勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
357 / 493
へっぽこ魔術師の女の子編

閑話休題:増える新人冒険者達

しおりを挟む
 おにぎりの販売を始めたのは、特別な品質を見分けることができたから。
 いきなり見知らぬ世界に放り出されて、何のチュートリアルもなくてそれでも生活しなきゃならん。
 ともかく、まずは生活費が必要だ。
 そのために金を稼がなきゃならない。
 真っ先に思い浮かんだのは、商売だ。
 けど、俺の味方はヨウミしかいなかった。
 周りは敵だらけ。
 だから、誰かを必要としなきゃできない仕事や商売は、俺には無理だった。
 他の誰かに頼ることなく、自分達だけで金を稼ぐ方法ってば、おにぎり作りと販売だった。
 何かやりたいことなんてあるわきゃなかったし、俺にできることってばそれしかなかった。

 店を構えてからは、ダンジョンとフィールドでの探索のガイドの仕事が加わったな。
 新人冒険者育成を目的とした事業。
 とはいっても、それは俺が何かご立派な志を立てて始めたことじゃなく、利用客は冒険者が多い店の客から頼まれることが多く、俺についてきた魔物の仲間達が店で退屈してた頃だった。
 俺への報酬は受け付けの人件費で、その仕事での俺への月給は子供のお駄賃程度のもの。
 仲間達への報酬はごくまともなもんだったが、それでもあいつらは魔物だから、日本円の価値が分からない奴らが多い。
 が、飯代は必要だし、俺が代わりに必要経費を支払わなきゃならんこともあるから、あいつらも、まぁそれなりの給料をもらってるかたちにはなる。
 今ではその仕事は、冒険者達の集団戦の訓練に変わった。
 受け付けは手伝いに来る奴らに任せるようになったから、俺の収入はもちろんゼロ。
 つまり、お前らが好き勝手に仕事にして儲けで満足してるなら、俺には関係ねぇって感じだ。

 あとは温泉だな。
 タオルの販売とかはやってるが、その販売も手伝いに来た奴にやらせている。
 受け付けはいてもいなくても良さそうなもんだ。
 が、次の仕事が見つかるかもしれないってんで、これも手伝いに来てる奴にやらせてる。
 温泉の始まりは、地下水路が地表に出て、村に水害の被害が出るかもしれないってんで、ダムの役割を果たしてる感じだな。
 ただ、水やお湯を溜めるだけにするよりも、温泉にしてくつろぐ場所にできたらいいんじゃね? ってアイデアを、俺が出した。
 これは俺の完全な気まぐれだ。
 金になりゃうれしいが、そこを俺の仕事にする気はねぇし、入りてぇ奴が入ればいいって感じだし。
 何より勝手に作ったダム……もとい、温泉だ。
 村からクレームくらったら、間違いなく罰則はつくだろう。
 そんなことになったら、俺知らね、で済ませられるように、俺への収入もそこからは出ないことにした。
 洪水の被害が出ないように、村を守った、と言えるかもしれん。
 けど、そんな気はさらさらない。
 水害が起きたら俺の住むところも失うかもしれんってことと、水害を未然に防ぐことができたのに見過ごしたなどと言いがかりを言われることがないようにするためだったからな。
 村を守ったことを温泉の利権を得ることの引き換え条件にしようと思えばできると思う。
 けど、妬みなんかはやっかいなもんだ。
 そこから出た噂を止めようとしても止められるもんじゃねぇ。
 だったら最初から、噂を出さないようにすりゃいいだけだ。
 つまり、温泉の事業を始めたくて作った施設じゃねぇってことだ。

 さて、今現在、新しい起爆剤……地雷? が目の前に転がっている。
 俺の前でたむろしている、二十人から三十人までくらいの人数の新人冒険者どものことだ。
 パーティに誘ってください、仕事を手伝わせてくださいアピールが激しい。
 まぁそれはいいさ。店の迷惑にならなきゃな。
 けど、俺に「あの人達に紹介してください」と縋ってくる奴らも増えてきた。
 あの人達ってのは、即ち、おにぎりを買いに来た経験豊かそうな冒険者達のことだ。
 紹介しても、俺にそのメリットはない。
 これは本音だ。
 というのも、
「アラタさん、そこでごろ寝してるだけじゃん。何もしないなら、俺達のことをあの人達に紹介しろよ」
 って言われた。
 何様だよお前ら。
 あぁ、そうかい。お子様と言いたいだな?
 ……転移前の、俺の職場を思い出すんだよな。
 他の奴らの仕事を頼まれてたはずが、なぜか他の人から仕事を押し付けられて、それが当然って空気になって、命令されるようになっていった。
 あいつらと同類に見えてきた。
 人の立場を見て、いいように振り回したがってるってのが気に食わねぇ。
 が、新人冒険者はみな若いってわけじゃねぇし、若いから新人ってわけでもねぇ。
 まともな思考の奴とそんな奴とでは、明らかに態度が違う。
 だから見極めなら簡単だ。
 簡単に見極めるなら、対応の仕方もそれに応じることも簡単だ。

「こんにちは、アラタさん。相変わらず賑やかね。でも顔ぶれは随分変わったのかしら?」

 久しぶりに聞く声だ。

「お、イールさん、こんにちは。……って、もう昼時か。みんなの注文取りに行かにゃ。相手をする気はねぇが、ゆっくりできるんならゆっくりしていきな。茶なんぞは自分で用意してな」
「アラタさんも相変わらずね。お茶ならおにぎりと一緒に用意してるわよ。行ってらっしゃい」

 新人どもはなおも引き留める。
 が、俺と仲間達の飯の用意の方が、俺には大事なんだよ!
 ※※※※※ ※※※※※

 昼飯の注文を済ませてから昼休みが終わるまで、ずっとフィールドにいた。
 あんなガキどもの相手をさせられるなんざ、神経が疲れる。
 このまま夕方までゴロゴロしてぇんだが……。

「ほらほらアラタ、あの子達の相手してあげな」

 何であんな扱いに困るガキどもを相手にせにゃならんのだ。

「店の周りで何もせずにうろつかれたら、仕事の邪魔だもん。集団戦の受け付けもしなきゃいけないから、その申し込みの最中にどさくさに紛れられても困るのよ」

 それもそうか……。
 腰が重い。
 それでも堪えて店に行くと……。

「あら? 誰もおらん。……イール、あのガキどもどっか行ったのか?」

 いないならいないで喜ばしいことだが、何か災難が起きたり騒動起こされたらかなわん。
 別のところに移動したってんなら俺の知ったこっちゃねぇんだが。

「ん? んー……。アラタさん、困ってたでしょう? ちょっと私があの子達とお話ししたら……何か思うところがあったみたいね。どっかに行っちゃった」
「……そりゃ……助かるが……騒ぎを持ち込まれるようなことがなきゃいいんだが」
「気にしなくていいと思いますよ。あとはあの子ら自身の責任問題。それなりに大人だもの」
「なら……いいけどよ。って……何だこりゃ?」

 新人どもがいなきゃ、掲示板を出しとく必要はない。
 一応綺麗にして仕舞っとこうとしたら……。

「あぁ、あの子達が、自分らで書いた物を綺麗に消していったわよ。片づけるのはアラタさんにお願いしますって」

 ずいぶん礼儀正しい事言うようになったじゃねぇか。
 何があった?

「そ……そうか。イールの取り巻きも来なくなったようだし、俺はようやく平安な午後を迎えられたってわけか」
「ふふ。そうですね。じゃ、私もそろそろお暇させていただきますね」

 ……ここにくつろぎに来る奴が言う言葉だっけ?
 まぁいいけどよ。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...