婚約破棄された伯爵令嬢の元に謎の恋文が届きました

彩伊 

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第二章

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 ここは王都の一角にあるカフェ、フェリシタス。
 私はその厨房で働いていた。


 このカフェのコンセプトは”貴族の間で人気のスイーツをで庶民にも提供すること”で、オーナーは王城のパティシエ出身だった。
 そして、貴族のスイーツをよく知り、自分で手作りできる私はなんと即採用ok!!!

 レイベックで過ごしている時、よく手作りスイーツを侍女と一緒に作っていたのが功を奏して、私は面接の最中に内心ピースサインを浮かべていた。


 「おーい、マリー! お前のケーキまた注文入ったぞ!」

 「わかった! 冷蔵庫にまだ三つあるから持って行って!」

 「りょーかい」

 
 彼はカフェの従業員の一人、アルビレオ。
 カフェの制服である白いエプロンと黒のスキニー&シャツを爽やかに着こなす長身イケメンだ。
 彼は街で働くイケメン従業員特集という雑誌の特集コーナーにも載ったことがあるらしく、彼の人気でカフェの客が増えていることは間違いなかった。

 昼なんて、彼が女性の集団客に笑顔を向けたら悲鳴があがっていた。
 そのうち一人なんて、感動で涙を流していた。
 
 ……………恐るべき、イケメン顔面パワー……………。


 しかし、本人はそういうことをあまり気にしていないらしく、人気を鼻にかけていない。
 根っから明るくて優しい人だった。
 それが彼が老若男女問わずに人気がある理由だろう。


 彼は昼に接客仕事を、夕方は材料の仕入れを行っているため私と顔を合わせる機会は多かった。
 昨日・一昨日はスイーツの試作をし、今日働き始めたのだが、彼の親しみやすい性格から、もう既に古くからの友人のように気軽に話せるようになっていた。



 夕方、材料の仕入れの会議が従業員内で行われた後、今日は解散になった。
 私は明日の仕込みの続きのために厨房へと戻ると、材料の入った袋を運んでいるアルビレオと鉢合わせた。


 「おっ仕込みするのか?」

 「そうそう、もうちょっとやってから帰ろうと思うの。」

 「夜までお疲れさん!」

 そう言ったアルビレオは軽く私の頭をぽんぽんっと撫でた。
 こういうさりげない優しさがモテる理由なんだろうな……………。


 「マリー初仕事はどうだった?慣れそうか?」

 「うーん、想像以上の忙しさでびっくりしたけど、やりがいがあって楽しいわ!」

 「それなら良かった。俺もお前のケーキ美味しそうに食べてるお客さんみて幸せな気分になったよ」

 「本当??そうだ。明日出す予定のケーキ試食しない?」

 「いいのか!食べたい!丁度体が糖分を欲してたところだ」

 「ふふっ、なら良かったわ」

 そう言って、私はケーキを彼に差し出した。
 彼は嬉しそうにそのケーキを受け取る。


 「あ、そうだ。お前の家、西の方なんだろ?」

 「うん、ここから10分くらいのところかな」

 「じゃあ俺…………「………カランコロンカラーン」」


 閉店時間を過ぎているのに、店の扉が開く音がして私とアルビレオは顔を上げた。
 厨房の前の窓ガラスに顔を寄せ、こちらをじーっと見つめているのは……………リオだった。


 「ちょ、な、なにしてるの!?!?」

 私は慌てて厨房から出て、リオに会いに行く。


 「リオ?」

 「マリー、………もう今日は終わっちゃったんですか?」

 そう言ったリオは肩を落としていた。


 「うん、ごめんもう終わっちゃったの」

 「…………マリーの手作りスイーツ食べたかったです」

 悲しそうなリオを前にして私はあたふたするが、もう残っているスイーツは一つもなかった。


 「これ、食うか?」

 その時、アルビレオが自分の持っていたケーキをリオに差し出した。


 「マリーが作ったやつだから食えよ」

 その言葉にリオは一瞬嬉しそうな顔をしたが、相手が知らない人だからか警戒したような顔つきになる。


 「いいの?アルビレオ」

 「どうせこれ明日も食えるんだろ?ならいいよ。」

 そう言ってアルビレオはケーキの載った皿をリオの前のテーブルにおいた。


 「ありがとう、アルビレオ!」

 「おう、じゃあ明日も頑張ろうな!」


 アルビレオは軽く手を挙げ、そのまま従業員の更衣室へと去って行った。
 リオはアルビレオが消えたのを確認すると嬉しそうな表情でケーキのお皿を手にし、それをじっくり見つめだした。


