拉致られて箱庭掃除をやらされてます。~きっと犯人は闇の組織に違いない

那珂川

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日本人は異世界で順応する

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 王都に入った馬車が止まる直前、如月は中にあったローブを見に纏ってこっそりと降り人混みに紛れた。
 行き交う人を見れば、砦で見た人種、日に焼けた様な健康的な肌、明るい茶髪に目鼻立ちのハッキリした者が多く、如月の様な黒髪は居ない。
 如月は更にローブを深く被ると遠目に見える王城を目指した。
 気持ちは焦るが此処で見つかる訳には行かず、直情型の如月には珍しく慎重になる。

 王城に近付くにつれ、雑然としていた街並みが一様に洗練されたものに変わり、人も疎らになって行った。
 屋敷と言える家が増え、ポツポツと見える店も何処か高級志向だ。
 所謂貴族街である。
 鎧姿の衛兵が疲れた顔をして見廻りをしているのを確認した如月はどうするか考えていた。

 いつもなら田代や坂下が考え、如月はそれに付いていけば良かった。
 しかし今は一人である。今更ながら如月は一人で行動したことを後悔した。
 自分は何も出来ずに殺されかけ、仲間を連れ去られた立場である如月は、第一に仲間の安否よりそのまま帰った時のことを考えた。
 教師に叱られる生徒宜しく、フォーグ達に何と言われるか恐怖したのだ。
 フォーグの評価はそのままアンドリュースに伝えられるだろうし、皇宮に広まればミリアムにも幻滅されてしまう。
 異世界に来てからずっと自分に付いて世話をしてくれたミリアムに、如月は戦争が終わったら駄目元で告白するつもりだった。身分差を考えても無理な話だと思っても諦められなかった。この戦争で功績を出せば良いと思っていたが、「フラグは口に出さなくても立つんだな…」如月は自分が情けなくて泣きたくなっていた。

 暫くの間路地で考えあぐねていると、王城がある方面から騎兵隊が現れ、二頭引きの大きな幌馬車も現れた。
 彼等の表情は固く、その内あの男の怒声が聞こえてきた。

「ったく、お前らが常に出陣の訓練しとけばこんなに時間掛かること無かったっす!」

 火を操って如月を死に追いやろうとした精霊術師である。

 如月の身体に震えが走った。あのどうしようも出来ない痛みを与えた本人が居るのに手足が硬直する。

「ふっ、くっ」

 動悸が激しくなり到頭如月はその場でしゃがみこんでしまった。
 脳裏に優しく笑いかけるミリアムが浮かび、ゆっくりと深呼吸する。
 路地から横目で兵士が移動するのを見ながら汗を拭う。
 そうして気持ち落ち着いた如月は兵士の後に出て来た人物に驚くことになる。

「龍太郎……」

 友人が無事だった事に安心する反面、何故敵国の兵士の後方に居るのか分からなかった。

 田代は兵士を見送ると首輪の様なものを小さな何かで外そうとしている。
 如月は訳が分からないまま田代へ向かった。

「龍太郎」

「え??翔?」

 田代を路地裏へ引き込み如月は明らかに怒り顔を向けた。

「お前、何やってんだよ」

「捕虜だったけど解放されたんだ」

「解放?坂下は?」

「坂下さんは……まだ捕まっている」

「詳しく説明しろ!」

 胸倉を掴まれた田代は意外と冷静に説明し始めた。

「サリカニールって、あの女だよな?」

「うん、そのサリカニールを連れて来ることが条件で解放されたんだ。そう言えば翔はあれから何もされなかったのか?僕は気絶したまま拉致されたからその後のことが分からないままでいたから」

「あ、うん……。俺…」

「翔?」

 言い淀む如月に田代は眉根を寄せる。

「殆ど死んでる状態だったけど、光龍のコウさんが助けてくれたんだ」

「え!?師匠が王国内に来たのか?担当が違うから入れないって言ってたのに?」

「コウさんの背中に人が乗ってた。多分あの人も関係してるんだと思う。黒のフルフェイスメット被ってたけど」

「はぁ?」

「ホントなんだって!確か神様が代替わりしたって話だったよな?あの人が新しい神様じゃないかと俺は思ってるんだけど」

「フルフェイスのヘルメット被った神様か。本当かどうかは師匠に聞けば分かるから。今は砦に早く向かわないと。絨毯無くてもお前も連れて行くからな」

「わ、分かった。目ぇ瞑っておくよ。でもフォーグさん、サリカニールを連れ出すの許してくれるかな?」

 皇女殿下暗殺犯の処刑は帝国で行わなければ意味が無い。
 どう考えてもアンドリュースに忠誠を誓っている帝国軍が許可するとは思えない。

「ねぇ、翔はミリアムさんが好きなんだよね?」

「はぁ?いきなりなんだよ」

「帝国であの女を処刑することは帝国人の悲願と言ってもいい。ミリアムさんも帝国貴族で陛下に忠誠を誓ってるよね?サリカニールを王宮に戻せば心象は悪くなる。反逆もいいところだ」

 如月は目を瞑っているので、田代の表情は分からないが、声のトーンで迷っていることが分かった。
 ミリアムのことを出す意図は何だろうか?自分にサリカニールを連れ出すのを反対して欲しいのだろうか?
 だとしたら坂下は?坂下はどうなる?
 サリカニールを連れて行かなければ確実に殺されるだろう。

 あれ?

