勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
457 / 493
シアンの婚約者編

フレイミーの一面 その6

しおりを挟む
「アラタ……貴方は……陛下の苦しみを知らないのでしょうね……」

 フレイミーはさっきの怒鳴り声から一呼吸……いや、三回分くらいの呼吸を置いて、静かに語りだした。
 このフレーズって、やっぱり自分語りが始まる前奏曲か?
 だが冗談じゃねぇ。

「あいにくお前のお喋りに付き合ってる暇はねぇんだ。魔物どもがこっちに来ようが向こうに行こうが、どっちにしても結果論なんだよ。魔物どもがどう動いてどんな結果を招くとしても、そこに至るまでの監視に手抜きはできねぇ」

 自分に浸ってんじゃねぇよ。
 大体シアンがどんな苦しい思いをしようが、今は魔物どもの行動に合わせてこっちも動かなきゃなんねぇ。
 そのためには、連中の気配を常に把握しとかにゃならん。
 フレイミーの話に耳を傾けてる場合じゃねぇ。

「アラタ! 貴方こそ私の指示に従いなさい! 国民の平安を守り、陛下のご負担を軽くするために!」

 ホント、自分中心なんだな。

「……あいつの苦しみなんて知らねぇし知るつもりもねぇよ。そんなの、今必要な情報じゃねぇ。今必要なのは、どの位置に、どんな規模で、どんな魔物が湧いて出てて、その戦力はどれくらいのものかって情報じゃねぇのか? それを知らねぇで、それを越える戦力かどうかも分からねぇで連れてきたんだろ? ……お前、それらを一つでも知ろうとしたか? こっちの都合なんか考えてくれるような奴らじゃねぇ。そんな連中が、こっちの都合のいいように動いてくれるはずがねぇ」
「……何が言いたいの?」
「あんたが連れてきた後ろの連中、面構えに体つきを見りゃ分かる。確かにあんたの言う通り、精鋭揃いだとは思う。国軍に力及ばずともな。学生を終えたばかりのあんたの護衛。あんた同様に、訓練を終えたばかりの新米兵士なんかじゃねぇ。それでもあの魔物には及ばねぇ。数が多けりゃいいってもんじゃねぇが、戦力だけ考えるなら、ここにいる戦力の五倍以上は必要だ」

 この村で初めて現象に遭遇した時は、集まってきてくれた冒険者達一人一人を見れば多分こいつらよりも戦力は下だ。
 けど一致団結して、負傷者はいたが再起不能にはならなかった、そんな結果を出した。
 そしてトドメは、たしかシアンが連れてきた連中に刺してもらった……んだっけか。

 こいつらだけ考えれば、確かに一致団結してるだろう。
 だがあの時と今とでは全然状況が違う。

 戦場になると思われる環境だけじゃない。
 あの時は、みんな、俺の言うことを聞いてくれたからだ。
 そして、面識のなかった奴らの方が多かったはずだ。
 なのに俺の能力のことを信頼してくれた。

 それが、俺を信頼する気がないフレイミーとこいつらだ。
 奇跡が起きたってハッピーエンドを迎える図が想像できない。

 じゃあここでこいつらにそれを伝えればいいかってぇと、それで丸く収まるわけがない。
 聞く耳を持ってくれなきゃ時間の無駄だし、俺からの情報という認識を持ってくれるかどうかも怪しい。

 それと、だ。
 魔物どもを倒した、とか、村を救った、などという手柄だっていらねぇし、借りはもちろんのこと、貸しだって作りたくもない。
 だから手柄が欲しけりゃくれてやるってな啖呵も未練なく切れる。
 が、俺から得た情報を手掛かりに、事実と違うことを事実と思い込んだりして生まれる采配ミスの原因を、俺に押し付けてくることも考えられる。

 それがまかり通る可能性はかなり高い。
 理由は、こいつらが貴族だから。
 そして俺は一般人だから。

 何の情報もなく、一方的に上から押し付けられることには漏れがあったり反発も起きたりする。
 俺がこの世界に来た当初とその後の計二回、俺は手配書を張られた。
 けど、俺を追ってきたのは国の役人だけ。
 この国の全国民から追われるようなことはなかった。

 だが手配書ではなく、国民の興味をひく噂だったらどうなってただろうか?
 役人が動かずとも、国民全員から村八分となって追われてた可能性はある。
 ひょっとしたら、今仲間になってるみんなからも追われてたかも分からん。

