それが上手くいくたぁ思えねぇんだどもな?」
「だから、お試し期間を設けたらどうか、と思ったんだが。お試し期間ってのは、もちろん雇われた者達に対してじゃなく、この施設とかに対してのことだ。うまくいかなきゃただの溜池にすればいい。うまく行ったら本腰を入れてもらいたい。この国の課題の一つが解消されていく事業の一つってことになるのだからな」

 雇った奴にケツ巻かれて、こっちに被害が出たとしても些少ってことか。
 そして俺の仕事の負担はかなり減る。
 おにぎり作りに販売を完全に誰かに任せりゃ、俺は俺にしかできない米の選別に集中できる。
 ……ってのは、シアンからこの話を聞いた時にも出てきた予測だったな。
 そしてお試し期間があるから、逆に俺の負担がでかくなることがあっても、その期間まで我慢すりゃいいんだ。
 長くても半月くらいにすれば……。
 まぁ……悪くないかもしれんな。

「そういう前提なら……その話、乘ってもいいかな。お前らは……」

 と続けようとした瞬間、仲間の女性陣から歓声が上がる。

「お風呂ーっ!」
「外の空気を感じながらよーっ!」
「楽しみですっ!」

 逆に親衛隊の面々からは、羨ましそうな声が上がる。
 美しさとかには、どんな立場の人でも憧れるもんなのかね。

「だがその前に」
「ん?」
「脱衣所、作らねぇとな。男女別だろ?」
「……えーと……混浴では……」
「陛下っ!」

 親衛隊の女性の面々に叱られる国王の図。
 ……ほんとに大丈夫か? この国……。
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