勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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王宮動乱編

アラタの、新たな事業? その10

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「さて、昼飯にするか。ここんとこ割とマシなもんつくるようになったから、番台組にも持って行くか。おい、お前らも手伝え。大量の米よりは軽いしよ」
「はいっ!」

 何人かのガキどもの元気のいい声が返ってくる。
 一人で行くよりも手間は省けるしすぐにその用も終わる。
 こっちもとっとと飯食って、とっとと昼休みしてもらって、とっとと午後のお仕事といきたいもんだ。
 が……。

「……どうせお前らも、俺らを追い出すんだろ」
「あ?」

 反抗するガキの声。
 気配の察知を感じ取るまでもない。
 子供だから、大人から暴力を振るわれるほどの被害はないだろうが、手あたり次第暴れまくられるとある意味大人の暴力より始末に負えねぇ。
 もっとも今まで俺に降りかかってきた被害を考えるとなぁ。
 どんなに暴れられても、可愛く思える程度の被害しか思い浮かばん。

「おい、やめろよリーベ」
「うるせぇ! お前ら忘れたのかよ! 俺らが今までどんな扱い受けてきたか!」

 ……まためんどくせぇ奴が来た。
 また面倒なトラブルがやってきた。
 そういうことだな。
 ……ほんとに面倒くせぇなオイ!

「あの施設に入る前は、俺らが住む家と暖かい布団と、おいしいご飯用意してあげるとか言われただろ! なのに、住む家は確かにあるけど風とか入ってくるし、布団だって一人分なのに二人とか三人で使ったり、ご飯なんか一日二回だけだろ!」

 そりゃ確かにひでぇ話だな。

「けどリーベ、あそこに入る前は虫に刺されたりとか、獣に襲われかかったりとか……安心して寝られなかったじゃないか。一日中食べ物食えなかったこともあったよ?」
「そんな暮らしになる前は、普通に生活してたんだよっ。できてたんだよっ! なのに……」

 人の過去の話は聞きたくねぇなぁ。
 たとえ子供でもな。

「でも、知らない人からうちにおいでって言われてよぉ……。言われた先の家でいじめられて……みんなのところにすぐに戻りたかったけど、すぐに戻れなかったんだよ! 戻らせてくれなかったんだよ! 我慢してたけど……」

 下らねぇ。
 ……下らねぇのはこいつの過去の話のことじゃねぇ。
 今ここで、昔話に時間を使うのが下らねぇっての。
 ったく……。いつまで聞かせられなきゃなんねぇんだ?
 で、いつまで振り回されなきゃなんねぇんだ?

「ふーん。で、どうすんだ」
「あぁ?!」
「お前らの昔の事なんか知らねぇよ。俺の昔の話だって、お前ら別に聞きたかぁねぇし聞く気もねぇんだろ? 話す気もねぇし。それより今しなきゃならねぇことがあんだよ。それをするかしないかどっちだ?」
「どうせ、お前ら大人なんか」
「んじゃ戻っていいぜ? やりたくもねぇのに無理やり連れてこられたんなら、すぐに迎えに来てもらうさ。ここは仕事を無理やり押し付けて働かせる場所じゃねぇ」
「え……」

 ……こいつら、ここでの説明聞かされてねぇのか?
 ヨウミが近づいてきた。
 けど気にとられてる場合じゃねぇよな。

「ここでしてもらう仕事は、午前中にやったことが中心だな。仕事を覚えちまえば、お金をもらえる仕事に就きやすくなるんじゃねぇかっつー上の人達の配慮なんだよ。お前みたいな子供は、まだどこからも声はかかってねぇが、大人の人は何人か声がかかって仕事紹介してもらってたぞ?」
「それがどうした! 俺達は……」
「いい争いしてる間に、温泉の番台組はお昼ご飯を食う時間を削られ、十分休めないまま午後の仕事にかからなきゃならなくなる。やりたくないならやらなくてもいいさ。でも手伝う気がない奴をここにいさせるつもりはねぇよ。お前らのような奴らの面倒を見る仕組みでも組織でもねぇからな」

 家族と一緒に暮らしてる同年代の子供を羨ましがってんだろうな。
 親と生き別れたか死に別れたか。
 その境遇は可哀想とは思うがな。

「お店の外にも聞こえるわよ? ……大人は耐えられることはあるけど、この人も相当苦労してきたのよ?」

 ヨウミが口を出してきた。
 苦労の自慢話なんて、興味のない奴には耳障りでしかないこともあるんだが。

「止めろ、ヨウミ。聞く耳を持たねぇ奴に聞かせたって聞きゃしねぇよ。こいつの過去は俺には関係ねぇし、俺の過去もこいつらに関係ねぇ。聞いてもらったところで過去が変わるわけじゃねぇし、聞いてもらいたいなら相手が間違ってる」
「だってアラタ……」
「とにかく番台組におにぎりとおかず持ってってやんねぇと。こいつら運ぶ気がねえから仕方がねえ。そっちでやってくれるか?」

 手伝いにやってきた全員に飯を食わせるってのは、この役目を引き受けたことでできた作業でもあり、仕事でもある。
 だから拒否した奴がいたとしても、他の奴らは仕事をしてるわけだから、飯の配達はしてやんねぇとな。
 こいつらにその仕事をする気がねぇんなら、やる気のある奴に頼まなきゃな。

「え、えぇ……いいけど……」
「んじゃそっちの組の手伝いにも運ばせな。一往復で済むだろ」
「うん。じゃ行ってくるね。……みんなー、お昼前の一仕事だよー」

 ……これくらいの時間の遅れなら問題ねぇか。
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