勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
358 / 493
へっぽこ魔術師の女の子編

閑話休題:増える新人冒険者達 その2

しおりを挟む
 久々にのんびりできる。
 見も知らぬ、名前も知らぬ新人どもに妨げられぬ休息を得られる。
 うれしいことではないか。
 有り難いことではないか。
 おやすみなさい……。

「あの……アラタさん……ですよね」

 ……が。
 寝入りっぱなに声をかけられ、起きなきゃという意識が芽生えると、妙なめまいを起こしちまう。
 これから眠れるってときにだ。
 安眠妨害にもほどがある!

「……あの……アラタ、さん……」
「……」
「あのぅ……」
「うるせえええぇぇっ!」
「ひぃっ!」

 ベンチのすぐ前で尻もちをついてる緑の塊が目に入った。
 よく見りゃ、その色は帽子と全身を纏うマントの色。
 身につけている人物は女の子。
 だが、だからどうした!
 人の眠りを邪魔する奴は!
 馬に蹴られてどっかいけ!

「あ……あのっ」

 ……転寝したくなる時の睡魔ってのは……どうしてこうも薄情なんだろうな。
 眠気がすっ飛んじまった。
 こいつのせいで!

「……んだよ」
「あたし、グリンっていいます。鑑定を、お願いしたいんですが……」

 ……来る店を間違えた挙句、人の睡魔を吹っ飛ばしやがってこの野郎!

「……鑑定なら、ずっと向こうにある宿屋あんだろ? 主のドーセンって人が、それなりに鑑定もできるからそっちに持ってけ」
「あ、いえ、あの……あたしを鑑定してほしいんですけど……」

 ……ちょっと待て。
 何で俺にそんな依頼が来るんだ?
 俺の力ってのは、使った時、誰からもそれに気付かれることがねぇんだよな。
 だから俺が黙ってその力を使ってれば、周りにバレるこたぁねぇんだよ。
 米の選別とか誰かが来ることを感じ取った時とかなんかはそうだ。
 俺も好き好んで、この力を宣伝してるわけでもないし、言いふらしてもいない。
 おにぎりの評価をする奴だって、俺が贖罪の米粒を選んでる、くらいの事しか言わねぇだろ。
「旗手の能力を使って、米を選んでおにぎりを作ってる」
 なんて話が流れてたら、買い物どころか大騒ぎな毎日になるはずだ。
 シアンと知り合いだから顔つなぎしてくれって頼みに来た奴も、一人や二人じゃなかったもんな。

「……何で俺んとこに来た? つか、何でこんな田舎に来てんだ。都会の方が、いろんな職人いるだろうし、おまえの望みをかなえてくれる人もいるだろうによ」
「えっと……ラッカルって人が、ここに来てから人生が変わった、って……」

 ……口止めすべきだったか?
 いや。口止めしなきゃならない事態になる、だなんて、あの時点で予想できるわけがない。
 できるわけがない、おきるはずがない。
 そんな「ない」ところから、何らかのアクションが起こせるわけがない。
 そのアクションは無駄で無意味なことだから。
 ……こんなことになるなんて、一体だれが悪いのやら。

「あ、あの……鑑定をお願いしたいんですけど……」
「そういう鑑定をする役職って、あるって聞いたことがあるぞ? そっちに行きな。そんなのは俺の仕事じゃねぇ」
「ですが、その……」

 一々言い淀むのがうっとおしい。

「お金がないのも理由なんですけど、どんな能力を持ってるかっていう鑑定しかしてくれないんです」

 は?
 いや、それで十分だろ。
 どんな職人でも、仕事がかぶって相手の仕事の妨害になる行為はしたくはない。
 これはこの世界で仕事を始めてから心掛けてきた一つだ。
 俺だって、そんな鑑定しかできねぇし。

「でも、ラッカルって人の場合は違いましたよね」
「え?」

 違うか?
 同じだろ?

「能力を伸ばせるかどうかって鑑定をしてもらったような話を聞きました。能力の鑑定士は、そんなことまでは見ないみたいです」

 ……マジか。
 要すれば、人のできないことをするってのが俺の主義ってことになるか。
 鑑定士ができない鑑定ができるんなら、その職人とは被らない仕事になるんだろうが……。

「あの……していただけないでしょうか……」

 さぁどうするか。
 仕事して、それに見合った収入が入るなら……。
 でもゴロゴロしたい。
 つか……収入になるくらいの料金を取れるのか?
 依頼人は、その料金を払えるくらいの経済力があるのか?

「あ、あの……お金なら……」

 金の問題じゃない。
 料金を払ってもらえる仕事として継続できるかどうか、だ。
 無一文の新人冒険者が殺到して、一人一人鑑定する……無理だろ。

「あ、あの、お疲れなら、別に構いません。突然押し掛けてしまって……失礼しました……」

 オドオドしてるっつーより……分を弁えてるって感じだな。
 押しかけてきたあいつらと比べて、礼儀正しいっつーか。
 養成所を卒業した、という同じ人生のルートを通ったもんでも、こうも違うもんかねぇ。
 ……いや、待てよ?
 俺の能力の使用ってのは、ただそのつもりで物を見るかどうかってことだけだ。
 殆ど労力を必要としねぇんだよな。
 そこに、料金が発生させなきゃならんものかどうか。
 ラッカルの場合は、ああいう鑑定をした。
 けど、その鑑定の結果を見て、俺も頭をそれなりに捻ってアイデアを出した。
 ここに労力は発生した。
 ただ見るだけなら、金をとらなきゃならんもんか? と。
 けど無料の設定をしてだぞ?
 大勢で押し掛けられたら、取られる時間も半端ねぇよな。
 まぁ何事にも時間の拘束は発生する。
 一人くらいなら気にならない時間だが、そんなに時間を取られたら、金を取りたくなる気持ちにもなる。
 だが、鑑定する人間を選別できたら?
 かなりふるいにかけられるよな。
 その基準は……うん、これならいいかもしれん。
 押しかけてくる連中全員が鑑定に値したとしたら……?
 ……いや、問題ない、と思う。
 ま、試行期間ということでいいか。

「ちょい待った」
「……はい?」

 ここから離れかけた彼女は俯きながら振り返る。
 なんつーか……断られたと思ったんだろうが、涙目になるほどのことか?
 まぁいいけどさ。

「来いよ。見てやるよ」
「え? あの、いいんですか?」

 いいんです。
 ま、見てもらった後どうなるかって問題はあるが、それは些細なもんかな?
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...