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07 会議(後編)
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雨はいつの間にか止んでおり、空には幾つかの星が瞬いている。
天を仰いだ賢者はゆっくりと口を開いた。
「女神セレイナは…この世界に二つの大陸を作り、二つの大きな力を持つ石をそれぞれに与えた。魔大陸には魔王石を、聖大陸には聖王石を。魔王石は魔素を発して魔大陸を満たし、その魔素によって魔物という生物が生まれその大陸を支配した。やがて魔王石は全ての魔素を吐き出し、溶けるように消えてなくなった」
ここまでは貴族ならば一般教養として学ぶ内容だ。
平民だって教会の礼拝堂やお伽噺で伝え聞いている、女神セレイナを讃える神話。
「そして聖王石もまた聖素を発して聖大陸を満たした。その聖素によって人間が生まれその大陸を支配する」
「おい、人間も魔物と変わらないみたいな言い方はやめてくれ。人間は魔物と違って女神に愛され、護られる存在だろう?」
聞き捨てならない、とクリストが遮る。
賢者はクリストを冷たく一瞥し、返事をすることなく話を続けた。
「魔王石同様、聖王石もまた全ての聖素を吐き出して消えるはずだった。しかしそれを阻んだ魔導士がいた。その魔導士の名はオズ」
「は?」
それは知らない話だ、とクリストが間抜けな声を出す。
アルフレッドも私も止めないのを見て真実だと思ったのか、クリストは口を噤んだ。
「オズは強力な封印で聖王石の溶解を止め、その力を自分のモノにしようとした。だが、魔素と聖素は相反し互いを打ち消すもの。聖王石が聖素を発しなくなったために魔素は世界中に充満し、魔物が聖大陸でも発生するようになった。そして魔物の襲撃で多くの人間は殺され、オズもまた亡くなってしまった。強力な封印を残したまま」
「…」
俗に言う暗黒時代だ。
お伽噺では魔王が聖大陸へ攻めてきて酷い被害が出たとしているが、現実はこうだ。
愚かな人間が招いた自業自得の事態。
あまりにも情けないから秘匿した。今では一部の人間のみが知る裏歴史。
「残された魔導士はオズの封印を解こうと奮闘した。お陰で僅かに封印が弱まり聖素が漏れ始めたが、それで聖大陸を満たすにはあまりにも足りない。そこで魔導士は女神に助けを求めた。教会を建て女神を崇め祈ることで、異世界から女神の愛し子を召喚することに成功したのだ」
「聖女か」
「一部の愛し子はそう呼ばれる」
知ってるというジークの言葉に賢者が短く答える。
それは、表に出てこない愛し子が他にも存在しているという意味に他ならない。
「愛し子は異能という特殊な能力を一つ持って現れる。それは魔物を倒す強力なものであったり生活を豊かにする便利なものであったりとそれぞれだ。その中の一人が、聖王石を幾つかに分割した。封印が解けないながらもそれを各地に散在させれば聖大陸での護りが広がる。その愛し子が『最初の聖女』と呼ばれ、彼女は国を建てオルタ国初代国王となった。…というのが最古の書物に記されていた創世記であり、王家と魔導士の塔と教会の神殿がこの国で絶大な権力を持つ所以だ」
「素晴らしい」
アルフレッドが拍手をし、話し終えた賢者を賞賛する。
「王家が秘匿している部分もあり、僕の口で何処まで明かしていいものかと悩んだのだが。まさか全部知っているとは」
「この世の全ての本を読みつくすのが儂の使命。その為ならば王宮の図書室の立ち入り禁止区へと忍び込むことすら厭わぬ」
「うん?…それは良くないね。王宮の警備はそんなに甘いのかい?」
「手段は様々だ。この姿を有効利用するのもまたその一つ」
子供の姿だと大抵の者は油断する、と悪びれもなく言ってのける。
いやいやいや、王族の前で王宮に忍び込んだことなど堂々と言うんじゃない。
