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邪なるモノか聖なるモノか
アラタ、法廷にて その1
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「案件というのはだな……」
アークスによると、傷害事件が起きたのだそうだ。
ところがただの傷害事件じゃない。
加害者も被害者も……。
「冒険者養成所で起きたあ?!」
「声がでかい! それも……」
「どっちも訓練生?! てことは、子供同士ってことかよ!」
養成所でその仕事について学ぶ子供らのことは、生徒とも訓練生とも学生とも呼ばれてる。
アークスたちは訓練生と呼んでた。
「だから声がでかいっ」
「……こないだ、養成所を卒業したが冒険者になれなかったやつが子供を連れてきたんだが……」
「ん?」
「その子供も養成所を中退したとかさせられたとか」
「お、おう」
「養成所ってとこは、しょっちゅう問題起こしてるんじゃねぇの?」
「そんなことはない……と思うが……」
問題、起きすぎだろ。
現象が続いてた頃からも、養成所絡みのトラブルに何度か巻き込まれてたしな。
「養成所と言っても、種類はあるし数も多いのよ。数が多ければ、いろんな出来事も多く起きるのは当たり前でしょ? それに今回は、れっきとした原因があるの」
「原因?」
「あぁ。……加害者は、呪いの防具を身に着けている」
ほえ?
今、俺らがその雑談をしてたとこだぞ?
あ、あぁ、だから微妙に絡むっつってたのか。
「寝るときはもちろん、お風呂の時もつけっぱなし。外せないのよ」
「呪いのせいか、食事も碌に摂れてない。ときどき食べ物を口にするが、食事ってもんじゃないから体格も衰えてきてな」
そんな話を俺にされてもな。
「魔法使いとかに、解呪とかやってもらったらそれで解決じゃねぇか」
冒険者業素人の俺ですら、そんな発想がポンと出てくるぞ?
そんなこと考えも出来ねぇのか?
「もちろんやったさ」
あ、やったのね。
失礼しました。
「だが、呪いは解けなかった」
ご愁傷様、だな。
「このままでは原因糾明が成されないまま裁判が始まっちまう」
「さっきアラタ、養成所で問題起きすぎって言ったわよね。稀な案件だと思うけど、養成所側からは、原因……因果関係とかを突き詰めることで、一つでも問題を少なくできるならしたいって意向もあるのよ」
「それを俺に話をして、何がどうなるってんだ」
何の力にもなるわけがねぇ。
魔力自体ねぇんだからな。
「……その糾明のための調査に、殿下も加わってる」
嫌な予感しかしない。
「旗手としての能力を活かせないか、ということでな」
「殿下ご自身もここに出向いて話をしたがってたんだけど……何分忙しくて……」
別に申し訳ない顔を俺に向ける必要はねぇだろ。
「原因究明と事態の解明、そして判定の協力のために、裁判所に同行してくれないか」
……マジかよ。
俺の世界でもそんなとこに行ったことねぇのに……。
って待て待て。
「そんなとこに行って、俺に何をしてほしいんだ?」
「気配を察知する能力を使って、加害者の身辺を鑑定してほしい」
……なんか、この能力、万能扱いされてるような気がする。
何の力にもなれなきゃどうすんだよ。
国家権力で、俺の首刎ねられるとか?
そっちの方も怖いわ!
「あのさぁ……」
「どっちの味方に付くなど考えず、正確に判定してもらえるだけでいい。当然咎められることもないし責められることもない」
そんなん当たり前だろ!
それに心配事ならまだある。
「俺は魔力ゼロだぞ?」
「あぁ。知ってるが……」
「呪いの影響を受けないとは言い切れんだろ」
「それは言い切れる」
言い切りやがった。
「アラタのように非力で、しかも魔力ゼロのやつも加害者に触れた。何の問題も起きなかった」
既に毒味は済ませたってことかよ。
まったく……。
「俺達も、中立的な立場としてアラタを護衛する。それでも心配なら、仲間らも一緒に付いて来てもらっても構わない」
能力持ちとは言え、民間人だぞ?
それでも助けを求めるってのは……相当困ってるってことだな。
まぁいいや。
こっちも、俺らの立場とかがまずい、ってなったらとっとと引き上げりゃそれでよかろ。
無理して召喚されたんだから、それくらいは許してもらえるだろ。
にしても、この世界に召喚されて、さらにまた召喚されるたぁな。
「アラタもとうとう犯罪者かぁ」
「事情酌量に期待するしかないわね」
ヨウミまで何をほざくか!
