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へっぽこ魔術師の女の子編
魔力の低さ 技術の高さ その3
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ドーセンの宿屋、裏口に到着。
「この宿のご主人さんがドーセンさんだったんですね」
村の入り口に一番近い建物だ。
外から来る奴が最初に近づくわけだから、知らないはずはないんだがな。
って、その名前までは分からんのは当たり前か。
「おう。たまに米の選別でここに手伝いに来るんだ。その仕事場がここだからな。さて……おやっさーん、いるか―? 入るぜー」
するとバタバタと激しい足音が近づいてきた。
駆け足でこっちに向かっている気配はもちろん……。
「お、遅ぇぞアラタ! あ、いや、ここで押し問答してる場合じゃねぇ! 酒場の方に回ってくれ。俺じゃとても畏れ多い!」
「畏れ多い? ってなんですか?」
「あ? 誰よ、その子。ってそんなことより、早く行ってくれ!」
ラッカルの紹介は、別に必要ねぇよな。
ドーセンもそんなことよりっつってたし。
けど……あぁ、この気配は……。
来たのがあいつら……いや、あいつらなら、一酒場の主じゃ、いくら気さくに話しかけられても相手になれねぇか。
「あぁ、分かってる。ほれ、店の方に行くぞ」
「え? あ、はい」
言われるがままにラッカルはついてくるが、酒場につくと……。
「や、アラタ。久しぶりだね」
「……突然何しに来やがったお前」
後ろできょとんとしてるラッカルが、ようやく口を開いたら。
「え? えぇっと……。この人……」
「ま、この国の住民の中には、知らない奴もいるんじゃないか?」
「初めまして、お嬢さん。私はルミーラと申します」
「自己紹介の順番おかしいだろ。お前からするんだろ、シアン」
「え? シアン? えっと……」
ラッカルの視線は俺と来訪者の間を行ったり来たり。
「はは。我が親友、アラタが世話になってるようだね。初めましてお嬢さん。エイシアンムと申します。この国の国王してる者です」
その自己紹介もおかしくねぇか?
「へ……陛下?」
「と、愉快な仲間達だ」
「アラタ。それは君たちの事かな?」
「お前の傍にいる連中だよ」
「まぁ、それもあながち間違いじゃないな」
「え、えっと……こっちの人達は……?」
ラッカルは混乱してる。
無理もねぇな。
俺だって、戴冠式の時に名指しでこいつに呼ばれたっつっても有名人になったつもりもねぇ。
だから、この国王と顔見知りな関係ってことを知らねぇ奴がいても、別に驚きもしねぇし、失礼な奴、と憤慨するつもりもねぇ。
だからむしろ、この人達? さぁ? 誰だろうねぇ? なんつって煙に巻いてもいいくらいに思っちゃいるが……。
「我々は陛下の親衛隊ですよ、お嬢さん」
自己紹介されちまった。
親衛隊の連中は苦笑い。
「え? えぇ?!」
そっちとこっちを往復するラッカルの視線のスピードが速くなる。
「私は、親衛隊隊長のルミーラです。お嬢さんは?」
「あ、はいっ。今年冒険者で魔術師になったラッカル=ヒールですっ! よろしくお願いしますっ!」
顔を真っ赤にしてお辞儀をする。
初々しいなぁ、とは思うが。
「自己紹介の通り、冒険者としては初心者だから、今のところ仕事がない。そこで親衛隊に入隊することを目指してはどうかと」
「ちょっ! アラタさんっ! 何言ってんですか! あたし、そんなレベルになれるわけないじゃないですかっ!」
明らかに冷やかしっての分かるだろうが、マジで否定するところは……やっぱ世間ずれしてない分新鮮だなぁ。
「あら? 目指してくれないの? 適性があるなら経歴は問わず、私達はいつでも歓迎するわよ?」
「ほう。なら俺も目指せる可能性はあるんだな」
「いや、君は入隊よりも、私の良き友人であってほしいな」
妙にうまく切り返してきやがる。
流石国のトップですな。
「よ、良き友人……って……アラタさん……陛下と……どんな関係なんですか?」
「ほほう。ラッカル、聞きたいか? 最初から今の現状まで話すとなると、まる五日はかかるぞ? 夜昼なく寝ずにつきあってもらおうか?」
「い、いえ、そこまでは……」
狼狽え、たじろぐラッカルを見てると……なんか小動物みたいな可愛さがあるな。
つか、それよりも、シアン達はなんでここにいる?
「ところでお前ら、ここに何しに来たんだ? お忍びか?」
「いや、実は……そうだな……アラタにも関係する話があってな」
「俺? 貸し借りができるような話ならご免だ」
「貸し借りじゃない。できたとしてもそうする気もない。むしろ、今後貸し借りができる心配は無用になるような話かな」
なんじゃそりゃ?
「実は、新種の装備品を開発する予定でね。その素材探しをしに来たのさ」
「……泉現象をほっぼらかしてか?」
勇者、旗手を異世界から召喚することを止めたはずだ。
と同時に泉現象、雪崩現象から現れる魔物討伐の実働は国王が責任を持つっつー話も戴冠式の時に出たはずだ。
忙しいにも程があるだろうに。
「……恥を忍んで、というか何と言うか……。私も討伐に出陣するようになったら、旗手達よりも手早く片を付けられるようになった。そのため、日程にも余裕が出てな」、
恥、ねぇ。
先代までの事を恥と思ってんのかな。
そこまで責任持つ必要もねぇだろうに。
「それはともかく、魔力のない者達が、魔力を有する者から身を守るための装備品ができれば、更に我々の活動も幅が広がると思ってな」
「装備品? 指輪とか首飾りとかか?」
「いや。小物なら、それに込められる魔力の量もそれなりに少ない」
「我々のように、手甲、脛当て、脚絆、肩当て、あるいは鎖帷子などのような、防具の一部だな。物理的にも防御力を上げられるようにってな」
シアンと一緒に来たルーミラ以外の一人、アークスが、俺に見せるように腕を上げる。
何つーか……子供ならつけてみたいと思われるような……中二病を誘発させそうな防具。
だが、ちょっとゴツゴツしすぎだな。
「あ……あの……恐れながら一言よろしいでしょうか……」
ラッカルがおずおずと会話に割り込んできた。
必死な形相だな。
何があった?
「アラタと顔見知りなら、そこまで畏まらなくてもいいさ。何かな?」
「そ、それは、あたしにも扱える物になるんでしょうか?」
「え? 君は魔術師じゃないの?」
「は、はい、魔術師ですが……」
シアンと親衛隊たちが互いに顔を見合わせる。
不思議に思うのも当然だろうな。
魔術師が魔力を得るために修行するってんじゃなく、物に頼るってんだから。
「あー……こいつ、実はこういうことで……」
ラッカルとの関係をかいつまんで説明した。
その流れで、こいつに仕事が来ない理由にも言及。
「ふむ。それはちょうどいい」
「え?」
「そんな魔術師も、実は少なくないんだよ。そんな術師たちの悩みが解消されたら、討伐にも相当頼りになる術師に成長できることは間違いない」
「そ、そうなんですか?!」
……話盛り上がってるところ済まねぇんだけどさぁ。
「お前らここに何しに来たの? こいつと魔法談義? それとも素材集め?」
「え? あ、あぁ、済まない。王宮を離れると、つい気が緩んでしまってな」
おい。
「泉現象の魔物退治だって、王宮から離れるんだろうが」
国の一大事ってのに、気を緩めてんのか? こいつは。
「あぁ。気が緩んじゃって手加減できず、魔物共もろとも周りの地形を変えてしまうことも……」
危ねぇ国王だな、こいつは。
※※※※※ ※※※※※
素材集めっつーより、素材調査に来たっぽい。
目的地はもちろんダンジョン。しかも深めの地下階層。
宿屋からその入り口までなら、ということで移動に付き添った。
「……ってときに、確かに何か道具を使うと威力は上がる感じはする。が、道具に何か特別な力がなければ、単なる気休めな感じはするな」
「え? じゃあ……この杖は……」
「いや、気休めにしかならないからって、そんなものは持つべきじゃないって話じゃないよ? けれど……」
ラッカルは、俺とシアンの後ろにいる親衛隊と会話をしながら歩いてる。
こんな貴重なチャンスは逃さないって気構え、つーか、まぁそんな感じで。
「面倒見がいい店の主って感じになったな、アラタ」
「うっせ。それより、その装備品開発ってのに俺が関わるってどういうことよ?」
