勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
337 / 493
舞姫への悲恋編

若き案内人 そいつは案内人じゃない 主賓だ

しおりを挟む
 明るい店内が薄暗くなる。
 そして、前のステージにスポットが当たった。
 店内のアナウンスが、メインイベントの案内を告げる。
 全国にその名が知れ渡った踊り子が踊りを踊る。
 ヨウミ達への話のタネくらいにはなりそうだ。

 ※※※※※ ※※※※※

 舞台の袖から出てきたのは、女の子十人。
 二列に並び、前列中央の子だけが、他の子達よりもグレードが高そうな衣装を着ている。
 フラメンコとタップダンスを組み合わせたような感じだ。
 やはり肌の露出はほとんどない。つか、あまり考慮に入れてなさそうだ。
 個人的には気に入った。
 変に色気とか出されると、それに振り回された店内の客全員からこの席を押しのけられて、店から追い出されるくらいに弾かれる自信はある。
 が、客全員が彼女らの熱狂的ファンばかりなら、今のままでも十分その自信はある。
 まぁそれはともかく。
 大勢で踊るのって、確かラインダンスって呼ばれるスタイルだった気がする。
 けど、その真ん中の子だけは、周りの子達よりもさらにアレンジが加わって、さすが中心だな、とは思う。
 やがて曲が終わり、俺達客に話しかけるようなトーク。
 二曲目は、今度は歌いながらのダンス。
 周りの子達はバックコーラス。
 なんというか、アイドルグループのような、もしくはバックダンサーを率いているアーティストのような。
 ……とか、ステージに見惚れてる場合じゃねぇ。
 隣の気配がやや変わった。
 一応釘刺しとくか。

「メイス、お前の目当ては、あの真ん中の子か?」
「は、はいっ。……メイム……」

 ……こいつの目、現実見てなさそうな感じになってきた。

「おい。変な気起こすなよ。彼女にはどんな風に思われても知らん。だが、店から、お前は迷惑な客と判断されたら、彼女はお前がここにいたってことすら知られねぇことになる。彼女はお前がここにいることは知らねぇようだからな」
「え? あ……、はい。分かってますよ……」

 ……俺も随分世話焼きになったもんだ。
 だが、変なマネをする奴と知り合い、なんて思われたくはねぇし、ステージに飛び出して彼女に抱き着くような変人の傍にはいたくねぇ。
 いや、同じ場所にもいたくねぇ。
 にしても……彼女とこいつとほぼ同い年なんだよな?
 なんかこう……風格が漂ってる……っつーか……自信ありげな、と言うか……。
 体の動きによる衣装の揺らぎすら計算してそうな振り付けといい、他の九人に負けない歌声の声量といい。
 大したもんだ。
 ……メイスの幼い頃から背負ってきた過酷な過去は、当然彼女も体験してきただろう。
 その気配が全くない、と言うか、切り替えてる、んだろうな。
 熟練のプロのこんな連中は、俺は見たことはない。
 が、そんな連中に引けを取らねぇ感じはする。
 おまけのショータイムの合間のトークも、なかなか堂に入ってる。
 メイスが何かしでかさねぇか、常に警戒してなきゃならんと思ってたが、それさえもつい忘れさせちまうわ。

 ※※※※※ ※※※※※

「皆様、お楽しみいただけましたでしょうか。これからしばらくは、このゲスト達との語らいの時間とさせていただきます。どうかごゆっくりおくつろぎください」

 店内のアナウンスが流れ、店内の照明がゆっくり戻りステージのライトが消えた。
 歌舞を披露していた彼女らは、舞台の袖からフロアに降り、そのままこっちにやってきた。

「特等席のお客様から来るんですよ。他のテーブルよりも比較的長く会話を楽しめるんですよ」

 メイスと反対側の隣に座ってる女性が声をかけてきた。
 そんなサービスまであるのか。
 つか、それ、こいつらは知ってたのか?
 まぁ知っていようがいまいが、俺には特に強い感情はない。
 が……。

「今宵はお楽しみいただけましたでしょう……か?」

 真ん中で踊っていた女の子が、メイスと俺に向かって真っすぐに近づいてきた。
 他の冒険者四人から、羨ましそうな視線を浴びてる。
 が、こっちとそっちで手を伸ばせば触れるくらいの距離になった時に彼女は驚いた顔になる。

「……メイム……」

 メイスが彼女の本名を口にした。
 が、彼女が驚いた顔をしたのは、メイスを見たからでもなく、本名を呼ばれたからでもない。

「あ……あの……アラタ、さん? ミナミ・アラタさん……じゃないですか?」

 久しぶりに、俺のことをフルネームで呼ばれた気がする。
 行商時代だって、手配書ですら名前が書かれてなかったからな。
 それに、一度しか見てない奴の顔と名前をいつまでも覚えてられるものか?
 メイスは何つってたっけ?
 シュルツから話を聞いたんじゃなかったか?
 それで昔食ったおにぎりのことを思い出して、だったかな?
 そうだったら、こいつだって同じだろ。
 名前どころかフルネームで……。
 いや、待て待て。
 つか、ミナミって苗字を言う奴は、最近では全く見たことがない。
 フルネームで呼ばれた最近の記憶は……

「あ……おう、そうだが」

 待て。
 この席の主役は俺じゃねぇぞ?
 メイスだろ。
 しかも、多分上座に当たる正面の席に座ってんだぞ?
 俺はその脇だ。
 そのわきに真っ先に声をかけるってのは、接待役なら失格じゃねぇか?

「やっぱりっ! 私、見てました!」
「へ?」
「エイシアンム国王の戴冠式の時っ! 名指しで、ご友人として紹介されてましたよねっ! まさかこんなところでお会いできるなんて!」
「お……おぅ……」

 ど、どうしよう?
 メイスがこいつに会うために、初めて一人前として扱われた仕事を無事に達成したお祝いの席だぞ?
 主役になるはずの奴が無視されてるってのは……。
 ……その悲しさ、虚しさは、俺は子供の頃からすでに体験してる。
 顔中の筋肉すべてから力が抜けていく。
 弁えろ!
 立場を弁えろ!
 お前も、俺もだ!

「……日本中の話題をさらってる、踊り子たちの一人、マイヤ・パッサーさんでしたね」
「はいっ。これからもずっ……」
「この席は……」

 女性一人置いて隣に座るメイスの顔は……一人前と言うには、ちとかけ離れた子供の顔してやがんな。
 こいつには、こういう対応がまだ似合う!

「ちょっ! アラタさん! 何すんですかっ!」

 頭の上に思いっきり力を込めて手の平を当てる。
 そのままもみくちゃにするように撫でてやる。
 伸ばしただけで、それなりに整える程度にハサミを入れた髪形が乱れ、下に向いているすべての毛先が同じ方向を向くほどに。

「まだまだひよっこの、この冒険者の初手柄の祝いの席だ。主賓はこいつだよ。その主賓を差し置いて、そんな方から声をかけられるなんて畏れ多くはあるんだが……まずはこいつに挨拶するのが先だろ?」

 俺の声が届いてないのか、同席のシュルツ達は他の女性と共に、他の踊り子たちと顔を緩ませながら会話を楽しんでいる。
 メイスとマイヤことメイム、そして俺の声が聞こえた女性達だけが、時間が凍り付いたような感じになった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...