勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
493 / 493
邪なるモノか聖なるモノか

幕間:店の評判その1

しおりを挟む
「……そんなことが、あったんですね……」

 初対面の時は、ナルは周りのことには一切興味がなさそうだった。
 それもそうか。
 あのときは、守る対象が守られたいという思いでもって、ナルと接していたからな。
 その対象がいなくなったら、己の強い意志も弱くなる。
 そうすると関心ごとは外部に向けられ、俺の、ここに来てからの経歴の話に耳を傾けられるようになったってわけだ。
 けど、んな自分の過去話、誰が話したがるかよ。

「そうなのよ。アラタってば、結構人気があるみたいなんだよねー」

 ヨウミが嬉々として、ナルに聞かせている。
 まぁ一番長い付き合いだからな。
 今までの大体の流れの話しなら聞かせてもいいが、どうでもいい話まですることなかろうが。

 それにしても、ナルの白銀の鎧のフォルムは、実に女性らしい。
 正座の姿勢で、お尻の重心をふくらはぎからずらして座る姿は、実に女性らしい仕草。
 しかしその仕草は、座った姿までだ。
 今は晩飯の時間である。
 兜の口の部分を開けて、がらんどうのその内部に向けて、遠慮なくホイホイと握り飯を放り込んでいる。
 遠慮なく、というのは別に問題にしない。
 が、その仕草と、……物を食う、という表現でいいのか?
 飯を食う動作が、何というか、がさつすぎるというか。
 だが、彼女にとってはそれが自然なんだろう。
 がらんどうだから肉体はない。
 肉体はないから口もない。
 口がないなら歯もないし、味わう舌もない。
 もう少し女性らしい食べ方をしたらどうだ? などと注意したところで、じゃあどうやって食べればいいのかって話だ。
 結論、こっちが求める何々らしさってのは、当の本人にとっては犬にでも食わせちまえ、と。
 俺もそんな感じだったしな。

 それはともかく。
 ヨウミの最後の一言は何なんだ?

「人気がある、って何のことだよ」

 人気ならこいつらの方が高かろうが。
 一時期、ファンクラブなるものができてたくらいだったし。

「あ、気になる? 気になってる?」

 うざってえ顔で迫ってくるなっ。
 表情のないナルを見習え!
 ……ワーム種のンーゴもないけどさ。

「おにぎりのお店、支店出してるじゃん」
「お? あ、ああ。あるな」
「支店、今いくつあるっけ?」
「え? 店舗数か? 確か……二十三くらいかな?」

 二十くらいまではカウントしてた。
 そのあとめんどくさくなって数えてないが、三つまでは数えてたな。
 そこから先は、もう数えてられなくなった。

「惜しいっ。二十五店舗」

 いや、数を当てたからって何か得になることがあるのか?
 何かプレゼントしてくれるとか?

「当てられたら、海水浴旅行でしたー」
「んなもん当てたってうれしくもなんともねぇよ。つか、ンーゴは行けねぇだろ」

 砂浜の中でうよめいてみろ。
 あっちこっちで陥没事故が起きるわ!

「ナルだって、この金属の塊だ。溺れて沈んだら、助けにもいけねぇっての」
「……海、水浴、ですか……」
「いや、行くつもりはねぇから安心しろ」

 ヨウミも時々素っ頓狂なことを言う。
 つか、何の話してたっけ?

「それもそうね。んー、って、残念がってる場合じゃないわね」

 話を脱線させたのはお前だろ。

「実はその店舗数って、増減の変化が結構あるのよね」
「増減? そんなことがあったのか? つか、今もあるのか?」
「頻繁にはないけどね」

 てことは、結構減ったり増えたりはしてるんだ。
 それって大丈夫なのか?
 だって支店には確か……。

「支店の中には、独立した店もあったりするから。孤児院の職員も付き添ってもらいながら、そこにいる子供達が仕事してるでしょ?」

 そう。
 しかもその孤児院は確か、一か所二か所からじゃなかったはず。
 まぁ最初はそんくらいだったが、今ではこの国の首都、ミルダ市にある孤児院の約半数から来てるんじゃなかったか?
 ただし、間もなく院を出なきゃならない子供らが中心。
 社会に出ても働けるように、てな。
 けど独立……って……。

「目玉商品のお米の運送とか運搬とかする必要があるけど、独立経営できるなら、支店である必要はない、みたいなこと言ってたじゃん」

 言ってたっけかな?
 まぁ確かに、米の力なしに健全な経営ができるんなら、それにこだわる必要はないな。

「支店によっては、おにぎり以外の、自分達で考案した料理を店頭に出して販売、あるいはその場で食事できるようにして……」

 ということは?

