359 / 493
へっぽこ魔術師の女の子編
閑話休題:増える新人冒険者達 俺の新事業は、改革になるのだろうか
しおりを挟む
グリン、と名乗った少女……うん、見た目少女だった。
でもやっぱり彼女も十八才だった。
育成不十分なのか?
いや、十分なら、養成所卒業してすぐに、先輩たちのパーティからお呼びがかかるっつってたな。
ここに来る連中は売れ残りってわけだ。
「売れ残りばかりじゃないんですよね。勧誘してもらってしばらく一緒に活動して、見込み違いって言われる人も……」
社会の厳しさは競争ばかりじゃねぇんだな。
己の必死な努力が成長に繋げられなきゃそれでお終い。
そんな厳しさはいずれ知らなきゃならんことだろうが、ちょっと年齢的に早すぎなんじゃねぇの?
まぁ俺が疑問に思ったところで、世の中の何かが変わるわけじゃねぇ。
で、鑑定の結果、比較的回復系の魔術と魔力が高い。
服の色と言い、自分の名前と言い、そんな系統に強いのかね。
成長度は……ここに買い物に来る客らの平均値くらいにまでは伸びるか。
冒険者という職業を選んだのは、失敗とは言えん。
大成功とも言えんけどな。
「ま、素質はラッカルよりは高い。技能は……ありゃ別格だ。新人の誰もがあいつに敵わん。より儲けをでかくしたけりゃ、技術を磨くこったな」
だがラッカルにだってその技量に短所はある。
確実性が高めになる範囲が限定されてるってことだ。
それを越えりゃあいつよりは上になる。
が、狙った位置にピンポイントで魔法を出せる奴っているんかな。
ゴミ箱にゴミを放り投げて入る、その距離がどこまでも離れてても問題なければ将来安泰。
「技術って……どんな」
「そこんとこは自分で考えな。俺に嵌力を高めたり器をでかくする方法なんざ知らんしよ」
それと、こうすれば術師のレベルが上がる などと教えても、そんなの無理です、と言われちゃ何も言いようがない。
無理なことを無理と思わず達成させられることこそが、いわゆる一皮むけるって奴だろうからな。
冒険者業を詳しく知らないくせに などと言われるのも同様だ。
けどこいつらにとっちゃ、壁というには分厚すぎる壁を越えなきゃ成長できねぇだろ。
俺は……俺は壁を乗り越える努力なんかしたこたぁねぇが。
努力しなくても、こんな力が身についてたからな。
「……いえ、それだけでも、教わっただけでも十分です。ありがとうございますっ!」
何という腰から上が直角なお辞儀か。
定規式とでも言おうか。
「んー……まぁそんなもんだな。もちろん身体的、精神的成長することで、その能力……」
「あ、何かやってる」
「あー、ほんとだ」
「何してんだよ」
ダンジョンの方からやってきた大衆は……昼前までここでたむろしてた新人どもじゃねぇか。
「アラタさん、何してんですか?」
「その子一人だけ? 何話してたんです?」
「アラタさぁん、俺にも、俺にもぉ。何してたか知らないけどぉ」
ここに来るなり首を突っ込んでくるひよっこども。
うぜぇ。
「あ、あの、じゃあ私、この辺で失礼します」
「お、おう」
重要なことは大体伝えた。
あとはあいつの今後の活動次第。
それはあいつも自覚してるようで、随分と晴れ晴れした表情だった。
「え? ちょっと待って。あなた、どんな話してたのー?」
「あ、俺にも聞かせろよ。何話してたんだよ」
何人がグリンの後を追う。
そいつらを抑えるまでもなかろ。
こっから先のことは、あいつの考え次第だ。
で、だ。
「イールって人からいろいろ言われて、それで俺達でパーティ組んでダンジョンに行ってきたんだけどよぉ。俺らがいない間何してんだよ、アラタ」
「あたし、ホント面倒なこいつらの世話をしながらダンジョンに潜ってたんだけど、あんな目に遭うって分かってたなら、アラタさんが戻るの待ってりゃ良かった」
口々から出る俺への文句。
だが、うん。
やはり俺の見立ては、多分問題はない。
「あいつには親し気に話ししといて、何で俺らにはそんなつっけんどんなんだよ」
本音を言えば、うぜぇから。
「それは俺が決めることだ。こいつには話をして、あいつには話はしない、ってのはな」
「何だよそれ。差別じゃねぇか。自分が話したくない相手だから、ってんだろ? みんな、養成所卒業したてなんだぜ? 不公平なことすんなよ」
差別。
それこそ俺が大いに嫌う物の一つだ。
だが、これは、断じて、差別じゃない。
「問題ねぇんだよ。ある法則を決めた。その法則通りに行ったことだ。だから差別でも何でもない」
「何だよそれっ。つか、その法則って何だよ」
綺麗に掲示板の文字を消してからダンジョンに向かったようだが……使った後は綺麗にして片づける、なんて心掛けは、こいつらの場合はメッキだったってこった。
そんなんじゃ、俺の鑑定は受けられない。
……そう。
鑑定料は金じゃない。
金じゃなくて、心根だ。
他者を敬えるか、他者を大切にできるかどうか。
これをその法則とするなら、俺なら一発で見分けられる。
感情にも通じるところがあるからな。
相手を大切にする気持ちが備わってれば、俺だってここに安住の地を求めたりしなかったよ。
願わくばこの世界も、俺の世界のように誰かから居場所を奪うようなことが起きないように。
差別と見なすなら見なせばいいさ。
このやり方で、俺なりの冒険者の鑑定士をやってみる。
若い連中の物の見方、少しはましになってくれたら、と思う。
こいつらは果たしてそれに気付いてくれるだろうか。
俺の期待を外さねぇでもらいたいもんだ。
でもやっぱり彼女も十八才だった。
育成不十分なのか?
