魂が百個あるお姫様

雨野千潤

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06 会議(前編)

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食後、ヨツイオリジナルのハーブティーを飲みながら、今後について話し合おうと椅子を寄せ合う。

「課題としては大きく三つありますわね。食糧問題と住宅問題と魔物問題」

そう議題を提示すると、クリストから「ちょっと待った」とストップが入った。

「何故君が仕切っているんだ?此処は領主であるアルフレッド殿下が指揮を執るべきだろう」

「…なるほど」

眼鏡の主張も一理ある、とアルフレッドを見つめる。

アルフレッドは「いや、そんなに気にすることでは」と戸惑いながらも立ち上がった。

「では僕が進めよう。まずは食糧問題から。クリストはどう思う?」

「まずは隣接する他の領地の支援を求めるべきでしょう。この地には農地もなければ農民もいない。せめて商人が出入りしてくれたなら金で解決することも出来るのでしょうが」

「その金はどこから出すつもりだ?」

クリストの意見にジークが質問する。

眉間を寄せつつ眼鏡をクイを上げたクリストは「今は陛下から頂いた当面の生活費から出すしかないだろう」と苦く言葉を吐き出す。

「支援を求めても応えて貰えるかどうか。僕達は追放された身だから」

難しいかもね、とアルフレッドがため息をつく。

「ユーリ嬢はどう思う?」

「…」

意見を求められ、私は黙って扇子を広げた。

「まずクリストさんにお訊ねしたいのですが」

「クリスト『様』と呼んでくれないか。私は君とそんなに親しくないだろう」

「まぁ」

そこまで敵意剥き出しなのね、と扇子の下で口角を上げる。

「私の夫の配下の方ですわよね。『さん』でもおかしくはないと思いますけれど」

「君は貴族の中で最も平民に近い男爵令嬢だ」
「あら、伯爵夫人ですわよ。貴方は公爵令息でしたが、絶縁して?今の身分は平民ですか?」

「なんだと…っ!?」

軽く挑発すると顔を紅潮させて声を荒げる。
よく吠える犬だこと、と笑っているとアルフレッドが「喧嘩しないでくれ」と仲裁に入ってきた。

「クリストが失礼した。だが、ユーリ嬢も言い過ぎだ。二人とも落ち着いてほしい」

「私は落ち着いていますわ。話を戻しますわね」

誰かさんと違って、と悔しそうに歯を食いしばるクリストを見る。

「クリストさんにお訊ねします。先程『この地には農地もなければ農民もいない』と仰いましたが、何故自分で耕そうとしないのです?」

「…は?」

質問の意味が理解出来なかったようだ。
私は嚙み砕いて子供にもわかるように、もう一度言う。

「農民がいないのなら自分で。幸いにも土地はたくさんありますわ。ここの中庭でも充分。耕せば良いではないですか」

「え?…は?いや、私には知識も技術もない。農業なんて」
「では知識や技術を教えてくれる者を雇いましょう。そちらに費用をかけた方が建設的ですわ」

「私は人の上に立つべき人間だぞ!なのに下賤な土いじりをしろというのか!?」

クリストの怒号を受け、私はスッと扇子を閉じた。

「今の貴方の下に誰がいるというのです?私ですか?」

「…それは。…」

自分で発した言葉なのに、自分の本音を知って愕然をしているように見える。
黙り込んだクリストの代わりに「ユーリ嬢にそんなことはさせられない」とアルフレッドが口を挿んだ。

「農作業は体力のある男子が請け負おう。勿論、僕も含めて」

「りょーかい」
「殿下のご命令ならば」
「異議なし」

トーマが真っ先に返事をし、ジークとキサラが後に続く。
ヨツイが「邸の中庭はご遠慮いただきたいですわ」と断りを入れ、最後にクリストが消え入りそうな声で「わかりました」と頷いた。

