《ゲートボールの棒一本で異世界生活!? 地味スキルで今日も生き延びてます》 ―引きこもり姫と始める、風まかせな旅

トンカツうどん

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第0話プロローグ『異世界転移、開幕ォーーってなんで俺ゲートボール持ってんの!?』

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​🪐【冒頭:日常崩壊まで3秒前】
​「うおおおおぉぉぉっ!!」
​中条ショウマ、17歳。高校二年。
​今日も今日とて、体育の授業で命懸けの戦いに挑んでいた。
​ズガンッ!
​硬質な打球音が校庭に響き渡る。
​サッカーボールが、まっすぐにゴールネットを揺らした……わけではない。
バスケットボールが、リングをくぐった……わけでもない。
​ショウマが放ったのは、野球の硬式球。
それを、バットではなく、一本のゲートボールスティックで叩き出した結果だった。
​「ふぅ……よしっ!ナイスショットォッ!」
​体育教師の声が、驚愕と呆れがないまぜになったような奇妙なトーンで響く。
​「中条!またお前か!お前、なんで体育の授業になるとそんなにテンション上がるんだ!?」
​ショウマは、スティックを肩に担ぎ、汗を拭う。
体育の授業、それも球技。
それは、彼にとって、まさに人生の全てを賭けるべき神聖な舞台だった。
​「先生、勘弁してくださいよ!ゲートボールは、俺の人生そのものなんすから!」
​……いや、ちょっと言いすぎたか。
​ショウマの所属する高校に、ゲートボール部なんてものは存在しない。
彼が所属しているのは、近所の公園で集まる、平均年齢75歳の老人会だ。
そこで、彼は鍛え抜かれた。
老獪な駆け引き、一寸の狂いもない正確なコントロール、そして何より、ゲートボールという奥深い競技に対する飽くなき探求心。
​その結果、彼の**“球技力”**は、体育教師も舌を巻くほどに異様な進化を遂げていた。
​キィィィィン……
​体育館の授業終了を告げるチャイムが鳴り響く。
​「っしゃ!これで俺の今日の仕事は終わりだぜ!」
​ショウマは、スティックを軽やかに回し、満足げに微笑んだ。
体育の授業以外は、ひたすらにサボり倒すのがモットーの彼にとって、この瞬間こそが至福の時だった。
​🌠【異世界転移:突如現れる“白い空間”】
​ズウン……!
​その時、頭の中に直接響くような、奇妙な振動が起きた。
​『この度は、選ばれし者よ……』
​「うおっ!?なんだこれ!?急に脳内ボイス流してくんなよ!?俺、今スティック振ってたとこなんだけど!?」
​ショウマが思わず叫ぶ。
その瞬間、彼の視界がホワイトアウトした。
​気づけば、そこはどこまでも続く**“白い空間”。
隣にいたクラスメイトも、体育教師も、いつもの校庭も、全てが掻き消えていた。
ただ、真っ白な空間の中心に、"いかにも神様です"**って顔した謎の美形が立っているだけだ。
​「え、なにこれ?ドッキリ?ドッキリなの?てか、神様ってなに?ゲームのチュートリアル始まんの?」
​ショウマが戸惑いながらも、いつもの調子でツッコミを入れる。
すると、美形は静かに口を開いた。
​「驚くのも無理はない。あなたには異世界を救う使命が――」
​「待て待て待て、勝手に話進めんな!ていうか異世界?そういうのは、まずはガチャで引き当てて、課金石で回してから言うもんだろ!?いきなり本題から入られても困るんだって!」
​「ガチャ……?なんのことか理解しかねるが……」
​神様は少し困惑したような顔で首を傾げる。
その様子が、さらにショウマの苛立ちを煽った。
​「わかってねぇな!異世界って言ったら、最初は剣と魔法と美少女だろ!?俺だってな、そういうのを想像して夢見て生きてるんだよ!いきなり目の前に神様が出てきて、お前に使命が、とか言われても……」
​📦【そして投げられる“特典アイテム”】
​「静粛に。あなたの想いは、確かに受け取った」
​神様は、ショウマの言葉を遮り、静かに微笑んだ。
そして、その手に、光り輝く玉を掲げる。
​ゴオオオォォォ……!