酒場の中での話は、ほとんどラッカル絡みだったから、こいつらの本命の話は全く聞いてなかったな。
「今、アラタ個人の頼みの綱は魔球しかないだろう? 魔球が尽きたらそれで終わり、じゃないか? 彼女の魔術の回数のように、ゼロになったら打つ手なし、じゃないか?」
痛いところを突いてくる。
魔物に襲われた場合に限らない。
ならず者、荒くれ者が店に来手暴れ始めた時も、そいつらを制圧するのにわざわざ最上級の魔法を使うのも、もったいなくてできないし、間違いなくオーバーキルになる。
「魔術師と魔術師の持つ魔力との関係、みたいなのを改めて考察して、装備品と装備品が持つ魔力の関係も同じようにならないか、とな。もしそれが装備品で再現できるなら、それを君が所有することで、魔術師のように魔術が使えるんじゃないか、とね」
「それが完成したらどうなる?」
思考力が落ちてる。
ラッカルの今後の方針で頭脳労働がちときつかったっぽいな。
「魔球を一々購入する必要がなくなる。そして、君が私に気遣い、気苦労することも減るんじゃないか?」
「何だよそれ」
「魔球の販売元は王家だ。極端な事を言えば私だ。つまり、魔球を購入する時に私に頭を下げてどうの、なんて面倒なことを考える必要はなくなるんじゃないかと思ってな」
……まぁ……面倒なことを考える必要はなくなるが……。
「そりゃ……うおっ」
「ん? どうした? アラタ」
どうしたも何も、後ろからなんか、風圧が来たんだが?
「おい、お前ら、俺に何かしたか?」
後ろを歩いてるラッカルと親衛隊のルミーラ、アークス、ワイプを睨む。
「あぁ、すまん、そっちまで届いちまったか。俺の拳の空振りが風圧になったっぽい」
アークスか。
そんなにムキムキな筋肉って感じじゃねぇけど。
ん?
「今の腕の振りも、そんな左右の動きだったか?」
「ん? いや? 目の前に敵がいる、みたいなつもりで拳を……」
だよな。
「……風圧、だよな?」
「ん? ああ。腕力に任せてのな」
「風の術じゃねぇよな」
「いやいや、ただの説明に魔力までは使わねぇよ」
魔術の仕組みって、そんな物もあるんじゃねぇの?
「……要は、パンチの素振りってことだよな? 俺にも、今の奴を見せてくんねぇ?」
「おい、アラタ。どうしたんだ? 急に」
シアンが話しかけてくるが、ひょっとしたら魔力を補う技術の一つかも分からん。
「いや、ちょっと時間もらうだけだ。アークス。今と同じ動きをもっかいやってくれねぇか?」
「あ? あ、あぁ。危なくねぇし、いっか」
両足がやや前後に開き腰が据わる。
ふくらはぎから始まって、全身に軽く力がこもる。
そして腰をねじり、肩も入りながらのフック。
そこから俺に来る風圧は、確かに今と同じ力。
だが……。
考えがまとまらん。
まず、ラッカルの術とこの風圧では属性が違うってことだ。
だからその拳がラッカルに何かの役に立つかと言えば、ノーだ。
ところが問題はそこじゃなくなった。
アークスの前身の動きを見て、あることに気が付いた。
その動きと、あらゆる攻撃の体勢に共通点があるかどうか。
あらゆる攻撃っつったら、ほかは魔法攻撃。
もちろんそれだけじゃねぇ。
物理には直接攻撃に弓などの間接攻撃。
魔法攻撃と思われるものも、幾通りかの種類がある。
「……どうした? アラタ」
「悩み事?」
ルミーラ、ある意味正解。
つか、ダンジョン入り口まで案内してる場合じゃねぇ。
「すまん。素材調査には、お前らだけで行ってくれ。俺はちと考えごと。すまんな」
「そうか? 何かあったら協力するぞ? 私達にできることなら何でも言ってくれ」
その気持ちは有り難いが、今はまだその段階じゃねぇ。
彼らの足音は遠ざかる。
けど、そんなことよりも、だ。
「アラタさん……どうしたんです? 大丈夫ですか?」
「もう少し煮詰めて考え込まねぇと答えは出ねぇ。けどラッカル、お前の悩み、解消できるかもしんねぇぞ?」
「え?」
できないかもしれない。
が、できるかもしれない。
もう少し考え込めば、な。