私は慌てて「有難う賢者、助かったわ」と話を戻した。
「いや、しかし、だから何だというのだ。今の話、私達に何の関係が…」
「ということは、このアベルの地の教会には聖王石がないのか?」
困惑するクリストに被せるようにトーマが呟く。
「え?」
目を丸くするジークに「だって魔物出るじゃん、此処」と続けた。
そうか、よりによってトーマが最初に気付くのか、と各々の反応を観察する。
「つまり!魔物が入り込んだのではなく、此処で魔物が発生しているということか!」
「危険!人が住めるような場所ではない!」
「まあ、普通の令息なら発狂してもおかしくないですわよねぇ」
取り乱すクリストとキサラを「今頃気付いたんですの?」と嘲笑する。
先程キサラに吹っかけられた喧嘩の意趣返しだ。
「お前!性格、悪い!!!」
「私は『アンタ』でも『お前』でもありませんわー」
オホホホと煽り散らかしていると、後頭部にポコンと衝撃を受ける。
振り返るとトーマが拳を握っていた。
「このままじゃ父さんと母さんをこの地に呼べない。何とかしてくれユーリ」
「私のことを万能の神だとでも思っていますの?兄様」
「似たようなモノだと思ってる」
ニカと歯を出して笑うトーマ。
それは悪くない気分だ。なんだかんだ、私の扱いをよくわかっている。
「だったら無闇に叩かないでくださいませ。出るアイデアも引っ込んでしまいますわ」
「俺のことは無闇に叩くのに?」
「だってそれは兄様が」
悪いんですわと続けようとして、大きな掌で頭を撫でられ黙る。
「頼むよ、ユーリ」
これはズルイ。
トーマは脳筋で頭はよろしくないが、優しい男だ。
この大きな手に私も家族も護られてきた。
そして私はそんな兄様が、大好きなのだ。
無理難題など、叶えてあげたくなってしまうではないか。
「高い高い、してくださいませ」
「子供か」
「だって報酬としてそれぐらいしてもらいませんと」
食い下がると「仕方ないなぁ」と呆れ顔で私の腰を持ち上げる。
もう子供ではない成長した身体をそれでも右腕一本でしっかりと支え、トーマはテントを出て雨上がりの夜空の下へと私を連れ出した。
愛剣を地面に突き刺すと「いくぞ!」と膝を屈めて低い体勢を取る。
「高いたかぁーーーい!!!」
大きく振りかぶり「おりゃあ!」と私を空へぶん投げる。
ドレスの重みもあるのに、三メートルは飛んだだろうか。
傍観していたアルフレッドから「ちょ、高過ぎ」と焦り声が聞こえた。
怖くはない。空を舞う浮遊感が気持ちいい。
私は空中でクルリと体勢を変え、着地点のトーマに向かって両手を伸ばす。
「どっこい…、せーい!!!!」
トーマの二本の太い腕は衝撃を殺しつつも地面ギリギリのところで私の身体を受け止めた。
「楽しい!!!兄様、もう一回ですわ!」
キャッキャとはしゃぐ私の姿をドン引きで見ている男達。
「バケモノ」
「筋肉のバケモノだ…」
「あれを喜ぶ女もバケモノだろ」
「いや…、兄妹間のことを僕達がとやかく言うことはできない」
ビックリし過ぎたのか、アルフレッドは胸を手で押さえながら金銀銅トリオを諫める。
「今日一日、衝撃的なことが沢山あった。今更この程度のことを流せないでどうする」
自分に言い聞かせるアルフレッドは今日一日で随分と老け込んだようだ。
「夫殿は面白い男じゃのう」
「ほう。気に入ったのか、トニ婆」
椅子に座って本を開いていた賢者が、珍しく笑みを浮かべて訊ねる。
「婆はイケメン紳士男が大好物なんじゃ」
「なるほど。イチカもか?オヌシ、予想外に大人しいではないか」
賢者がイチカに話を振る。
イチカは腕を組みつつ不機嫌に顔を顰めた。
「夫に相応しいとは今でも思えんが、少なくともアイツは姫様に対して誠実だ」
そこだけは認める、とそっぽを向く。
「賢者だって懐いていたではないか。いつも他人には興味無さそうなのに」