​光の玉は、一際強い輝きを放ち、その中から、一つの物体が飛び出した。
​ストンッ
​ショウマの足元に、それは転がってきた。
​いつも使っている、年季の入ったゲートボールスティックだった。
​「いやいやいや!!嘘だろ!?なんでだよ!?」
​ショウマは、スティックを拾い上げ、絶叫した。
​「もっとこう……伝説の聖剣とか、最強の魔法杖とかあるだろ!?俺、何!?“転生したらスティック野郎でした”なの!?あんた、神様だろ!?もっとファンタジーに溢れたアイテムをくれよ!!」
​神様は、静かに首を振る。
​「我は、あなたの願いに応じたまで。あなたは、いつも**“使い慣れた武器がいい”**と願っていた」
​「言ってねぇよ!!てか、そんな微妙な読心すんな!!」
​ショウマは、激しく突っ込んだ。
​「俺が言ってたのは、剣とか、弓とか、そういう『使い慣れた武器』だろうが!ゲートボールスティックじゃないんだよ!どっちかっていうと、これ、趣味の道具だから!」
​しかし、神様は聞く耳を持たない。
それどころか、満足げに頷いている。
​「さあ、新たな世界での活躍を期待しているぞ。選ばれし者よ」
​ブツンッ
​🏜【異世界初日・サバイバル開始】
​「うっ……うぅぅ……」
​目が覚めたら、そこは果てしなく広がる草原だった。
見渡す限りの緑と、風に揺れる草花の海。
そして、その向こうには、不気味な形をした岩山がそびえ立っていた。
​「まじかよ……」
​ショウマは、手の中にあるゲートボールスティックを握りしめ、ため息をついた。
モンスターの気配がする。
村らしきものは見当たらない。
装備もない。
​……あるのは、ゲートボールスティックと、足元に転がっている石ころだけ。
​「よし、クソが」
​ショウマは、地面に転がっていた石を拾い上げた。
ゲートボールの球ほどの大きさ。
重さも、ちょうど良い。
​「この世界がRPGなら、俺は**"職業:地味にしぶといサポート"**ってとこか……!」
​ショウマは、スティックを構え、石を転がす。
​コロン……
​どこまでも転がっていく石を見つめながら、彼は静かに、しかし力強く決意を固めた。
​🔔【読者を掴む最後の決め台詞】
​「異世界転移って……普通はさ、勇者とか、剣士とか、最強の魔法使いとかになるんだろ?」
​「なんで俺だけ、ゲートボールでサバイバルモードなんだよ……」
​ショウマは、空に向かって叫んだ。
その声は、広大な草原に吸い込まれていく。
だが、彼の心は、不思議と晴れ晴れとしていた。
​「でも――」
​ショウマは、ゆっくりとスティックを構える。
その眼差しは、真剣そのものだ。
​「やってやろうじゃねぇか」
​「**“球筋ひとつで生き残る”**異世界ってのも、ちょっと面白そうじゃん」
​ズンッ!
​彼のスティックが、草原の草をかき分け、地面に突き刺さる。
その先には、巨大なオークの影が迫っていた。
​新たな戦いの幕が、今、切って落とされた。
​「やべぇって……これはやべぇって!!」
​ショウマは、廃墟の街道をひたすら走っていた。
​カラカラ…カツンッ…カラカラ…
​背後からは、乾いた骨のぶつかる音が絶え間なく聞こえてくる。
​スケルトン兵団。
​数えてもキリがないほどの大群が、ショウマを追い詰めていた。
朽ちた石畳、崩れかけた壁、埃にまみれた瓦礫。
どこを見ても、希望の欠片も見当たらない。
​「いやいやいやいや!?なにこの数!?王道ファンタジーじゃなかったの!?これゾンビ無双じゃん!?てか、俺、勇者じゃねえから!ただのゲートボール好きの高校生だから!!」
​心の声とは裏腹に、ショウマの足は止まらない。
彼は、手にしたゲートボールスティックを、まるで杖のように地面に打ち鳴らしながら叫んだ。
​カツンッ!カツンッ!