つか、他人事みたいに話聞いてんじゃねぇっ!
※※※※※ ※※※※※
この世界の裁判所って、屋外でやるのか。
と呟いたらば、アークスからツッコミが入った。
「事情が事情なだけに、そして注目を浴びてる件と傍聴希望者があまりに多くて、屋外ですることにした、んだと。
裁判所の中庭のようなところで、部屋の内装を再現した感じ、らしい。
再現した部分においては、日本とそんなに変わんないっぽい。
……いや、この言い方は違うな。
日本のドラマで見る裁判のシーン。
あの場所に似た感じ。
傍聴席はというと……シアンの戴冠式の十分の一くらいか。
とは言っても、あれもあれで大人数だった。
その十分の一っつっても、圧巻だよなぁ。
裁判長は一人だが、その両脇に二人ずつ、間隔を空けて横に並んで座ってる。
もちろん被告人からは見上げなきゃならん高い位置に。
裁判長を補佐する裁判官かな。
そのすぐ手前の下、地面に設置された席には……ありゃあ記録係かな。
二人ずつ向かい合いながら座っている。
その二人ずつの四人の後方、会場の端には、何名かずつの武装した兵……でいいのか?
警備員みたいな感じか。
鉄柵が両脇に置かれている演壇があって、それは裁判長と向かい合う形で設置されている。
鉄柵は、直接裁判長席に近づけさせない工夫なんだろう。
で、演壇……というか、見台? の右側に檻がある。
その檻の中には、椅子に座ってる人物がいる。
ただ、上体はやや前かがみ。
だから顔はよく見えない。
ボロボロの服装で、その服装の下から見える肌は古傷っぽいのに覆われてる感じ。
そして体型は……一言で言えば、やつれている。
そしてその姿をよくよく見れば、その服装に馴染んで見える防具……胸当てか。
心臓の辺りに角がない三角っぽい板。
その中心はやや膨らんでいる。
角ではなくカーブになってる上と左右からは、ベルト状の物が右肩と両脇に伸びている。
恐らく背中で合流してる。
そんな防具を身に着けている。
こいつが件の少年か。
檻に入れるような拘束の必要があるのか? と思うくらいに、こう……覇気というか……気力がなさすぎだろ。
見台の後ろにある傍聴席とそのエリアとは、やはり鉄柵で仕切られてるが、その高さは見台の脇の比ではない。
上って乗り越えるのは不可能で、中庭を囲う建物まで連なっている。
完全に、傍聴席にいる人達がこっちに来ないようにしてる。
暴動が起きても被害に遭わないように、という配慮か。
けど最前列の人達は、その鉄柵を握って何とかして動かそうと踏ん張っている。
もちろんでかい罵声を挙げながら。
恐らく被害者側の関係者だろう。
うるせぇうるせぇ。
加害者側の関係者はいなさそうに見える。
身内すらいないのか、あるいはアウェイ感に押しつぶされたか。
第三者の立場で、という俺ですらそんなアウェイ感はハンパない。
俺は中庭の入り口で、アークスとレーカに挟まれて立っている。
例えこんな大人数で暴動が起きようとも、この二人と、既に待機している兵達がいれば簡単に制圧できるだろう。
それでも傍聴席からの罵声で、いささか気圧されてる。
「全員、静粛に!」
裁判長の声が、たとえ天井や壁がなくてもこの中庭中に響き渡る。
罵声を一気に鎮められるほどの声量。
これも圧巻。
静寂が訪れる。
「それでは、本件の事情糾明に入ります。糾明班。証言台へどうぞ」
「はっ!」
アークスが中央に向かって歩を進める。
走ればすぐに追いつく距離だが、さっきまでの罵声を思い出すと、何か不安でしょうがない。
我ながらずいぶん弱気になったもんだ。
というか、逃げ場がない場所にいること自体、この世界に来て初めてなんじゃないか?
それじゃ弱気になるのも仕方ねぇよな?
