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第二章:橋上戦線
第6話鉄壁越え
しおりを挟む朝の訓練場は、やけに広く見えた。
石畳の中央に、アルベルトが立っている。
いつもの執事服。
いつもの姿勢。
だが、その立ち方はただの執事ではない。
壁だ。
しかも、ただの壁じゃない。
鉄壁だ。
「模擬戦だ」
短く言う。
俺は木剣を握る。
「遠慮は?」
「不要だ」
即答。
……だろうな。
俺は踏み込んだ。
石畳が鳴る。
低く潜る。
右から切り上げる。
その瞬間。
世界がひっくり返った。
気づけば、背中が石畳に叩きつけられている。
「遅い」
アルベルトは言う。
呼吸すら乱れていない。
「戦場では三手遅い」
俺は立ち上がる。
今度はフェイントを入れる。
左に振ると見せて、右足を払う。
――止まる。
いつの間にか、木剣が喉にある。
「視線が先に動く」
三度目。
四度目。
五度目。
全部、負けた。
完敗。
俺は、この人に勝てない。
鉄壁。
それがアルベルトだ。
リリィが端で心配そうに見ている。
「おにいちゃん……」
俺は苦笑する。
「大丈夫だ」
だが内心は違う。
壁が高すぎる。
――その日の午後。
橋。
石造りの古橋。
送迎任務は予定通りのはずだった。
だが。
俺は最初に気づいた。
鳥が鳴かない。
風が流れない。
橋の石が、妙に冷たい。
「……止めろ」
馬車が止まる。
アルベルトが目を開く。
「理由を」
「静かすぎる」
その瞬間。
空間が歪む。
橋の両端に、魔法障壁。
封鎖。
刺客が現れる。
三方向。
その中に、異様な影があった。
装甲。
鈍い鉄色。
旧型アーマード。
アルベルトの視線がわずかに変わる。
「……試作機か」
低い声。
刺客が動く。
装甲が唸る。
アルベルトが前に出る。
だが。
一撃目。
衝突。
金属音。
次の瞬間。
アルベルトの義肢がわずかに軋んだ。
ほんの一瞬。
だが俺は見た。
鉄壁が――
遅れた。
旧型アーマードの拳が振り下ろされる。
橋が揺れる。
アルベルトが後退する。
信じられない光景。
鉄壁が押されている。
その時。
橋の上に、もう一つの影が現れた。
長い外套。
細い剣。
若い男。
「なるほど」
軽い声。
「これが“鉄壁の執事”か」
アルベルトが視線を向ける。
「……レイジ」
男は笑う。
「久しぶりですね」
刺客ではない。
だが味方でもない。
観察者の顔。
「国家は君をどう評価するか、興味があってね」
旧型アーマードが再び動く。
アルベルトが構える。
だが。
今度は俺が前に出た。
石畳を蹴る。
影へ潜る。
関節部。
装甲の隙間。
そこを狙う。
刃を差し込む。
装甲が止まる。
レイジが小さく笑う。
「ほう」
アルベルトが俺を見る。
俺は言う。
「今回は、俺が前だ」
鉄壁は、永遠じゃない。
だから。
次の壁になるのは――
俺だ。
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