「では次に住宅問題だ。優先すべきは安全な宿泊場所と水道と魔石だろうか」

「軽く見回ったが、街の住宅はそのまま使っても問題なさそうだった。邸に拠点を置きたいのなら使えそうな家具や魔道具をこちらに集めるのも良いだろう。邸内の井戸も少々濁っていたが汲み上げる内に綺麗になった。街の方の井戸もおそらく大丈夫だ」

手を挙げてイチカが発言する。
安堵の表情を浮かべたアルフレッドが「そうか」と頷いた。

「有難いことだ。先住民に感謝して、使わせてもらうことにしよう」

「魔物がたくさんいるなら、魔石も簡単に入手出来るのでは?」
「いや、クリスト。聖大陸に発生する魔物から魔石が出ることは殆どないんだ」

クリストの疑問に答えたのは赤髪のジークだ。
流石騎士団に勤めていただけあって、魔物のこともよくわかっている。

魔石は大型の魔物から獲れることが多く、それは主に魔大陸という海を渡った先に生息している。

灯りや調理器具などに使われる魔道具に魔石は必要不可欠で、その魔石はエネルギーを放出し切れば消えてなくなってしまう消耗品だ。
なので需要が大きく、腕に自信のある冒険者達は一攫千金を夢見て海を渡る、というのがサクセスストーリーの定石である。

「魔石を購入してもいいのだが、それをずっと続けることは難しいだろう。なので魔石に頼るのは最低限にし、山の木を切って薪を作り、それで火を熾して生活していくしかないだろう」

アルフレッドの言葉に青ざめたクリストが「なんてことだ…」と力なく漏らす。

「まるで原始人のような生活ではないか」
「木を切ったら道が広がるし、一石二鳥だな」

相反するようにトーマは楽観的だ。

深く考えていないだけの能天気人間にも見えるが、彼は要所要所で空気を和ませる。
一家に一台置いておきたい空気清浄機だな、と我が兄を見つめた。

「ユーリ嬢もそれで良いだろうか。不便な生活を強いることになってしまうが」

「あ、はい」

アルフレッドは気にかけてくれるが、魔石を節約する生活は今までだってしてきた。
平民や男爵家では当然のことであり、大して不便とは思わない。

「魔石を売ってくれる商人には宛てがありますわ。来てもらえるよう要請致しましょう」

「ニノなら言わなくても来そうだけどな」
「寧ろ何故まだ来ておらんのだ、ニノは」
「そういや寄る処があるとか言ってたのう」

イチカと賢者のトニ婆が口々にその商人についてぼやく。

だが彼女が多忙なのはいつものことだ。
今回のことは急な話だったし、すぐに動けなかったとしても仕方のないことだろう。

「では最後に魔物問題」

これが一番の難問だ、アルフレッドが息をつく。

「魔物なら俺とトーマが駆除するぞ。任せてくれ」

ここぞとばかりにジークが名乗りを上げるが、そういうことじゃない。

アルフレッドが渋い顔をしていると、事態を把握できていないクリストとキサラが「何か問題か?」と首を傾げた。

「何故王都には魔物が発生しないのか、その理由を知っているかい?」

「え?…それは女神の護りとやらがあるからじゃないのか」
「教会に祭ってある聖王石の結界」

二人の返答を聞き「そういう認識か」と眉根を寄せる。
アルフレッドは続けて「騎士団組二人も同じか?」とジークとトーマにも訊ねた。

「結界と言っても魔物が入り込めないわけじゃないし。…そういやなんなんだろうな、女神の護りって」
「考えたこともない」

アルフレッドは次に私を見て、困ったように首を傾げる。
助けを求められた私は、面倒だと思いつつ賢者に視線を投げた。

「賢者。この世界の創世記を簡潔に説明していただける?」

つまり、丸投げされたものをそのまま丸投げする。

促された白髪頭の少女は立ち上がり、椅子の上に本を置いた。

「姫様の仰せのままに」
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