​「よし、ここで一旦《ラインクロス・アウト!》!!ルール違反だ!はい、失格ォッ!!」
​ショウマが叫ぶ。
しかし、誰も納得するはずがない。
スケルトン兵団は、止まることなく突撃してくる。
だが、その瞬間、信じられないことが起きた。
​カラカラッ…
​何体かのスケルトンが、本当に動きを止めたのだ。
しかし、それは一瞬の出来事。
後ろから来たスケルトンに突き飛ばされ、**ガシャァァンッ!**と音を立てて粉々に砕け散った。
​「えっ!?マジで止まった!?いや、止まんなかったけど!?なんだったんだ今の!?」
​ショウマは驚きながらも、さらに声を張り上げる。
​「ほら見ろ!今ラインクロスしたやついたろ!?俺のラインを越えたやつは失格だ!このフィールドから出ていけぇぇぇぇい!!」
​ショウマは、スティックで地面に大きな円を描いた。
その円の外には、もうスケルトンがいない。
なぜなら、全部ショウマを追いかけて、円の中にいるからだ。
​【2】仕込みフェーズ(ゲー棒らしさ演出)
​「ふっ……」
​ショウマは、不敵な笑みを浮かべた。
逃げながら、彼は地面に転がっていた**“転がし用の石”**、崩れた瓦礫、金属片などを、適当に並べ始める。
まるで、いつもの公園のコートを作るかのように。
​「……ここが、俺のホームグラウンドだぜ」
​ショウマは、息を潜めて呟いた。
​「審判はいないが、ルールは俺が決めるッ!」
​ショウマが作り上げたのは、いびつな形のゲートボールコートだった。
そして、彼は、ある場所にゲートを設置する。
スケルトンの足元に配置された、三つのゲート。
それを通らなければ、ショウマにたどり着けないような配置だ。
​スケルトン兵団は、何も考えず一直線に突き進んでくる。
​カラカラ……
​その足元に、ちょうどよくゲートが配置されている。
もちろん、スケルトンたちは気づかない。
ただ、そのゲートをくぐり抜けるように、彼らは進軍してきた。
​カシャ…カシャ…
​まるで、ショウマの作ったルールの通りに動いているかのように。
​【3】不意打ちフェーズ
​「来たぜ……!」
​スケルトンの群れが、一直線にショウマに迫る。
その時、ショウマは、構えていたスティックを大きく振りかぶった。
そして、地面に転がっていた石ころを、強く叩きつける。
​カキンッ!!
​「“ターゲット・スパークショット”!――ゲート通過っ!!!」
​ショウマのスティックから放たれた石は、一直線にスケルトンの群れへと飛んでいく。
​ガシャンッ!!
​石は、先頭のスケルトンの股間部分に命中し、見事に骨を粉砕した。
まるで、ゲートボールのゲートをくぐるかのように。
​だが、それだけでは終わらない。
砕けたスケルトンの骨が、さらに後ろのスケルトンに命中する。
​ガシャァァァンッ!!