 確かに俺には、村を救おうとか村人を助けようって気持ちは薄い。
 それはフレイミーの指摘の通り。
 だがそれは、村人は、自分で逃げる判断ができるから。
 だが、村人が作った田んぼとか牧場とか企業は、逃げるとか留まるなんて意思はない。
 それだけに、せっかくできあがった村人達の実績を踏みにじる魔物どもには、何とかしてでも手を打ちたい。

 行商人時代にはなかった感情だ。
 あの時は、逃げればそれで助かる、としか思えなかったからな。

 生活する人達を見ちまった。
 遊びに来る村人達も増えたけど、フィールドやダンジョンで活動する冒険者たちほど、思い入れも何もない。
 だが、それでも彼らが作り上げてきた数々のいろんな物が、蹂躙されるのを黙って見てる気もない。
 奴らを殲滅する決め手がなかったとしても。

 だから、俺ができることは、魔物どもの村への侵攻を少しでも遅くすることだけだ。
 シアン達が駆け付けるまでの時間稼ぎ。
 それが俺のミッションだ。

 だがこいつらは違う。
 自分達で何とかしようとしている。

 そして、俺を信頼していない。
 してほしいとも思わんが。
 そして、それが失敗したら、次の対策を考えてなさそうだ。
 それはおそらく、魔物どもが村に接近する時間を短縮させることにもなりかねない。
 シアン達が間に合わなければ、それでアウト。

 今、それを追及したところで、否定して、そして失敗の後の考えなしで魔物どもに突っ込もうとするだろう。
 そしておそらく、俺のせいにするんじゃなかろうか。

「五倍? その根拠はどこにあるの?」

 ……細けぇこと、気にすんなや。

「……根拠なんざねぇよ。適当に言っただけだ。六倍でも足りねぇ。十倍でも足りねぇんじゃねぇか? 人数の話じゃねぇ。戦力の話だ。シアンの率いる討伐隊と比べて、戦力はどんなもんよ? 同じぐらいありゃ勝率は五分だな」

 悔しそうな顔で睨まれた。

 持ちたくても持てなかった、か?
 戦場に出向かせたくても、それほどの戦力を保有してなかった、ってとこか。

 俺のせいじゃねぇだろ。
 文句を言う相手が違ってんぞ。
 元凶は、現象から出てくる魔物どもだろうに。
 俺を睨んだって、打開できる事態じゃないだろ。

「相手が悪かった。俺らだって姑息な手段使ったって勝てねぇ相手だ。普通に発生する魔物の集団なら、その戦力でも十分余裕で勝てただろうが……」

 統率力ならそっちが上だ。
 俺らはおそらく敵わない。
 普通の魔物なら、俺らよりもそつなく効率よく倒せてたかもな。
 どんな事情があるのか知らんが、挑む相手が悪すぎた。

「アラターっ! ちょっと大変みたい!」

 慌てふためいたようなヨウミの声。
 そして店から駆けてくる。
 ちょっと青ざめてるか?

「どうした。食中毒でも起こしたか?」

 もしそうなら、ヨウミが青ざめてるのも分かる。
 こんな時にそんなことが

「そんなわけないでしょうが!」

 違った。

「……そ、そうか。なら安心」
「安心どころかとんでもないことになるかもって!」

 うざい。
 本当に一大事なら、勿体ぶった言い方はすべきじゃなかろうに。

「メイス君から連絡が来たのよ。店の中から通話機の音が聞こえたから」
「え? 私には聞こえませんでした」
「俺も聞こえなかったなあ」
「ヨウミ、ミミイインダネ」

 俺も聞こえなかった。
 ヨウミの耳の良さに、魔物達もびっくりだ。
 とか言ってる場合じゃねぇか。

 ダンジョンの向こう側の洞窟で武器屋始めたあいつから通話が来た?

「ダンジョンの出入り口に異変が起きてるって! 魔物、いるんじゃないの?!」

 ……やばい。
 現象の魔物に注意しながら、目の前のこいつと口喧嘩に夢中になってた。
 そっちの方は、全くのノーマーク。

「でアラタ、そっちの方の状況は分かる?」

 恐る恐るそっちの方に気を向けてみると……。

「……いる……。出入り口……メイス側の方に殺到って感じだ。こっち側には一体もなし……」
「メイス君によれば、何日か出入り禁止にしてたからかもって。討伐する冒険者達が来なけりゃ、魔物達は増えるだけだもん。互いに争い合うことはあるし、中に留まりたがる魔物もいるけど、外に出たがる者もいるからって」

 現象の魔物は、未だに動きなし。
 ……よりにもよってこのタイミングかよ!
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...