拉致られて箱庭掃除をやらされてます。~きっと犯人は闇の組織に違いない

那珂川

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精霊術師と宰相

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「貴方はお見通しでしたか」

 ヴェズリー王国宰相、メモルラルの背中に嫌な汗が流れる。
 一刻前、普段寄り付きもしない人物が執務室に現れ、今回の帝国の侵略にメモルラルが関わっていることを暗に記された。

「表の顔はいらん。本音で語れ、宰相殿。あわよくば俺も排除する気だったのか?」

 氷結の精霊術師であるキースの顔には表情が浮かばない。
 正確にはアナスタシアが亡くなったから表情が殆ど出なくなった。
 それでも勇者の話を持ち出した時は機嫌が良さそうに見えたので、宰相は軽い溜息を一つ吐くと「あわよくば」と声を出した。

「キース殿、貴方の力は凄まじいものがある。勿論貴方が居るからこそ王国が他国に侵略されない要因でもある。しかし私は恐ろしいのだ。その力で王国を蹂躙するのでは無いかと」

 これにはキースも目を丸くする。

「王権を狙う、じゃなくて蹂躙?」

「アナスタシア王妃が亡くなられて貴方は変わられた。頼もしかった武の頂点が国の事等どうでも良いと言った風に。王国は精霊に守られて来たが、ここ数ヶ月は精霊の姿が格段に見られなくなった。この国は変わらねばならんのだ」

「ちょっと待ってくれ。宰相殿は精霊が見えるのか?」

「私も『精霊術師』のスキルを持っておりましてな。しかし保有魔力が少ない為に私の父親、前宰相は国を守る術を託した」

 それを聞いたキースは前宰相を思い出す。
 直接会ったことは無いが、民の話を良く聞き、決断力もあって慈善事業にも力を入れる官民共に良い印象しか無い人物だったはず。
 しかしそれを前国王が良しとしなかった。
 宰相自身が前国王の従兄で、他に兄弟が居なかった前国王の代わりに宰相が国王になれば良いのにと中枢の貴族達が言い出したからだ。

「表向きは父は事故死となっているが、私はそうは思っていない。そうならあまりにもタイミングが良過ぎるのですよ」

 王宮で転落事故に合い亡くなった事で、宰相を支持していた貴族の一部は爵位を落とされ、市井の者は嘆き悲しんだと聞く。

「宰相殿、あんたは復讐劇に帝国を利用したのか?」

「国を守る為に帝国を利用するのは仕方あるまい。しかし見くびらないで頂きたいのだが、私は自身の復讐より国の存続が大切だ。人気職である精霊術師にはなれなかったが、今の立場になって良かったと心底思っているよ。精霊術師は軍部に回されるから国の政には向かないからね」

 メモルラルの顔や態度に邪悪な気は見受けられない。もし私利私欲の為に王位を狙う人物であれば精霊が毛嫌いするからだ。
 現にキースの中級精霊達はメモルラルを警戒していない。

「では先ず誤解を解いて行こう。俺は確かに変わったかもしれない。心情は語りたく無いし特別愛国心も無い、だからと言って国を壊したりしない。実際今の国王より宰相殿が政治をやった方が国として長続きするのは目に見えてる
 。その点では俺にも利点ががあるしな。逆に排除されるとなれば俺も抗うぞ」

 キースは紅茶を飲み干し、自分でお代わりを注いだ。
 通常、侍女や従者が部屋の中に居るのだが、メモルラルと話す為にどちらもキースによって部屋からやんわりと追い出されていた。
 因みにキースが飲食する際に毒物は問題にならない。
 精霊達が必ず異物混入を教えてくれるからだ。それをメモルラルも知っており、キースに毒を盛ることも無い。

