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三波新の孤軍奮闘編
わずかな時間の自問自答
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まさかこんな夜中に、魔物の泉現象が起きるとは。
援軍を呼ぶ術がない。
勇者、旗手として呼ばれたのであろう俺に、だからと言って実戦で役に立つ能力は備わってない。
現象から現れる魔物共に対して切り札的な立場にありながら、戦闘の現場じゃ無力に等しい。
が、旗手の存在は、もはや今では誰かが話題に出さないと誰も思い出すことはないだろう。
「……ダッシュでみんなに報せて、そのままここから撤退する……てのも……なくはないよな?」
そう。
ここにきたのは、俺のおにぎりが他の場所と比べてよく売れそうだ、という目論見から。
その理由は、この地下のダンジョン。
初心者向きの階層もあるから、幅広い冒険者のレベルが対象になる。
ただそれだけだ。
それに、この村に何かの義理があるわけじゃない。
元々貸し借りを作らないよう、言動に気を付けてきた。
それにだ。
俺一人だけで、その旗手の役目……魔物の泉現象、雪崩現象から出現する多数の魔物退治ができるわけがないし、俺を召喚した者達は、俺を旗手と認めなかった。
そんなもんになりたくもないしなるつもりもない。
つまり、この世界を、国を守るなんて英雄めいた志も思想も、妄想すらも存在しない。
守るとするなら、せいぜい店の仲間達が限度。
そのためにこの村から撤退するなら、あいつらから冷たい目で見られる毎日を過ごすことになること間違いない。
それでも俺は構わないんだが。
「……だって、俺にごめんなさいを言ったのは……シアンとその母親だけなんだぜ? 俺を捕えようと考えてた奴らもいた。いわば国民だ。その国民からは、ごめんなさいは言われたことはない。未だに遊びに来るあの双子の父親からは言われたが、俺の手配書とは別件だしな」
過去のしがらみがない分、どう動こうが自由だ。
旗手だって、もうないも同然。
考えてみりゃ、仲間達だって、ただ同族からはぐれただけの存在であって、現象の魔物に対してジョーカーの役割なんか持ってるはずはない。
もし今俺が通話機を持っていて、みんなに報せてたら……。
「仲間と共に討ち死に、無駄死にってことも……」
以前このダンジョンで現象が起きた。
今回で二度目だ。
あの時は、俺達だけじゃなかった。
大勢の援軍がいた。
だから現象を抑えられた。
俺達は……そして俺は……そいつらを圧倒できるほどの力を持つ英雄なんかじゃない。
期待されても困るんだ。
けど……。
「……なんで、逃げようって気が起きないんだろうな」
……社会人時代、いろんな嫌なことを無理やりさせられた。
したくなかったから。やりたくなかったから。
だから、無理やりさせられた。
今だってそうだ。
得体のしれない魔物、しかも一体どころじゃない。
何十体もは出ては来ないだろうが、十何体かは出てくる。
いずれ、俺一人じゃ何ともならない。
けど、そいつらを一人で止めろ、と誰かから命令されたわけじゃない。
そんな役目を誰かから押し付けられたわけじゃない。
どうせ損な役どころにしかなれねぇ、とやけくそになってるわけでもないし、ふてくされてるわけでもない。
もちろん勝算もないが。
なのに、逃げるために動く気にはなれない。
怪我はするだろう。だが死ぬ気もない。
何なんだ、この心境は。
自分で自分が分からない。
「……今更人から嫌われたってなぁ。嫌われてるのは慣れている。俺を都合よく振り回してる奴がいた。だからってわけじゃないが、俺だって俺の都合よく振り回したって文句を言われる筋合いはねぇよな」
過去に体験した結果、心の中に生まれた。ある意味での覚悟だ。
それよりも、逃げることで悪い印象を持たれることの方が嫌だ、というのか?
何でだよ。
今までの体験で感じた辛い思いが無駄になる?
体験や経験から得た知恵の方が重要じゃないのか?
それにだ。
「逃げずに魔物共と戦って、それで下手に勝利してみろ。村中から、ここから離れないでくれって懇願されるぞ? 下手すりゃ軟禁状態だ。いや……仲間を人質にして、生涯かけてあの魔物共から村を守れ、なんて脅迫されることだって……」
もしそんなことになったら……シアンに助けを求めるか?
この国の王になったシアンに。
それは簡単だ。通話機で一言告げれば済むことだ。
が、間違いなくシアンにでかい貸しを作っちまう。シアンにそのつもりがなくてもな。
「逃げなきゃならない理由しか出てこないのになぁ」
……そんなうんざりな自分の運命を呪って悲しんで、それに終止符を打つために……ひょっとして自分から命を投げ出そうとしてるのか?
……それは……ないよな。
つか、前半はあるが後半はない。
死にたくはない、と思うほど、生きることに執着はしてない感じだよなぁ。
いや、死ぬなんてあり得ないという思い、というのが当てはまってるか?
だって……あぁ……そうか。
「楽しかったもんな。国から追われて行商しか仕事がなかった頃も。けどこの世界に来るまでは、そんな楽しい事は……一つもなかったもんな。笑ったことはあったにせよ、な」
でも、この村でなくても楽しい毎日を送ることは……。
……いや、できないはずだ。
地震雷火事……泉と雪崩。
いつ起きるか分からない災害がある。
前の三つは、一般人でも予防できるし対策も立てられる。
が最後の現象の件は……。
「魔物共がうようよし始めたら……今ではシアンが何とかしてくれるだろうが……」
すぐに何とかしてくれるか?
こんな夜中に、すぐに駆け付けてくれるか?
察知だけなら、俺の方が優秀じゃねぇか。
いつ退治のために来てくれるか分かんねえし。
それでもこうして俺が留まることができるのは、地下ダンジョンの出入り口が地表に二か所のみ、という特殊な条件があるからだ。
「地上で現象が起きたら……とにかく報せに走るしかないけどな」
だが現状は?
俺でもそれを止めることができないかもしれない。
けど、この条件なら、俺なら止められるかもしれない。
俺なら止められたかもしれない。
けど、今俺がここから逃げたことで、この村が全滅したとしたら?
「ずっと……後悔しつづけるのかもしれないな。俺の役目でなかったとしても……」
いくら元旗手でも、一人きりで、しかも気配の察知しか能力がないってんじゃ仕方がないよ。
少しでも思いとどまってくれたのはありがたい、と言われるかもしれない。
俺が逃げたせいで村が全滅した、なんて言う奴は一人もいないかもしれない。
その能力がなかったら、冒険者でも何でもない、ただの一般人だもんな、と言ってくれる人もいるかもしれない。
この手足の防具は、シアンが俺に対して、今後も頑張ってくれよ、という期待を込めたんじゃなくて、今までのお詫びとしてくれたものだ。
だから、村や国に降りかかる苦難を追い払い、守るために動く理由にはならない。
むしろ一般人なら、現象が起きたことを知ったら、すぐにでもその場から逃げるのが普通だろ。
魔物共と戦えるわけがないんだから。
けど……。
宿屋のおやっさんには世話になった。
あの双子は、まだサミーの遊び相手になってくれてる。
時々その双子の親父さんも顔を見せる。
村の人達ばかりじゃない。
おにぎりを思い出の食事ってことで、しょっちゅうあのベンチで座って食ってる。
行商時代からの知り合いの冒険者が連れてきた弟子たちもいる。
その弟子が、いつの間にか弟子を取ってここに連れてきたっけ。
時々ウザく思える、そこの武器屋の主人もいっぱしになった。
養成所を卒業したばかりの有象無象どもが、腕を上げようとここらをたむろしてる。
「……くそが。いつの間にかしがらみできてんじゃねぇか」
……もしもあの魔物どもを放置したら、この村の奥の方にも進むんだろうか?
そしたら……サミーの親もいるよな。
神経質なくらい森の心配をするマッキーも、どんな顔すんだろうな。
「……今まで通り、今までと変わらねぇうぜぇ毎日が、辛気臭い毎日になっても……面白くねぇよな」
……俺の毎日がそんな風に変わるのは真っ平ご免。
俺が不快な思いで毎日を過ごすのは我慢ならない。
うん。
俺がここに留まる理由は、それだけで十分だよな?
援軍を呼ぶ術がない。
勇者、旗手として呼ばれたのであろう俺に、だからと言って実戦で役に立つ能力は備わってない。
現象から現れる魔物共に対して切り札的な立場にありながら、戦闘の現場じゃ無力に等しい。
が、旗手の存在は、もはや今では誰かが話題に出さないと誰も思い出すことはないだろう。
「……ダッシュでみんなに報せて、そのままここから撤退する……てのも……なくはないよな?」
そう。
ここにきたのは、俺のおにぎりが他の場所と比べてよく売れそうだ、という目論見から。
その理由は、この地下のダンジョン。
初心者向きの階層もあるから、幅広い冒険者のレベルが対象になる。
ただそれだけだ。
それに、この村に何かの義理があるわけじゃない。
元々貸し借りを作らないよう、言動に気を付けてきた。
それにだ。
俺一人だけで、その旗手の役目……魔物の泉現象、雪崩現象から出現する多数の魔物退治ができるわけがないし、俺を召喚した者達は、俺を旗手と認めなかった。
そんなもんになりたくもないしなるつもりもない。
つまり、この世界を、国を守るなんて英雄めいた志も思想も、妄想すらも存在しない。
守るとするなら、せいぜい店の仲間達が限度。
そのためにこの村から撤退するなら、あいつらから冷たい目で見られる毎日を過ごすことになること間違いない。
それでも俺は構わないんだが。
「……だって、俺にごめんなさいを言ったのは……シアンとその母親だけなんだぜ? 俺を捕えようと考えてた奴らもいた。いわば国民だ。その国民からは、ごめんなさいは言われたことはない。未だに遊びに来るあの双子の父親からは言われたが、俺の手配書とは別件だしな」
過去のしがらみがない分、どう動こうが自由だ。
旗手だって、もうないも同然。
考えてみりゃ、仲間達だって、ただ同族からはぐれただけの存在であって、現象の魔物に対してジョーカーの役割なんか持ってるはずはない。
もし今俺が通話機を持っていて、みんなに報せてたら……。
「仲間と共に討ち死に、無駄死にってことも……」
以前このダンジョンで現象が起きた。
今回で二度目だ。
あの時は、俺達だけじゃなかった。
大勢の援軍がいた。
だから現象を抑えられた。
俺達は……そして俺は……そいつらを圧倒できるほどの力を持つ英雄なんかじゃない。
期待されても困るんだ。
けど……。
「……なんで、逃げようって気が起きないんだろうな」
……社会人時代、いろんな嫌なことを無理やりさせられた。
したくなかったから。やりたくなかったから。
だから、無理やりさせられた。
今だってそうだ。
得体のしれない魔物、しかも一体どころじゃない。
何十体もは出ては来ないだろうが、十何体かは出てくる。
いずれ、俺一人じゃ何ともならない。
けど、そいつらを一人で止めろ、と誰かから命令されたわけじゃない。
そんな役目を誰かから押し付けられたわけじゃない。
どうせ損な役どころにしかなれねぇ、とやけくそになってるわけでもないし、ふてくされてるわけでもない。
もちろん勝算もないが。
なのに、逃げるために動く気にはなれない。
怪我はするだろう。だが死ぬ気もない。
何なんだ、この心境は。
自分で自分が分からない。
「……今更人から嫌われたってなぁ。嫌われてるのは慣れている。俺を都合よく振り回してる奴がいた。だからってわけじゃないが、俺だって俺の都合よく振り回したって文句を言われる筋合いはねぇよな」
過去に体験した結果、心の中に生まれた。ある意味での覚悟だ。
それよりも、逃げることで悪い印象を持たれることの方が嫌だ、というのか?
何でだよ。
今までの体験で感じた辛い思いが無駄になる?
体験や経験から得た知恵の方が重要じゃないのか?