「この宿のご主人さんがドーセンさんだったんですね」
村の入り口に一番近い建物だ。
外から来る奴が最初に近づくわけだから、知らないはずはないんだがな。
って、その名前までは分からんのは当たり前か。
「おう。たまに米の選別でここに手伝いに来るんだ。その仕事場がここだからな。さて……おやっさーん、いるか―? 入るぜー」
するとバタバタと激しい足音が近づいてきた。
駆け足でこっちに向かっている気配はもちろん……。
「お、遅ぇぞアラタ! あ、いや、ここで押し問答してる場合じゃねぇ! 酒場の方に回ってくれ。俺じゃとても畏れ多い!」
「畏れ多い? ってなんですか?」
「あ? 誰よ、その子。ってそんなことより、早く行ってくれ!」
ラッカルの紹介は、別に必要ねぇよな。
ドーセンもそんなことよりっつってたし。
けど……あぁ、この気配は……。
来たのがあいつら……いや、あいつらなら、一酒場の主じゃ、いくら気さくに話しかけられても相手になれねぇか。
「あぁ、分かってる。ほれ、店の方に行くぞ」
「え? あ、はい」
言われるがままにラッカルはついてくるが、酒場につくと……。
「や、アラタ。久しぶりだね」
「……突然何しに来やがったお前」
後ろできょとんとしてるラッカルが、ようやく口を開いたら。
「え? えぇっと……。この人……」
「ま、この国の住民の中には、知らない奴もいるんじゃないか?」
「初めまして、お嬢さん。私はルミーラと申します」
「自己紹介の順番おかしいだろ。お前からするんだろ、シアン」
「え? シアン? えっと……」
ラッカルの視線は俺と来訪者の間を行ったり来たり。
「はは。我が親友、アラタが世話になってるようだね。初めましてお嬢さん。エイシアンムと申します。この国の国王してる者です」
その自己紹介もおかしくねぇか?
「へ……陛下?」
「と、愉快な仲間達だ」
「アラタ。それは君たちの事かな?」
「お前の傍にいる連中だよ」
「まぁ、それもあながち間違いじゃないな」
「え、えっと……こっちの人達は……?」
ラッカルは混乱してる。
無理もねぇな。
俺だって、戴冠式の時に名指しでこいつに呼ばれたっつっても有名人になったつもりもねぇ。
だから、この国王と顔見知りな関係ってことを知らねぇ奴がいても、別に驚きもしねぇし、失礼な奴、と憤慨するつもりもねぇ。
だからむしろ、この人達? さぁ? 誰だろうねぇ? なんつって煙に巻いてもいいくらいに思っちゃいるが……。
「我々は陛下の親衛隊ですよ、お嬢さん」
自己紹介されちまった。
親衛隊の連中は苦笑い。
「え? えぇ?!」
そっちとこっちを往復するラッカルの視線のスピードが速くなる。
「私は、親衛隊隊長のルミーラです。お嬢さんは?」
「あ、はいっ。今年冒険者で魔術師になったラッカル=ヒールですっ! よろしくお願いしますっ!」
顔を真っ赤にしてお辞儀をする。
初々しいなぁ、とは思うが。
「自己紹介の通り、冒険者としては初心者だから、今のところ仕事がない。そこで親衛隊に入隊することを目指してはどうかと」
「ちょっ! アラタさんっ! 何言ってんですか! あたし、そんなレベルになれるわけないじゃないですかっ!」
明らかに冷やかしっての分かるだろうが、マジで否定するところは……やっぱ世間ずれしてない分新鮮だなぁ。
「あら? 目指してくれないの? 適性があるなら経歴は問わず、私達はいつでも歓迎するわよ?」
「ほう。なら俺も目指せる可能性はあるんだな」
「いや、君は入隊よりも、私の良き友人であってほしいな」
妙にうまく切り返してきやがる。
流石国のトップですな。
「よ、良き友人……って……アラタさん……陛下と……どんな関係なんですか?」
「ほほう。ラッカル、聞きたいか? 最初から今の現状まで話すとなると、まる五日はかかるぞ? 夜昼なく寝ずにつきあってもらおうか?」
「い、いえ、そこまでは……」
狼狽え、たじろぐラッカルを見てると……なんか小動物みたいな可愛さがあるな。
つか、それよりも、シアン達はなんでここにいる?
