魂が百個あるお姫様

雨野千潤

文字の大きさ
15 / 43

15 別れ アルフレッドside

しおりを挟む

その夜、クリストは真剣な顔で「お話があります」と僕に迫った。

何か断ることを許さない圧を感じる。

「わ、わかった。聞くよ」

今日は一日、物凄く疲れた。
体力的にも疲れたが、特に精神的に。

でもきっと大事なことだ。
おそらく昼間のベリア公爵のことだろうと何となく察する。

「クリストの所為じゃない」

あまり気にするなと先に声をかけると、クリストは予想外に変な顔をした。

「同じ導入なの、やめてください」

「うん?」

「…いえ」

「クリスト、さっきユーリ嬢とも話してた」

言葉を濁したクリストの横でキサラが情報をくれる。

つまり、ユーリ嬢も僕と同じことを言ったというわけだ。

「それで嬉しそうなのもやめてください」

「いや、別に嬉しそうになんか」

口元にグッと力を込め、緩むのを抑える。

部屋には僕とクリスト以外に、キサラ、ジーク。
皆に聞いて欲しいと言ってクリストが集めたのだ。

「私は、公爵家に帰ろうと思います」

「クリスト、やっぱり気にして…」

「違います。脅しに屈したとかじゃなくて、そうしたいと思って」

「…そうか」

違うと言うのなら、頷くことしか出来ない。

この地まで追いかけてきてくれたのは本当に嬉しかった。だが、クリストが決めたというのなら反対の仕様がない。

それは僕にとって、とても寂しいことだけど。

「私は恥ずかしいくらいに子供でした。絶縁状を叩きつけて家出だなんて。私がやるべきことはそんなことじゃなかった」

頭を振りながらクリストは指を二本、目の前に掲げた。

「この地の未来には二つの選択肢がある。王家と和解するか、国から離反するか」

「…え?」

「すみません、ユーリ嬢の受け入りですが」

真似しましたと照れ笑いを浮かべる。

「すぐに選択する必要はないと思うんです。でも選択の余地は残しておきたい」

熱く語るクリストの瞳が、未来を見据えるように輝いていた。

「私は王家との和解の可能性を広げる為、公爵家へ戻って父を懐柔し、陛下との懸け橋になります」

「そんな…ことを考えて?」

この地の未来を。
目先の生活をすることで頭が一杯になっていた僕と違って。

こんなの、恥ずかしいのは僕の方だ。

「じゃあ俺も。此処を出る」

黙って話を聞いていたキサラも、便乗するかのように宣言する。

「そんな、キサラまで」

「俺がカラスで学んできたのは間諜や諜報活動。国から離反するなら、必要なのは他国を知ること」

既に心に決めていたかのようにしっかりとした口調だ。

「今朝、街を眺めながら考えた。他国には聖王石がないのにって。賢者の子に訊いたらゼノスには聖獣、ガノルには姫巫女がいるからだって」

噂には聞いたことがある。だが、見たことはない。
友好国であるゼノスでさえ、聖獣は国の宝だからと秘匿する。

「俺、見てこようと思う。聖王石のない国の生活を」

「そう…か」

そんな理由を述べられれば止めることなどできない。

だが、クリストもキサラもいなくなったら僕は本当に寂しくなる。

助けを求めるようにジークを見ると「いやいやいや」と笑って手を振った。

「俺は出て行かねぇよ!此処でやることがある。トーマと一緒にアベル騎士団を作るんだ」

「そうか。そうだよな!良かった」

ジークに否定され、ホッと安堵する。

「入団してくれそうなヤツ、全然いないけどな。まず人がいない」

「人が来てくれるように環境を整えよう。そこからだ」

皆、ちゃんと自分のやるべきことを見つけている。

それは嬉しいような悔しいような。
胸にほんの少しの痛みを伴うけれど。

いつかまた傍に帰ってきてくれることを信じ、僕は二人を送り出す決意を固めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央
恋愛
【完結】 「なんでわたしを突き落とさないのよ」  学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。  階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。  しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。  ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?  悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!  黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

廃城の泣き虫アデリー

今野綾
ファンタジー
領主の娘だったアデリーはある日家族を殺され育った領地から命からがら逃げ出した。辿り着いた先は廃城。ひとり、ふたりと住人が増える中、問題が次々とおこって… 表紙はフリー素材です

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...