​**「ヒットボール(他のボールを叩いて飛ばす)」**のように、連鎖的にスケルトンが次々と倒れていく。
まるで、ドミノ倒しのように、一瞬でスケルトンの群れが崩壊していく。
​「おまえらちゃんと審判呼んでから出直してこい!!ゲートボールはなァ!団体競技なんだよォ!!」
​ショウマは、勝ち誇ったように叫ぶ。
しかし、その奥から、さらに巨大な一体のスケルトンが姿を現した。
​【4】フィニッシュ演出(ルール無視の豪快必殺技)
​ズン…ズン…ズン…
​最後のボス骸骨が、大地を揺らしながら迫ってくる。
ショウマは、その巨体に圧倒され、地面に伏せた。
​「嘘だろ……なんでこんなに強いのがいるんだよ……」
​ショウマの体は、恐怖で震える。
だが、その時、彼の脳裏に、いつもの公園でゲートボールをしていた老人たちの顔が浮かんだ。
​『ショウマくん!ゲートは狙うもんじゃない!描くもんだ!』
​『あんたのショットには、もっと魂がこもってねぇ!』
​『諦めるな!最後の最後まで、球筋は生きてるぞ!』
​ショウマは、震える体を無理やり起こし、スティックを握りしめた。
彼の体から、何かが溢れ出す。
それは、ゲートボールに対する、抑えきれない情熱と、長年の修行によって培われた、**“球技力”**だった。
​「クソッ……ルール無視の必殺技なんか、使いたくなかったけど……!」
​ショウマは、スティックを逆さまに持ち、地面に突き刺した。
そして、渾身の力を込めて、地面を叩きつける。
​ドォォォォンッ!!!!
​地面が割れ、瓦礫が舞い上がる。
その瓦礫が、まるでゲートボールの球のように、一直線にボス骸骨に向かって飛んでいく。
​グシャアアアァァァン!!!!
​ボス骸骨は、瓦礫の雨に耐えきれず、粉々に砕け散った。
​ショウマは、スティックを肩に担ぎ、大きく息を吐く。
その顔には、疲労と、そして、どこか満足げな笑みが浮かんでいた。
​「……まったく、ゲートボールのルールを無視するなんて、じいちゃんばあちゃんに怒られちまうな」​『風の塔の少女と、石ころを転がす男』
​🏰【風の塔の中】
​風が、そよぐ。
​フィレリア・ウィンドローヴは、ひんやりとした石造りの窓辺に腰かけ、分厚い古書をゆっくりと捲っていた。この塔には、毎日、決まった時刻に**“風”**が通ってくる。朝、まだ夜の残り香が微かに漂う頃の、冷たく澄んだ風。太陽が真上から降り注ぐ、まばゆい光を運んでくる、熱を帯びた風。そして、世界が茜色に染まる、黄昏時のもの悲しい風。フィレリアは、その全てを肌で感じ、耳で聞き分けながら、静かに生きてきた。
​「……また、いつもの風ね」
​彼女はそっと呟いた。それは、日々の暮らしの中で、当たり前になった風の音。外の世界で起こる些細な出来事を、彼女に届けてくれる唯一のメッセンジャー。
​「あの丘にいる鳥は、今日は鳴かないのね……」
​風が運ぶ、遠い鳥のさえずり。その音が聞こえない日は、どこか寂しい気持ちになる。塔の窓から見える、小さく揺れる緑の木々。その上を、羽ばたいていく鳥の姿を想像するだけで、彼女の心は少しだけ、外の世界へと羽ばたいていける気がした。
​「街道に流れる魔力も、今日は弱い……」
​風に乗って、世界中に満ちる魔力の波動を感じ取る。それが彼女に与えられた、唯一の能力。しかし、その力は、彼女をこの塔に縛り付ける鎖でもあった。**“外には出ないこと”**が、彼女の宿命。生きるための、唯一のルール。それが、フィレリアの日常だった。この風の塔の中で、ひとり、静かに時を重ねること。それが、彼女の人生の全てだった。
​🪨【風に乗った“異物”】
​――コツンッ。
​乾いた音が、静寂を破った。
​それは、風が奏でるものではなかった。木々が擦れる音でも、石が落ちる音でもない。もっと硬質で、そして、力強い音。フィレリアは、読んでいた本からゆっくりと顔を上げた。窓の外を見る。塔の足元に広がる、朽ちた廃墟の空き地。その場所から、まっすぐに塔へと向かってくる、小さな影。それは、ただの石ころ。
​「……あれは……石?」
​信じられないものを見るように、フィレリアは目を丸くした。風が、石を運ぶことなんて、あるはずがない。ましてや、これほど速く、正確に……。風は、石を打ち出すように勢いをつけて、そのまま彼女の窓へと、石を届けたのだ。
​「風に……のって……?」
​彼女の胸の中に、ざわめくような感情が芽生えた。それは、これまで感じたことのない、不思議な感覚。風は、いつも彼女に、ただ世界の出来事を知らせるだけだった。しかし、この風は違った。まるで、誰かの意思を持って、石を運んできたかのように。
​「――でも……」
​フィレリアは、窓から顔を出し、風の流れに身を任せた。そして、目を閉じて、その風の感触を確かめる。いつもはただ静かに通り過ぎていく風が、今日は、まるで命を持っているかのように、生き生きとしていた。
​「……あの人の風は、笑ってる……」
​🎯【ショウマ登場:廃墟ゲートボール in 一人用】
​カツンッ!