「儂は特別な知識を持っている者が好きじゃ。王家の秘密を知っとる夫殿が好ましいのは当然じゃ」
話し合いも有耶無耶に、こうしてアベル領最初の夜が更けていった。
天を仰いだ賢者はゆっくりと口を開いた。
「女神セレイナは…この世界に二つの大陸を作り、二つの大きな力を持つ石をそれぞれに与えた。魔大陸には魔王石を、聖大陸には聖王石を。魔王石は魔素を発して魔大陸を満たし、その魔素によって魔物という生物が生まれその大陸を支配した。やがて魔王石は全ての魔素を吐き出し、溶けるように消えてなくなった」
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「そして聖王石もまた聖素を発して聖大陸を満たした。その聖素によって人間が生まれその大陸を支配する」
「おい、人間も魔物と変わらないみたいな言い方はやめてくれ。人間は魔物と違って女神に愛され、護られる存在だろう?」
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賢者はクリストを冷たく一瞥し、返事をすることなく話を続けた。
「魔王石同様、聖王石もまた全ての聖素を吐き出して消えるはずだった。しかしそれを阻んだ魔導士がいた。その魔導士の名はオズ」
「は?」
それは知らない話だ、とクリストが間抜けな声を出す。
アルフレッドも私も止めないのを見て真実だと思ったのか、クリストは口を噤んだ。
「オズは強力な封印で聖王石の溶解を止め、その力を自分のモノにしようとした。だが、魔素と聖素は相反し互いを打ち消すもの。聖王石が聖素を発しなくなったために魔素は世界中に充満し、魔物が聖大陸でも発生するようになった。そして魔物の襲撃で多くの人間は殺され、オズもまた亡くなってしまった。強力な封印を残したまま」
「…」
俗に言う暗黒時代だ。
お伽噺では魔王が聖大陸へ攻めてきて酷い被害が出たとしているが、現実はこうだ。
愚かな人間が招いた自業自得の事態。
あまりにも情けないから秘匿した。今では一部の人間のみが知る裏歴史。
「残された魔導士はオズの封印を解こうと奮闘した。お陰で僅かに封印が弱まり聖素が漏れ始めたが、それで聖大陸を満たすにはあまりにも足りない。そこで魔導士は女神に助けを求めた。教会を建て女神を崇め祈ることで、異世界から女神の愛し子を召喚することに成功したのだ」
「聖女か」
「一部の愛し子はそう呼ばれる」
知ってるというジークの言葉に賢者が短く答える。
それは、表に出てこない愛し子が他にも存在しているという意味に他ならない。
「愛し子は異能という特殊な能力を一つ持って現れる。それは魔物を倒す強力なものであったり生活を豊かにする便利なものであったりとそれぞれだ。その中の一人が、聖王石を幾つかに分割した。封印が解けないながらもそれを各地に散在させれば聖大陸での護りが広がる。その愛し子が『最初の聖女』と呼ばれ、彼女は国を建てオルタ国初代国王となった。…というのが最古の書物に記されていた創世記であり、王家と魔導士の塔と教会の神殿がこの国で絶大な権力を持つ所以だ」
「素晴らしい」
アルフレッドが拍手をし、話し終えた賢者を賞賛する。
「王家が秘匿している部分もあり、僕の口で何処まで明かしていいものかと悩んだのだが。まさか全部知っているとは」
「この世の全ての本を読みつくすのが儂の使命。その為ならば王宮の図書室の立ち入り禁止区へと忍び込むことすら厭わぬ」
「うん?…それは良くないね。王宮の警備はそんなに甘いのかい?」
「手段は様々だ。この姿を有効利用するのもまたその一つ」
子供の姿だと大抵の者は油断する、と悪びれもなく言ってのける。
いやいやいや、王族の前で王宮に忍び込んだことなど堂々と言うんじゃない。
私は慌てて「有難う賢者、助かったわ」と話を戻した。
「いや、しかし、だから何だというのだ。今の話、私達に何の関係が…」
