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第5話 「サービス残業の女神」
しおりを挟む闇商人どもが完全に退いたのを確認して、俺は石畳に座り込んだ。
「はぁぁぁぁ……」
全身の力が抜ける。
ネヴィアが腕を組んで俺を見下ろす。
「で? あれ全部ハッタリ?」
「九割な」
「増えた」
「光ったからな。俺もびっくりだよ」
エリシアが恐る恐る口を開く。
「でも……本当に、爆発しなかった」
「そりゃ爆発したら困るだろ」
俺は首輪を触る。
さっき一瞬だけ、紋様が変わった。
あれは偶然じゃない。
――守った?
「……なあ」
俺が呟いた瞬間。
空間が、ぐにゃっと歪んだ。
嫌な既視感。
「やっほー☆ ちょっとケアしに来たわよー!」
「帰れ」
光の中から現れたのは、見慣れたポンコツ女神。
女神ルミエル。
借金一億五千万ゴールドの元凶。
「なによその第一声!? 神様に対する態度としてどうなの!?」
「神様は借金背負わせない」
「それは事務処理ミス!」
「致命的だな!」
ネヴィアが目を細める。
「……この女、何者?」
「世界の元凶」
「ちょっと!?」
エリシアが慌てて頭を下げる。
「か、神様……?」
「そうよー☆ 大聖女候補のあなた、頑張ってるわね!」
エリシアが固まる。
「え、え?」
俺は眉をひそめる。
「おい。何だ今の言い方」
ルミエルが咳払いする。
「こほん。とにかく! さっきのハッタリ、なかなか面白かったわ」
「覗き見してたな?」
「神は全てを見通すのよ!」
「都合のいい時だけな」
ルミエルは俺の首輪を指差す。
「それね、爆発機能はないわ」
「だろうな」
「でも“保護機能”はある」
「……やっぱりか」
ネヴィアが目を細める。
「どういうこと?」
ルミエルが得意げに胸を張る。
「転移者は“世界外存在”。つまりこの世界にとって異物なの。だからね、最低限の自己防衛プログラムを組み込んであるのよ」
「最低限?」
「致死攻撃を受けた場合、一度だけ因果干渉が発動するわ」
「物騒な単語出たな」
「簡単に言うと“即死回避”。さっき、発動しかけたの」
俺は首輪を見る。
あの一瞬の光。
あれが?
「ちょっと待て。じゃあ俺、マジで死にかけてた?」
「ええ」
「軽く言うな」
エリシアが震える。
「そんな……」
ルミエルは少しだけ真顔になる。
「あなたは転移者。帰還の可能性を持つ存在。簡単に死なせるわけにはいかないの」
その言葉に、空気が一瞬だけ静まる。
ネヴィアが低く言う。
「……帰れるの?」
ルミエルは視線を逸らす。
「理論上は」
「逃げたな」
「理論上よ!」
俺は立ち上がる。
「で? ケアって何だ」
「サービスよ。今回は特別に」
ルミエルが指を鳴らす。
首輪が、ぱきん、と音を立てて砕けた。
「……は?」
地面に落ちる黒い金属。
エリシアの首からも、ネヴィアの首からも、同じ音がする。
拘束具が消えた。
エリシアが呆然とする。
「……取れた」
ネヴィアが自分の首に触れる。
「本当に……」
ルミエルは得意げだ。
「解除サービス! ただし」
「ただし?」
「借金はそのままよ☆」
「帰れ」
「神に向かって!?」
俺は額を押さえる。
「なあ、これ解除できるなら最初からやれよ」
「それはその……」
「その?」
「演出?」
「帰れ」
ルミエルは頬を膨らませる。
「でも本当に、あなた死にかけてたのよ? あのまま心拍が止まったら一回だけ因果修正が発動して、世界側の監視が本格的に始まるところだったの」
「監視?」
「ええ。国家レベルで」
ネヴィアが呟く。
「面倒……」
「面倒だな」
ルミエルはふっと微笑む。
「あなた、転生じゃない。転移よ」
「知ってる」
「だから“役割”がある」
「いらん」
「でもあるの」
エリシアが不安げに俺を見る。
俺は肩をすくめた。
「とりあえず今日は生き延びた。それで十分だ」
ルミエルが後ずさる。
「じゃ、サービス終了! またねー!」
「二度と来るな」
「ひどい!」
光が消える。
静寂。
首輪の残骸が、ただの金属片に戻っている。
ネヴィアが俺を見る。
「……帰れる可能性、あるんだ」
「理論上な」
エリシアが小さく言う。
「でも……あなた、さっき私たちを守ろうとした」
「勘違いだ」
「違う」
エメラルドの瞳がまっすぐ向く。
やめろ。その目は弱い。
俺はため息をつく。
「俺は平穏に暮らしたいだけだ」
だが。
首輪は外れた。
監視の影は残る。
転移という事実も。
つまり――
平穏は、まだ遠い。
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