勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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三波新の孤軍奮闘編

謎の脱毛症 その6

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 見るたびに屈辱を受ける俺の下半身。
 清潔感はあるが、それでも……。
 その屈辱を受けながらの入浴。
 気分はさっぱりしたどころか、さっぱり良くならない。
 この思いを、右手に装着された防具の龍の顔に込め、今宵はケマムシどもを血祭りにあげてやるっ!
 ……祭りは昼間より、やはり夜がいい。うん。

 ※※※※※ ※※※※※

 みんなが寝静まった夜。
 音を立てずに起き上がる。
 同じ掛布団の中にいるサミーも眠ったまま。
 そしてこれから始まる孤独な闘い。
 旗手としての能力を最大限に生かす時が来た。
 魔力と気配の察知能力。
 普通にいつも通り使うなら、仲間の魔力や気配に反応してしまう。
 仲間が発するものか、人が発するものか、魔物からのものなのかあるいは……。
 だが、本気モードの俺ならば、強い気配の中にいる微弱な気配に気付くことはそれほど難しくはない。
 暗闇なんて、そんな俺の前には何の障害にもならないしな。

「……この部屋には……その数、七匹、か」

 何匹いようと、見つけられなくなるまで探索して滅殺するまでだ。
 ただ、その数は念のために把握しておこう。
 さて。

「確か、燃やせばすぐに燃え尽きるって言ってたよな。つまり……」

 その周りにある物に延焼することはないはずだ。
 右手の龍の防具の先端で象っている龍の顔。
 その口に、魔力による火を灯す。
 拳が火を纏っているように見える。
 まさに燃える拳。
 着火するように接触するのではなく、ただ振り回すのみ。
 その炎に触れただけで燃えてくれるのなら、ますます延焼の心配はなくなるはずだから。

「まずはこの場から一番近いケマムシは……そこかっ!」

 足元目がけて拳を素振り。
 炎の軌道の端で、線香花火の一筋のように燃え、すぐに消えた。
 と同時に、そこから発していた存在と魔力の気配も消える。
 周囲に焦げ付きはない。
 部屋の中には、残り六匹。
 いや、六体と言うべきか?
 相変わらず姿は見えない。
 炎の明るさがあるために、奴らはその場から動かないでいるようだ。
 ここにいるケマムシで全員というわけじゃない。
 ならば、仕留めるためにじっくり時間をかけるわけにはいかない。
 サミーに気付かれないように、敷き布団の上の二体。
 続いて入り口付近の床の三体、ソファの上の一体を完全燃焼。
 俺の部屋の中にいるケマムシは全滅。
 あとは、最初の犠牲者を出した車庫に奴らの拠点があるはずだ。
 だがそれは、滅殺した七匹のコロニーとは言い切れない。
 奴らにとって、俺の部屋から車庫までは距離が遠いと思うから。
 まずは、おそらく一つの集団と思われるあの七匹の他の仲間らを見つけなければならない。
 そいつらの住処が車庫なら、それはそれで難しい問題が発生することはないだろう。

「だが……テンちゃんの部屋に五体、コーティの部屋に二体、ヨウミの部屋に一体、マッキーの部屋には三体。それと……このロビーに五体。……まずはこの五体だな」

 炎を強めに出す。
 ちっぽけな気配の動きが止まる。
 こいつらの命も風前の灯火……。
 いや、俺の前の、怒れる炎の鉄拳だ!
 怒声をあげたいところだが、それでみんなを起こしてしまっては、さらに機嫌を損ねてしまうだろう。
 その気配目がけて炎の軌道を描く。
 暗闇の静かさの中に、かすかに火が盛んになる音が割って入る。
 その音は五回。

「……さて……次は各部屋の中……」

 部屋の扉には鍵はついてない。
 そしてどの部屋も、扉は入口より上下幅が足りない。
 まるで西部劇の酒場の入り口みたいなものだ。
 まずはヨウミの部屋から。
 念のため、炎は極力小さくする。

「女性の部屋に入るってのは、それこそデリカシーに欠ける行為……っつーか、人としてどうかと思われるが……」

 被害を受けた時のダメージを考えると、バレなきゃ犯罪じゃないんですよどころじゃない、許される行為とは思う。
 なんせ、部屋の中の様子なんか、いくら拳に炎をまとわりつかせても見えるはずがない。
 というか、部屋の中にあるプライバシーがどんな物なのか、全然分からない。
 まぁ他人が信用してくれるかどうか分からんが、こいつらのプライバシーには、ほとんど興味はない。
 まずは、ケマムシ一体を……。

「……入り口の傍に確認。ヨウミは……熟睡中。この距離なら……扉を開けるまでもない。……滅するがいいっ!」

 ……決め言葉を思いついたとて、発する小声じゃ締まらない。
 ま、俺の行動がバレなきゃそれもやむを得ない。
 事は解決しても、晴れない気持ちのままになるだろうが。

 ※※※※※ ※※※※※

 部屋によって、扉の軋みを極力抑えて部屋の中に侵入し、滅殺。
 こうして各部屋を訪ねて、誰の眠りをも妨げることなく鉄拳制裁完了。
 そして車庫に向かう。

「……二十二体確認。……一応可燃物も確認して……火気厳禁な品物はなし。人気もなし。……こういうのに憧れてた時期もあったんだよな。虐げられながらも」

 赤いカラーリングが多めの右腕の防具。
 赤龍……だな。
 炎は、思いっきり手加減して微弱なものにするけどさ。
 獄炎くらい出してみてぇよ。
 赤龍獄炎陣、とか何とか。
 もう一つ単語付け加えたい。
 構えも、なんかそれらしく……。
 ……そんな妄想も卒業しなきゃならない年齢、と世間では言われてもおかしくはない。
 が、この世界の世間としては……。
 冒険者業をしている四十代もいる。
 それより年下だから……。

「人の気配、ないよな。……えっと……」

 右脇を締めて右手を握り、顔面にまで上げて、龍の顔を拳の甲にまで伸ばす。

「……行くぜ……最小の炎で燃え尽きろ……。赤龍駆翔獄炎陣!」

 拳を突き出し、奴らのいる所に届く範囲での、なるべく最小限度の炎を拳の形にして飛ばす。
 炎はその形のまま蛇行し、ケマムシ全てに触れた後消滅。
 ケマムシの気配は当然全滅。
 延焼もなし。
 念のため、火の用心に十分ほどその場で待機。
 ただぼんやりと待つのではなく、あれこれと予想する。
 メイスの店の中にコロニーがあるなら、メイスの被害はもっとひどくなっててもおかしくはない、とか。
 そのうち、少し盛り上がった気分も冷めてくる。
 改めて、そばに誰もいないことを確認して……。

「うあぁ……。アニメや特撮に憧れててもおかしくない年齢じゃないってのに……何口走ってたんだ、俺」

 そう言えば、この世界にはテレビ……受映機の番組に特撮もアニメもなかったような気がする。
 まぁ特撮めいたことが日常に当たり前にあるもんな。
 魔法どか、武器とか防具とか。
 俺の両手足につけてる防具もそれっぽいし。

「さて……火事の心配はなさそうだし、メイスんとこに向かう途中に一か所あるっぽいな。他にコロニーっぽいのは……見当たらないな。どうやらケマムシの住処は二か所と断定していいか?」

 そして、戦場は次なる目的地へと移る。
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