​廃墟の空き地に、乾いた打球音が響く。
​「っしゃあああ!ナイスショットォォォ!」
​そこには、スケルトン兵団との死闘を終えた後、ゲートボールで**“ひとり打ち”**をしているバカがいた。そう、愛称:ショウマ。彼にとっては、ここはただの廃墟ではない。無限に広がる、自分だけのゲートボールコート。
​「いっちょ、ライン外に吹っ飛べ~♪」
​鼻歌混じりに、彼はゲートボールスティックを構える。地面に転がるのは、いつもの球ではなく、そこら辺にあった石ころだ。
​「……ってオイ、さっきから風強すぎんだろ!逆風補正エグいって!?」
​ショウマが叫ぶ。今日という今日は、風が強すぎる。いつもなら、計算通りに飛んでいく石が、風に煽られて、あらぬ方向へ飛んでいく。
​カツンッ!
​石が打ち出された。しかし、風のいたずらによって、石はまっすぐではなく、弧を描くように宙に舞う。そして、まるで意思を持ったかのように、風に乗り、廃墟の空き地から、高くそびえ立つ塔の窓へと、一直線に飛んでいった。
​🌬️【フィレの決断:風の塔を出る時】
​フィレリアは、窓から身を乗り出し、その石がどこから来たのか、目で追っていた。
​そして、その先に見えたのは、ひとりの男。
​彼女は、胸の奥で高鳴る鼓動を感じながら、そっと手を胸に当てた。
​「……あの風の中に……行きたい」
​それは、生まれて初めて抱く感情だった。これまで、外の世界に憧れはあったが、それは遠い夢のようなもの。しかし、今、彼女の目の前にあるのは、現実。風が、彼女を呼んでいる。
​「お母様、ごめんなさい……でも……」
​彼女は、心の中で、遠い昔に亡くなった母に語りかけた。母から教わった、**“外には絶対に出てはいけない”**という戒め。それが、彼女を守るための、唯一の教えだった。だが、今、彼女は、その教えを破ろうとしていた。
​「風が……今日だけは、優しい気がして……」
​数十年ぶりに、塔の重い扉が、**キィ……**と、寂しい音を立てて開く。
フィレリアは、塔の外へと一歩踏み出した。
​生まれて初めて踏む、土の感触。
素足に、柔らかな草の感触が、心地よく伝わってくる。
彼女は、目を細め、頬を撫でる風を、全身で受け止めた。
それは、これまで塔の中で感じていた風とは、全く違うものだった。
自由で、暖かくて、そして……笑っていた。
​🌤️【邂逅:石と風と、ふたりの距離】
​「うーん、やっぱ風の補正ヤバいわ。もうちょい遠いとこにゲート置くか……」
​ショウマは、散らばった石ころを拾い集めながら、ひとりごちていた。
先ほどまで、塔へと向かって飛んでいった石を探しに、彼は廃墟の空き地を歩き回る。
その時、背後に気配を感じた。
​「……え?」
​ショウマは、ゆっくりと振り返る。
そこに立っていたのは、見たこともない、美しい少女だった。
白いドレスを身につけ、銀色の髪が風になびく。
​「……いや待て、誰?っていうか――」
​ショウマは、思わず口を開く。
​「その服、**姫系じゃね?**どこのエルフ国から来た王女様?」
​ショウマの言葉に、フィレリアは緊張した面持ちで、小さく体を震わせた。
​「あの……わたしも……その、石……転がしてみても……?」
