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第2話街の名は?君の音
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この町の名を、君は知っていたか』
夕焼けの余韻が残る風の丘。
魔物との戦いを終え、旅立ちの準備を進めながら、ふたりは並んで丘の上に立っていた。
丘の上から見下ろす街は、遠く、まるで絵画のようだった。
町から立ち上る煙が、夕日に染まり、幻想的な光景を作り出している。
ヒュー……
風は穏やかだった。
フィレリアの銀髪を揺らし、ショウマのフードをそっと膨らませる。
その風は、どこか優しく、そして懐かしいような、不思議な匂いがした。
「なぁ、姫……いや、フィレ」
ショウマは、ぼそりと呟いた。
彼女の名を呼ぶことに、まだ少し照れくささが残っている。
「このあたりって、町の名前……あるのか?」
フィレリアは、ショウマの言葉に、少し考えてから答えた。
「ええ。“ロムカ”。それが、この町の名です」
その瞬間、ショウマの中に、**“何か”**が響いた。
まるで、遠い昔に聞いたことのある、懐かしいメロディを思い出したかのように。
風の音と重なるように、静かに――でも確かに。
「……ロムカ、か」
ショウマは、心の声で繰り返した。
その響きが、彼の心の奥底に眠っていた、何かを揺り動かす。
「――なんだろう……初めて聞いたはずなのに、知ってる気がする」
「いや、**“聞いた”というより……“思い出した”**感じ……?」
風が吹く。
まるでその名前を繰り返すように、ロムカ、ロムカと囁く。
フィレリアは、そんなショウマの様子を横目で見ていた。
「あなたの風が、少し揺れましたね」
「俺の……風?」
ショウマは、眉をひそめて、フィレリアを振り返る。
自分の内側に、風が流れているなんて、彼は知らなかった。
「はい。風って、人の内側にも流れているものなんです。名前や音が**“風に合っている”**と、揺れることがあるんです」
「あなたの風が、**“ロムカ”**に反応したのかもしれません」
ショウマは黙って、もう一度その名を反芻した。
ロムカ。
風の塔があった場所。
そして、旅が始まった町の名。
「旅ってのは、**“どこへ行くか”も大事だけど……“どこから始めたか”**も、忘れちゃいけねぇんだな」
見上げた空には、星がひとつ、瞬いていた。
『風の音、あなたに届く距離』
「なぁ……そもそもさ」
ショウマは、塔の外で旅立ちの準備を進めながら、ふと、疑問に思ったことを口にした。
彼はゲー棒を肩に担ぎながら、いつもの軽口調でフィレリアを振り返る。
「俺、廃墟の街道で一人で石転がしてたわけだけど――」
「あそこ、けっこう塔から離れてなかったか?」
フィレリアは、振り返らずに風に髪をなびかせたまま、ゆっくりと答える。
「……風が音を運んだのですよ」
「……はい出た。ファンタジー理論!地味に便利なやつ!!」
ショウマは、思わずフリーズしてから、ツッコミを入れた。
だが、フィレリアは、そんな彼のツッコミにも動じない。
彼女は、少し照れたように、言葉を続けた。
「でも……それだけじゃありません。あの時の風は――楽しそうに話していたんです。あなたのことを」
「……いやいや、あれ石転がしてただけなんだけど……風、ノリ良すぎない?」
ショウマは、ちょっと黙って目をそらしつつ、頬をかいた。
彼女の言葉は、彼の心をくすぐる。
フィレリアはくすっと笑い、風の指輪に手を添えながら、優しく囁いた。
「風って、時々……会いたい人の声を、こっそり運んでくれるんですよ」
その言葉に、一瞬、ショウマの動きが止まる。
彼は、無理に咳払いしてごまかした。
「……おい、風さんよ。そういうポエムめいた演出は、もっと劇的な再会の時に取っとけよ……」
