『俺は平穏に暮らしたいだけなのに、借金一億五千万ゴールドで異世界に転移させられました』〜ポンコツ大聖女の尻拭いはお断りだ〜

トンカツうどん

文字の大きさ
4 / 10

第3話「ツヴァイヘンダーが振れない」

しおりを挟む
路地裏は、逃げるための構造をしていない。
 石壁。曲がり角。行き止まり。
 つまり――追い詰めるための構造だ。
「はぁ……っ」
 エリシアが息を切らす。鎖が鳴る。
 ネヴィアは振り返りながら走る。赤い瞳が暗がりで光る。
「来る。三人」
「見りゃわかる」
 俺はツヴァイヘンダーを肩から降ろす。
 重い。やっぱり重い。
 さっきは“見せるだけ”だった。
 だが今度は違う。
 追っ手は路地の入口を塞ぐように立っていた。
「逃げ足は速いな」
「だが袋小路だ」
 ああ、知ってる。
 俺は剣を構えた。両手で握る。
 体幹を締める。振りかぶる。
 ――振れ。
 腕が震える。
 振れ。
 筋肉が悲鳴を上げる。
 振れよ。
 結果。
 半分も上がらなかった。
「……嘘だろ」
 男が笑う。
「見せかけだけか」
 俺は歯を食いしばる。
 知ってた。分かってた。
 俺は大剣使いじゃない。
 普通の高校生だ。
 振れるわけがない。
 男が踏み込む。
 俺は慌てて横に払う。
 刃が石壁を削る。
 火花。
 重い反動。
 バランスが崩れる。
 剣が――手から滑る。
 ガン、と石畳に落ちた。
「終わりだ」
 剣先がこちらに向く。
 ネヴィアが唸る。
「退いて!」
 エリシアが叫ぶ。
 だが――
 彼女の首輪が光る。
「ぐっ……!」
 膝をつく。
「発動しろ!」
 ネヴィアが叫ぶ。
「魔術、使えるんだろ!?」
 エリシアの瞳が揺れる。
「……怖いの」
 小さな声。
「失敗したら、もっと罰が来る……」
 ああ、そういうタイプか。
 内向的。自己評価が低い。
 他人優先。自分は後回し。
 最悪の環境で育つと、こうなる。
 男が笑う。
「魔術適性は高い。だから高く売れる」
 なるほど。
 高性能家電扱いか。
 俺は立ち上がる。
 武器は落ちた。
 筋力は足りない。
 魔術は使えない。
 詰みだ。
 ……いや。
「なあ」
 俺は男に声をかけた。
「いくらだ」
「は?」
「その二人。いくらで売る予定だ」
 男が目を細める。
「交渉か?」
「金ならある」
 嘘だ。
 銀貨一枚しかない。
 だが時間は稼げる。
「借金持ちでな。桁はデカい」
「意味が分からん」
 だろうな。
 だが会話が止まる。
 ネヴィアが小声で言う。
「時間稼ぎ?」
「当たり前だろ」
「英雄ムーブ?」
「違う。延命ムーブだ」
 男の一人が苛立つ。
「もういい、やれ」
 詰んだ。
 エリシアが顔を上げる。
 震えながら、両手を握る。
「……氷、生成……」
 小さな光が生まれる。
 だが、首輪が強く発光する。
 バチッ、と火花。
「きゃっ!」
 魔術が霧散する。
 やっぱり制御されてる。
 俺は剣に手を伸ばす。
 だが遅い。
 蹴りが腹に入る。
 息が詰まる。
 地面に倒れる。
 視界が揺れる。
 石畳が冷たい。
 空が遠い。
 ああ。
 俺、分かってなかった。
 “巻き込まれ主人公”ってのは、振れる剣があって初めて成立するんだ。
 振れない大剣は、ただの鉄の塊だ。
「……くそ」
 俺は笑う。
 英雄ムーブは無理だ。
 スペックが足りない。
 根性論じゃどうにもならない。
 借金も返せないまま、ここで終わりか。
 ネヴィアが叫ぶ。
「立って!」
 エリシアが震えながら俺を見る。
 エメラルドの瞳が、絶望と期待の間で揺れる。
 やめろ。
 そんな目で見るな。
 俺は救世主じゃない。
 平穏に暮らしたいだけの男だ。
 だが――
 立ち上がれない。
 足に力が入らない。
 男の影が覆いかぶさる。
 剣が振り下ろされる。
 ――ああ、やっぱり。
 俺は英雄になれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...