「ということは、このアベルの地の教会には聖王石がないのか?」
困惑するクリストに被せるようにトーマが呟く。
「え?」
目を丸くするジークに「だって魔物出るじゃん、此処」と続けた。
そうか、よりによってトーマが最初に気付くのか、と各々の反応を観察する。
「つまり!魔物が入り込んだのではなく、此処で魔物が発生しているということか!」
「危険!人が住めるような場所ではない!」
「まあ、普通の令息なら発狂してもおかしくないですわよねぇ」
取り乱すクリストとキサラを「今頃気付いたんですの?」と嘲笑する。
先程キサラに吹っかけられた喧嘩の意趣返しだ。
「お前!性格、悪い!!!」
「私は『アンタ』でも『お前』でもありませんわー」
オホホホと煽り散らかしていると、後頭部にポコンと衝撃を受ける。
振り返るとトーマが拳を握っていた。
「このままじゃ父さんと母さんをこの地に呼べない。何とかしてくれユーリ」
「私のことを万能の神だとでも思っていますの?兄様」
「似たようなモノだと思ってる」
ニカと歯を出して笑うトーマ。
それは悪くない気分だ。なんだかんだ、私の扱いをよくわかっている。
「だったら無闇に叩かないでくださいませ。出るアイデアも引っ込んでしまいますわ」
「俺のことは無闇に叩くのに?」
「だってそれは兄様が」
悪いんですわと続けようとして、大きな掌で頭を撫でられ黙る。
「頼むよ、ユーリ」
これはズルイ。
トーマは脳筋で頭はよろしくないが、優しい男だ。
この大きな手に私も家族も護られてきた。
そして私はそんな兄様が、大好きなのだ。
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「高い高い、してくださいませ」
「子供か」
「だって報酬としてそれぐらいしてもらいませんと」
食い下がると「仕方ないなぁ」と呆れ顔で私の腰を持ち上げる。
もう子供ではない成長した身体をそれでも右腕一本でしっかりと支え、トーマはテントを出て雨上がりの夜空の下へと私を連れ出した。
愛剣を地面に突き刺すと「いくぞ!」と膝を屈めて低い体勢を取る。
「高いたかぁーーーい!!!」
大きく振りかぶり「おりゃあ!」と私を空へぶん投げる。
ドレスの重みもあるのに、三メートルは飛んだだろうか。
傍観していたアルフレッドから「ちょ、高過ぎ」と焦り声が聞こえた。
怖くはない。空を舞う浮遊感が気持ちいい。
私は空中でクルリと体勢を変え、着地点のトーマに向かって両手を伸ばす。
「どっこい…、せーい!!!!」
トーマの二本の太い腕は衝撃を殺しつつも地面ギリギリのところで私の身体を受け止めた。
「楽しい!!!兄様、もう一回ですわ!」
キャッキャとはしゃぐ私の姿をドン引きで見ている男達。
「バケモノ」
「筋肉のバケモノだ…」
「あれを喜ぶ女もバケモノだろ」
「いや…、兄妹間のことを僕達がとやかく言うことはできない」
ビックリし過ぎたのか、アルフレッドは胸を手で押さえながら金銀銅トリオを諫める。
「今日一日、衝撃的なことが沢山あった。今更この程度のことを流せないでどうする」
自分に言い聞かせるアルフレッドは今日一日で随分と老け込んだようだ。
「夫殿は面白い男じゃのう」
「ほう。気に入ったのか、トニ婆」
椅子に座って本を開いていた賢者が、珍しく笑みを浮かべて訊ねる。
「婆はイケメン紳士男が大好物なんじゃ」
「なるほど。イチカもか?オヌシ、予想外に大人しいではないか」
賢者がイチカに話を振る。
イチカは腕を組みつつ不機嫌に顔を顰めた。
「夫に相応しいとは今でも思えんが、少なくともアイツは姫様に対して誠実だ」
そこだけは認める、とそっぽを向く。
「賢者だって懐いていたではないか。いつも他人には興味無さそうなのに」
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