​その声は、震えていた。
しかし、その瞳は、ショウマが放った石を、まっすぐに見つめていた。
​ショウマは、一瞬ぽかんと口を開けた後、にやりと笑った。
​「……ははっ、見つかっちまったか、俺の“ひとり遊び”」
​ショウマは、地面に転がっていた石を拾い上げ、彼女に手渡した。
​「いいぜ。ルールなんて適当でいい。
ここは異世界、フィールドは無限だ」
​ショウマは、塔の少女に向かって、手を差し出す。
​「さあ、お姫様。“外の風”と、勝負しようぜ」
​フィレリアは、差し出されたその手を見て、そして、ショウマの笑顔を見て、ゆっくりと、その手を取った。
それは、彼女にとって、新たな人生の始まりを告げる、最初の一歩だった。
​『夕暮れの初打ち、風がくれた自由』
​🌙情景描写
​廃墟の空き地に、夕暮れの風が通り抜ける。
​日中の喧騒が嘘のように静まり返り、世界がゆっくりと息を潜めていく時間。夕日が最後の光を放ち、空を茜色から深い藍色へと塗り替えていく。夜の帳が、音もなく、そして優しく、二人の小さな影を包み始めた。
​照らすものは、もうない。
それなのに、辺りにはほんのりと温かい空気が漂っていた。
地面には、ショウマが手作りしたゲートと、そこらじゅうに転がる石ころ。
不規則な配置だが、彼にとっては、それだけで十分な**“コート”だった。
そして今、その不完全なコートを、“ふたりで使っている”**というだけで、彼の胸の中には、妙に誇らしい感情が満ちていた。
​🎭会話+初打ち動作
​「いいか、姫。ゲートボールは、力じゃねぇんだ」
​ショウマは、フィレリアの背中にそっと手を当て、優しく前に押した。
彼女の指先が、彼が手渡したゲートボールスティックを、ぎこちなく握りしめる。
​「あとはこうやってスティックを――そう、握って……」
​彼の声は、夕闇に溶け込んでいくように、柔らかく響いた。
フィレリアは、緊張した面持ちで、スティックを握る手に力を込める。
その白い指先は、まるで初めて触れる世界に戸惑っているかのように、細かく震えていた。
​「で、力まず――感覚で、転がす」
​ショウマの言葉に、フィレリアは何度もうなずいた。
その瞳は、地面に転がる小さな石を、まっすぐに見つめている。
​「あの……こう……ですか?」
​フィレリアは、おそるおそるスティックを構える。
その姿は、まるで剣士が剣を構えるかのように、力強く、そして美しかった。
ショウマは、それを見て、思わず吹き出してしまった。
​「いや、それは“斬る構え”な。ボールを斬っちゃダメだぞ、お姫様」
​「ふふふっ……」
​フィレリアは、ショウマの言葉に、ほんの少しだけ口元を緩めた。
だが、すぐに、ぷくっと頬を膨らませ、不満げな表情を浮かべる。
​「し、仕方ありません……こんな道具、初めてですもの……!」
​彼女の声には、悔しさと、そして、どこか楽しそうな響きが混じっていた。
​その時、ふわりと、風が二人の間を通り抜けた。
夕暮れの残香を乗せた風は、フィレリアの銀色の髪を揺らし、その白いドレスを優しく靡かせる。
その瞬間、彼女のスティックが、自然と――動いた。
​カツンッ!