ショウマがそう言うと、風が吹いた。
それは確かに――ほんのりと、笑っているようだった。
夕焼けの余韻が残る風の丘。
魔物との戦いを終え、旅立ちの準備を進めながら、ふたりは並んで丘の上に立っていた。
丘の上から見下ろす街は、遠く、まるで絵画のようだった。
町から立ち上る煙が、夕日に染まり、幻想的な光景を作り出している。
ヒュー……
風は穏やかだった。
フィレリアの銀髪を揺らし、ショウマのフードをそっと膨らませる。
その風は、どこか優しく、そして懐かしいような、不思議な匂いがした。
「なぁ、姫……いや、フィレ」
ショウマは、ぼそりと呟いた。
彼女の名を呼ぶことに、まだ少し照れくささが残っている。
「このあたりって、町の名前……あるのか?」
フィレリアは、ショウマの言葉に、少し考えてから答えた。
「ええ。“ロムカ”。それが、この町の名です」
その瞬間、ショウマの中に、**“何か”**が響いた。
まるで、遠い昔に聞いたことのある、懐かしいメロディを思い出したかのように。
風の音と重なるように、静かに――でも確かに。
「……ロムカ、か」
ショウマは、心の声で繰り返した。
その響きが、彼の心の奥底に眠っていた、何かを揺り動かす。
「――なんだろう……初めて聞いたはずなのに、知ってる気がする」
「いや、**“聞いた”というより……“思い出した”**感じ……?」
風が吹く。
まるでその名前を繰り返すように、ロムカ、ロムカと囁く。
フィレリアは、そんなショウマの様子を横目で見ていた。
「あなたの風が、少し揺れましたね」
「俺の……風?」
ショウマは、眉をひそめて、フィレリアを振り返る。
自分の内側に、風が流れているなんて、彼は知らなかった。
「はい。風って、人の内側にも流れているものなんです。名前や音が**“風に合っている”**と、揺れることがあるんです」
「あなたの風が、**“ロムカ”**に反応したのかもしれません」
ショウマは黙って、もう一度その名を反芻した。
ロムカ。
風の塔があった場所。
そして、旅が始まった町の名。
「旅ってのは、**“どこへ行くか”も大事だけど……“どこから始めたか”**も、忘れちゃいけねぇんだな」
見上げた空には、星がひとつ、瞬いていた。
『風の音、あなたに届く距離』
「なぁ……そもそもさ」
ショウマは、塔の外で旅立ちの準備を進めながら、ふと、疑問に思ったことを口にした。
彼はゲー棒を肩に担ぎながら、いつもの軽口調でフィレリアを振り返る。
「俺、廃墟の街道で一人で石転がしてたわけだけど――」
「あそこ、けっこう塔から離れてなかったか?」
フィレリアは、振り返らずに風に髪をなびかせたまま、ゆっくりと答える。
「……風が音を運んだのですよ」
「……はい出た。ファンタジー理論!地味に便利なやつ!!」
ショウマは、思わずフリーズしてから、ツッコミを入れた。
だが、フィレリアは、そんな彼のツッコミにも動じない。
彼女は、少し照れたように、言葉を続けた。
「でも……それだけじゃありません。あの時の風は――楽しそうに話していたんです。あなたのことを」
「……いやいや、あれ石転がしてただけなんだけど……風、ノリ良すぎない?」
ショウマは、ちょっと黙って目をそらしつつ、頬をかいた。
彼女の言葉は、彼の心をくすぐる。
フィレリアはくすっと笑い、風の指輪に手を添えながら、優しく囁いた。
「風って、時々……会いたい人の声を、こっそり運んでくれるんですよ」
その言葉に、一瞬、ショウマの動きが止まる。
彼は、無理に咳払いしてごまかした。
「……おい、風さんよ。そういうポエムめいた演出は、もっと劇的な再会の時に取っとけよ……」
ショウマがそう言うと、風が吹いた。
それは確かに――ほんのりと、笑っているようだった。
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