「帝国側は王国内の帝国人と獣人、エルフの身柄も要求している」

「ちっ、又それか。仕方ない。あんたとは仲良くやって行きたいからな。一人以外は別に渡しても良い。そっちで娼館側と話をつけてくれ」

「一人、とは今のお気に入りの帝国人ですかな?」

「ああ、あれだけはまだやれん。俺と所帯を持ったとでも言ってやれば良い。帝国の皇帝も別れさせてまで見受けはしないだろう」

「ふむ、それなら交渉しやすいですな。しかしサリカニールを此方に戻させるのは難しいですぞ?」

 そう言われてキースはあからさまに嫌な顔をする。

「はぁ、、あの時は頭に血が上ってたからな。まぁ、接触してみて分かったが、敢えて逃がした方の勇者は戻って来ないだろうな。あれは皇帝を裏切ったりしない。
 しかし勇者は良い様に使われているみたいだな。残った方の勇者は大して情報を持っていなかった。宰相殿が持ってる情報内に収まる程度だろう?」

 チラリとメモルラルを見ると、少し口の端が上がっている。

「帝国側に渡す領土内の資源は王国に取って微々たるものです」

「全てを奪われない為の施しかよ。何にせよ帝国と国交が始まるなら取られた分は直ぐに補填が出来そうだな」

 メモルラルはそこでやっと明らかな笑顔を見せた。

「ところで残している勇者はどうするんだね?」

「ああ、結構懐疑的になってるな。元の世界では友人同士だったらしいが、あの女は仲間を信用していない様だ。試しに懐柔してみようと思う」

「ほう、堕ちるかね?」

「時間は掛かるだろうがな。アナスタシア暗殺の大義名分があろうとも、帝国は侵略者には変わりない。捕虜になった勇者の命を考えるなら無理に取り返しには来ないだろう。いざとなれば帝国を批判する国を利用するまでだ」

「貴方に国を壊す意思が無いと分かっただけで、私には吉報でしたよ」

「勇者のことで帝国から交渉ごとになったら俺に知らせろよ?」

 メモルラルは、そう言って部屋から出て行くキースの後ろ姿を見送った。
 国にとって薬となるか毒となるか分からなかった相手との話は神経が疲れるものだ。
 メモルラルは今度は深い溜息を吐くと侍女を呼び戻して、甘い菓子を用意する様に告げた。



「やぁ、坂下立花くん。ご機嫌は……良さそうだな」

 坂下を軟禁している部屋のドアの前には王宮の近衛兵が二人付けてある。
 坂下にも当然それを言っているので、本人も首の魔道具が外れない間は逃げようとは考えていないのだが、こう寛がれているのを見るとキースも女子高生ってこんなんだっけ?と思わざるを得ない。

 坂下の目の前には英国のティータイムを模した三段のケーキスタンドには生クリームがふんだんに塗られたショートケーキやココアパウダーが掛けられたチョコレートケーキ、どっしりしたスコーン、小さめのサンドイッチが乗せられ、その半分は既に無くなっている。

「だって、何なの、これ!チョコレートとか生クリームとか、帝国には無いわ!」

 目を見開いて話す坂下はちょっと怖い。
 キースは一瞬たじろいだが、直ぐに持ち直した。

「料理や菓子類の改善は俺が少しずつして来たからな。言っただろう?この国は色んな木、草花があると。他にも精霊に頼んでスパイス関係や酵母菌が必要な食材も再現させた。高級品ではあるが、俺の実家が取り扱ってるから食べたい物があれば出そう」

「先生!カレーが、カレーが食べたいです!」

 キースにとっては何十年振りかのネタに胸を押さえて膝をつかされる。

「君は、アイドル系の上位カースト陽キャラじゃないのか?」

「正直アイドルは興味無かったわ。BLなら……ゲフンゲフン」

「腐女子かよ!」

 お決まりのツッコミを入れられて坂下は前世の感覚を思い出す。
 学校でつるんでいた陣野は殆どアニメや漫画に興味を示さないタイプで、趣味の話で盛り上がったことは無かった。
 だから何となく似たものをキースに感じ取った坂下の警戒心は少し崩れた。

「カレーか。直ぐに実家の商会が経営してるレストランのものなら直ぐに用意出来るか待っててくれ」

 坂下は満面の笑みで頷いた。



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