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しおりを挟む朝、目覚めると朝陽に照らされ輝く、プラチナブロンドの髪が視界にはいります。
間違いなく、この髪は私のもの。
美しいプラチナブロンドの髪は、アルラーナ侯爵家の血筋である証拠なのです。
しかし、私はもう一つの証拠であるサファイアのような美しいロイヤルブルーの瞳を受け継ぎませんでした。
……………そうです。この瞳の”色”のせいで、私はアルラーナ侯爵家の人間として認められていないのです。
アルラーナ侯爵家は歴史ある名家で、建国神話にもその名は登場します。
後の国王となるウラノスニエヴァ様に尽くしていた当時のアルラーナの当主は、激しい闘いの中でウラノスニエヴァ様を庇い瀕死の重症を負いました。
いつも主人のために各地を走り回り、義足に義眼………傷だらけだったアルラーナ当主。
そんな彼がこんな終わりを迎えることを哀れに思った戦の女神は、自身の御髪を切り落とし、その瞳から溢れた涙と共に彼の傷口にあてたそうです。
御髪はまるで糸になって縫い合わせるように彼の傷を修復し、涙は失われた血の代わりのように彼の体内を満たした……………………そして当主の傷は何もなかったかのように治りました。
そして、それから彼の髪は白金色に……瞳は碧色になったそうなのです。
戦の女神の力がとても強かったために、それからアルラーナ侯爵家で生まれる子供は皆、プラチナブロンドの髪とロイヤルブルーの瞳を持つようになったと今でも強く信じられています。
当然、アルラーナ侯爵家の人間はこの伝説に誇りをもっております。
………………だから私は生まれてはいけませんでした。
私はアルラーナ侯爵家の恥部なのです。
今は、侯爵邸の端にある塔の中で私は幽閉されています。
ここは昔、罪を犯した家臣に懲罰を与えるための場所だったそうで、床も壁も天井も冷たい石畳でできています。
部屋の扉には鉄格子がはめられていて、扉自体も鍛え上げられた衛兵でさえ一人で開くのは大変そうなほど重たいものです。
唯一、窓には鉄格子がはめられていません。
それは、私の部屋が塔のてっぺんにあるからです。
…………窓から抜け出せば、間違いなく”死”が待っているからです。
「こんなところに住むなら、死んだほうがましだわ。貴方はそう思わなくて?」
そう私に言ったのは、義妹のフェリシダでした。
「そこの窓から飛び降りれば、痛みもなく死ねると思いますわ。凄い高さですもの。」
「………………。」
「言葉も喋れませんの?貴方、何のために生きているの?恥さらしな上に、役立たずなんて」
当時、私は8歳でした。
これがフェリシダとの最初の出会いで、それから彼女はこの塔に度々足を運んでくるようになります。
義妹は私が震える声で「………ごめんなさい」と謝ると、その美しいロイヤルブルーの瞳に哀れみのような感情を写しました。
私はその目がとても嫌でした。
怒りの感情を向けられる方がよっぽど良かったのです。
金髪碧眼、親に愛され、幸せに暮らす同い年の義妹。
……………………その存在を目にしたこの日、私はとても惨めでした。
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