「そもそも氷結の精霊術師は信用出来る奴なのか?サリカニールを連れて行っても坂下を確実に戻してくれるのか?」

「翔、僕達は選択を迫られている。これから先、帝国で暮らして行くのか、それともサリカニールを連れ出して帝国を追われることになるのか」

「おい、お前……」

「坂下さんの事は一旦保留にしないか?先ずは砦を守ることに専念し、それからフォーグさんに相談してみよう」

 如月は明らかに田代が変わったことに初めて気が付いた。
 今までの田代だったら絶対に坂下を天秤に掛けること等無かった。
 同じ日本人、ましてや友人同士である。
 しかし如月も田代に反論することは無かった。
 命が助かった時、自分も田代達のことを二の次に考えたからだ。

「僕達はもう高校生じゃない。帝国軍の兵士だから」

「そうだな。俺達、覚悟を決めたんだもんな」

「ああ、それに坂下さんは手厚く保護されることになったし、時間に余裕はある。僕達は先ずは自身の汚名を注がなければいけない。砦で王国軍を迎え撃つぞ」

 田代は『飛翔』のスピードを最大限まで上げ、如月の悲鳴が空に流れた。



 一方、牢屋から小綺麗な部屋に移された坂下だったが、手足の拘束はされている。
 首にも魔力封じの魔道具が着けられているので、スキルを発動することが出来ない。
 スキルが使えなければ元の女子高生の力しか出せない。
 目の前のテーブルには冷めた紅茶とハムとレタスを挟んだサンドイッチが置いてある。
 牢屋では水と固いパンしか出なかったので、腹はぐうぐう鳴るが、手を付けて良いのか分からずにジッとそれを見詰めていた。

 ドアが開き、30前後に見える割と顔の整った男が「まだ食べてないのか」と坂下に話し掛ける。
 氷結の精霊術師、キースだ。

「毒は入ってないぞ?」

 そうだろうなと坂下も思う。ここで毒殺する意味が無い。しかし誰からも言われないと手は動かないものだ。
 坂下はキースの言葉に素直に紅茶を一口飲み、サンドイッチを手に取って食べ始めた。

「紅茶もサンドイッチもお代わりはあるから遠慮するな」

 何故こんなに優しいんだろうか?坂下は疑問に思う。
 暗殺犯の件で田代が解放されたことは、牢屋から出る時に聞かされた。
 果たしてそれが実行されるかは難しいだろうと坂下も考えいる。どれだけ帝国がこの時を待っていたかを知っているからだ。
 敢えてそれはキースには言わないが、キース自身は田代を全く疑っていないのだ。
 友人である自分ですら田代を疑っているのに、前世が同じ日本人と言うだけでこの男は暗殺犯が連れてこられるのが確実だと思っている。

 坂下は飲み干した紅茶だけ、お代わりを頼んだ。

「しかし、前世の俺だったら確実に話なんて出来ないレベルの顔だね。まぁ日本のアイドル程度だけど。心配しなくても良い。この国の男は胸も尻もデカい、ボンキュッボンの女が好みだから、間違っても君が襲われることは無いよ」

「それって喜んで良いのか分からないわ」

 胸も尻もささやかな坂下の眉根が寄る。

「喜んで良いだろ?娼館に行かされることはないだろうし」

 坂下に睨まれたキースはニヤニヤと笑っている。

「帝国人の女性や子供を攫ってたんでしょ?王国人なのに、巨乳嫌いなわけ?」

「ああ、あれは俺が直接指示したんじゃないぜ?帝国人を抱いてみたいなぁて言ったら砦の兵士が忖度してくれただけだよ」

「連れ去られた人は心に傷を負っているのよ!」

「そんなに興奮するな。お前は人質なんだ」

 坂下は口を噤んだ。まだ殺される訳にはいかない。
 殺されるならば一矢報いて死にたい。

「そう、それで良い。それで、帝国軍はどの位の規模なんだ?」

「1000に……え?何で?」

「1000人ね、ゴーレムは?」

「来た時は150体……さ、さっきの紅茶に何を入れたの??」

「ヴェズリー王国は精霊が居る国ってのは知ってるだろう?精霊が多いと草木の育ちも良くなり、種類も豊富になる。つまり薬効成分の高い植物が数多く存在しているんだ。中には自白剤を作れる植物もあってな。これが又、無味無臭にするのに結構手間が掛かるんだよなぁ」

 キースの「苦労したぜ」との言葉に、坂下は絶句することも出来ぬまま尋問をされるのだった。


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