 「これが………マリーの作ったケーキですか!!素晴らしいです!」

 「そんなじっくり観察しないで、食べなよ? 仕事忙しいんでしょう?早く帰って休まないと」


 城から帰ったあの日から数日、リオとは会っていなかった。
 それでも毎日律儀にメモが届くので、会っていない気がしないのだけれども…………….。
 そのメモに”数日仕事が忙しくて会いにいけません。仕事の準備頑張ってください。”と書いてあったため、今日わざわざ城下に降りてきたリオが少し心配だったのだ。


 「心配してくださるのですか?」

 「そりゃ心配くらいはするわよ。」

 「へへ、嬉しいです!」


 ふりゃりと笑ったリオは、フォークを手にした。
 そのまま王族らしい綺麗な所作でケーキを食べ始める。


 「美味しいですっ!!!」

 一口食べたリオは目を見開いて、そう言ってきた。
 私はその言葉と反応が嬉しくてにっこり微笑んだ。


 「それなら良かった!自信持って明日も頑張れるわ!」

 「……………さっきの男は、ここの従業員ですか?」

 「ええ、アルビレオっていうの。初日から結構お世話になっちゃった。とても良い人よ」

 私はそう言いながら、エプロンを脱いで畳み始めた。


 「まだこのカフェにきて3日目なのに随分仲が良いみたいですね?」

 「そうかしら?? まあ、年が近いから他の人と比べると話しやすかったわ」

 エプロンを置いて、振り返るとリオはなんとも形容し難い複雑な顔をしていた。


 「え、なに?リオ。なんか変な味した?私ミスしてる?」

 「ち、違います!!ケーキじゃなくて、その男が……………」

 「アルビレオが......?」

 「そ、その良い男だとは分かっているんですが……あんまり仲良くなり過ぎないで欲しいというか………いや、すいません。……………ただの嫉妬ですね……。僕よりずっと多くの時間を共有できるのが羨ましくて……………」


 リオは目を伏せながらそう言った。
 ……………”嫉妬”………???

 私はその言葉を理解するのに数秒の時間を要した。
 かれこれ16年、婚約者はいてもその言葉とは縁遠かったのだ。


 「マリー今日は楽しかったですか???」

 「.......え、えぇ。とても.....、家を出れて本当に良かったと思ってるわ」


 私に興味がない両親、意地悪な姉、そして好きでもない婚約者。
 全てから解放されて、好きなことで生きていけるのは本当に気持ちの良い気分だった。


 「それなら良かったです。マリーが楽しいなら、それだけで僕も幸せです」


 そう言って、にっこりとリオは笑った。
 その優しい笑顔に不覚にも少し……………ときめいた。


 「しゃ、喋ってないで、早く食べちゃいなさいよ。」

 「は~い。あ、まだ帰らないでくださいね?送って帰るので」

 「え、別にいいのに」

 その言葉にリオは眉根を寄せた。


 「マリーは女の子なんですよ!?!? 日が暗くなったら、一人で出かけないでください!!!」

 「えぇ、私そんなにか弱くないわよ???」

 「マリー!! そんなこと言うと僕は心配で心配で、貴方のことを城に閉じ込めたくなってしまいますよ!!」

 「そ、それは困るわね……………。」

 「でしょう? なら少しは言うことを聞いてください。意地悪で言ってるんじゃないです。」


 リオの真剣な顔に私は頷いた。
 これ以上心配をかけると、本当にリオは私に護衛を付けかねない。
 
 もう十分迷惑はかけている自身があったので、私はリオの心労を増やさないようにしようと心に誓った。


 

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