「ところでお前ら、ここに何しに来たんだ? お忍びか?」
「いや、実は……そうだな……アラタにも関係する話があってな」
「俺? 貸し借りができるような話ならご免だ」
「貸し借りじゃない。できたとしてもそうする気もない。むしろ、今後貸し借りができる心配は無用になるような話かな」
なんじゃそりゃ?
「実は、新種の装備品を開発する予定でね。その素材探しをしに来たのさ」
「……泉現象をほっぼらかしてか?」
勇者、旗手を異世界から召喚することを止めたはずだ。
と同時に泉現象、雪崩現象から現れる魔物討伐の実働は国王が責任を持つっつー話も戴冠式の時に出たはずだ。
忙しいにも程があるだろうに。
「……恥を忍んで、というか何と言うか……。私も討伐に出陣するようになったら、旗手達よりも手早く片を付けられるようになった。そのため、日程にも余裕が出てな」、
恥、ねぇ。
先代までの事を恥と思ってんのかな。
そこまで責任持つ必要もねぇだろうに。
「それはともかく、魔力のない者達が、魔力を有する者から身を守るための装備品ができれば、更に我々の活動も幅が広がると思ってな」
「装備品? 指輪とか首飾りとかか?」
「いや。小物なら、それに込められる魔力の量もそれなりに少ない」
「我々のように、手甲、脛当て、脚絆、肩当て、あるいは鎖帷子などのような、防具の一部だな。物理的にも防御力を上げられるようにってな」
シアンと一緒に来たルーミラ以外の一人、アークスが、俺に見せるように腕を上げる。
何つーか……子供ならつけてみたいと思われるような……中二病を誘発させそうな防具。
だが、ちょっとゴツゴツしすぎだな。
「あ……あの……恐れながら一言よろしいでしょうか……」
ラッカルがおずおずと会話に割り込んできた。
必死な形相だな。
何があった?
「アラタと顔見知りなら、そこまで畏まらなくてもいいさ。何かな?」
「そ、それは、あたしにも扱える物になるんでしょうか?」
「え? 君は魔術師じゃないの?」
「は、はい、魔術師ですが……」
シアンと親衛隊たちが互いに顔を見合わせる。
不思議に思うのも当然だろうな。
魔術師が魔力を得るために修行するってんじゃなく、物に頼るってんだから。
「あー……こいつ、実はこういうことで……」
ラッカルとの関係をかいつまんで説明した。
その流れで、こいつに仕事が来ない理由にも言及。
「ふむ。それはちょうどいい」
「え?」
「そんな魔術師も、実は少なくないんだよ。そんな術師たちの悩みが解消されたら、討伐にも相当頼りになる術師に成長できることは間違いない」
「そ、そうなんですか?!」
……話盛り上がってるところ済まねぇんだけどさぁ。
「お前らここに何しに来たの? こいつと魔法談義? それとも素材集め?」
「え? あ、あぁ、済まない。王宮を離れると、つい気が緩んでしまってな」
おい。
「泉現象の魔物退治だって、王宮から離れるんだろうが」
国の一大事ってのに、気を緩めてんのか? こいつは。
「あぁ。気が緩んじゃって手加減できず、魔物共もろとも周りの地形を変えてしまうことも……」
危ねぇ国王だな、こいつは。
※※※※※ ※※※※※
素材集めっつーより、素材調査に来たっぽい。
目的地はもちろんダンジョン。しかも深めの地下階層。
宿屋からその入り口までなら、ということで移動に付き添った。
「……ってときに、確かに何か道具を使うと威力は上がる感じはする。が、道具に何か特別な力がなければ、単なる気休めな感じはするな」
「え? じゃあ……この杖は……」
「いや、気休めにしかならないからって、そんなものは持つべきじゃないって話じゃないよ? けれど……」
ラッカルは、俺とシアンの後ろにいる親衛隊と会話をしながら歩いてる。
こんな貴重なチャンスは逃さないって気構え、つーか、まぁそんな感じで。
「面倒見がいい店の主って感じになったな、アラタ」
「うっせ。それより、その装備品開発ってのに俺が関わるってどういうことよ?」
酒場の中での話は、ほとんどラッカル絡みだったから、こいつらの本命の話は全く聞いてなかったな。
「今、アラタ個人の頼みの綱は魔球しかないだろう? 魔球が尽きたらそれで終わり、じゃないか? 彼女の魔術の回数のように、ゼロになったら打つ手なし、じゃないか?」
痛いところを突いてくる。
