勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
348 / 493
へっぽこ魔術師の女の子編

俺と新人冒険者 その3

しおりを挟む
 そんなこんなで一週間くらい経ったか。
 珍しい客が来た。

「あ、アラタさん、こんにちは」
「んー? おぉ、メイスか。まだ昼前だろ」
「はい。……アラタさん、お仕事は?」
「終わったよ。終わってここで一休み」

 顔見知りであって仲間じゃない。
 そんな奴から干渉受けたかぁねぇんだがな。

「えっと……仲間の魔物さん達もいるんでしょうか?」
「あー……昼休みに戻ってくんじゃねぇか? あ、戻ってくるっつっても昼飯食いにだから、フィールドの方か。店には来ねぇな」
「……そうですか」

 俺にじゃなく、仲間に会いに来たって奴も珍しい。
 あ、ファンクラブの連中はあいつら目当てだったな。
 あーいう連中は、すっかり来なくなった。
 さっぱりして気持ちが落ち着けられて何より。
 でも、その違いはあんまりよく分からんけどな。

「みんなに用事があったのか?」
「あ、いえ、みんなじゃなくて……。コーティさんにちょっと相談が」
「コーティ? 昼休み中なら問題ねぇだろうが……」

 こいつの店とこことじゃかなり距離がある。
 飯食った後に会いに行かせたら、休みの時間はかなり減るぞ?

「あ、俺、ここで待ってますんで。ヨウミさんとアラタさん、飯食い終わったらここに来るんでしょ? そしたら俺が会いに行きますんで」
「んじゃあいつにそう伝えとくわ。ここでなら移動時間の心配ねぇだろうしな」
「はい、お願いします」

 仲間達はみなレアな魔物。
 だから会いたくて愛に来る連中のほとんどは、親しくして損はない、みたいな思考が多い。
 友達の友達はみな友達、なわけがない。
 ましてやあいつら全員、ある意味同属からのはみ出し者。あるいははみ出し者だ。
 あいつらに同属の知り合いはいない。
 それを狙って会いに来るんだとしたら、骨折り損のお疲れ様ってなもんだ。
 けど会いに来たのはメイス。
 しかもコーティを指名ときたもんだ。
 何か目的があってきたのは間違いない。
 ただ会うだけを目的としてきたなら、毎日通い詰めした方がよほど効果があるからな。
 ま、コーティにしても、仲間以外の奴と交流を持った方が角が取れて性格も丸くなるんじゃねぇか?
 で、頼まれた通り、昼飯を食う前にコーティに伝言。

「メイスがコーティにねぇ。惚れたのかな?」
「ちょっとやめてよ、ヨウミ。でももしそうなら……悪い気はしないわねぇ。相手がアラタだったら即座に断ってたけどぉ」

 別に嫌味とも思えんな。
 好きに言ってろ。

「んじゃあたし、今度の休みの日にデート申し込もっと」
「ちょっ! テンちゃん?」

 何でコーティが慌てふためいてんだ。
 顔を妙に赤くしながら。
 まったく、しょーもねぇ話で盛り上がってんな。

「とにかく伝えたぜ? 飯食ったらおにぎりの店の前に行け。あいつの店じゃねぇぞ?」
「わ、分かってるわよっ」

 ってなことで、コーティがメイスと会って何やら相談を受けたその後。

「アラタぁ。あたしの休みの日は自由行動にしていいんだろうけど、普通の日に仕事ないときも自由にしていいのかな?」

 と、午後の仕事の直前に、いきなりそういうことを言われてもな。

「やることがなきゃ好きにしていいんじゃねぇか? 俺だってその日の分の仕事終わったらゴロゴロしてるだけだし。あぁ、一応ヨウミに確認しろよな。で、予定が何もなきゃ、晩飯までは帰ってこい」

 飯の時間までには帰ってこいって……遊び出すと時間の経過も忘れる子供かっての。
 自分が言っといてなんだけど。
 機嫌良さそうにりょーかーい、とか言いながら午後の仕事に出たようだが……。

 ※※※※※ ※※※※※

 それから三日後の朝ご飯時。

「アラタあ、ちょっと相談があ、あるんだけどお」
「俺にか? 今か?」

 みんなは飯やおしゃべりに夢中で、俺や話しかけてきたモーナーを気に留める者はいない。

「いやあ、ご飯食べた後がいいかなあ」
「仕事に障らなきゃ構わねぇよ。店の中でならよかろ? まだ客も来てねぇだろうし」
「うんうん。んじゃ後でえ」

 珍しいこともあったもんだ。
 まぁ別にいいけどよ。
 三日前にコーティが呼び出された以上に珍しい、か?
 が、珍しいことはまだ続く。

「おい。お前の相談じゃねぇのか? 何でマッキーとクリマーもいるんだ?」

 相談しに来たモーナーの後ろに、その二人がくっついている。

「いやあ、マッキーとクリマーからあ、相談されたんだけどお、俺じゃ答ええ、思い浮かばなかったからあ」

 それも俺に言っとけよ。

「……で、こぞって一体何の相談だよ?」

 金の貸し借りは禁止だぞ?
 人間関係ぶち壊しちまうからな。

「ある冒険者からのお、相談でえ」

 相談たらい回しかよ。
 手間も時間もかかるようなことを……。

「どうやったらあ、その冒険者の仕事があ、増えるかってえ」

 ……冒険者が仕事の悩みを魔物に相談して、それが一般人の俺にやってきたと?
 俺に何を求めてんだ、こいつら。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...