​硬質な打球音が、静かな空き地に響き渡る。
放たれた石は、滑らかに地面を転がり、そして、見事にゲートの輪をくぐった。
それだけではない。
さらに先にあった、別の石にコツンッと当たり、まるで最初からそうするつもりだったかのように、ピタリと止まった。
​「おぉぉ!? 一発成功!?うそだろ、おい……」
​ショウマは、目を丸くして、その光景を見ていた。
フィレリアは、自分の胸にそっと手を当て、信じられない、という表情で、石の軌跡を目で追う。
​「い、今の……わたしが……?」
​彼女の声は、震えていた。
だが、それは恐怖ではなく、喜びと、驚きに満ちた震えだった。
​ショウマは、その様子を見て、ニヤリと笑った。
​「やべぇな姫。あんた、多分……**“風属性ゲートボーラー”**の素質あるぜ」
​🌬️続く時間
​その夜、二人は何度も石を打った。
​成功することもあれば、ゲートを外してしまうこともあった。
石が変な方向に飛んでいってしまい、二人で必死に探すこともあった。
それでも、フィレリアの顔から、緊張の色は消えていた。
​「もう一度……!」
​「今度こそ、ゲートを通してみせますわ!」
​彼女は、小さな笑みを浮かべながら、風と一緒にボールを追い、声を上げて笑った。
その笑い声は、風に乗って、遠くまで響いていく。
そして、その声を聞いたショウマも、つられて笑った。
​🌌そして夜へ
​空は、深い黒色に染まり、星がひとつ、またひとつと瞬き始める。
まるで、二人の遊びを見守るかのように、空には満天の星が広がっていた。
でも、二人はそれに気づかず――いや、気づいていながらも、その時間を止めることができなかった。
世界が暗くなっていることさえ忘れ、二人は夢中で遊び続けていた。
​「ふぅ……」
​ショウマは、地面に転がった石を拾い上げながら、大きく息を吐いた。
そして、ふと空を見上げる。
​「……気づいてるか? 姫、もう日が暮れてんぞ」
​ショウマの言葉に、フィレリアは、空を見上げた。
そして、風を感じながら、静かに答える。
​「……ええ。でも、今日は……はじめて**“時間がもったいない”**って思いました」
​「……風って、こんなに……楽しいんですね」
​フィレリアの言葉は、まるで夕暮れの風のように、優しく、そして、ショウマの心に深く染み渡っていった。
彼女は、今まで、この風の塔の中で、ひとり、静かに生きてきた。
風は、彼女にとって、ただ外の世界を知らせるための道具でしかなかった。
しかし、今日、彼女は知った。
風は、ただ通り過ぎるだけのものではない。
誰かと一緒に、笑い、楽しむための、大切な存在なのだと。
​その言葉に、ショウマは、ふっと息をつきながら、自分のゲー棒を肩に担いで、空を見上げた。
​「ま、そりゃあ風も笑うわけだ……」
​満天の星が瞬く夜空に、ショウマの声が響く。
​「今日みたいな日にはさ」『風の塔へようこそ。あなたは、わたしの――はじめての“友人”です』
​🌌場所:夜。満天の星の下。
​「……ったく、風も笑うわけだ。今日みたいな日にはさ」
​ショウマは、肩に担いだゲートボールスティックを、トントン、と軽く叩いた。
夕暮れの残照は、もう跡形もなく消え去り、空には満天の星が瞬いている。
風が吹く丘の上、フィレリアの**「風の塔」**の前。
二人で遊び続けた廃墟の空き地から、ほんの少し歩いた場所だ。
​「そろそろ、野宿できる場所探さねぇとなぁ」
​ショウマは、疲労を隠すように、大きなあくびをした。
この世界に来てから、ずっと野宿生活だ。
今日は、久しぶりに人の声を聞き、言葉を交わした。
その温かさが、彼の心を少しだけ、柔らかくしてくれた。
だが、同時に、寂しさも感じていた。
このまま、彼女と別れてしまうのか……。
​「んじゃ、姫。今日はこの辺でお開きってことで。またどっかで会えたら、ゲートボールでもしようぜ」
​ショウマは、明るく、そしてどこか寂しげな声で言った。
彼は、彼女に背を向け、丘を下ろうとした。
​その時だった。
​「あの……ショウマさん……」
​小さな声が、彼の背中から聞こえてきた。
ショウマは、足を止めた。