魔物に襲われた場合に限らない。
ならず者、荒くれ者が店に来手暴れ始めた時も、そいつらを制圧するのにわざわざ最上級の魔法を使うのも、もったいなくてできないし、間違いなくオーバーキルになる。
「魔術師と魔術師の持つ魔力との関係、みたいなのを改めて考察して、装備品と装備品が持つ魔力の関係も同じようにならないか、とな。もしそれが装備品で再現できるなら、それを君が所有することで、魔術師のように魔術が使えるんじゃないか、とね」
「それが完成したらどうなる?」
思考力が落ちてる。
ラッカルの今後の方針で頭脳労働がちときつかったっぽいな。
「魔球を一々購入する必要がなくなる。そして、君が私に気遣い、気苦労することも減るんじゃないか?」
「何だよそれ」
「魔球の販売元は王家だ。極端な事を言えば私だ。つまり、魔球を購入する時に私に頭を下げてどうの、なんて面倒なことを考える必要はなくなるんじゃないかと思ってな」
……まぁ……面倒なことを考える必要はなくなるが……。
「そりゃ……うおっ」
「ん? どうした? アラタ」
どうしたも何も、後ろからなんか、風圧が来たんだが?
「おい、お前ら、俺に何かしたか?」
後ろを歩いてるラッカルと親衛隊のルミーラ、アークス、ワイプを睨む。
「あぁ、すまん、そっちまで届いちまったか。俺の拳の空振りが風圧になったっぽい」
アークスか。
そんなにムキムキな筋肉って感じじゃねぇけど。
ん?
「今の腕の振りも、そんな左右の動きだったか?」
「ん? いや? 目の前に敵がいる、みたいなつもりで拳を……」
だよな。
「……風圧、だよな?」
「ん? ああ。腕力に任せてのな」
「風の術じゃねぇよな」
「いやいや、ただの説明に魔力までは使わねぇよ」
魔術の仕組みって、そんな物もあるんじゃねぇの?
「……要は、パンチの素振りってことだよな? 俺にも、今の奴を見せてくんねぇ?」
「おい、アラタ。どうしたんだ? 急に」
シアンが話しかけてくるが、ひょっとしたら魔力を補う技術の一つかも分からん。
「いや、ちょっと時間もらうだけだ。アークス。今と同じ動きをもっかいやってくれねぇか?」
「あ? あ、あぁ。危なくねぇし、いっか」
両足がやや前後に開き腰が据わる。
ふくらはぎから始まって、全身に軽く力がこもる。
そして腰をねじり、肩も入りながらのフック。
そこから俺に来る風圧は、確かに今と同じ力。
だが……。
考えがまとまらん。
まず、ラッカルの術とこの風圧では属性が違うってことだ。
だからその拳がラッカルに何かの役に立つかと言えば、ノーだ。
ところが問題はそこじゃなくなった。
アークスの前身の動きを見て、あることに気が付いた。
その動きと、あらゆる攻撃の体勢に共通点があるかどうか。
あらゆる攻撃っつったら、ほかは魔法攻撃。
もちろんそれだけじゃねぇ。
物理には直接攻撃に弓などの間接攻撃。
魔法攻撃と思われるものも、幾通りかの種類がある。
「……どうした? アラタ」
「悩み事?」
ルミーラ、ある意味正解。
つか、ダンジョン入り口まで案内してる場合じゃねぇ。
「すまん。素材調査には、お前らだけで行ってくれ。俺はちと考えごと。すまんな」
「そうか? 何かあったら協力するぞ? 私達にできることなら何でも言ってくれ」
その気持ちは有り難いが、今はまだその段階じゃねぇ。
彼らの足音は遠ざかる。
けど、そんなことよりも、だ。
「アラタさん……どうしたんです? 大丈夫ですか?」
「もう少し煮詰めて考え込まねぇと答えは出ねぇ。けどラッカル、お前の悩み、解消できるかもしんねぇぞ?」
「え?」
できないかもしれない。
が、できるかもしれない。
もう少し考え込めば、な。
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10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
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旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
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