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舞姫への悲恋編
そっちとこっちの境界線 その1
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「おい、メイス」
「……え? あ、はい……」
「誰かと何かを比べてんじゃねぇよ。お前の初手柄祝いの席だろうが」
メイスの視線は目の前のテーブルの上。
明らかに戸惑いと嫉妬と自虐の感情が感じ取れる。
それは俺だけなんだろうか。それとも周りにいる奴らもだろうか。
まぁ肩をすくめて背を丸くしてる姿勢を見たら、その心の内は誰にでも分かるか。
「冒険者の誰かと比べてたら、お前なんか無名も無名。ましてやほかの社会人と比べてたら、ほんとにひよっこだぜ?」
「……でも」
「それでもこうしてお前のために、この席を設けてもらってんだろうが。初手柄挙げても祝ってもらえねぇ奴らなんかごまんといるだろうよ。それを普通に祝ってもらえるどころか、こうして特等席まで用意してくれてんだぞ? そういうこと分かってんだろ?」
「……う……」
幼い頃は自分と同じ境遇だったのに、社会的立場では今はこんなに差が開いて、条件反射的に応対してもらえる人が隣にいて、自分にはまともに接してくれない、とでも思ってんだろうな。
……まさに子供の頃の俺じゃねぇか。
だが、俺もメイスに嫉妬してしまう。
俺の周りには、シュルツ達のように、こいつのことを見守ってくれる存在がいなかった。
俺にもそんな大人が周りにいたなら……。
いたなら……今頃はどうなってたんだろうな。
想像もつかん。
「あ、あの、お疲れさまでした。メイスさん、で……あ……」
「う……うん」
「マイル、君……?」
ほら、彼女さんの方の感情が変わった。
仕事モード、そしてそんな感情の中で、会えるとは思っても見なかった憧れの一人を目の前にした時のうれしい感情。
ところが幼馴染を前にした時の感情は、会いたくても会えなかった悲しみが癒えたような感情と懐かしくてうれしい感情に変わってる。
顔の表情も、さすがに仕事モードが崩れそうになってる。
「……あぁ、うん。メイ」
おっと、そりゃまずい。
「おぅ、メイス」
「は、はいっ!」
俺が何かをやらかして、店から出禁を言い渡されるのは、そりゃ納得がいく。
だが連れ込まれて、連れ込んだ奴がやらかして、俺が巻き沿い食らって出禁になるのは気に食わん。
例え今後、この店に来ることがなくなったとしてもだ。
「俺達は、仕事が終わってのんびりとプライベートタイムだ。だからといって、その時間に入った店はお仕事の時間帯だ。ましてや、この踊り子さんとは初対面だろう?」
「え? いや、俺と」
「お前は踊り子さんから酌してもらって、そしてお話しするんだよな? お前に酒を注ごうとしてる彼女は、踊り子さんだよな。そして踊り子さんの名前はマイヤ・パッサーさんだ。だよな?」
「え、あ、はい。そうです。えっと、先程は失礼しましたあ」
踊り子っていう仕事だから、歌や踊りさえしっかりできてればいいってものでもないらしいな。
客に酌することも、知名度を上げるための必要なプロセス、らしい。
マイヤはかなり取り乱している。
が、流石プロ。メイスに酌をする手や態度、姿勢からは何の乱れもなさそうだ。
それに比べてメイスは……。
俺を連れてこなけりゃ、まだましだったかもな。
彼女は、俺が誰かってことを知ってたからそうなったんだから。
まぁそんなことよりもだ。
「ちょっと遠いだろうから、隣に座ったら?」
「え? あ、そうですね。ありがとうございます」
テーブルの反対側から飲み物を注ごうとするが、やや遠い。
体と腕を伸ばして注ぐにはちょっと窮屈そうな姿勢。
けど、そんな気配りを俺がしていいものかどうか。
けどメイスは、こんな店に来たことはないだろうから、そんなことも言えるはずもなかろうし。
俺とメイスの間に座っていた女性は「あ、そうですね」っつって慌てて席を立ったが……。
あとは、この二人の間だけの会話。
まぁ本筋からずれそうなら、横から口出しして修正してやってもいいが……ちょいと水差してやるか。
「今お前らが会話ができる時間ってのは、お前が店にいる間中ってわけじゃねぇだろ。そして……全国飛び回ってんなら、この時間が終わったらすぐに別の町に行くってわけでもなかろ? 何日間か滞在すんじゃねぇか? 限られた時間内で、限られた財力で、いかにして会話できる時間を引き延ばすか、あるいは取り次ぐか、だが……それはメイスの気持ち次第かな?
