『500円で異世界転移！？～通販ワンクリックで最強槍を手に入れた俺、元ネタの推しキャラ戦法で魔物をぶっ倒す～』

障害排除完了☆！！

――ピィィィ……！

📢【警告：魔力反応が、最高潮に達しました】

　ナビの声が、まるで興奮した実況アナウンサーのように跳ね上がる。

📢【この反応は……“大型クラス”です。マスター、戦闘態勢を！】

　そのときだった。
　草原の風が止まり、空気がぐぐっと重くなる。
　ピリッと肌を刺すような気配が全身を這い、心臓の鼓動が一瞬遅れた。

「っ……！」

　グアアアアアアア！！

　大気を揺るがすような咆哮。
　草を裂きながら、丘の向こうから黒い影が――いや、“巨体”が現れた。

　そいつは、先ほど倒した狼の十倍はあろうかという大きさ。
　全身を黒曜石のような毛で覆い、燃えるような赤い目をこちらに向けている。
　そして、その背には、まるで岩盤のような隆起した装甲。

「……マジかよ」

📢【確認完了：魔獣種・超級個体。仮称“クロベア”】

　ナビの冷静な声が、かえって緊張を煽った。
　俺の掌が、じわりと汗ばむ。だが――

「逃げる選択肢は、ねぇか」

　握りしめた雷導槍・クロノスピアが、低く震えるように共鳴する。
　空気中の魔素が集まり、雷光が螺旋を描いて柄の先に集まっていく。

　ツンデレと照れ屋の浮遊槍たちも、左右でぐるぐると飛び回り始めた。

📢【浮遊槍連携起動。距離、42メル。射程内】

「さっきの狼とは……比べ物にならねぇ……」

　汗が顎を伝って落ちる。
　だが、震える手を止めたのは、俺の中にある“あの感覚”だった。

　――これは、ゼオ＝バルザードの第二奥義の構えに似ている。

　俺は足を一歩、踏み込んだ。
　地を蹴る瞬間、全身を駆け抜けたのは、恐怖じゃない。昂ぶりだ。

「行くぞ、クロベアァッ！！」

　――ズバッ！！

　風を切り裂いて突撃する。クロノスピアを構え、真っ直ぐに魔獣の胴を狙う。

　しかし――

「ぐっ……固ッ！？　くっそ、鎧かよッ！！」

　バチバチバチィンッ！！

　雷撃が走るが、巨体は軽く吹き飛んだ程度。
　クロベアが背筋を丸め、口を開いた。

　ゴゴゴゴゴ……！

📢【警告：高密度魔力蓄積、咽喉部からエネルギー波を展開します！】

「え、ブレス！？お前クマだよなッ！？」

　次の瞬間――

　ドガァァァァァァン！！

　赤黒い魔力の奔流が一直線に俺を襲う。地面が溶け、草原が焼け焦げる。

「うおおおッ！？」

　間一髪、横へ飛び退き、地面を転がる。肩を打ちつけ、クロノスピアが手から滑る。

「っつ……くそ……！」

📢【ダメージ：軽度】【推奨：再装備 → 浮遊槍で援護】

　目の前にクロノスピアが“滑って”戻ってきた。

📢【拾ってください】

「お前……地味に優しいよな」

📢【べ、別にアンタのためにやってるんじゃないんだからね！】

「いや、誰だよ！？」

　ツンデレ槍がツンと跳ねた直後、照れ屋槍が小さく近づいて震える。

📢【……が、頑張りましょう……！一緒に……です……！】

「よし……援護頼む！！」

📢【浮遊槍：連携モード起動】
📢【戦術名：《雷穿・双牙突》】

　キィィィン――！

　浮遊槍が光の軌跡を描きながら左右からクロベアに突進、交差するように突き抜ける！

　ズガンッ！！

　クロベアがよろけた――今だ！！

「クロノスピア……フルチャージッ！！」

　雷光が柄を伝い、先端に収束する。
　全魔力を放出する一撃、推しキャラ“ゼオ様”の必殺をイメージする。

「――《雷穿槍牙》ッ！！」

　バチチチチチチィィ――！！！

　真っ白な稲妻が走り、真っ直ぐに魔獣の胸を貫いた。

　次の瞬間――

　

💥魔獣の断末魔：

「グガァァァアアアアアアアア！！！」
「ガギャアアアアッ！！ギィィィ！！」
「……ゴ、ォ……ア……ガ……！！」

　

　クロベアは崩れ落ち、地面が地鳴りのように震えた。
　空気が静まり返る。焼け焦げた草の匂いが、風に乗って鼻をつく。

　――俺は、勝った。

　浮遊槍たちがくるくると回って俺の周りを漂い、照れ屋がそっと肩に触れた。

📢【……お疲れさまでした、マスター。えへへ……】

　ツンデレは、そっぽを向いてぽつりとつぶやく。

📢【……まあ、ちょっとは認めてあげてもいいわ】

「……ありがとう、マジで」

　その声が、思った以上に震えていたことに、俺は自分で驚いた。

　

　異世界で、
　“推しキャラのモーション”で、
　俺は確かに――魔獣を、倒した。

　

　空を見上げる。青がまぶしかった。