いや、十分なら、養成所卒業してすぐに、先輩たちのパーティからお呼びがかかるっつってたな。
ここに来る連中は売れ残りってわけだ。
「売れ残りばかりじゃないんですよね。勧誘してもらってしばらく一緒に活動して、見込み違いって言われる人も……」
社会の厳しさは競争ばかりじゃねぇんだな。
己の必死な努力が成長に繋げられなきゃそれでお終い。
そんな厳しさはいずれ知らなきゃならんことだろうが、ちょっと年齢的に早すぎなんじゃねぇの?
まぁ俺が疑問に思ったところで、世の中の何かが変わるわけじゃねぇ。
で、鑑定の結果、比較的回復系の魔術と魔力が高い。
服の色と言い、自分の名前と言い、そんな系統に強いのかね。
成長度は……ここに買い物に来る客らの平均値くらいにまでは伸びるか。
冒険者という職業を選んだのは、失敗とは言えん。
大成功とも言えんけどな。
「ま、素質はラッカルよりは高い。技能は……ありゃ別格だ。新人の誰もがあいつに敵わん。より儲けをでかくしたけりゃ、技術を磨くこったな」
だがラッカルにだってその技量に短所はある。
確実性が高めになる範囲が限定されてるってことだ。
それを越えりゃあいつよりは上になる。
が、狙った位置にピンポイントで魔法を出せる奴っているんかな。
ゴミ箱にゴミを放り投げて入る、その距離がどこまでも離れてても問題なければ将来安泰。
「技術って……どんな」
「そこんとこは自分で考えな。俺に嵌力を高めたり器をでかくする方法なんざ知らんしよ」
それと、こうすれば術師のレベルが上がる などと教えても、そんなの無理です、と言われちゃ何も言いようがない。
無理なことを無理と思わず達成させられることこそが、いわゆる一皮むけるって奴だろうからな。
冒険者業を詳しく知らないくせに などと言われるのも同様だ。
けどこいつらにとっちゃ、壁というには分厚すぎる壁を越えなきゃ成長できねぇだろ。
俺は……俺は壁を乗り越える努力なんかしたこたぁねぇが。
努力しなくても、こんな力が身についてたからな。
「……いえ、それだけでも、教わっただけでも十分です。ありがとうございますっ!」
何という腰から上が直角なお辞儀か。
定規式とでも言おうか。
「んー……まぁそんなもんだな。もちろん身体的、精神的成長することで、その能力……」
「あ、何かやってる」
「あー、ほんとだ」
「何してんだよ」
ダンジョンの方からやってきた大衆は……昼前までここでたむろしてた新人どもじゃねぇか。
「アラタさん、何してんですか?」
「その子一人だけ? 何話してたんです?」
「アラタさぁん、俺にも、俺にもぉ。何してたか知らないけどぉ」
ここに来るなり首を突っ込んでくるひよっこども。
うぜぇ。
「あ、あの、じゃあ私、この辺で失礼します」
「お、おう」
重要なことは大体伝えた。
あとはあいつの今後の活動次第。
それはあいつも自覚してるようで、随分と晴れ晴れした表情だった。
「え? ちょっと待って。あなた、どんな話してたのー?」
「あ、俺にも聞かせろよ。何話してたんだよ」
何人がグリンの後を追う。
そいつらを抑えるまでもなかろ。
こっから先のことは、あいつの考え次第だ。
で、だ。
「イールって人からいろいろ言われて、それで俺達でパーティ組んでダンジョンに行ってきたんだけどよぉ。俺らがいない間何してんだよ、アラタ」
「あたし、ホント面倒なこいつらの世話をしながらダンジョンに潜ってたんだけど、あんな目に遭うって分かってたなら、アラタさんが戻るの待ってりゃ良かった」
口々から出る俺への文句。
だが、うん。
やはり俺の見立ては、多分問題はない。
「あいつには親し気に話ししといて、何で俺らにはそんなつっけんどんなんだよ」
本音を言えば、うぜぇから。
「それは俺が決めることだ。こいつには話をして、あいつには話はしない、ってのはな」
「何だよそれ。差別じゃねぇか。自分が話したくない相手だから、ってんだろ? みんな、養成所卒業したてなんだぜ? 不公平なことすんなよ」
差別。
それこそ俺が大いに嫌う物の一つだ。
だが、これは、断じて、差別じゃない。
「問題ねぇんだよ。ある法則を決めた。その法則通りに行ったことだ。だから差別でも何でもない」
「何だよそれっ。つか、その法則って何だよ」
綺麗に掲示板の文字を消してからダンジョンに向かったようだが……使った後は綺麗にして片づける、なんて心掛けは、こいつらの場合はメッキだったってこった。
そんなんじゃ、俺の鑑定は受けられない。
……そう。
鑑定料は金じゃない。
金じゃなくて、心根だ。
他者を敬えるか、他者を大切にできるかどうか。
これをその法則とするなら、俺なら一発で見分けられる。
感情にも通じるところがあるからな。
相手を大切にする気持ちが備わってれば、俺だってここに安住の地を求めたりしなかったよ。
願わくばこの世界も、俺の世界のように誰かから居場所を奪うようなことが起きないように。
差別と見なすなら見なせばいいさ。
このやり方で、俺なりの冒険者の鑑定士をやってみる。
若い連中の物の見方、少しはましになってくれたら、と思う。
こいつらは果たしてそれに気付いてくれるだろうか。
俺の期待を外さねぇでもらいたいもんだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】
きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ!
約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。
夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。
もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。
純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく!
最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる