勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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番外編 この世界で唯一前世の記憶を持つダークエルフ編

来世はエルフと言われたが、ダークエルフなんて聞いてねぇ! その1

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 両親は普通のエルフだった。
 けどあたしは灰色と茶色が混ざったような肌の色だった。
 突然変異らしい。

 物心ついた時から、前世の記憶も蘇った。
 けど、ほんの一部だけ。
 成長するにつれ、その記憶もどんどん増えていった。

 そして転生の神との会話を思い出した時に真っ先に思った。

「エルフに生まれることは聞いてたけど、ダークエルフになるなんて聞いてねぇ!」

 と。

 エルフは、人間以上に結束力が高かった。
 けど、変わることのない違いを持っているエルフは、爪はじきにされた。
 前世の、勇者を辞めた後のことを嫌でも思い出してしまう。

 けれど、それには理由があった。
 その理由を後で知り、最初から教えてもらえたら、その爪はじきだって納得できたのに、とも思った。
 あたしが生まれたエルフの村でも、成長して大人になる前に追い出そうという動きはあった。
 子供のうちは、他のエルフの子供と同じように、差別を受けることは全くなかったけれど。
 そしてあたしの家族はというと、決してそんなことをしなかった。
 前世のあたしの、勇者になる前の、家族みんなが仲良しだったのとほぼ同じだった。

 ちなみにあたしの家族は、祖父母、父母、兄と姉が七人。
 そして一番下にあたしがいる。
 曾祖父母も元気だけど、祖父が自分の実家から独立して、村の中の別の場所に家を建てて家庭を築いて大家族になったみたい。
 祖父母の実家の方も賑やか。
 祖父の兄が実家を引き継ぐことになるだろう、と聞いた。

 ※※※※※ ※※※※※

「マッキー。今日も森に行って遊ぼうぜー」
「うん、いくー。ちょっとまってて。おとうさんとおかあさんにいってくるからー。……あ、おとうさん、ともだちみんなと、ちかくのもりにあそびにいってくる―」

 気を付けて行けよー、という父の声を聞いて、あたしはいつもと同じように森に遊びに出かけた。

 森に遊びに行く、という行為は、単に遊びに出かけるというだけじゃない。
 真面目な言い方をすれば、弓矢の練習。
 自分の体に合った大きさの弓と矢を作ってもらい、それで射撃の練習となる遊びをする、ということだ。
 魔力が高いエルフは、その弓矢に魔力を加え、曲打ちにも挑戦したりする。
 大勢と一緒に弓矢で遊ぶことで、誰かの技術を自分に取り入れたり、自分しかできない扱い方をみんなが真似をして、互いに弓矢の技術を切磋琢磨して高めていく。
 他種族からもエルフ族の弓矢を評価される理由の一つは多分、こんなことなんじゃないだろうか、とも思う。

 そしてあたしは、兄姉達や近所の子達と一緒に、毎日森に遊びに出かけていた。

「マッキー、相変わらず弓、下手だねぇ」
「そんな事言わないのっ! マッキーちゃん、一番年下なんだから当たり前でしょ! まだ……五才、だっけ?」
「よんさいだよ、おねえちゃん……」
「あー……それじゃまだ無理かぁ」

 まだ矢を飛ばすしかできなかった。
 というか、そんな子供じゃ飛ばすだけが精一杯。
 目標を決めて当てる技術は、もっと大きくなってから。

 でも、特別な力をもらえたはずなんだけど……と戸惑う気持ちもあった。
 もっともこの頃は、生まれ変わる前のすべてを思い出せたわけではなかったから、そんな覚えがあったようななかったような、という感じだった。
 ただ、魔力は他の子達よりも高かったらしい。

「すげー! マッキー、こんなに魔力出せるのかよ!」
「ちょっと! そんなに出したら危ないよ!」

 指先に思いを込めると、明るい光の玉が指に灯った。
 それを投げるなり、どこかに向けて放出するなりすることで、魔法攻撃が可能になるのだが……。

「ちょっとみんな、マッキーから離れてっ! マッキー! それ、少しずつ引っ込めなさい!」
「えーっと……おねえちゃん、きえないよ? どうしよう」
「ど、どうしようって……あたしよりも強そうだから打ち消すのも難しいし……」

 みんなが自分から離れていく。
 それもそうだ。
 暴発して大怪我したりするかもしれないから。

「と、遠くに飛ばせ! マッキー!」
「あ、うん、やってみるよ、おにいちゃん。えぃっ!」

 腕ごと振り回し、遠くに飛ばすつもりだった。

 が……足元に落ちた。
 周りから悲鳴が上がった。
 あたしの足元で、ボンッ! という大きくて低い破裂音が響いて土煙が舞う。

「マ、マッキー!」

 お姉ちゃんの悲鳴が上がった。
 あたしは……

 頭から土煙を被っていた。

「ケホッ! ……おねえちゃあん……どうしよう……」

 髪の毛は乱れ、顔も手足も汚れ、服はボロボロ。
 けど、怪我はどこにもなかった。

「……い、痛いとこ……ない?」
「……ゆみ、こわれちゃったあ……。うぇーん」

 周りからはきっと、何を暢気なことを、と思われてたに違いない。
 けど、どこも痛くはなかったのだから、他に伝えなきゃならないことと言えば、着ている服と弓矢の被害くらい。
 泣いたのも、体のどこかが痛いからじゃなかった。
 あたしのために弓矢を作ってくれたお父さんに怒られる、と思ったから。

 周りが安心してほっとしてたけど、壊した弓矢を見て怒るお父さんを想像してたあたしは、そのことが心配でそれどころじゃなかった。

 幼かったとはいえ、弓矢の技術はまだ未熟。
 他の子達よりも桁違いの魔力はあったが、その扱い方がままならない。

 特別な力をもらったはずなのに、という得体の知れない不安は、この頃からあった。
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