※※※※※ ※※※※※
「あの……」
「ん……んん……?」
……いつのまにか寝ていた。
ぼんやりとした視界に入ってきたのは、目の前のテーブルの上にある、食い散らかされていたいろんな酒のつまみが乗った皿の数々。
俺に声をかけてきたのは……踊り子のマイヤ。
その向こう側に、心配そうな顔で俺を見ているメイス。
時間はどれくらい経った?
って、腕時計とかはしてないし、店内にも時計はない。
……あ、通話機に時間の表示があったっけな。
夜の……十時半?
確か店に入って一時間くらいしてから彼女がステージに出てきて、一時間くらいで終わったような気がする。
九時過ぎごろに彼女が酌に来て……随分長話してたんだな。
まぁ幼馴染だからネタは尽きねぇか?
「あ、あの……アラタさん、大丈夫ですか?」
「……眠くなったから寝てた。それだけだな。……俺、そろそろ帰ろうかな? 俺は主役のメイスのおまけだしよ」
「え? もう帰るんですか?」
びっくりしたのはメイスだった。
保護者が必要な年じゃねえだろうし、頼れる大人は俺じゃなくてシュルツ達だろうに。
「お前らはどうか知らんが、俺は基本的に年中無休なんだよ」
「でもヨウミさんは、アラタさんは仕事してる以外はいつも寝てるとか……」
おい、言い方。
「え、えっと、私もアラタさんとお話し……」
二人の感情の気配は随分落ち着いている。
俺がしゃしゃり出る必要はなさそうだ。
「米の仕分けは俺でしかできねぇからよ。それにお前らと俺で会話が弾むたぁ思えねぇしな。こっちはおにぎり屋。そっちは冒険者。それに、お前はこんな店に滅多に来るこたぁできねぇだろうから、お邪魔無視はいなくなるから時間の限りゆっくりしてけや」
「あ、あの、アラタさんっ」
踊り子から声をかけられるが、どうせシアンと顔つなぎを頼みたいんだろ?
何か期待したい感情がありありだ。
面倒な奴に絡むのも絡まれるのもご免だ。
他の連中も女の子達とお喋りの楽しみにどっぷりと浸かってて、俺の飲食費はフリーみたいなこと多分すっかり忘れてんじゃねぇかなぁ。
万が一に備えて手持ちの全財産持って来ててよかった。
「アラタさんっ。アラタさんともお話ししたいんですけど……」
「悪ぃ。ちょっとトイレ」
「トイレなら、まぁいいか。マイヤ、さん。すぐ戻ってくるだろうから……」
悪いなメイス。
俺はここらで退散だ。
もちろん、俺が食った分は払っていくがな。
でも交通費の方が高くつくかなぁ……。
えーと、おあいそはカウンターで聞けばいいのかな?
「え? お帰りですか? 他の方々は……」
「俺だけ先に帰るわ。あとでトラブルになっても困るから、俺の分だけ支払って帰る」
「は、はぁ……。えーと、二万五千円になります」
高っ!