フィレリアの声は、ほんの少しだけためらいを含んでいたが、その奥には、確かな熱がこもっているようだった。
振り返ると、フィレリアは、そっと、彼のシャツの袖を掴んでいた。
​🎭シーン:帰ろうとするショウマに…
​「……え?」
​ショウマは、驚いて、彼女の顔を見た。
フィレリアの頬は、夕暮れの名残のように、ほんのりと赤く染まっている。
だが、その表情は、冗談など一切言っていない、真剣な顔だった。
​「……もし、よければ……その……」
​彼女は、小さく口を開き、言葉を選んでいるようだった。
ショウマは、フィレリアの次の言葉を、固唾をのんで待つ。
​「わたしの塔に、泊まっていきませんか……?」
​「……は?」
​ショウマは、間の抜けた声を上げた。
彼の頭の中は、今、完全に停止していた。
まさか、この見知らぬ塔の姫様から、そんな言葉を聞くことになるとは。
​「だって……その……夜の風は、冷たいですし……」
​フィレリアは、俯きながら、小さく呟いた。
彼女の銀髪が、風に揺れ、その白い肌を優しく隠す。
​「……それに……あなたを**“帰す”**わけには……」
​彼女は、意を決したように顔を上げた。
その瞳は、ショウマをまっすぐに見つめている。
風が、静かにフィレリアの銀髪を揺らす。
その瞳は、ほんのりと揺れるキャンドルのように、暖かく、でも迷いがある。
​「わたし……あなたに、聞きたいことがたくさんあるんです」
​フィレリアは、もう一度、ショウマに語りかけた。
彼女の声には、探求心と、好奇心と、そして……ほんの少しの寂しさが混じっていた。
​「どこから来たのか。どうしてあんなに、石を転がすのが上手なのか」
​「……そして……どうして……風が、あなたのことを楽しそうに話すのか……」
​ショウマは、その言葉を聞いて、思わず笑みがこぼれた。
なんだか、この世界に来て初めて、人間らしい感情がこみ上げてくるのを感じた。
ゲートボールスティックを肩に担ぎ直し、彼は、彼女の目をまっすぐに見つめる。
​「……ったく、ちょっと石ころ転がしただけで、風の姫様に興味持たれるとはな」
​ショウマは、ふっと息をつきながら、穏やかな表情で言った。
それは、もう、さっきまでの寂しげな声ではなかった。
彼の心は、今、暖かさと、少しの期待で満たされていた。
​「……わかったよ。お言葉に甘えて、泊まらせてもらう」
​フィレリアは、その言葉を聞いて、安堵したように、ほっと胸をなでおろした。
その表情は、まるで、子供が初めて友達ができたときのような、純粋な喜びで満ちていた。
​「でも、塔の中って……宿泊施設、ある系?」
​「はい。ひとつだけ、あるんです。ずっと誰も使わなかった、“客間”が――」
​🏰風の塔内部へ
​フィレリアが、塔の入り口に手をかざすと、**“フウッ”**と、まるで風が吹き抜けるように、重厚な扉が音もなく開いた。
​塔の中は、外の冷たい空気とは違い、温かく、ほんのりハーブのような香りが漂っていた。
それは、魔力と自然が、絶妙に混ざり合ったような、不思議な空間。
壁には、美しい模様が刻まれており、天井からは、淡い光を放つ魔法の球が、いくつも吊るされていた。
​「……なんか、すげぇな。風って、意外と居心地いいのな」
​ショウマは、感嘆の声を漏らした。
彼の想像していた塔の中とは、全く違うものだった。
もっと、冷たくて、寂しい場所だと思っていた。
だが、ここは、温かくて、そして、どこか懐かしいような、優しい空気が満ちている。
​「ようこそ、ショウマさん」
​フィレリアは、微笑みながら、ショウマを塔の中へと招き入れた。
​「……ここは、わたしの世界です」
​彼女は、そう言って、ショウマの手を取り、ゆっくりと歩き出した。
その手は、小さくて、温かかった。
​「だから今日は――あなたを、ちゃんと**“お迎え”**したかったんです」
​フィレリアの声は、風のように優しく、そして、ショウマの心に深く響いた。
​「あなたは、わたしの――はじめての**“友人”**です」
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