「……あれ?」
周りの様子を伺うと、裁判官の一人から、感じた覚えのある気配が出ている。
「……あそこにいるの……」
「……流石アラタ。その通りよ。でも今は静かにして」
裁判官は全員白いフードをかぶっている。
顔は見えないが、間違いなくシアンだ。
レーカが小さい声で制してきたが、そりゃそうだ。
こんなところにシアンがいると分かったら、それこそ傍聴席にいる全員が柵を押し倒して懇願しに行くこと間違いないだろうからな。
もっともあの鉄柵が押し倒されることはなさそうだが。
アークスによると、傷害事件が起きたのだそうだ。
ところがただの傷害事件じゃない。
加害者も被害者も……。
「冒険者養成所で起きたあ?!」
「声がでかい! それも……」
「どっちも訓練生?! てことは、子供同士ってことかよ!」
養成所でその仕事について学ぶ子供らのことは、生徒とも訓練生とも学生とも呼ばれてる。
アークスたちは訓練生と呼んでた。
「だから声がでかいっ」
「……こないだ、養成所を卒業したが冒険者になれなかったやつが子供を連れてきたんだが……」
「ん?」
「その子供も養成所を中退したとかさせられたとか」
「お、おう」
「養成所ってとこは、しょっちゅう問題起こしてるんじゃねぇの?」
「そんなことはない……と思うが……」
問題、起きすぎだろ。
現象が続いてた頃からも、養成所絡みのトラブルに何度か巻き込まれてたしな。
「養成所と言っても、種類はあるし数も多いのよ。数が多ければ、いろんな出来事も多く起きるのは当たり前でしょ? それに今回は、れっきとした原因があるの」
「原因?」
「あぁ。……加害者は、呪いの防具を身に着けている」
ほえ?
今、俺らがその雑談をしてたとこだぞ?
あ、あぁ、だから微妙に絡むっつってたのか。
「寝るときはもちろん、お風呂の時もつけっぱなし。外せないのよ」
「呪いのせいか、食事も碌に摂れてない。ときどき食べ物を口にするが、食事ってもんじゃないから体格も衰えてきてな」
そんな話を俺にされてもな。
「魔法使いとかに、解呪とかやってもらったらそれで解決じゃねぇか」
冒険者業素人の俺ですら、そんな発想がポンと出てくるぞ?
そんなこと考えも出来ねぇのか?
「もちろんやったさ」
あ、やったのね。
失礼しました。
「だが、呪いは解けなかった」
ご愁傷様、だな。
「このままでは原因糾明が成されないまま裁判が始まっちまう」
「さっきアラタ、養成所で問題起きすぎって言ったわよね。稀な案件だと思うけど、養成所側からは、原因……因果関係とかを突き詰めることで、一つでも問題を少なくできるならしたいって意向もあるのよ」
「それを俺に話をして、何がどうなるってんだ」
何の力にもなるわけがねぇ。
魔力自体ねぇんだからな。
「……その糾明のための調査に、殿下も加わってる」
嫌な予感しかしない。
「旗手としての能力を活かせないか、ということでな」
「殿下ご自身もここに出向いて話をしたがってたんだけど……何分忙しくて……」
別に申し訳ない顔を俺に向ける必要はねぇだろ。
「原因究明と事態の解明、そして判定の協力のために、裁判所に同行してくれないか」
……マジかよ。
俺の世界でもそんなとこに行ったことねぇのに……。
って待て待て。
「そんなとこに行って、俺に何をしてほしいんだ?」
「気配を察知する能力を使って、加害者の身辺を鑑定してほしい」
……なんか、この能力、万能扱いされてるような気がする。
何の力にもなれなきゃどうすんだよ。
国家権力で、俺の首刎ねられるとか?
そっちの方も怖いわ!
「あのさぁ……」
「どっちの味方に付くなど考えず、正確に判定してもらえるだけでいい。当然咎められることもないし責められることもない」
そんなん当たり前だろ!
それに心配事ならまだある。
「俺は魔力ゼロだぞ?」
「あぁ。知ってるが……」
「呪いの影響を受けないとは言い切れんだろ」
「それは言い切れる」
言い切りやがった。
「アラタのように非力で、しかも魔力ゼロのやつも加害者に触れた。何の問題も起きなかった」
既に毒味は済ませたってことかよ。
まったく……。
「俺達も、中立的な立場としてアラタを護衛する。それでも心配なら、仲間らも一緒に付いて来てもらっても構わない」
能力持ちとは言え、民間人だぞ?
それでも助けを求めるってのは……相当困ってるってことだな。
まぁいいや。
こっちも、俺らの立場とかがまずい、ってなったらとっとと引き上げりゃそれでよかろ。
無理して召喚されたんだから、それくらいは許してもらえるだろ。
にしても、この世界に召喚されて、さらにまた召喚されるたぁな。
「アラタもとうとう犯罪者かぁ」
「事情酌量に期待するしかないわね」
ヨウミまで何をほざくか!