まぁ支払えない額じゃねぇし、交通費代もあるし……仕方ねぇなぁ。
「馬車とかあるかなぁ」
「待機してる馬車がいくつか停まってるはずですから……」
そいつぁ助かる。
「でも……サキワ村、でしたか? 二万三千円くらいかかりますよ?」
そいつぁ助からん。懐具合が。
……しばらくお仕事頑張って、給与は売上に合わせて上げてもら……えるかなぁ……。
「……え? あ、はい……」
「誰かと何かを比べてんじゃねぇよ。お前の初手柄祝いの席だろうが」
メイスの視線は目の前のテーブルの上。
明らかに戸惑いと嫉妬と自虐の感情が感じ取れる。
それは俺だけなんだろうか。それとも周りにいる奴らもだろうか。
まぁ肩をすくめて背を丸くしてる姿勢を見たら、その心の内は誰にでも分かるか。
「冒険者の誰かと比べてたら、お前なんか無名も無名。ましてやほかの社会人と比べてたら、ほんとにひよっこだぜ?」
「……でも」
「それでもこうしてお前のために、この席を設けてもらってんだろうが。初手柄挙げても祝ってもらえねぇ奴らなんかごまんといるだろうよ。それを普通に祝ってもらえるどころか、こうして特等席まで用意してくれてんだぞ? そういうこと分かってんだろ?」
「……う……」
幼い頃は自分と同じ境遇だったのに、社会的立場では今はこんなに差が開いて、条件反射的に応対してもらえる人が隣にいて、自分にはまともに接してくれない、とでも思ってんだろうな。
……まさに子供の頃の俺じゃねぇか。
だが、俺もメイスに嫉妬してしまう。
俺の周りには、シュルツ達のように、こいつのことを見守ってくれる存在がいなかった。
俺にもそんな大人が周りにいたなら……。
いたなら……今頃はどうなってたんだろうな。
想像もつかん。
「あ、あの、お疲れさまでした。メイスさん、で……あ……」
「う……うん」
「マイル、君……?」
ほら、彼女さんの方の感情が変わった。
仕事モード、そしてそんな感情の中で、会えるとは思っても見なかった憧れの一人を目の前にした時のうれしい感情。
ところが幼馴染を前にした時の感情は、会いたくても会えなかった悲しみが癒えたような感情と懐かしくてうれしい感情に変わってる。
顔の表情も、さすがに仕事モードが崩れそうになってる。
「……あぁ、うん。メイ」
おっと、そりゃまずい。
「おぅ、メイス」
「は、はいっ!」
俺が何かをやらかして、店から出禁を言い渡されるのは、そりゃ納得がいく。
だが連れ込まれて、連れ込んだ奴がやらかして、俺が巻き沿い食らって出禁になるのは気に食わん。
例え今後、この店に来ることがなくなったとしてもだ。
「俺達は、仕事が終わってのんびりとプライベートタイムだ。だからといって、その時間に入った店はお仕事の時間帯だ。ましてや、この踊り子さんとは初対面だろう?」
「え? いや、俺と」
「お前は踊り子さんから酌してもらって、そしてお話しするんだよな? お前に酒を注ごうとしてる彼女は、踊り子さんだよな。そして踊り子さんの名前はマイヤ・パッサーさんだ。だよな?」
「え、あ、はい。そうです。えっと、先程は失礼しましたあ」
踊り子っていう仕事だから、歌や踊りさえしっかりできてればいいってものでもないらしいな。
客に酌することも、知名度を上げるための必要なプロセス、らしい。
マイヤはかなり取り乱している。
が、流石プロ。メイスに酌をする手や態度、姿勢からは何の乱れもなさそうだ。
それに比べてメイスは……。
俺を連れてこなけりゃ、まだましだったかもな。
彼女は、俺が誰かってことを知ってたからそうなったんだから。
まぁそんなことよりもだ。
「ちょっと遠いだろうから、隣に座ったら?」
「え? あ、そうですね。ありがとうございます」
テーブルの反対側から飲み物を注ごうとするが、やや遠い。
体と腕を伸ばして注ぐにはちょっと窮屈そうな姿勢。
けど、そんな気配りを俺がしていいものかどうか。
けどメイスは、こんな店に来たことはないだろうから、そんなことも言えるはずもなかろうし。
俺とメイスの間に座っていた女性は「あ、そうですね」っつって慌てて席を立ったが……。
あとは、この二人の間だけの会話。
まぁ本筋からずれそうなら、横から口出しして修正してやってもいいが……ちょいと水差してやるか。
「今お前らが会話ができる時間ってのは、お前が店にいる間中ってわけじゃねぇだろ。そして……全国飛び回ってんなら、この時間が終わったらすぐに別の町に行くってわけでもなかろ? 何日間か滞在すんじゃねぇか? 限られた時間内で、限られた財力で、いかにして会話できる時間を引き延ばすか、あるいは取り次ぐか、だが……それはメイスの気持ち次第かな?
