勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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王宮動乱編

アラタの、新たな事業? その11

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「……さて、お前らはどうしたい?」
「……いや、この子とみんなを一緒にしないでください。僕は手伝いを続けたいです」

 大人の一人が即座に反応。
 まぁそりゃそうなんだがな。
 けど……そうか。
 足並みが乱れてるって感じがするんだよな。
 これ、こいつらのやる気がまちまちだってこととおんなじだったんだな。

「やる気があるけどやれないって場合もあるよな。やりたいかどうか、じゃねぇ。やるかどうか、なんだ。文句はあるが、仕事を覚えて注意されずとも失敗なく仕事ができるんなら問題はねぇんだが」

 うん。
 結局、結果を出せるかどうか、なんだよな。
 結果を求める者は、うちの場合は全員客なんだ。
 買い物をした客が満足してくれれば、その品物には作り手の誠意がこもってるっつーことだからな。
 真心こめましたって言われて出された品物が、こっちの要望に全く応えてくれなきゃガラクタも同然。
 やる気がなくても成果を出してくれたんなら、その態度には文句はないんだが、それできちんと仕事をしてくれるかどうかの心配はしちまうよな。

「オレは、お前がみんなの世話を」
「何でだよ?」
「あぁ?!」
「何でお前らの世話をしなきゃなんねぇんだ? 俺は、手伝いをさせてもらえないだろうか? という相談を受けて、その理由なんかの話を聞いて、そういうことなら引き受けてもいいっつーことで、お前らがここに来るようになったんだが?」

 話が食い違ってるのか。それとも俺がこいつらの世話をするという、このガキの思い込みなのか。

「だからここに手伝いに来るってのは、みんなやる気があるかどうかは別として、指示通りに作業をしてくれるもんだと思ってた」

 嫌がる奴には仕事をやってもらうつもりはねぇ。
 けど、嫌がりながらもここに来る奴はいるかもな、とは思ったことはあったっけ。
 ……そうか。
 俺が自分のことを嫌に思えてきたのは……それが原因か。
 頭っから何かに対して、これはこうだと決め付けてた。
 俺がされて一番嫌だったことじゃねぇか。
 三波なら、こういうことをしても問題ない。
 新なら、こういうことをされても文句は言わない。
 三波なら、こういうことをされて当然だ。
 新なら、こういうことをされても仕方がない。
 こういうことをされる理由が、三波新だから。

 ……決め付けてんじゃねぇよ。
 何も知らねぇくせに。

 ……いつもいつも、心の中で絶叫しながら文句を言っていた。
 ……いつもいつも、心の中で絶叫しながら文句を言われてる奴と同じ気持ちになってた。

 これは……猛省すべきことだ。
 注意すべきことだ。
 あんな奴らと一緒になりたくはないっ!

「……仕事させる前に確認しなきゃならんことだったな。手伝いに来てくれた奴は、みんなやる気があって、最後までやり通そうとする奴らばかりだ、と思い込んでた。無理やりここに連れてこられた可能性を考えてなかった」
「そんな……って……、まぁ、そうかもしれませんが……」

 このおにぎりの店はこいつらにとってどういうものか。
 その認識を確認すべきだったな。
 こっちは、少なくともこいつらの仕事にさせる気はねぇし、強制する気もねぇ。

「……そうやって俺達を放り出す気だな?」

 ……このガキは相変わらずうざってぇ。
 放り出すも何も、生涯面倒を見ろ、なんてことも言われてねぇし。

「仕事する気がねぇなら帰ってもらっても構わねぇってこと。こういう時にはこういう作業が必要だ、ってなことを、知りたい奴には教えるが押し付ける気はねぇっての。そもそもお前はここに、面倒を見てもらうために来たんか? もしそうなら、来たこと自体間違ってた。この場所はそういう場所だと教わったんなら、教えた奴が間違って解釈してた。どのみち俺は謝るつもりはねぇよ。間違ったことはしてねぇんだから」
「おっ……大人のくせにっ……!」

 過去に何かがあって、そのせいでどうこうってんならなおの事。
 俺にできることっつったら……。

「で、お前はこれからどうなりたいの。何したいの?」
「そうやってごまかしてんじゃねぇよ!」
「……誤魔化さずに、お前の要望を聞き入れたとする。で、お前はこれからどうなりたいの? どうしたいんだよ?」
「あぁ?!」
「この世界、この社会で生きてること自体変わらん。生きてる以上何かして生きていくわけだ。生きていくうちに大人になる。仕事してない奴もいるかも分からんが、大概仕事をしてるはずだ。ごねたりしたって時間は止まっちゃくれねぇんだよ。何でもかんでも甘えられる年齢は過ぎちまう。自分で立ち上がって自分で何かをしなきゃ生きていけねぇんだよ。他のガキが家族に甘えてる間、お前らには甘える相手がいなくてムカつくこともあるだろうよ。けど、そいつぁそれぞれが受け入れなきゃならねぇ現実だ」

 周りがそんな環境になったのは、周りの人達のせいってことはあるだろう。
 けど、今の周りの連中のせいとは限らねぇし、失った人の命と失った時間は、誰にも取り返すことはできねぇんだよ。例えどんだけ強く地面を叩いても、どんだけでけぇ声で天に向かって叫ぼうともな。
 なのに、その程度の声で、しかも俺に向かって怒鳴ったって、なおさら事態は変わらねぇ。

「その現実を受け入れられないなら、生きづらくなるだけじゃねぇの? 生きづらくならねぇ役に立ちそうな知識とかを、ここで身に付けられる限り身につけていけってだけのことで、お前らの過去のどうのこうのっつーことは担当外。そっちは他の誰かに任せるさ。お前もここで何だかんだと吠えるより、その相手がどこにいるか探し求める方が、よほど時間を無駄にせずに済むってもんだ」

 全員無言。
 分が悪くなると黙るってのも何とかしてほしい人間のサガ。
 別に責めてるつもりはねぇんだがな。

「で、どうすんだ? つか、お前は帰ったほうがいいな。そういう思考がこびりついてんだ。そのままここでの仕事したって、身につくまでは人よりかなり長い時間が必要になるぜ? ……おぅ。一人急遽帰宅希望。大至急迎えに来てくれ。あぁ、昼飯前だ。頼むぜ?」
「え?」
「戻るんなら早い方がいいだろ? それにお前はここに来たのは今日初めてだろう。身に付いた仕事もねぇだろうし」
「さ、差別してんじゃねぇよ!」
「差別なんかしてねぇよ。俺から見たら、差を作ったのはお前自身だからな。騒ぐことがなきゃ、今頃はみんな一緒に昼飯食ってる最中だろうよ」

 付き合ってられん。
 過去にこだわるなら、ここに居られても作業の邪魔になるだけだ。
 昼飯を準備している間、連絡したシアンからの指示を受けた親衛隊がやってきた。
 そして反逆のガキは彼らに連れられて一緒に店を後にした。
 身に覚えのないことで八つ当たりの対象にされるのも面倒なもんだよなぁ。
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