つか、他人事みたいに話聞いてんじゃねぇっ!
※※※※※ ※※※※※
この世界の裁判所って、屋外でやるのか。
と呟いたらば、アークスからツッコミが入った。
「事情が事情なだけに、そして注目を浴びてる件と傍聴希望者があまりに多くて、屋外ですることにした、んだと。
裁判所の中庭のようなところで、部屋の内装を再現した感じ、らしい。
再現した部分においては、日本とそんなに変わんないっぽい。
……いや、この言い方は違うな。
日本のドラマで見る裁判のシーン。
あの場所に似た感じ。
傍聴席はというと……シアンの戴冠式の十分の一くらいか。
とは言っても、あれもあれで大人数だった。
その十分の一っつっても、圧巻だよなぁ。
裁判長は一人だが、その両脇に二人ずつ、間隔を空けて横に並んで座ってる。
もちろん被告人からは見上げなきゃならん高い位置に。
裁判長を補佐する裁判官かな。
そのすぐ手前の下、地面に設置された席には……ありゃあ記録係かな。
二人ずつ向かい合いながら座っている。
その二人ずつの四人の後方、会場の端には、何名かずつの武装した兵……でいいのか?
警備員みたいな感じか。
鉄柵が両脇に置かれている演壇があって、それは裁判長と向かい合う形で設置されている。
鉄柵は、直接裁判長席に近づけさせない工夫なんだろう。
で、演壇……というか、見台? の右側に檻がある。
その檻の中には、椅子に座ってる人物がいる。
ただ、上体はやや前かがみ。
だから顔はよく見えない。
ボロボロの服装で、その服装の下から見える肌は古傷っぽいのに覆われてる感じ。
そして体型は……一言で言えば、やつれている。
そしてその姿をよくよく見れば、その服装に馴染んで見える防具……胸当てか。
心臓の辺りに角がない三角っぽい板。
その中心はやや膨らんでいる。
角ではなくカーブになってる上と左右からは、ベルト状の物が右肩と両脇に伸びている。
恐らく背中で合流してる。
そんな防具を身に着けている。
こいつが件の少年か。
檻に入れるような拘束の必要があるのか? と思うくらいに、こう……覇気というか……気力がなさすぎだろ。
見台の後ろにある傍聴席とそのエリアとは、やはり鉄柵で仕切られてるが、その高さは見台の脇の比ではない。
上って乗り越えるのは不可能で、中庭を囲う建物まで連なっている。
完全に、傍聴席にいる人達がこっちに来ないようにしてる。
暴動が起きても被害に遭わないように、という配慮か。
けど最前列の人達は、その鉄柵を握って何とかして動かそうと踏ん張っている。
もちろんでかい罵声を挙げながら。
恐らく被害者側の関係者だろう。
うるせぇうるせぇ。
加害者側の関係者はいなさそうに見える。
身内すらいないのか、あるいはアウェイ感に押しつぶされたか。
第三者の立場で、という俺ですらそんなアウェイ感はハンパない。
俺は中庭の入り口で、アークスとレーカに挟まれて立っている。
例えこんな大人数で暴動が起きようとも、この二人と、既に待機している兵達がいれば簡単に制圧できるだろう。
それでも傍聴席からの罵声で、いささか気圧されてる。
「全員、静粛に!」
裁判長の声が、たとえ天井や壁がなくてもこの中庭中に響き渡る。
罵声を一気に鎮められるほどの声量。
これも圧巻。
静寂が訪れる。
「それでは、本件の事情糾明に入ります。糾明班。証言台へどうぞ」
「はっ!」
アークスが中央に向かって歩を進める。
走ればすぐに追いつく距離だが、さっきまでの罵声を思い出すと、何か不安でしょうがない。
我ながらずいぶん弱気になったもんだ。
というか、逃げ場がない場所にいること自体、この世界に来て初めてなんじゃないか?
それじゃ弱気になるのも仕方ねぇよな?
「……あれ?」
周りの様子を伺うと、裁判官の一人から、感じた覚えのある気配が出ている。
「……あそこにいるの……」
「……流石アラタ。その通りよ。でも今は静かにして」
裁判官は全員白いフードをかぶっている。
顔は見えないが、間違いなくシアンだ。
レーカが小さい声で制してきたが、そりゃそうだ。
こんなところにシアンがいると分かったら、それこそ傍聴席にいる全員が柵を押し倒して懇願しに行くこと間違いないだろうからな。
もっともあの鉄柵が押し倒されることはなさそうだが。
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