※※※※※ ※※※※※
「あの……」
「ん……んん……?」
……いつのまにか寝ていた。
ぼんやりとした視界に入ってきたのは、目の前のテーブルの上にある、食い散らかされていたいろんな酒のつまみが乗った皿の数々。
俺に声をかけてきたのは……踊り子のマイヤ。
その向こう側に、心配そうな顔で俺を見ているメイス。
時間はどれくらい経った?
って、腕時計とかはしてないし、店内にも時計はない。
……あ、通話機に時間の表示があったっけな。
夜の……十時半?
確か店に入って一時間くらいしてから彼女がステージに出てきて、一時間くらいで終わったような気がする。
九時過ぎごろに彼女が酌に来て……随分長話してたんだな。
まぁ幼馴染だからネタは尽きねぇか?
「あ、あの……アラタさん、大丈夫ですか?」
「……眠くなったから寝てた。それだけだな。……俺、そろそろ帰ろうかな? 俺は主役のメイスのおまけだしよ」
「え? もう帰るんですか?」
びっくりしたのはメイスだった。
保護者が必要な年じゃねえだろうし、頼れる大人は俺じゃなくてシュルツ達だろうに。
「お前らはどうか知らんが、俺は基本的に年中無休なんだよ」
「でもヨウミさんは、アラタさんは仕事してる以外はいつも寝てるとか……」
おい、言い方。
「え、えっと、私もアラタさんとお話し……」
二人の感情の気配は随分落ち着いている。
俺がしゃしゃり出る必要はなさそうだ。
「米の仕分けは俺でしかできねぇからよ。それにお前らと俺で会話が弾むたぁ思えねぇしな。こっちはおにぎり屋。そっちは冒険者。それに、お前はこんな店に滅多に来るこたぁできねぇだろうから、お邪魔無視はいなくなるから時間の限りゆっくりしてけや」
「あ、あの、アラタさんっ」
踊り子から声をかけられるが、どうせシアンと顔つなぎを頼みたいんだろ?
何か期待したい感情がありありだ。
面倒な奴に絡むのも絡まれるのもご免だ。
他の連中も女の子達とお喋りの楽しみにどっぷりと浸かってて、俺の飲食費はフリーみたいなこと多分すっかり忘れてんじゃねぇかなぁ。
万が一に備えて手持ちの全財産持って来ててよかった。
「アラタさんっ。アラタさんともお話ししたいんですけど……」
「悪ぃ。ちょっとトイレ」
「トイレなら、まぁいいか。マイヤ、さん。すぐ戻ってくるだろうから……」
悪いなメイス。
俺はここらで退散だ。
もちろん、俺が食った分は払っていくがな。
でも交通費の方が高くつくかなぁ……。
えーと、おあいそはカウンターで聞けばいいのかな?
「え? お帰りですか? 他の方々は……」
「俺だけ先に帰るわ。あとでトラブルになっても困るから、俺の分だけ支払って帰る」
「は、はぁ……。えーと、二万五千円になります」
高っ!
まぁ支払えない額じゃねぇし、交通費代もあるし……仕方ねぇなぁ。
「馬車とかあるかなぁ」
「待機してる馬車がいくつか停まってるはずですから……」
そいつぁ助かる。
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○○○
旧版を基に再編集しています。
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この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
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