それにだ。
「逃げずに魔物共と戦って、それで下手に勝利してみろ。村中から、ここから離れないでくれって懇願されるぞ? 下手すりゃ軟禁状態だ。いや……仲間を人質にして、生涯かけてあの魔物共から村を守れ、なんて脅迫されることだって……」
もしそんなことになったら……シアンに助けを求めるか?
この国の王になったシアンに。
それは簡単だ。通話機で一言告げれば済むことだ。
が、間違いなくシアンにでかい貸しを作っちまう。シアンにそのつもりがなくてもな。
「逃げなきゃならない理由しか出てこないのになぁ」
……そんなうんざりな自分の運命を呪って悲しんで、それに終止符を打つために……ひょっとして自分から命を投げ出そうとしてるのか?
……それは……ないよな。
つか、前半はあるが後半はない。
死にたくはない、と思うほど、生きることに執着はしてない感じだよなぁ。
いや、死ぬなんてあり得ないという思い、というのが当てはまってるか?
だって……あぁ……そうか。
「楽しかったもんな。国から追われて行商しか仕事がなかった頃も。けどこの世界に来るまでは、そんな楽しい事は……一つもなかったもんな。笑ったことはあったにせよ、な」
でも、この村でなくても楽しい毎日を送ることは……。
……いや、できないはずだ。
地震雷火事……泉と雪崩。
いつ起きるか分からない災害がある。
前の三つは、一般人でも予防できるし対策も立てられる。
が最後の現象の件は……。
「魔物共がうようよし始めたら……今ではシアンが何とかしてくれるだろうが……」
すぐに何とかしてくれるか?
こんな夜中に、すぐに駆け付けてくれるか?
察知だけなら、俺の方が優秀じゃねぇか。
いつ退治のために来てくれるか分かんねえし。
それでもこうして俺が留まることができるのは、地下ダンジョンの出入り口が地表に二か所のみ、という特殊な条件があるからだ。
「地上で現象が起きたら……とにかく報せに走るしかないけどな」
だが現状は?
俺でもそれを止めることができないかもしれない。
けど、この条件なら、俺なら止められるかもしれない。
俺なら止められたかもしれない。
けど、今俺がここから逃げたことで、この村が全滅したとしたら?
「ずっと……後悔しつづけるのかもしれないな。俺の役目でなかったとしても……」
いくら元旗手でも、一人きりで、しかも気配の察知しか能力がないってんじゃ仕方がないよ。
少しでも思いとどまってくれたのはありがたい、と言われるかもしれない。
俺が逃げたせいで村が全滅した、なんて言う奴は一人もいないかもしれない。
その能力がなかったら、冒険者でも何でもない、ただの一般人だもんな、と言ってくれる人もいるかもしれない。
この手足の防具は、シアンが俺に対して、今後も頑張ってくれよ、という期待を込めたんじゃなくて、今までのお詫びとしてくれたものだ。
だから、村や国に降りかかる苦難を追い払い、守るために動く理由にはならない。
むしろ一般人なら、現象が起きたことを知ったら、すぐにでもその場から逃げるのが普通だろ。
魔物共と戦えるわけがないんだから。
けど……。
宿屋のおやっさんには世話になった。
あの双子は、まだサミーの遊び相手になってくれてる。
時々その双子の親父さんも顔を見せる。
村の人達ばかりじゃない。
おにぎりを思い出の食事ってことで、しょっちゅうあのベンチで座って食ってる。
行商時代からの知り合いの冒険者が連れてきた弟子たちもいる。
その弟子が、いつの間にか弟子を取ってここに連れてきたっけ。
時々ウザく思える、そこの武器屋の主人もいっぱしになった。
養成所を卒業したばかりの有象無象どもが、腕を上げようとここらをたむろしてる。
「……くそが。いつの間にかしがらみできてんじゃねぇか」
……もしもあの魔物どもを放置したら、この村の奥の方にも進むんだろうか?
そしたら……サミーの親もいるよな。
神経質なくらい森の心配をするマッキーも、どんな顔すんだろうな。
「……今まで通り、今までと変わらねぇうぜぇ毎日が、辛気臭い毎日になっても……面白くねぇよな」
……俺の毎日がそんな風に変わるのは真っ平ご免。
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