「それじゃまるで食堂かなにかじゃねぇか」
「うん、そう。おにぎりには回復効果があるから、それを目当てにするお客さんが多いのよ」

 まぁそれは道理だ。

「でも独立するとなれば、おにぎりは作れなくなるのよね。米が配達されなくなるから」

 それも、まぁ道理だ。
 俺の手を離れた店にまで、米の世話をする必要がない。

「つまり、その売り物に変わる目玉商品が必要で、その開発と販売を成功させたら自分達で営業できるってことよね」
「そっから先のことは知らんが、まあ理屈だな」
「独立できたら、売上次第では雇用が必要になるのよ」

 なるほど。
 握り飯だと、回復目当ての客が中心。
 別の言い方をすれば、回復目当ての客以外は足繁く通ってくれない。
 が、回復目当ての客を切り捨て、自分らで作る料理目当ての客の数をそれ以上に増やせば、景気は良くなる。
 が、喜んでばかりもいられない。
 猫の手も借りたいくらい忙しくなったりしたら、確かに雇用は必要だ。

「支店のままなら、勝手に従業員増やすわけにはいかないでしょ? 支店の目的は孤児たちの独立を助けるものだから、助っ人を増やしたら孤児たちの仕事減っちゃうもの」

 ならその助っ人も孤児にしたらいい、とは簡単に言えない。
 孤児、要は子供だ。
 子供っつったら遊びたい盛り。
 そんな子供らに仕事を任せても、不真面目にされたら……。
 いや、不真面目なのはまだましかもしれない。
 店、客に迷惑をかけようものなら、いくら回復効果は絶対の品であったとしても、その店には行きたくないと言われたら……。

「でも独立したら、その後の責任は自分達でとることになるから、アラタには迷惑かけずに済んで、しかも孤児は、支店でアラタのお手伝いから自分らの職場で仕事の社会人に格上げ。そして他の孤児たちに手伝ってもらうっていう利点もあるのよ」

 なるほど。
 自己責任なら、孤児同士なら付き合いも長いし俺よりも気心が知れた間柄でもある。
 俺では判断が難しい相手でも、簡単に雇用の採用不採用を決めることができるってわけだ。

「独立を決めた支店は支店じゃなくなるから、支店の数が減る。でも社会に出たい孤児たちもまだいるし、独立を決めた時点で孤児院の職員たちもそこから離れるから、支店の数は減らないし、増えることもある。店の数の増減の変化の理由はそれね」

 モーナーとクリマーとマッキーはヨウミの話に強い関心を示し、熱心に耳を傾けている。
 テンちゃんは理解してるんだかしてないんだか、それでもヨウミの話は聞いている。
 人間社会にあまり関心を示さないンーゴとミアーノは飯をあらかた食い終わって、残ったおにぎりに手を付けながらサミーに構っている。
 ナルはヨウミの話を聞いてるのか聞いてないのか。
 顔に表情がないと意志も測りかねるが、顔はヨウミに向けている。
 その膝元にライムがライムの形態でむにゅむにゅしている。
 コーティは俺にまとわりついて、割とうっとおしい。

 長閑な昼下がりの時間。
 そんな時間に聞かされる、孤児院の子供らの活動の話。
 のほほんとできる時間、いいなぁ。
 害なす魔物の騒動は頻繁にあるとは言え、それは都市の全体的、あるいは国の全体的な話で、局所におけるひっきりなしに起きる事件ではない。
 魔物もいなければ、この世界での人生はほんとに幸せの連続だよな。

「でもヨウミさん。話の最初はおにぎりの店の評判が話題じゃありませんでしたか? どうして店の数の話になったのでしょう?」

 おう。
 言われてみればその通り。
 クリマーが指摘しなかったら、ずるずると話が本題から遠のいていくところだった。
しおりを挟む
感想 13

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(13件)

通りすがりのおっさん

はじめまして。
「そいつのケアと彼女のこれから その1(397話)」がダブって投稿されています。1年以上も前の話ですが、修正をした方が良いかと思います。

解除
大きなおせWORK

長かったマッキー前日譚も終わりのようですね。他の仲間たちもこれほどではないものの苦労してそうです

2020.12.05 網野ホウ

マッキーの番外編、これにて終わり、となります。
他の仲間達の場合は、サミーは卵からかえったばかりですし、クリマーはゴーアと一緒に、最近突然この世に出現した魔物。
ンーゴとミアーノは寿命は長いですが、ほぼ地中にいて特に何のドラマ性もなく(笑)。
ライムは最近自我が生まれたわけですので、やはりドラマ性も何もない(笑)。
苦労していたと言えば、種族、家族から追い出されたテンちゃんと、村人達から遠ざけられたモーナーくらいでしょうか。
コーティは、苦労を苦労と思わないタイプだしなー(笑)。

それにしても、番外編を始めた時は、ここまで長くなるとは作者本人も思ってませんでした(笑)。

解除
ねむちゃん
2020.02.15 ねむちゃん

ワクワクして、スゴーイ面白かったです。やっとここまで来ました。これからも楽しみにしてます。頑張ってください。

2020.02.15 網野ホウ

ありがとうございます。
今後もお付き合いのほど、よろしくお願いします。

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。