『俺は平穏に暮らしたいだけなのに、借金一億五千万ゴールドで異世界に転移させられました』〜ポンコツ大聖女の尻拭いはお断りだ〜

トンカツうどん

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「第二章:平穏を買うための銀貨」

第7話 夜の市場警備

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① ギルドで仕事受注
 冒険者ギルドは、昼でも薄暗い。
 木製の掲示板に貼られた依頼書。
 酒と汗と革の匂い。
 そして、金に飢えた視線。
「……場違い感がすごいな」
 俺が呟くと、ネヴィアが周囲を観察する。
「視線、三方向。敵意は薄い。興味」
「俺の借金顔が目立つのか」
「違う。大剣」
 背中のツヴァイヘンダーがやけに存在感を主張している。
 確かに、俺の体格でこれを背負ってるのは無理がある。
「新入りか?」
 声が飛んできた。
 振り向くと、筋肉の塊みたいな男が立っている。
「その剣、振れるのか?」
「振れない」
「は?」
「振れないけど、当たれば痛い」
 男は笑う。
「俺はドイルだ。見かけない顔だな」
「九条迅。借金持ちだ」
「正直だな!」
「売りにしてる」
 ドイルの視線がネヴィアに移る。
「おい、その獣人は――」
 その瞬間。
「触るな」
 俺が言う。
 声は低い。
 空気が少しだけ変わる。
 ドイルが眉を上げる。
「なんだ? 所有者か?」
「違う。だから触るな」
 ネヴィアの赤い瞳がわずかに光る。
 ドイルは鼻を鳴らした。
「面倒くさいやつだな」
「よく言われる」
 そこへ、滑らかな声。
「騒ぎはご遠慮を」
 受付カウンターから一人の男が歩いてくる。
 整った服装。落ち着いた物腰。
 だが目は冷静だ。
「ラウル・グレイナー。受付兼斡旋担当です」
 愛想の良い笑み。
 だが観察している目。
「初登録ですね、九条迅さん」
「もう名前把握済みか」
「情報管理は仕事です」
 ラウルの視線がツヴァイヘンダーへ、そしてネヴィア、エリシアへと移る。
「……珍しい構成ですね」
「寄せ集めだ」
「寄せ集めは嫌いじゃありません」
 ラウルは書類を一枚差し出す。
「夜の市場警備。報酬は銅貨八枚」
「安い」
「軽クエストですから」
 俺は紙を見る。
 夜市組合からの依頼。
 最近スリ被害が増えているらしい。
「戦闘は?」
「想定は軽微。……ただし」
 ラウルが一瞬、間を置く。
「夜鴉団の噂があります」
 ネヴィアの耳がぴくりと動く。
「裏と繋がってる小集団。子供を使う」
「なるほど。性質が悪い」
「あなた向きかと」
「どういう意味だ」
「力で解決しない方が得意でしょう?」
 見抜きかけている。
 俺は肩をすくめる。
「俺は平穏に暮らしたいだけだ」
「ええ。聞いています」
「どこで」
「情報は回ります」
 笑っているが、探っている。
「ちなみに」
 ラウルがさらりと言う。
「借金、かなり大きいとか」
 ネヴィアが俺を見る。
 エリシアが固まる。
 俺は目を細める。
「どこで聞いた」
「風は流れます」
「嫌な風だな」
 ラウルは依頼書を机に置く。
「どうします?」
 ドイルが横から笑う。
「その剣、夜市で振るうなよ?」
「振らないさ」
「振れないんだろ?」
「否定はしない」
 俺は依頼書を取る。
「受ける」
 ラウルが小さく頷く。
「では、夜灯りが点く頃に集合を」
「監視してるだろ」
「観察です」
「似たようなもんだ」
 ギルドを出る。
 ネヴィアが小声で言う。
「あの男、信用できない」
「する気もない」
 エリシアが不安そうに言う。
「大丈夫でしょうか」
「銅貨八枚だ」
「それで?」
「三人で飯が食える」
 俺はツヴァイヘンダーを背負い直す。
「平穏は安くない」
 夜の市場へ向かう。
 小銭を稼ぎに。
 そして――
 この街に、根を張るために。
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