勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
304 / 493
王宮動乱編

アラタの、新たな事業? その7

しおりを挟む
「お前らの最初の仕事は米を洗うこと。けどまだ米がない。これからススキモドキがうじゃうじゃある所に行って、そこから米を採る。ある程度集まったら、小川で洗う。その後、洗った米を店に運ぶ。まずそれが第一段階だ」

 米運びは欠かせない作業。
 だがこんな子供らにはそんな総量を運ぶってぇとかなり時間がかかる。
 小川の傍のススキモドキ群で採集する方が、いくらかは作業は楽だろうな。
 もっとも、楽なのは比較上であって、実際の作業は楽なもんじゃない。
 もちろん重い荷物を持たせる気はない。
 だから何往復もさせなきゃならんが、適量の荷物を持たせても、往復で三十分くらいかかる、か?

「できるなら、おにぎりを作ってそれが売り物になるくらいにまで手順を覚えて技術を身に付けてもらいたい。でないと誰にも得することを与えられねぇからな。ただ、米集めは俺だけにしかできねぇから、それは覚える必要はねぇ。てか覚えられねぇことだから、無駄なことはしなくていいわ。他のことは知らんけど」

 現場まで先頭を歩きながら、後ろを突いてくるガキどもに聞いてほしいことは伝えとく。
 何のために何をするのか、を知ってもらうだけでも、物事の道理って奴は身につくんじゃねえか?
 知らんけど。

 後ろを突いてくるガキどもは六人。
 魔物が現れる場所でもねぇし、普通に運ばせるよりもバケツリレーで物運びさせる方が楽でいいか?
 にしても、どいつもこいつも俯きながら歩いてる。
 無気力というか、希望のない顔というか……。
 ま、どんな顔してても、やることをやってくれりゃ問題はない。
 が、その心中、反抗的な思いを持つ者も何人かいる。
 途中で投げ出したいなら投げ出しても構わんよ。
 事故さえ起きなきゃな。
 ガキらに何かを教えてやるってのは、俺に課せられた義務じゃねぇからな。

 ※※※※※ ※※※※※

 米袋三つ分。
 けど、普通の米袋一つをこいつらみんなで持ち上げようとしても無理だろ。
 ということで、一人でも持てる小袋いくつかに分けて、すぐそばに移動。

 洗った水の汚れが目立たなくなったら洗米作業終了。
 洗い場から店までの間を等間隔でガキどもに待機させる。
 俺が洗い場のところを受け持ち、残りの小袋の数を伝えながら次のガキに受け渡す。
 途中のところは俺の目は行き渡らない。
 が、その気配は察知できるし、買い物に来た冒険者が退屈しのぎに、ガキどもの監視をしてくれた。
 ガキどもの機嫌を伺う気はない。
 陰鬱な雰囲気に巻き込まれたい願望もない。
 が、魔物以外にも害を為す生き物はいるし、それなりに注意しながら作業を進める。
 ま、小さい害虫でもその気配は分かるから安全面ではほぼ万全な体勢だな。

「あ、アラタ、みんなもお帰りー」
「……お帰りなさい……」
「おう、ただいま。……お前らも挨拶しろよ」
「……」

 店に到着する前から、ヨウミと、仕事を教わってる連中からのお帰りの声が聞こえた。
 集団戦の受け付け手伝い達は、それなりに挨拶できるが、こっちはほぼ無反応。
 なんだかなぁ。

「さて、全員いるな? 米の洗い方は分かったろ? 物運びは他の職場で役立つかどうかを知らんからどうでもいい。あとはおにぎりを作るだけだが……手洗いとうがいはちゃんとしろ。失敗作は売り場には並べねぇけど、売り場に並べるレベルなら、食う人の安全も考えんといかんからな。これは他の職場でも役立つことだ。覚えとけ」

 みんなが俯いてる。
 何つーか……やる気がある顔じゃねぇよなぁ。
 言われたことをそのままやる人の顔だ。
 まぁ下らねぇ反抗を見せられるよりはいいけどさ。
 手洗いとうがいは一応監視する。
 手抜きとかがあったらまずいからな。
 そしていよいよおにぎり作り。
 最初は塩おにぎりのみで練習。
 売り物にはまずできない。
 なんせ作るのはガキどもだ。
 大きさが規格外。

「手に水つけ過ぎるとボロボロこぼれるからな。つけないでいると、手にくっついておにぎりができない。ここら辺は経験積んで、いい塩梅ってやつを知るべし、だな。……ほう、みんなそれなりに……悪くねぇな」

 大きさ以外は問題ない。
 あとは塩加減とかいろいろあるが……。
 だがそれにあんまり時間は割けられなかった。

「あー……まぁいいか。午後からでも取り組みゃそれでいいやな。よし、お前ら、昼飯の時間だ。そっちの受け付け組も昼飯にするぞー」
「え?」
「おひるごはん、たべられるの?」

 昼飯代の心配はしていた。
 だが昼飯の心配はまったくしてなかった。

「お前らが今作ったおにぎり、作った分は食えるだろ」
「う……うん」
「足りねぇ奴は、お手本を食ってみろ。ただし自作のおにぎり全部食ってからな」
「え?」
「いいの?」
「ほんとに?!」

 ……何だこのハイテンション。
 しかも店の方にいた受け付け担当組からも驚いた声が聞こえてきた。

「まぁおにぎりだけだと栄養が偏るから……おかずになるようなもんは注文してやるよ。ただし俺らは別だがな」

 ……ガキどもの歓喜の声って、どうしてこう甲高いんだ。
 うるせぇ!
 うれしいのは分かったから、少し黙れっ!
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...